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2番目ー1

だぁぁーという気の抜けた声が右下の方から聞こえた。お邪魔している家の娘の声だ。

「ひーちゃん、何かお話してくれない?」

どうやら学校の宿題に飽きたらしい。机の上に置かれたプリント数枚の上に鉛筆を置いてソファーにもたれかかってきた。

「宿題は?」

プリントの半分ほど埋まっているが完成という訳でも無さそうだ。

「期限は明後日だもん」

早めに済ませばいいと思うのだが書くことに飽きたのだろう。母親もそういうところがあった。

「いいよ。何が聞きたい?」

「戦記もの!」

即答とは。平家物語でも授業でやったのだろうか。

「で、いいの?」

「いいの!」

これまた即答か。それほど気に入ったのだろうか。ちょっと悲惨な話が多いのに。そっか、と頭を撫でてやりながら言って、話を始める。

「これは今からずっと昔のお話です。昔々、あるところに神官になりたい子供が一人おりました——————



そうだ、神官になろう、と決心したのは数えて十二になった日。洗礼を受けた時にそう思った。

「父上、母上、私は教会に入ろうと思います」

家族での食事時間に言うと驚いた反応の後に静まりかえした。父上は飲んでいたワインが横に入りかけてむせている。大丈夫かな。

「…………………………………………それは、今すぐにですか?」

「はい」

最初に正気に戻った母上が確かめるように言う。

「待て待て待て、お前は嫡子だ。神官になるには廃嫡することになる。だがするにはお前は有能すぎる」

「そうですね」

「そうですねぇ!?」

正気か、という副音声が聞こえてくる。勿論、正気であるのだが。

「跡継ぎは妹にでも譲ります」

ええ! 私⁉︎ という顔で妹が見てくる。自分が巻き込まれるとは思っていなかったのだろう。

「この国では跡継ぎに女はできないのだけど、婿に来てもらおうかしら」

「お母様!?」

母上は乗り気とも好きなようにさせればいいと思っているのか賛成派だ。そんな母上に妹は驚きで声を上げる。

「なんだ、許してはくれないのか?」

そんな妹を揶揄うように言う。あとで怒られるかもしれないがちょっとした悪戯心が湧いただけなのだから許してほしい。

「お兄様の決めたことなら何も言いませんが、急なことに驚いているだけです」

確かにいつものように根回しをしていないから初耳でもあるのだろう。


「天命を受けたからな」


「………………………………そうか」

この国では天命というものはとても重要なことになっている。なんでも、天命を受けた人は必ずと言ってもいいほど本になるような偉業を成し遂げているらしい。個人的にはどうでもいいが利用できる

「例え、この道で命尽きようとも後悔するつもりはありません」

覚悟は示さなければいけない。それは無茶を言う上で通さねばならないような物だと勝手ながら思っている。

「………………なら、行ってこい」

父上は色々な感情を押し殺して絞りだすように言った。その感情はお前には当主になる用の勉強を施してきたのにともいえるか。

「ありがとうございます」

そのまま何事もなかったように食事を続けた。




コンコンと聖堂の入り口の方で音がする。

「お前、いつも祈りを捧げているな。暇なのか?」

振り返ると同室のハーフアップの髪型の彼が片手で数冊本を持って扉によりかかっていた。珍しい目の模様がたまに見え隠れするから印象に残っていた。

「いいえ」

暇ではないので即座に否定する。

「自由時間まで祈らなくてもいいんじゃないか?」

他の人たちは友達と話したり、勉強したりしている。その中で祈りを捧げるために使うのは確かに異様なように映るかもしれない。

「それでも私がしたくてしているだけなので」

彼は底の知れぬ信仰心を目の当たりにして目を見開いた。そんな頭のネジが外れたような人を初めて見たような反応をされるのは嬉しく無いのだ。

「………………そうか」

何か変なことでも言っただろうか。人間関係にヒビが入ると問題が起きるからあまりしたく無いのだけど。

「食事は忘れるなよ」

そう言って彼は扉を閉じて歩き出した。

「…………ありがとうございます」

ただ一人残った聖堂の中で聞こえないかもしれないがお礼を言う。彼は本を返しに行ったようだ。扉の向こうから聞こえる話し声や足音を気にせずただひたすらに祈りを捧げる。

『こんにちは』

いつのまにか後ろに少女が立っていた。黒髪に赤目の歳は十を超えたあたりだろうか。この辺りでは見かけない容姿と服だ。その靴はこの辺りの地面だと歩きにくいはずなのだが。

