祈祷者
祈りの声が、森の奥からはっきりと響いた。
次の瞬間──木々の影が、ゆらりと揺れる。
「……来るぞ」
ロズヴェータの声と同時に、森の奥から黒い影が滑り出てきた。
ひとつ、ふたつ……いや、もっとだ。
黒い肌、赤い瞳に粗い息が白く吐き出される。白い紋様が黒い肌の上に描かれる。まるで鎖のように全身にくまなく描かれたその紋様が、時折脈動している。
それは、人型をした屍だった。
「うへぇ……群れで出てくるとか聞いてないよ」
ルルが肩をすくめる。
「斬れる数が増えたってことだよね?」
バリュードが危険な笑みを浮かべ、剣に手をかけた。視線でロズヴェータに突撃を合図を促す。
「斬る前提で話すんじゃないよ!」
ヴィヴィが怒鳴るが、声には緊張が混じっていた。棍棒を握る手に汗が混じる。
祈祷者たちは、足を地面につけているのに、まるで“滑っている”ように前へ進んでくる。足音が響かない。
「隊長。あれ……生きてるんですか?」
ドラッドが震える声を漏らす。
「知らん! だが……向かってくるなら殺せ! 死にたくないだろう!」
ロズヴェータが自身の矢筒から矢羽を掴んだ。
祈祷者たちは、三頭獣の隊列の前でぴたりと止まる。
そして── 。
「騎士……導カレヨ……」
複数の声が重なり、耳障りな祈りが空気を震わせた。
「気味が悪い声だ」
ガッチェが短槍を構える。
「隊長。あいつら……何かを始めます!」
トーロウが叫んだ。
祈祷者たちの足元の土が、ぼこりと盛り上がる。
「下がれ!」
ロズヴェータの声と同時に、地面から黒い腕のようなものが伸び上がった。
「させるか!」
バリュードが剣を抜き、黒い腕を斬りつける。刃が触れた瞬間、黒い腕は煙のように消えた。
「斬れるな、これ!」
「斬れれば何でもいいって言ってたけど、今回は正解だね」
ヴィヴィが後衛を守りながら叫ぶ。
だが──祈祷者たちは戦おうとしない。
黒い腕が消えた瞬間、祈祷者たちは一斉に森の奥へ滑るように退いた。
「逃げるのかよ!」
バリュードが追おうと身を乗り出す。
「待て! 単独で追うな!」
ロズヴェータが制止する。同時に構えていた矢を放つ。馬上から射た矢は敵の足に突き刺さるが、速度は落ちず、そのまま森へ消えていった。
「隊長、どうします?」
ガッチェが問う。
「追う。だが隊列は崩すな。──斥候を出す! トーロウ護衛だ。敵の行方を探れ」
「了解! あいつら、足跡を残さないように動いてます! でも……草の倒れ方と血痕で進行方向は分かります!」
「ドラッド、この森の地形は?」
「逃げるなら、道は三つ、いいや、二つに絞れます」
その言葉に、ロズヴェータは目を細めた。
「全隊、追跡開始! 敵を見失うな!」
ロズヴェータの号令とともに、三頭獣は森の奥へと駆け出した。
祈祷者たちは、木々の間を滑るように逃げていく。その動きは人間のものとは思えない。
「隊長! 敵、分岐点で二手に分かれました!」
トーロウの声が響く。
「どっちを追う!?」
ヴィヴィが問う。
ロズヴェータは一瞬だけ目を閉じ、森の空気、匂い、風の流れを感じ取った。事前にドラッドから聞いた森の地形では、右は傾斜を作る小高い丘になっている。
「血痕は右に続いています!」
トーロウからもたらされた情報に、ロズヴェータが目を見開いた。
「──右だ!」
理由はない。あるとすればロズヴェータの直感。これまで幾度も敵の追撃を経験した経験から導かれた直感だった。
「了解!」
三頭獣は右の道へと一斉に駆け込む。
その先で──森の地面が不自然に陥没し、黒い穴がぽっかりと口を開けていた。
「……地下? ……礼拝所の入口?」
