0.1215
『こちら桐生。よくやった。不活化薬の投与をしたことによって災害係数はかなり下がっている。喫緊の問題は去ったといっていいだろう。ただこっちは後始末でごたついててな、申し訳ないが迎えに人を出せそうにないからタクシーでも呼んで帰ってきてくれ。領収書もらうの忘れるなよ。以上』
「――こちら海野。セピアが頭を怪我したから念のため病院に寄っていいか?」
『そうか、了解した。焦らず帰ってこい。以上』
インカムの電源を切る。
――さて。
「セピア、頭貸せ」
「痛っ!ちょっと!引っ張らないでほしいのですけど!?」
こめかみ辺りから流血痕がある。
「血は……止まってるか。包帯なんて持ってねぇしな……あ、セピア、そこら辺に座って待ってろ。救護班にもらってくる」
「いや、もう止まってるのなら別にいいと思うのです。このまま病院に行くのですよね?」
「バカお前、ばい菌入ったらどうすんだよ」
「ふふっ、ばい菌って……」
なんだよおい。ったく。
「なぁあんた救護班だよな?包帯とか持ってねーか?あのチビが頭怪我したんだが」
「取ってくるので、ちょっと待っててくださいね」
「おう、すまんな」
対象――木村が担架で運ばれている。能力過剰行使の反動での衰弱が治療されたら現対で詰められて、そっから警察に回して詰められて……この事件が締まるのはいつになるのやら。山浦たちもとっくに運ばれていったし、現対で残ってるのは俺らだけか。消火作業も順調なようだが、大半の家が焼け落ちちまってる。これ、ほんとに国から金出んのか?
「お待たせしました。頭の怪我とのことなので、後で必ず診てもらってくださいね。もちろん貴方もですよ」
「わーてるって、助かるわ」
身体は正直どうでもいいが、問題は義手だよなぁ……。今使ってる義手はかなり良かったんだが、その分いい値段したんだよな。スペアは家にあるけど支給品のやっすいやつだし、流石に買わなきゃダメかねぇ。金無ぇよ……。
「待たせたな。悪いが左手がこんなんだから、包帯巻くのは自分でやってくれ。ほら、手貸せ」
「じ、自分でできますよ」
「今更遠慮してんじゃねーよ。どっから血ぃ出てたかとか分かんのか?」
「…………」
「髪触るぞ。頭こっち出せ」
「はい」
ザックリいってる感じじゃなさそうだな。よかった。
「ここら辺から血ぃ出てたみてぇだ。ガーゼ持ってここ押さえてくれ。消毒するぞ」
「……っ!」
「あ、沁みるぞ」
「遅いのですけど……」
涙目になっている。ガキには消毒って拷問だよなぁ。俺も転んだ時ねーちゃんに消毒かけられて泣いたわ。そんでねーちゃんは母さんに怒られてたっけな。
「ほら、包帯巻け」
……俺はこれからどうしたらいいんだろうな。いや、それは決まっている。アイツの――寺田莉穂の情報を集める。情報を集めて、報いを受けさせる。そのために魔法庁に入ったといっても過言じゃねぇ。
『目には目を、魔法使いには、魔法使いを』
そう三國本部長が入社式で言っていた。ハンムラビ法典のこの一節は男児にぶっ刺さるもんだから、これをもじって言ったのはすぐわかった。つまり、本来の意味で言うなら「犯罪者の行い以上の力でねじ伏せるな」ということだろう。……だがそれは裏を返せば、ヤツらの行いと同等の苦痛を味わわせるのは、本部長の権限を以て許容されるということだ。
……しかし、コイツを、コイツらを巻き込むのはまた違う話だ。流石にそのくらいの分別はつく。そもそも、私怨で犯罪者を私刑にしようとしている俺が一番の悪だろうしな。
「……セピア、俺は魔法使いが嫌いだ。魔法使いというものが嫌いだ。聡いお前なら分かってるかもしれないがな。」
「…………」
「だがな、セピア。そんなのは俺の――大人の問題で、お前ら子どもには関係ない話だ。人間とか魔法使いとか、良いとか悪いとか、お前らには何の関係もない」
「だからな、セピア。だからこそ、俺はお前に魔法使いにはなってほしくない」
「……大丈夫ですよ、海野さん」
「わたしが魔法使いとして生まれてきたのは、誰かを守るためなのですから」
そう微笑むセピアの目には、一切の曇りが無い。まるで濁りきっている俺の目の奥の、汚い心情と劣悪な感情を見透かされているようだ。
だが、そうだな。コイツはきっと大丈夫なんだろう。こんな環境で育ってきたのにもかかわらず、メンタル強者というかなんというか。
「…………はっ!ガキが生意気言う!」
「――行くぞ、セピア」
「帰りましょう!」
「バカ言え、病院が先だろ」




