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2番目ー2

アレミア砦に着いた。馬車を降りて乗せてもらったお礼を言い、御者を都の方に帰らせる。砦の周囲は都側の半分が森、半分が砂漠と化している。砦の者が降ろされた吊り橋の先に立っている。服装から見るに侍女の人であろう。

「あなたが神父役として来た神官ですか」

無機質な表情をした侍女の人に話しかけられる。鳩で事前に到着時間を伝えていたし、神官としての正装を着ていたということもあって確信を持って尋ねられる。

「はい」

こちらもまた砦の者であると確信を持って答える。その返答が気に入ったのか侍女の素っ気なさが収まった。

「この砦に来たことは?」

「砦の改修工事が終わった頃に研修先として一度だけ」

神官見習いから神官になる研修で訪れたことがある。その時はまだ平和であったのでまあ、行っても大丈夫だろうと思い訪れた。あの時は実際に何も無かったので大丈夫であった。

「それから大きな変更はございませんので案内は不要ですか?」

あまり好き勝手に動かれると困るのだろうか。と思ったが、先程とは打って変わって仕事が忙しいと顔に文字がデカデカと書かれているのが見える。

「ええ。まあ」

「何を笑って、」

つい、表情の変わり様がおかしくて答える時に笑いが漏れてしまった。侍女の方はそのことに不思議に思って言い返そうとしたが、どうしてか気がついて頬を赤らめていた。

「気をとりなおして、後の説明は貴方の護衛をする方に任せます」

こほんっ、という咳払いが前についた。侍女の方が門の中の方に手を向ける。その先から鎧を一部つけた人が出てくる。

「こちら、あなたの護衛を務めていただきます、騎士様です」

「よ、久しぶりだな」

少し前にいた戦場で一緒であった騎士だ。それ以前にも度々教会であったことがある。何故ここに居るのかはさておいておこう。

「ええ、お久しぶりです」

最後に会ったのは少し前の戦場でだったと思う。あの時は敵対していたから殺しにかかってきて大変だった。教会は中立を貫いているというのに。

「それでは、姫さまの結婚までよろしくお願いします」

「承知いたしました」

侍女の方に頭を軽く下げられたから同じく頭を軽く下げ返した。

「では、仕事がありますので私は失礼いたします」

侍女の人は一礼した後、先に砦の中に入って行った。

「奥さんは今日は居ないのですか?」

彼は都にいる騎士団の団員で少々特殊な立ち位置にいる男だ。なんでも、見回り中に巷で流行っていた悪魔召喚の儀式に出会し、出てきた悪魔相手に口説いたという話を持っている。まあ、色々あって三人そろって仲良くさせてもらっている。

「今は見張りをしてる。呼んだら戻ってくると思うが、呼ぼうか?」

「いいえ、仕事中にお邪魔するわけにはいきませんから」

仕事があるならそちらを優先して欲しい。まだしばらく滞在する予定だからまた会う機会はあるだろう。

「そうか」

合わせてやりたかったのになぁ、という副音声が聞こえてくる。神官をやっている身としては仲良くしている場面を見られると色々とマズいのでやめていただきたい。

「そっちはどうだった?」

元敵対した人に言う言葉ではないと思う。

「そこそこ元気にやってますよ。今回は結婚式の神父役で呼ばれました」

神父役、以外にも呼ばれた原因があると思うが。例えば目の前の男が来ることを知っていたとか。あり得そうだ。

「『神父役』か」

ふくみがあることに気づいたのか。

「それ以外で呼ばれていなければいいな」

考えていたことがバレたか。

「そうですね」

何事もないのが一番いい。前の戦場で特に実感した。

「前の戦場にいた子供の傭兵さんはどうなったか知ってますか?」

同じ陣営側だったから何か知っているだろうか。まだ子供だっただけ気になってはいる。

「ああ、あいつお前の後輩神官と仲良くしてたな。頑張れば様子を聞けるんじゃないか?」

「そうですか」

それは知らないということか。まあ、騎士団と傭兵団は似て非なる者だからというのもあるか。

「結婚式まではゆっくりできると思うから今度美味い飯でも紹介しようか?」

「ぜひ!!」

こうして、到着初日が終わった。



事件はそこから一週間程経った日に起こった。


『アレミア砦に行ってはいけない』


なるほど、あの予言じみた言葉はこういうことか。

「ワイバーン!! ワイバーンが出た!!」

「黒い影が人を刺しているぞ!」

「影に呑まれるぞ!! 逃げろ!」

「助けて!!」

ここは地獄か、とでも思いそうな惨事が目の前に広がっている。助けを求めてられても私一人ではどうにもならない。せめて痛みがないようにするしかできない。これは逃すつもりがないようなやり方だ。

