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4番目ー1

ボーン、と古時計が鳴って閉店間近を知らせてきた。

「はいはい、閉店しますよー」

「えー、さっき来たところなのにぃ」

たまに聞かせているお話を目当てで来た年齢詐称人間もどきの友人がカウンター席で酒を飲んで酔っぱらいかけている。酒に強い方だから一人でも帰れるのだろうが、精神的に疲れているのだろう。主にそっち側が原因で酔っぱらっているように見えるがなんともいえぬ。

「仕事は?」

「ぼちぼち。月の中頃だし頑張らないといけないなぁって考えてるとこ」

「仕事しなさい。そう言ってやらなかったら月末にもう無理ー! ってまた言うだろ」

「そうだけどさぁー!」

べそべそとカウンターに頬をつけながら友人は愚痴をこぼす。こうなってしまうと明日になるまでこのテンションだ。

「明日は?」

「仕事ー」

このテンションでいたら明日は少しきついぐらいの二日酔いになるだろう。友人としては早急に水を飲ませたい。ならば話すしか無いだろう。少しは飲むペースが下がっていくと良いが。

「お話、聞いたら頑張れるのかな?」

「頑張る! から話して!」

「はいはい、話しますよー」

と、言うと幼な子のように素直に大人しく席に着いて聞く体制をとった。こう言うところは人間らしいのが少しおかしく感じて笑いが漏れそうだ。

「時は昔のその昔、とはいえこれは彼らが隣国からの脅威を退けて幾許かあった日のこと——————




ただ、ひたすらに始末書と不在の際に溜まっていた書類を片付けるためにペンを動かし続ける。手が疲れてきた頃を見計らったようにドアが開いた。モーニングコートを着た初老の執事が小言を言いに入ってきた。


「ルーク様、仕事のやり過ぎです。一度外に出てみてはいかがですか?」

「ああ、セバスか。いや、この山を終わらせてからにするから待ってくれ」


少しづつ減ってきた山脈をせめて今のうちに半分くらいにしてしまいたい。期限はできるだけ延ばしてもらっているから遅れる訳にもいかない。


「そう言って外に出ないでしょう。同じことを言って、もう何回目ですか?」

「確か3、4回?」


あれ、何回だったっけ。記憶から消えて出てこない。


「もう10回は超えております!」

「そうだったか?」

「そうでございます! いい加減に休んでください! 家の者も困り果てているのですよ! 困らせないでやってください!」


知らない内に二桁目に突入していたか。と言うことは三日ほど徹夜しているのか。なるほど。一般的に三徹と呼ばれる物か。通りで眠い訳だ。


「休まないとまた、三日間寝込みますよ? よろしいのですか?」

「うーん、よくないな。…………………………分かった。少し外に出てくる」


確か今日に外で用事があったか。三日寝込んだ時はまた別で大変だったし、休憩も必要か。


「お食事はよろしいので?」

「食事は、」


その時、クゥゥとお腹が鳴った。三日も食べなければそうなる。書類整理に集中していた間は気づかなかっただけでお腹が空いていた。セバスに話しかけられたことで集中力が切れ、自覚しただけだろう。


「…………………………………………………………食事の用意を」

「分かりました。料理人! 胃に優しいご飯を用意してください!」


あいよ、と遠くの方で気前のいい返事が聞こえた。胃に優しいご飯って病人であるまいし。



しばらく食堂で食べた後、見送られて街に出た。腹が満たされたことで動きやすくなっている。思っているよりも体は限界だったようだ。一日に一回ぐらいは休憩を入れようと思う。


「料理人め、固形物は食べれないとでも思っているのか」


坊ちゃんは食べなさすぎで固形物は食べれないでしょう、と言って出したのは重湯と具なしスープだった。気持ち的にはお肉を食べたかったのだが、坊ちゃん、ほぼ断食していたので固形物は早いですよ、と液体物だけを出された。結局料理人の判断が正しかったのでなんとも言えないが、固形物を食べたかった。


「待ち合わせはここだったか」


鳩の足につけられた紙を手に持ち書かれた通りの屋台で人を待つ。その間ぼーっと人の動きを眺める。忙しなく動き回る人もいれば、買い物をしている人もいて、初々しい恋人もいる。こうして考えると何事も無かったかのように街が賑わっている事になんとも言えない幸福感を感じる。ぼんやりと眺めていると頭の後ろが熱くなった。


