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獣達の騎士道  作者: 春野隠者
聖都への道

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166/219

正しき者達と解ける糸

 王家の楔が聖都の門を潜ったのは、雪の舞う昼下がりだった。

 半月、ロズヴェータが切っ先を待ち続けたものが、いまゆっくりと城内へ滑り込んでくる。

 先頭を進むのは、白い衣の一団だった。三日月の下で長く息を潜めていた、聖都の聖職者たち。その掲げる旗に、大路を埋めた民が地鳴りのようにどよめいた。

 異教の三日月に踏みにじられ、十字を掲げる異国の軍に奪われ、久しく城壁の内から消えていた紋章。──ジュルル・サルムの、王家の紋章だった。

 輿が二つ、進んでいく。

 先の輿に、女王がいた。

 マリネット。滅んだはずのジュルル・サルム王家の血を、ただ一人正しく引く女。年の頃はロズヴェータと変わるまい。青ざめて見えるほど白い顔に、まっすぐな背。掲げられた王家の紋章の下で、その手が静かに民へ差し伸べられるたび、大路の民はすすり泣きながら膝を折った。

 三日月の軛から解き放たれ、失われた我らの女王が還った──民の目に映るのは、その一事だけだ。神輿の下の綱を誰が握っているかなど、涙の向こうには見えない。

 後ろの輿には、その夫がいた。

 王配ルセーブル。女王が婿に迎えた、若い男だ。血筋は女王のもの。王の名は、この青年のもの。だが民の涙は先の輿へばかり注がれ、後の輿にはろくに向かない。ルセーブル自身それを気に病む風もなく、退屈そうに白い息を宙へ吐いていた。

 ロズヴェータは城門の櫓の上から、それを見下ろしていた。

 冷たい風が、雪と香炉の甘い煙を櫓の上まで運んでくる。鐘が鳴る。歓呼が地を揺らす。

 リオリスの報せでは、担ぎ出されるのは『王家の生き残り』の一言だった。蓋を開ければ、その血を継ぐのは女王で、王の名を負うのは傍らの婿の方。──ルクレインは、掘り起こした一人の女王へ、御しやすい婿を一つ添えていた。正統の血は女王に、扱いやすい王の名は婿に。二つに割って、どちらも手の内へ。抜かりのない絵図だった。

 見事なものだ、とロズヴェータは思う。ルクレインは剣を一度も抜いていない。ただ忘れられた血を掘り起こし、教会の祝福を被せ、輿に乗せた。それだけで、彼が半月かけて銭で保った都は、いま民の歓呼の中で静かに主を替えつつあった。

 そして女王の輿の傍らに、その男がいた。

 馬にも乗らず、輿のすぐ脇を徒歩で進む壮年。飾りのない黒衣。腰の剣も実用の一振り。歓呼にも王の威にも、その横顔は微塵も動かない。自分に一片の光も引き寄せぬよう、注意深く影の側を歩いていた。

 アルブレヒト・ヴェルダー卿。

 会う前から、ロズヴェータには分かった。あれは光を欲しがらぬ男だ。光を欲しがらぬ者は、銭でも釣れず、名でも動かせない。

 リオリス経由の話では、ルクレイン公爵家とは遠縁にあたる男らしい。子爵の位を持ち、戦場での武名は十年も前のものばかりだが、騎士働きを退いてからは、手堅く領地を治めてきた実績がある。

 厄介な楔が、いよいよ都の芯へ届いた。


◇◆◇


 かつて十字教の王が座した宮殿の広間で、王命は読み上げられた。

 長く無人だった大広間は冷えきっている。壁の聖画は色を失い、高い天井の隅には埃が綿のように溜まっていた。焚かれたばかりの香の煙だけが、その荒れた空気の中で真新しく甘い。

 女王マリネットが玉座に就く。傍らに王配ルセーブル。そして女王の名代として、アルブレヒト・ヴェルダー卿が聖都の政と遠征軍の指揮を統べる。──首席参謀ヴァルテンがロズヴェータへ託した暫定の差配は、この一巻きの王命で正式に幕を下ろした。