点だった情報が、線として繋がる。
ユーグが剣を構えて周囲を警戒する。
「奴らは、この中に逃げたな」
ガッチェが低く言う。落とした視線の先には、血痕が点々と黒い穴の中に続いていた。
ロズヴェータは剣を抜き、穴の奥を見つめる。
穴の奥底から、冷たい風が吹きあがった。
まるで誰かが、息をしているように。
◇◆◇
「……嫌な風だねぇ」
ラスタッツァが珍しく震えた声を出した。
「こんな穴、死体しか出て来なさそうだな」
ルルが吐き捨てるように言った。
ロズヴェータは剣を構えたまま、穴の縁に膝をついた。地面は湿っており、土の匂いに混じって鉄のような臭気が漂っている。
「……下は広い空洞のようです。音が反響してる」
ガッチェが石を落とす。
カラン……カラン……と、どこまでも落ちていくような音が返ってきた。
「隊長。血痕は……この穴に続いています」
トーロウが指差した先には、黒ずんだ血が点々と続いている。
「奴らが逃げ込んだのは間違いないな」
ユーグが視線を穴から周囲に向けて警戒を強めた。
その時──。穴の奥から、かすかな“呻き声”が聞こえた。
「……ぁ……あ……」
人の声だ。
「生存者か!?」
ヴィヴィが身を乗り出す。
「待て。罠の可能性もある」
ロズヴェータが手で制した。呻き声は、次第に近づいてくる。
暗闇の奥で、何かが這うような音がした。
そして── 。穴の縁から、白い手がゆっくりと伸びてきた。
「っ……!」
兵たちが一斉に武器を構える。穴から這い出てきたのは、祈祷者ではなかった。
痩せこけた男。 顔は土と血で汚れ、目は虚ろ。それでも、まだ息がある。
「……たす……け……」
男はロズヴェータの足元に倒れ込んだ。
「生存者だ! アウローラ!」
「分かっているわ!」
治癒術師アウローラが駆け寄り、男の脈を確かめる。
「……生きてはいるわ。けれど……ひどく衰弱しているような……」
アウローラの声が震えた。
「おい、あんた。何があった?」
ヴィヴィが優しく声をかける。
男は震える唇を動かした。
「……“祈り”が……聞こえて……仲間が……ひとり、またひとり……地面に……引きずられて……あの……黒い腕が……」
男の目が大きく見開かれる。
「……“主”が……目覚める……“主”が……喰う……たちを……喰う……!」
叫び声とともに、男は痙攣し、アウローラにしがみついた。
「落ち着いて! 大丈夫、もう外よ!」
「外……? 外……? 違う……違う……“主”は……外にも……」
男の言葉が途切れた瞬間── 。穴の奥から、だけでなく周囲の森の中からも再び祈り声が響いた。
今度は、先ほどよりもはっきりと、そして数が多い。
「……隊長。これは」
トーロウが青ざめる。
「分かってる。囲まれているな。しかも穴の中にもいる」
ロズヴェータは剣を握り直し、穴の奥を見つめた。
◇◆◇
全員を連れて行くわけにはいかない。
穴の構造がわからず、周囲にも敵がいる。この状況の中では、全員で穴の中に入ったとしても混乱を助長するだけだ。最低限の人数を絞って部隊を編成し、他は入り口を確保に回る。
中へ入っていく者もそうだが、地下への入り口を確保する部隊も危険度は大差ない。
見通しのきかない森の中で、正体不明の祈祷者に備えながら警戒を続けるのは、三頭獣といえど精神を削られる。
「地下の広さが分からない以上、取り回しの良い長剣を中心した部隊で編成する」
ロズヴェータの言葉に分隊長達もうなずく。
「俺の部隊からは、人員を出すのが厳しいか」
トーロウが長槍を中心として構成された自らの分隊を振り向いて頭をかいた。
「よし、私の分隊が中心で行く」