「手を上げろ」


声からして女だろう。誰かは熱くなったことで誰か見当はついている。焦らずポケットから持参していたクッキーの入った小袋を取り出す。


「はいはい。料理人からおやつ用意して貰ってるよ」

「おやつ!」


後ろにいる女は、はっ、と食い意地が張ってしまったことに気づいた。


「違いますわ! これは、そう! ただ好奇心が疼いてしまったような! 笑わないでくださいませ!」

「笑って、なんか、っ、ない、よ」

「その声は笑っているでしょう!」


全くもう、と頬を膨らませているのは元婚約者のフレイアだ。神官になれる道もあったのに騎士を選んだ稀有な女性だ。敗戦国から人質として婚約者作るから交換してね、などと言うふざけた命令に、では騎士にしてください、と言って交代した変人でもある。相変わらずバッサリしてる。


「スミがいると聞いていたが」

「ええ、居ますわよ。あなたの隣に」


思わず横を見るとアップされたスミの顔が視界一面に広がった。


「お久しぶりです。と言っても三日ぶりですが」

「居たのか、気づかなかったぞ」

「頑張って気配を消していたので」


ふんす、とあまり表情が動かないなりに分かりやすく嬉しそうにしている。賠償金代わりの婚約者だが思ったより惚れ込んでしまったようだ。とても輝いて見える。


「コーデリアは、」

「礼拝を抜け出して上官にバレたらやばいから不参加で、と言っておりましたわ。ただ、終わったら遊びに来てくれるそうですわ」

「それはよかったね」

「ええ! 久しぶりにお会いできるのですよ! 今からとても楽しみですわ! ねえ、スミ」

「ええ」


とても嬉しそうにニコニコしているのを眺めているのは楽しい。これが巷で流行っている推しと言うものか。なるほど。


「その参加者は誰がいるんだい?」

「参加者、でございますか。まず、スミでございましょう、お付きにアン、珍しくコーデリア、あとはウィスの予定でございますわ」

「それはまた、楽しそうだな」

「この会は女子会でございますわ! くれぐれもルーク様はスミが気になるからとか言って乱入して来ないでくださいませ!」

「わかってるよ」


そんなことはスミがどんな風にしていたと後から聞くのがいいんだ。乱入なんてしてたまるか。けれども女子会とは。性別不明がいるのに女子会と言えるのだろうか。


「ルーク様はこの後どうされるのですか?」

「んー、どうしようかな」


この通りに先に誰か居ないか見てみる。特徴的なデザインの一部甲冑の部品が着けられた制服を着た人達の中に見覚えのある金髪を見つけた。


「この先にフィーがいるから近情を聞いてくるよ」

「では、行ってらっしゃいませ」

「…………いって、らっしゃい」

「! ああ、行ってくるよ」


フレイアとスミと別れ、フィーのいる方へ向かう。人並みに紛れ、気付かれることのないように気をつけて流れていく。

近くに来れば騎士服を着たフィーの背後に忍び寄り、肩に手を当て耳元で囁く。


「やあ、久しぶりだね」

「うぎゃああ!!!!」


思ったよりもびっくりされた。耳元で大声を話された時のように鼓膜が痛い。


「なんだ、ルーク様ですか。びっくりさせないで下さいよ」

「いやー、ごめんね?」

「ごめんねで済んだら防衛団は要らないんですよ!」

「はいはーい」

「はい、は一回!」

「はーい」

(ちょっと内緒話をしたい)

(了解)


身内の者の話をするには仲間らしき騎士に聞かれる訳にはいかない。


「あー、ちょっと行ってきてもいいか?」

『どうぞ、どうぞ!! 行ってきてください!!!!』

「ありがとう。なるべく早く戻るな!」

『大丈夫です!!!!』

「ありがとう。お勤めご苦労様」

『ありがたきお言葉!!!!』


どっちの大丈夫なのだろう。そんな、強大な権力者と会ったような反応をしないでほしい。そんな権力は持っていないし、呪いも左遷もしないから。


「ティリヴェルリー組はどこに居るかな」

「あなたが来る前に屋台を見に行くと言いに来ていましたよ。ちょうど入れ違いだったんじゃないですか」

「そうか」

「どうやらお揃いものもを揃えたいらしいですよ」

「それはそれは」


ティリヴェルリー組はよく一緒にまとまっているティリアンとヴェルデとリーブ兄妹をまとめた呼び方だ。結構呼びやすくて気に入っている。


「今度、見せに来てくれないかな」

「どうでしょうね。見えてはいないんですか?」

「突然見えるような物だし、こういうのは楽しみにしておくのがいいだろ?」

「そうですね」


にこにこして報告してきて欲しいな。

脳内でそんななごやかな想像をしていると、


唐突に視界にノイズが走った。

鐘が鳴る。鐘楼が見えるどこかでヴェルデの妹が血で染まりながら倒れていく。それを皮切りに空と地面が割れていく。人も砂と化していく。まるで、天変地異でも起きたような光景。その始まりを合図する鐘はもう、すぐに、鳴る。



『ゴーーーーン!!! ゴーーーーーーン!!!!』



正午と異変を知らせる鐘が、街に鳴り響いた。

次で一旦最後の話の予定です

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