 ヴァルテンは型を崩さなかった。深く一礼し、印を返す。紙の上のことは紙の上で、粛々と引き渡されていく。

 ロズヴェータも膝を折った。

 抗う気は無い。王命に刃を向ければ、それだけで反逆者だ。ルクレインが待っているのは、その一手だった。

「三頭獣《ドライアルドベスティエ》の団長ロズヴェータ」

 ヴェルダーが初めてロズヴェータへ声をかけた。低く乾いた、飾りのない声だった。

「聖都を、よく保った。掠奪の焔で一夜のうちに灰になっていてもおかしくなかった都を、半月、火の一つも上げさせずに繋いだ。──見事だ。これは世辞ではない。記録にも、そう残す」

 世辞ではない、とこの男は言う。事実、その目に追従の色は無い。ただ正しく評価すべきものを、正しく評価しているだけだった。

「痛み入ります」

「その上で」

 ヴェルダーは卓に積まれた帳簿の束へ目をやった。ロズヴェータが半月睨み合い続けた、あの帳面だった。

「貴殿のやり方には、法に照らして正さねばならぬ点がいくつもある」

 来た、とロズヴェータは思った。

「掠奪ではなく徴発、と貴殿は言う。だが玉座が空いていたからこそ、それは通った。今日からこの都には、正統な王がある。王の民から王の許しなく糧を絞る──それはもはや徴発ではない。ただの掠奪だ」

 正しい。ぐうの音も出ぬほど正しかった。

「奪った蔵は民へ返す。商館の帳簿は王家の名で改めて検め直す。諸隊の給金は以後、王都の正規の軍費が下るのを待って正しい筋から支払う。──貴殿が銭で繋いだ糸は、今日ここで一度、解く」

「軍費は、凍っています」

 ロズヴェータは静かに言った。

「後継が定まらぬうちは、金庫の鍵を握る者がいない。正規の筋を待てば、諸隊の腹は明日にも鳴り始める。──腹の空いた兵は、命令では動きません」

「では、飢えさせぬために、都の民から奪い続けよと」

 ヴェルダーの声に、初めてわずかな熱が差した。怒りではない。信念の熱だった。

「解放者を名乗る軍が、解放したはずの民の蔵を破り続ける。それが貴殿の言う『繋ぐ』か。──私は、正しくないやり方で保たれた平穏を、平穏とは呼ばぬ」

 玉座の女王マリネットは、その一部始終を身じろぎもせず見ていた。異国の言葉で交わされる、銭と法の応酬。それに口を挟むことはない。ただ真っ直ぐな背だけが、この都の血が今なお絶えていないことを静かに示している。

 その傍らで、王配ルセーブルは退屈を隠そうともしなかった。

 肘掛けを指先で弄び、時折、天井の隅の埃へ目をやる。ロズヴェータのことも、ヴェルダーの語る都の窮状のことも、他人の家の帳簿の話でも聞くようにどうでもよさげだった。血のない王の名を借りただけの、若い婿。この都がどう転ぼうと、この青年の心は痛みも算段もしないらしい。

 なるほど、とロズヴェータは思った。ルクレインの描いた清らかな絵図の中で、あの婿の一角だけが上物ではない。


◇◆◇


 拝謁を退がると、雪はやんでいた。

 ロズヴェータは宮殿の回廊に立ち、白く沈む中庭を見るともなく見ていた。冷えた石の匂いがする。指先がかじかんでいた。

 三人を、静かに値踏みする。

 ヴェルダーは腐っていない。だから銭では釣れず、脅しも効かず、腐敗を突いて崩すこともできない。正しさそのものを楯にした男だ。

 女王マリネットは、この都の正しい血だ。民の涙がその正統を守っている。刃を向ければ、こちらが解放者の面を剥いだ簒奪者になる。

 だが──王配ルセーブルは違う。

 血もなく、志もなく、都への情もない。王の名だけを借りて退屈を持て余す、若い婿だ。あの男には隙が大きい。恨みか、欲か、退屈か、名誉か。人の抱える手頃な穴なら、どれか一つは必ず空いている。

