3番目ー1
カリカリとシャーペンで書き込む音が部屋に響く。
「なー、暇」
「暇なのはお前だけでしょ」
「あははは、」
何故、うちに集まって勉強しているのだろうか。ボサ髪は来なくていいし、猫は窓から勝手に来てるし、付喪神共も勝手に来てるし、仁は連絡してるからまだいいけど。
「そういえば、仁とそこのボサ髪はどうやって出会ったんだ? 色々あって契約したという事後報告を受けただけだぞ」
ボサ髪と仁が顔を見合わせて言ってなかったったか? どうだっけ? と小声で言い合っている。部屋が静かだから小さめな声でも聞こえるんだよ。
「聞いてないよ!」
ドンッと机に向かって手を振り下ろす。まあまあ痛かった。
「そうだっけ?」
「そうだよ!」
ただの報告忘れならいいが、通常時でも忘れっぽいのをどうにかして欲しいものだ。
「じゃあ、話すか」
仁は正座を直して話し始める。ボサ髪は我が物顔でベットに寝転がって本を読んでいる。あいつは座れないのだろうか。
「これはいつものように無茶振りで異世界転移してしまった時のこと——————
いつものことになって欲しくないんだけども。
先程まで部屋にいたと思ったのだが、いつの間にか外にいた。砂漠、のようでもある場所に座り込んでいた。日はそんなに高くなく、少し暑いぐらいだ。このパターン的に多分主がやったのだろう。証拠に近くでシールが貼られた携帯がふわふわ浮かんでいる。
「どこですか? ここは」
『ここはまた別の異世界だよ! ある魔族と契約したら戻れるようになってるよ! その前に外国風の名前をつけてもらわないといけないから気をつけてね!』
主はそういうところがある。はあ、と分かりやすく大きくため息をつく。主が名付ければいいのではないのか。だが、それをしないのは何かしらの理由がありそうだ。
「その魔族とはどこで会えるのでしょうか?」
『待ってたらすぐ来るよ! もうすぐ』
「そうですか」
『おっと、噂をすればだね。じゃ、僕はこれでたいさーん!』
「では、」
『じゃぁね!』
この時間はなんだったんですか、と続けたかったが、スマホの形をした主はもういなくなっていた。気分のままに動いている主の行動はたまに読めない。
主が居なくなってからすぐにその魔族は現れた。
「おい、そこにいる小娘。どこから来た?」
意外とボサボサの髪に貴族っぽい服を着ている。思ってたより人間っぽい。
「遠く、異邦の地より参りました次第です」
まあ、事実だ。多分世界的には別世界だろうけど。遠いことには変わりない。
「お前、名前は?」
「ございません」
本当のことである。なるべく嘘はついていない、はずだ。
「………………………………名無しなのか?」
「祖国式の名前ならございますが、外国式の名前はございません」
それはどういうことかわからないという顔をしている。意外と感情が読めるんだな。
「それで、お前と契約しろと?」
あ、眉間に皺がよっている。
「正確には名付けて契約していただきたく」
十数秒、魔族は言葉を失った。しばらくどう言おうか悩んでいる。
「お前、暇なのか?」
「暇ではございませんが」
即答すれば本当に何を考えているんだ? という文字を顔に書き始めた。
「なんで俺に契約を持ちかけてくる?」
「それが私に課された役目だからです。それに、家に帰れません」
主に勝手にやらされているだけ、だけど。
「……とりあえず、お前が頑固者なことは分かった」
「……………………私は頑固者ではないと思いますが」
「いや、お前は頑固者だ」
「…………………………………………………違う、と思います」
頑固者はまた別にいるから認めたく無い。絶対に認めたく無い。
「そういうところがだよ」
魔族は両脇に手を入れて私を立たせた。ぱんぱんとスカートについた砂を払ってくれている。
「で、どうするんだ?」
この世界の料理が食べてみたいだとか、図書館のところに行きたいだとか、いくつか思いつくが折角の用事があった異世界なのだからここは必要なことをしよう。
「この辺りには魔女、と言われる人はいますか?」
少しだけ、会ったら話したかった相手だ。
「いるには居るが、お前、魔女がどんな存在か分かっているのか?」
なぜ、そんなことをするんだと不審がられる。
「ええ、まあ。ただ、話してみたいだけなんですが、ダメですか?」
微妙な顔をされた。
「ダメではないが、魔女の中にもヤバいやつと比較的マシなやつがいるから誰か分からん」
それはそれでどうなのだろう。性格的にヤバイやつなのか、力量的にヤバイやつなのか。それともそれ以外か。
「じゃあ、ヤバいけれどもおとなしい魔女はいますか?」
「……………………そんなことを俺に言うやつは初めて見た」
じっと視線を合わせる。あたり一体には沈黙が降りる。目線を逸らせば負けのゲームのようだ。
その空気に結局負けたのは魔族の方だ。
「いいさ、案内してやる」
「ありがとうございます」
はぁー、とため息を吐きながらも応えてくれる。意外と優しい魔族なんだ、と心の隅で思った。
「ところで、あなた、ヒゲって生えるのですか?」
「いや、生えないようにしているが」
なるほど。生えなくすることもできるのか。どうやっているのだろう。
「ちょっと残念です」
「何がだ」
「ヒゲが生えていたらじょりじょりできるのに」
「やめろよ! 絶対やめろよ! やるんだったら家の人にやれ!」
されたく無いのか。子供は苦手なのかな。この前、ヒゲが長い人が子供からヒゲだーと言われて人気になっていたのだけれど。引っ張られるのが嫌なのかな。
「分かりました」
「なら良し」
それでいいんだ。