逆に乗り気なのは、分隊長ルルを筆頭とした元傭兵の兵士達だ。
「なんか、随分乗り気に見えるけど?」
「ん? そうか?」
分隊長ルルに赤髪の女戦士ヴィヴィが問いかける。
「そうだな。エルフィナスにも稀に遺跡があってな。大体は盗掘されつくしているんだが、稀にな? ……あとは言わなくても分かるな?」
「……がめつすぎないか?」
ヴィヴィが呆れたように眉を顰めるが、にやりと、ルルは笑う。
「先程、馬鹿があの黒い手を斬っただろう? 斬れたよな? じゃあ殴り飛ばせるはずだ。殴り飛ばせるなら殺せる。殺せるなら、怖くない。敵の兵士とやりあうのと、どう違う?」
「……まぁ、そうか?」
ルルの返答に、疑問符を浮かべつつヴィヴィは首を傾げた。
「よし、では近接戦闘に慣れた者達での編成、終わったな?」
ユーグの確認で黒い穴に突入する面子が決まる。
ロズヴェータ、ユーグ、ヴィヴィ、バリュード、ルル、ネリネそしてアウローラだ。彼らの率いる兵士を合わせて五十。照明を考慮して松明等も準備された。
上で待つ組の指揮官はガッチェが執ることになる。周囲からの襲撃に備えつつ、ロズヴェータ達の帰りを待つことになるため、宿泊のための陣営地作成までを含めた広範な仕事が割り振られる。
「1日は待ちますが、それ以上は待てません。隊長の命だけは大事にしてください」
ガッチェの真剣な懇願に、ロズヴェータ頷いた。
「わかっているさ。戻ってくる行程を考えれば長くて半日。探索としては十分だろう」
判断材料を集めるための探索と考えれば妥当な時間だ。
それまでに解決まで持っていくのが理想だが、そこまでは、望みすぎかもしれない。
「では、行ってくる」
そう言って穴に降りていくロズヴェータを、ガッチェをはじめとする地上組は不安な面持ちで見守った。
ロズヴェータが縄を手に、黒い穴の縁に足をかけた。松明の火が風に揺れ、穴の奥へと吸い込まれるように揺らめく。
「……階段は、ないな」
ユーグが松明を掲げて覗き込む。
そこにあったのは、地面がそのまま“削り落とされたような斜面”だった。
土と黒い石が混じり合い、滑り台のように地下深くへ続いている。
自然にできた穴ではない。かといって、人の手で掘った形でもない。
「……なんだ、これ」
ルルが眉をひそめる。
斜面の両脇には、巨大な爪で引き裂いたような溝がいくつも刻まれていた。
「誰かが掘った……って感じじゃないな。何かが通ったって感じだ」
ルルが低く呟く。
ロズヴェータは斜面に手を触れた。湿っている。土の湿り気ではない。
「……ぬるい?」
指先に、薄い膜のような粘り気が残った。
「隊長、それ……血じゃないですよね?」
ネリネが怯えた声を出す。
「血ではない。だが……生き物の体液に近い」
ロズヴェータの指先を見たユーグが険しい顔で言った。
斜面の奥から、何かが這うような音が聞こえる。
──ずるり……ずるり……。
それに重なるように、祈り声が増えていく。ロズヴェータは縄を結び、斜面へと足を滑らせた。
斜面の途中で、松明の光が揺れ、湿った壁に赤い影を落とす。斜面は思った以上に急で、足元の土と黒い石が交じり合いぬめりを帯びている。踏みしめる度、靴底が僅かに沈む。
「……滑りやすいな。気をつけろ」
ユーグが後続に警告を促す。
大麻tの光が壁を照らした瞬間──ロズヴェータは息を呑んだ。
そこには──。
人の手形が無数に刻まれていた。爪で掘ったような浅い跡。壁を必死に掴み、登ろうとした痕跡。だがどれも途中で途切れている。
「……これ、逃げようとした跡か?」
バリュードが低く呟く。
「登れなかったんだろうな。壁が……動いたんだ」