 清らかな楔だ。一分の隙もない──ただ一枚、あの婿の板を除いては。

 だが、とロズヴェータは思う。

 その正しさが、都を守れるのか。

 春になれば雪が解ける。東から三日月帝国(エルフィナス)が戻ってくる。閣下を討った首狩り総督イブラヒム──あの男の軍が、この千年の城壁を取り返しに来る。その時、城壁の上で槍を握るのは正しさではない。飯を食った、兵だ。

 ヴェルダーが「正しく」諸隊の糸を解けば、その兵は春を待たずに散る。散った城壁はエルフィナスにあっけなく呑まれる。正しいやり方で、都が失われる。

 皮肉なものだと、ロズヴェータは口の端だけで笑った。

 あの男の正しさは平時のものだ。だが、じきに来るのは平時ではない。

 リオリスは『早まるな』と言い残し、王都へもう一度、使いを走らせている。あの陽気な王族の伝手が、宮廷の綱引きの末に楔を抜いてくれるなら、それでいい。だが、あてにはしない。聖都の命は、王都の決着を待ってはくれない。

 正しさが都を守れぬと露わになるその時まで、こちらは静かに待てばいい。そして春が来て、正しさが破れたその時──あの清らかならざる一枚の板から、楔を内へ抜く。

 取り込むか、追い落とすか。答えを選ばせるのは自分ではない。雪解けとともに東から来る、あの三日月が選ばせる。

 それまでは、従っておく。

 ロズヴェータは回廊の柱に凭れ、白い中庭へ細く息を吐いた。吐いた息はたちまち凍り、風にさらわれて消えた。

 その従順な横顔の裏で、男はもう次の盤面を、静かに並べ始めていた。


◇◆◇


 ヴェルダーの統治は正しい。

 着任してヴェルダー卿がまず止めたのは、徴発だった。ロズヴェータが商館や蔵から帳簿に載せて絞っていた銭も糧も、その日限りで凍る。奪ったまま手つかずだった蔵は、次々と元の持ち主へ返された。閉じていた両替商の扉が開き、市が戻ってくる。凍てた石畳に、また商いの声が満ちた。焼きたてのパンの匂いが、朝の路地に立ちのぼる。

 民から見れば、ヴェルダーは掠奪者を追い出した清廉な救い手だった。女王の名と並べてその名を称える声さえ、ちらほら聞こえ始めている。

 だが城壁の内側では、別の音が鳴っていた。

 銭の止まった、諸隊の腹の音だ。

 徴発を止めれば、絞る銭も止まる。ロズヴェータが半月かけて諸隊へ配り続けた給金は、ヴェルダーの正しさの下でぱたりと途絶えた。代わりに支払われるはずの正規の軍費は、いまだ凍ったまま。後継の裁可が下るまで、金庫の鍵を握る者はいない。

 民の腹は満ち、兵の腹は空く。

 正しさは、都を鎮めながら軍を飢えさせている。

 飢えの因は、軍費の凍結だけではない。

 大きくは戦の働きに見合う査定、小さくは遠征軍の細々とした用命まで、これまで武官派閥から流れていた依頼が、頭の死とともに絶えていた。王家派閥と文官派閥がこれ幸いと横から依頼を差し込んではいるが、諸隊すべての腹を賄うには、まるで足りない。

 武官派閥は、ディルアンの名声と実力を頼りに、王家の外からも支援を受けていた。取り入りたい商家、豪族《ユンカー》、貴族──その顔ぶれは多い。だがそれも、あの男があってこその資金だった。ディルアンを失った今、軍費だけを解凍されても、以前と同じ依頼が戻るわけではない。次の頭を決めねば、それすらも一つずつ立ち消えていく。