助けを乞う声に耳を塞ぎたくなりながらも、見つけた人々に痛みを和らげるしかできない。

人が倒れている廊下を早足で進み発生源へと近づく。

近づくにつれて血液が足りず倒れた人が増えたかと思えば血痕だけ残っている場所もあった。

なんとかして発生源である聖堂跡にたどり着くと屋根が吹き飛び、人がいたであろう場所に人一人分ほどの血液が残っていた。

「………………何があったんだ?」

「錯乱した従者が主人の制止も聞かずに殺しかかりにきて、騎士が庇ってやられたから殺し返した」

あの騎士道精神が高い騎士はやりそうなことだ。

「それで、この事態か」

屋根が吹き飛び、人が居なくなり、ワイバーンが出てくる、あいつは何をやっているんだ。自分が死んだらどんな風になるかぐらい考えていなかったのだろうか。考えておけよ。

「なあ、どうして殺されねばならなかったんだ? 人間は秩序があるのでは無かったのか?」

人間の国という事を言うなら正しいが、それは感情論を無視している。どんなものにも多少は感情が入っているものだ。

「おそらく、その従者の言い分はこうだろう。『この騎士は悪魔に唆されている! 早急に始末しなければいけない!』と」

「……ああ、似たようなことを言っていたな」

教会の絵本を見て多少過激な神官の下で育った人間はそんなことを考えるだろう。天使は善で悪魔は悪と考える奴らだ。例外は意地でも認めない。

「それで怒り、殺すというのはあなたは騎士を愛していたのではないですか。そうでなければそんな行動を起こさない」

「…………そうか、そうだったんだ」

今まで人の感情が理解できなかったのだろうか。悪魔を名乗っているのに。そういう感情的な意味なら悪魔というより天使の方が正しいと思う。

「姫と砦の主は生きていますか? 亡くなっていたら戦が開戦してしまうので確認したいのですが、その様子では亡くなっているようですね」

「すまない」

心ここにあらずといった様子で言葉だけで謝っている。理解していたのであればやらないでもらえたら良かったんだよな。

「騎士はどこに行ったのですか?」

騎士が着けていた鎧が地面にあることからなんとなく想像はつくが事実であると認めたく無かった。否定して欲しかった。

「騎士は食べて一緒になった」

「そうですか」

色々と引きたい。やはり悪魔は悪魔だったか、とまでは言わずとも、価値観の違いというか、精神性の違いというか。上位の存在は人の考える事とまた別というか。そういう節々を感じる。

「お前には食べてしまおうとは思わない。また会えたらいいと思う」

それは少しでも情がわいたという事なのだろうか。それならば騎士は偉業を成し遂げた。人でない者に感情を教えるという偉業を。

「だからお前は私の手で殺す」

「え、」

その言葉から一拍遅れて口から血が垂れる。自分の体を見ると心臓の位置に悪魔の手が突き刺さっていた。突然の事であった。悪魔の方を見ると無表情であるというのに涙がこぼれ落ちていた。


今更ながら、目の前にいるのは人間ではなく、悪魔であるということを思い出した。もはや手遅れであったが。






——————そうして神官は地面に倒れたのち、灰になって消えていきました」

おしまい、とこの話を終わらせる。娘さんは話し始める前と比べて明らかにテンションが下がっていた。

「ねえねえ、これって戦記ものなの? どちらかと言えばサスペンスとかが正しいと思うよ」

サスペンスまではいっていないと思う。最後はまあ、当てはまるか。

「これは戦記ものでいう開戦の原因になった事件だね」

民族的なことが原因で起こった大戦だとか、兵士のうっかりで始まった戦争だとか。

「なら一部分ってこと?」

「そうだね」

言うなれば前夜章みたいなものだ。本筋とはまた別でスピンオフで語られるようなもの。だからこれで終わり、とはならない話だ。

「………………みんな、居なくなっちゃったの?」

「そういうものだからね」

正確にはみんな、ではなく悪魔以外のみんなだ。騎士は食べられたから居なくなった、とはまた違うとも考えられる。

「………………………………どこかでまた会えたらいいね」

そんな娘さんの反応に思わず目を見開いてしまった。そんなふうに言ってくれた人は居なかった。

「…………そっか」

そのまま何とも言えない気持ちで娘さんの頭を撫でた。

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