ルルが壁を拳で叩く。
石のはずなのに、どこか柔らかい音が返ってきた。
「動くですか……?」
ネリネが震える声で呟く。
「生存者の言葉を思い出せ。主が食うんだろ?」
ユーグが低く言う。
「つまり、胃袋と言うわけか」
ロズヴェータは斜面の底に目を凝らした。
そこには、広い空洞がぽっかりと広がっていた。
天井は低く、丸みを帯びている。
壁は黒く湿り、ところどころ脈動しているように見えた。ユーグの言葉を反芻しながら見回せば、確かにここ全体が、巨大な生き物の体内に思えてくる。
「……ここが、礼拝所?」
ネリネが呟く。
「いや。礼拝所として使われているだけだろう」
ロズヴェータは剣を構え、空洞の奥を見据えた。
空洞の奥で、祈祷者たちがゆっくりと立ち上がる。その中心に、人間の形をした何かが横たわっていた。黒い布に包まれ、その下で何かが蠢いている。
「……あれが、“主”か?」
バリュードが剣を握りしめる。
その瞬間、空洞全体が、呼吸するように膨らんだ。
壁が波打ち、天井が震え、祈祷者たちが一斉に膝をつく。
「……倒してから考えるぞ!」
ロズヴェータは剣を構え直し、空洞の中心へと歩み出た。
◇◆◇
ロズヴェータが一歩踏み出した瞬間だった。
──空洞全体が、どくん、と脈動した。壁が波打ち、天井が震え、黒い石に見えていた表面が、まるで巨大な獣の皮膚のように収縮する。
「……動いた……?」
ネリネの声が震える。
だが、それは錯覚ではなかった。
空洞の奥に横たわる“黒布に包まれた人型”が、ゆっくりと、ゆっくりと、持ち上がった。
黒布の下で蠢いていたものが、まるで呼吸を始めたかのように膨らむ。
祈祷者たちが一斉に地に額をこすりつけた。
「……主……目覚メ……給エ……」
祈り声が重なり、空洞の空気が震える。
その瞬間、ロズヴェータは気づいた。
──黒布の下にある人型は、人ではない。
人の形を模しているだけだ。
布の隙間から覗いた皮膚は、黒い石ではなく、湿った肉の色をしていた。
そして、空洞の壁と同じように、脈動している。
「……魔獣にしては……いいや、肉腫の類か?」
ユーグが低く呟く。
黒布の下の人型は、主の本体ではない。主の心臓──あるいは脳に相当する核だ。
空洞全体が主の体であり、祈祷者たちはその“細胞”のように動いている。
黒い腕は、主の触手。
壁のぬめりは、主の体液。
手形の跡は、飲み込まれた者たちの絶望の痕跡。
すべてが一本の線で繋がった。
「……主は、ここ全体だ」
ロズヴェータの言葉に、誰も反論しない。というよりも、未知の生き物に目の前の情報を処理するのに精いっぱいだった。
その時──。
黒布の下から、人型の核がゆっくりと顔を上げた。
顔の形をしている。
だが、目の位置にあるのは、 赤黒く光る孔だった。
瞳ではない。
穴だ。
深淵のような、底の見えない穴。
そこから、冷たい風が吹き出した。
まるで巨大な肺が、空洞全体で呼吸しているかのように。
「……行くぞ!」
ロズヴェータが叫んだ瞬間、空洞の壁から無数の黒い腕が伸び上がった。
祈祷者たちが歓喜の声を上げる。
「主……目覚メタ……!」
黒い腕が、天井から、壁から、床から、まるで血管のように伸び、ロズヴェータたちを包囲する。
核が、ゆっくりと立ち上がった。
その動きは人間のものではない。
骨がない。
関節がない。
ただ、肉が形を変えているだけだ。
黒布がずり落ち、核の全身が露わになる。
それは──。
人間の形をした臓器だった。
祈祷者たちが一斉に叫ぶ。
「主よ……喰ラエ……!」
空洞全体が、咆哮するように震えた。