◇◆◇


 ヴェルダー卿は、ロズヴェータを一度だけ政庁へ呼んだ。

 乾いた紙と埃の匂いのする一室。引き継ぎの帳簿を検め終えた卿は、几帳面な字で埋まった帳面を閉じ、静かに顔を上げた。

「見事な帳簿だ。一文の誤魔化しもない。掠奪の記録さえ、掠奪と正しく記してある」

「恐れ入ります」

「一つ聞いておきたい。──この諸隊を、貴殿はどうやって半月も繋いだ」

「銭です」

 ロズヴェータは隠さなかった。

「飢えた兵は命令では動きません。ですが銭を出す者の言うことは聞く。都から絞った銭を、その日その日、腹の空いた隊から順に配った。それだけです」

「掠奪した銭で、な」

「はい」

 ヴェルダーはしばらく黙っていた。窓の外、返された蔵の前で、商人が荷を検めている。その平穏な光景を、卿は静かに見ていた。

「私はそれをせぬ。掠奪で兵を飼えば、この都はまた掠奪される都に戻る。──正規の軍費が下りるまで、諸隊には軍法と忍耐で待たせる」

「軍費は凍っています。いつ解けるとも知れません」

「王都には催促の文を送った。正しい手続きを踏めば、遅くともいずれは下りる」

 いずれは。

 その一語の中に、この男とロズヴェータを隔てる深い溝があった。ヴェルダーは、正しい手続きがいずれ結果を連れてくると信じている。ロズヴェータは、飢えた兵に「いずれ」は通じぬと知っている。

「武官派閥の集めた騎士達を抜きにして、聖都の防衛がなりますか?」

「……聖都を敵の手に渡しても構わぬと?」

 ロズヴェータの問いに、アルブレヒト・ヴェルダー卿は、思ってもみなかったことを聞かれたと眉を顰め、静かに問い返した。

「死ねば神の御許に行ける。結構なことです。ですが、誰しも死が恐ろしいものでは?」

 正しさを盾にする壮年の男に、ロズヴェータは踏み込んだ。

「そのために、何をしても良い、と言うわけではない。それでは獣だ」

 アルブレヒトの返答に、ロズヴェータは目を伏せた。

「……失礼しました。ヴェルダー卿の御意見を賜り、自らの無知を痛感しております。最後に忠告として、一つだけ」

 退がりぎわに、ロズヴェータは言った。

「腹の空いた騎士団は、忍耐では待ちません。待たせれば、勝手に飯を探しに出ます。──その時、正しさは間に合いますか」

 ヴェルダーの目が、わずかに細くなる。だがそれは怒りではなかった。忠告を忠告として、正しく受け取った目だった。

「留意しておく」

 それだけ言って、ヴェルダー卿は次の帳面を開いた。


◇◆◇


 ロズヴェータの忠告は、三日で当たる。

 南部出身の傭兵騎士団が、返されたばかりの商館の一つへ押し入りかけた。給金が止まって半月、蓄えも尽きた男たちの、当然の飢えだった。

 ヴェルダーの対応は正しかった。

 近衛を出して押し包み、頭を軍法で縛り、掠奪の未遂を記録に載せる。首謀の一人を見せしめに縛り上げ、残りには「軍費が下りれば必ず正しく支払う」と書面で確約した。血は流れない。都は焼けない。

 正しく、鎮められた。

 だが、鎮められただけだった。縛られた男たちの腹は、書面では膨れない。

 ロズヴェータは、その一部始終を離れた回廊から見ていた。もう彼の出る幕はない。ただの一団の長で、二万を差配する権も、諸隊へ銭を配る名分も、王命に返上した後だ。

 だが、諸隊の頭たちの視線は違った。

 軍法で縛られた傭兵団の頭が、去り際、ちらりとロズヴェータのほうを見た。恨みではない。あの半月、腹を満たしてくれたのはこちらだったな──そう言いたげな、飢えた目だった。