「ようこそ、いらっしゃいました。どうしてこの教会に?」

目線を合わせるように屈んで、決まり文句を言う。

『ちょっと、えっと、』

少女は言葉に詰まったようでおどおどしている。人見知りのようだ。

「道に迷いましたか?」

大抵の予定無しにここにくる子供は運のいい迷子が多い。予定ありでくる子供は洗礼式でくる一般の子か神官が多ければ多いほどいいと考えている貴族の子か預かっている子ぐらいだ。その中でも見たことがない容姿であるのは、おかしい。

『! はい。でも』

「でも?」

なんだろうか。

『いい物が見れました』

ちょっとよく分からないことを言う。この聖堂で良いものと言えばステンドガラスやパイプオルガンぐらいだと思うが。

『#¥%、ここに居たのか。帰るぞ』

声が聞こえて聞こえた方を見る。いつのまにか白髪の青年が目の前の少女を呼んでいた。名前の部分がノイズがかかって聞こえない。聞いたことのある言語ではあるが理解できないような、そんな様に感じる。

「あっ、この子の保護者の方ですか?」

見た感じはそう。というかそうでなければ驚く。

『そうだな。引き留めてくれてありがとう』

「いえいえ、それほどのものでもございません」

ふらふら寄り道をするタイプの子なのだろうか。ならば確かに目が離せないだろうなぁ。どこに行くか気が気でない。

『お礼に君に一つ忠告をしよう』

忠告、とはなんだろうか。そっちに行くと滑って転けると似たようなものならいいんだけれど。

『アレミア砦に行ってはいけない、が、君ならどのみち行きそうだな』

アレミア砦、は隣国との国境線付近にある砦のことだ。今は開戦するようなことにはなっていなかったはず。

「それはどういう、」

『それでは、縁が良ければまた会おう』

自分から話しておいて質問に答えてもくれない。

「ちょっと! そっちは…………」

少女を抱えた青年が廊下の方に行ったと思ったが、瞬きの合間に消えてしまった。




「なんて事があったんですよ」

「何それ、ホラー?」

食堂にて昨日声をかけてくれた彼とお昼を食べる。

「ホラーでは無いと思いますよ」

ホラーというには神々しく見えた。絵にするとすればステンドガラスの背景に白と黒のエフェクトがかかりそうだ。

「………………お前、体調は大丈夫か?」

「大丈夫ですけど、先輩、どうかされましたか?」

様子のおかしい先輩が後ろに立っていた。いつもは規律が一番だ、みたいなカッチリとした真面目な人であるだけ狼狽え加減がよく分かる。

「あー、うん、それ食べ終わったらちょっと来てくれないか? そっちの奴も」

「? はい」

よく分からずに返事をした。先輩はどこか焦っているとでもとれるような表情をしていた。それにしても何故、彼も連れて行くのだろうか。


用意された部屋に入る。きちんと扉が閉まり、防音用の道具の起動がうまくいってから様子のおかしい先輩に話しかける。

「それで、どうされたんですか?」

先輩は何から言えばいいかと考え込んでいるようだ。

「お前、最近変なことは無かったか?」

変なこと、花瓶が勝手に割れたり、何も無いところで躓くとかだろうか。そんなことは無かったからそれは違う。それ以外で思い当たるのは昨日のことだ。

「………………そういえば、突然教会に入って来て消えた少女とその子の保護者と会いましたけども」

突然聞いてくるのは何故だろう。何か危険性があったのだろうか。先輩は言葉に詰まったように顔を下げて黙る。

「………………………………多分、おそらく、その二人は神だ」

「「え、」」

教本には神は空から降りてくると書かれていた。けれども、神は目立たず降臨できるのだろうか。何故、彼は青ざめた顔をしているのだろうか。




廊下を歩いていると大司教に声をかけられた。

「私がアレミア砦に、ですか」

「そうだ」

あれから数年経ち、神と面会できるいうのは一部では公然の事実となっている。

アレミア砦に配属されるということは、姫さまと結婚することで一時的でも制止させ無ければ隣国の暴走が止まらず、戦争が始まるという案件への参加の指示だ。


『アレミア砦に行ってはいけない』


前に、神から言われた言葉が頭によぎる。この前に少女の方と会った時は未来予知はできないが過去の記録から起こりうる事は予測はできると言っていた。

「分かりました。いつからでしょうか?」

だからといって行かない訳にはいかない。それは教会の教えに反する行為だ。

「来週からだ」

来週、ということは今週の会議で決まったのだろう。死にに行くつもりは無いが念のため居なくなっても大丈夫なように用意しておこう。

「分かりました」

もうちょっと早く言ってくれないかなぁ。

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