ロズヴェータは剣を構え、核の中心──胸部に脈打つ赤黒い核を見据えた。
「……核を斬るぞ。進め!」
そう言い切った声は、恐怖ではなく、戦場の静かな覚悟が宿っていた。未知の生き物であろうと、兵士に不安を悟られるわけにはいかない。例え推論であっても確信をもって、言い切らねばならなかった。
嘘であろうと確信をもって言い切らねばならなかった。
核が立ち上がった瞬間──空洞全体が、どくん、と脈動した。
壁が波打ち、天井が震え、床が生き物の背中のように盛り上がる。
「……動いてる……全部が……!」
ネリネの声が震える。
ロズヴェータは剣を構えたまま、空洞の“変化”を見逃さなかった。
壁の黒い表面が、ゆっくりと裂ける。
そこから、ぬるりと黒い腕が生えた。
一本ではない。
十本、二十本、数えきれないほど。
「囲まれるぞ! 下がれ!」
ユーグが叫ぶが、床が突然“沈んだ”。
「っ──!」
兵士の一人が膝まで飲み込まれる。
床が液状化し、粘つく肉のように絡みついてくる。
「床も敵だ! 跳べ!」
ロズヴェータの号令で、兵たちは一斉に跳び退く。
直後、床から黒い棘が突き出した。
まるで胃袋の蠕動のように、空洞全体が収縮する。
「……これ、全部“主”の体内ってことかよ!」
バリュードが叫び、迫る黒い腕を斬り払う。
斬られた腕は煙のように消えるが──すぐに再生した。
「キリがねぇ!」
「再生速度が速い……!」
ロズヴェータが叫ぶ。
同時、核が動いた。
黒布の下から露わになった“人型の臓器”──胸部の中心にある赤黒い“核”が、どくん、と大きく脈動する。
次の瞬間、空洞全体が震えた。
「──来るぞ!」
ロズヴェータの叫びと同時に、天井から無数の孔が開き、黒い液体が雨のように降り注いだ。
「避けろ!」
液体が床に落ちた瞬間、じゅう、と煙が上がり、石が溶けた。
「なんだ!? 溶けているぞ……!」
驚愕に見開かれるユーグの瞳。直後に警告を周囲に叫ぶ。
「触れるな!」
ユーグが歯を食いしばる。
核が腕を広げるように動くと、空洞の壁が一斉に開いた。
そこから、祈祷者たちがずるりと滑り落ちてくる。
「主……守レ……!」
祈祷者たちの身体はすでに人ではない。
黒い紋様が脈動し、皮膚が石のように硬化している。
「隊列を整えろ! 前衛、盾を構えろ! 後衛は前衛の補助!」
ロズヴェータが叫ぶ。
バリュードとルルが前に出て、祈祷者の群れを迎え撃つ。
「手応えが……重い!?」
祈祷者を殴り飛ばしたルルがその手応えに、驚愕する。音もなく進む祈祷者から軽い衝撃を予想してたが、それを大きく裏切られるほどに、重い。
バリュードの斬撃が黒い腕と祈祷者の身体を切り裂き、ヴィヴィが棍棒で迫る腕を叩き潰す。
だが──。
「隊長! 壁が……!」
ネリネの叫びに振り返ると、壁が巨大な“口”のように裂けていた。
歯のような突起が並び、その奥から冷たい風が吹き出す。
まるで空洞全体が、ロズヴェータたちを“飲み込もう”としているかのように。
「……最近の魔獣は、こんな化け物ばかりなのか!?」
バリュードが呟く。
核が一歩、こちらへ踏み出した。
その動きに合わせて、空洞全体が脈動する。
黒い腕が一斉に伸び、祈祷者たちが狂ったように突撃し、天井から酸の雨が降り、 床が波打ち、飲み込もうとする。その状況を視界に入れた途端ロズヴェータの脳裏にひらめくものがあった。
──空洞全体が、敵だ。そして核の動きに全ては連動している。となれば──。
「核を斬る! 全員、道を開け!」
ロズヴェータが叫び、剣を構えて前へ踏み込んだ。
その瞬間、核の胸部の“核”が赤く光り──。
空洞全体が、咆哮した。