 銭で結んだ糸は、正しさの名の下で一本また一本と解けていく。だが、解けた糸の先が、どこを向いて垂れているか。

 それを、ロズヴェータは静かに数えている。

「ロズ!」

「ああ、エリシュ」

 ヴェルダー卿の正しさを見た後、帰りにロズヴェータは紅剣《スカーレット》のエリシュに会う。

「聞いたか、捕り物の話」

「ああ、南部出身の傭兵騎士団、竜殺しの槍(ヘルギウス)の下請けをしてたところだろ?」

 歩きながら口の端に上るのは、先ほどの捕り物の話。

「可哀そうにな。まぁ、蓄えがないのが悪いんだけれど、他の騎士の間じゃ、遠征軍を抜けて依頼を出してくれる王都に戻ろうかって話まで出てる」

 向けられる視線に、ロズヴェータは首を振る。

「とりあえずそこまでうちは窮乏していないよ。後方兵站の依頼はまだある」

 計算のできる会計士を複数抱える三頭獣《ドライアルドベスティエ》には、依頼の数も多い。軍費を当てにしなくとも、糊口をしのげる程度の稼ぎは上がっているのだ。

「なるほどな。うちも、この前、豪族《ユンカー》討ち取った稼ぎが残っているから、まだなんとかなるがなぁ」

「なぁにかんがえてんのかねぇ」

 ため息を吐きながらエリシュは腰に差した細剣に腕を乗せていた。

「うちらに給料を払ってくれていた騎士団長様にも、どうしようもない?」

 首を振って肩を竦めるロズヴェータに、エリシュも首を振る。

「……待つしかないさ」

 冷たい視線を石畳に注ぎながら、ロズヴェータは呟く。その様子を、エリシュは横目で注意深く伺っていた。


◇◆◇


 その男に会ったのは、宮殿の外れの、日の当たる回廊でだった。

 王配ルセーブルが一人、欄干に凭れて庭の枯れ木を眺めていた。従者も付けず、退屈をそのまま姿にしたような、気だるげな横顔。冬の薄い日差しが、その頬に淡く落ちている。ロズヴェータが通りかかると、青年はようやく面白いものを見つけたという顔をした。

「ああ、あんたか。聖都維持の立役者」

「王配殿下」

 ロズヴェータが礼を執ると、ルセーブルはけだるく手を振った。

「よせよ、殿下は。名だけの王の、名だけの敬称だ。──玉座は妻のもの。政はあの謹厳なヴェルダー卿のもの。俺に回ってくるのは、こういう日の当たる回廊で退屈する役目だけさ」

 自嘲ではなかった。もっと乾いた、不満だった。血も、実権も、民の涙も、何一つ自分のものではない男の、行き場のない不満。

 ロズヴェータは、その乾きを静かに測った。

 恨みか、欲か、退屈か、名誉か。──この青年に空いている穴は、どうやらその全部だった。何者かでありたいのに、何者にもなれない。持て余した自分を、誰かに"使われる"ことでしか埋められない。

 そういう穴は、いちばん御しやすい。

「退屈でしたら」

 ロズヴェータは、さりげなく言った。

「都の帳簿は、なかなか面白い読み物です。誰がどこで儲け、誰が誰に貸しがあるか。──殿下がお望みなら、いつでもお見せしますよ」

 ルセーブルの目に、ちらりと光が差した。退屈しのぎに飛びつく子供のような光。そしてその奥で、もう少し剣呑な何かが揺れる。"自分にも触れる権力があるかもしれない"という、飢えた期待だった。

「……あんた、面白いな」

 ルセーブルは、にやりと笑った。

 楔の板が一枚、ほんの少しだけこちらへ傾いだ音がした。


◇◆◇


 その夜、天幕にもう一通の文が届いた。

 トーロウが運んできたのは、ネリネの印ではない。無地の、そっけない封蝋。中の紙には差出人の名も宛名もなかった。ただ一行。

 『貴殿の帳簿には、王都にも理解者がいる』

 文官派閥。ロズヴェータにはすぐに分かった。剣で奪う武官と王家を、紙の上から眺めている、あの静かな一派。都を焼かず帳簿で回した男を、彼らは"同類"と見て、細い手を伸ばしてきたのだ。

 ロズヴェータは、その一行を蝋燭の火にかざした。

 王家派閥の清らかな楔。その内側に、王配という緩んだ板が一枚。そして今、王都の紙の城から、細い手が一本。

 梃子は揃いつつある。あとは、それを差し込む時だ。

 差し込む時を選ぶのは、自分ではない。

 春の雪解け。東の三日月。──あの男の軍が城壁の前に現れた時、ヴェルダーの正しさは、初めて、都を守れるかどうかを問われる。飢えた諸隊が城壁の上でどう動くか。その一点に、全てが懸かる。

 ロズヴェータは、文を火にくべた。

 紙は青い焔を上げて、すぐに灰になる。

 解ける糸の先をひとつずつ拾い集めながら、男は雪解けを待っていた。


ロズヴェータ:新進気鋭の騎士団長


称号:同期で二番目にやべー奴、三頭獣《ドライアルドベスティエ》隊長、銀の獅子、七つ砦の陥陣営、聖都の調停者


特技:毒耐性(弱)、火耐性(中)、薬草知識(低)、異種族友邦、悪名萌芽、山歩き、辺境伯の息子、兵站(初歩)、駆け出し領主、変装(初級)、遭遇戦、策略家、追撃戦、魔物の雫保有者


同期で二番目にやべー奴:同期の友好上昇

三頭獣《ドライアルドベスティエ》隊長:騎士隊として社会的信用上昇

銀の獅子:国への貢献度から社会的信用度の上昇

聖都の調停者:民衆からの信頼度低下、兵士からの信頼度上昇

毒耐性(弱):毒からの生還確率が上昇。

火耐性(中):火事の中でも動きが鈍らない。火攻めに知見在り。

薬草知識(低):いくつかの健康に良い薬草がわかる。簡単な毒物を調合することができる。

異種族友邦:異種族の友好度上昇

悪名萌芽:行動に裏があるのではないかと疑われる。

山林歩き:山地及び森林内において行動が鈍らない。

辺境伯の息子:辺境伯での依頼で影響度上昇

陥陣営:連続で城塞を落とし続けている限り、味方の能力に強化効果。(連続10回)

兵站(初歩):兵站の用語が理解できる。

駆け出し領主:周囲から様々な助言を得ることが出来る。

変装(初級):周囲からのフォローを受ければ早々ばれることはない。

遭遇戦:臨機応変な戦いの経験がある。(1回)

策略家:他の騎士隊から戦術・戦略的助言を求められる。他の騎士隊に対して影響力上昇。ただし、警戒感を同時に抱かせる。

追撃戦:追撃で戦果を拡大できる。(1回)

魔物の雫保有者:今はまだ効果が不明

信頼:武官(+85)±0、文官(+42)+2、王家(+12)±0、辺境伯家(+36)-2、帝国(30)


信頼度判定:

王家派閥:潰さないといけないよね?(リオンセルジュ派) でも、使えそうじゃない?(摂政・リオリス派)

文官派閥:武官派閥はしばらく振るわないだろうな。引き抜きの好機か?

武官派閥:頭に据えるには若すぎるしな……。後方の依頼を切らさないようにするからよろしく頼む。今は少しでも力が必要だ。

辺境伯家:武官派閥はもう終わりかな? 見切りをつけて戻っておいで。

帝国派閥:なかなか使えそうな手駒だよね? こっちにおいで。

副題:ロズヴェータちゃん、調停者と書いて黒幕(フィクサー)と読む。

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― 新着の感想 ―
なんか正面から戦争やってるより、陰謀企ててる時や危機時の内政の方が生き生きとして見えるんだけど。 まさにマムシじゃないか。辺境伯の血は確かだな。
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