それは終わりと始まりの戦い1
2028年 5月20日(土) 晴れのち曇り 中央公園辺り
「今日も暑いなぁ」
真夏のような暑さと少し不快と感じさせる湿り気があるこの天気はもうこの時期では当たり前のようになった。10年ほど前では春になって少し暖かく感じるようになったとか、少しまだ肌寒いですね。とかそんな言葉を使っていたそうだが、今ではもうこれ以上気温は上がらないでくれと願うばかりである。
「制服さ、女の子はスカートってものがあって生で風を感じれるけど、男はしっかり肌を見せず、紫外線対策抜群の防護服に身を覆うって…ほんとに理不尽な世界だ。まったく。」
俺の横にいる桜庭和輝は半袖のYシャツにズボンの裾を膝まで上げた状態でぼやいていた。
「そんな姿でよく言えたな、紫外線対策抜群の防護服がもったいない使われ方してるぞ」
「仁…。お前わかってないなぁ。俺はな、このクールビズをもっと全世界に拡げたいんだ!だから今こそ!その防護服から身を離し、飛び出そうではないか!」
「それは、公然わいせつ罪で捕まれと言っているのだな?」
「そのとおり。今日 午前7:40分頃 東京都○○区○丁目にて全裸の男が走り回っているところを同級生の青年が発見し、その後公然わいせつ罪として現行犯逮捕されました。逮捕されたのは近くの公園に住む南 仁(17)で…」
「妙にリアルにするな」
こんな会話はいつもどおりである。
昨日は俺がボケるほうで、和輝のほうが鋭いツッコミをしていた。俺たちは馬鹿気たことに大真面目で辛いことはすべて笑いの種にしてきた。こいつとはかなりの時間を一緒に過ごしている。きっとこれが親友というモノなのだろう。
○○高校 職員室内
4月になってから大きく変わったこと。4月にはいってきた新人教師があまりに可愛く、職員室の前に男子生徒がたまるようになったことと、隣の席からその新人教師の甘い香りが漂うようになったこと。そして、世界ではアメリカ合衆国と、とある国が合併しできた自称新国家ユートピアといわれるテロ組織が臨戦体制であるということ。日本にも大きな被害が及ぶのと同時に、同盟国であるアメリカとの共同戦争になるであろう状態には一部生徒でもかなり話題の種となっている。そして、本日行われる緊急国会会議にて今後の教育についても大きく変わるであろう。そんな緊張感のある毎日を過ごすようになったというのが4月から大きく変わったことである。
「鈴本先生はいつも間抜けな顔してますね」
甘い香りを回し散らしながら新人教師の前田がちょっかいをかけてきた。初めて会ったときはとても清楚で可愛らしい女の人だと思ったが、とことん人を舐めるろくでもない女だった。いつも馬鹿にしてくるが、少しばかりうれしいとも感じている。
「考え事してるんだよ。生徒がもし自衛隊になりたい!とかなったら、この国を守る覚悟をもって堂々と生きろと伝えるべきか、止めるべきか…とかね。」
何にも言わず前田はしらけ切った顔をしていた。
「なんだよ。」
「つまんない考え事してるなぁと思って。」
前田は2年1組の南 仁の生徒写真を俺の目の前に置いた。
「この子!めっちゃくちゃかっこいいですよね?鈴本先生担任なんだから、私に紹介してください!!」
半分マジで半分ふざけた顔をしていた。
「ふざけるな。生徒に恋してんじゃねぇよ。」
俺は席を立ちコーヒーを注ぎに給湯室へ向かった。給湯室には唯一テレビがあり国会会議も観れる最高の休憩場所だった。
すでに国語の先生である只野さんがお茶を飲みながら会議中継を観ていた。
「こりゃ…徴兵令に近いことになりますよ。」
只野さんは俺に今までの会議の内容を軽く教えてくれた。5月に入った時から自衛隊の人数がかなり減ったらしく、戦争になった場合国から出す兵士の数があまりに少ないことが問題になっており話題になっていた中学生以上の生徒の自衛隊強制入隊。いわゆる徴兵令制度である。しかし、これには教師の承諾と両親の賛成がないといけない。
自分の子供が戦地へ向かうと言って黙っている親などいるはずがない。教師が判断してしまったら親からどんだけ睨まれるか、暴言吐かれるか、考えただけで背筋が凍ってしまう…。そんな恐ろしい制度を国は今決定しようとしている。
「マズいっすね…。」
出てくる言葉はそれ以外になかった。なんも考えれない。自分の生徒が戦場に?下手すれば俺も…?
ただただ、マズいという感情だけだった。
「日本のことを切に願い、今後の成就を祈る青年はこの時代にはいませんからねぇ」
後ろから甘い香りが漂っていた。
「俺のコーヒータイムすらお前の餌食となるのか?」
「私はテレビ観に来ただけですぅ」
イライラさせるしゃべり方を披露しテレビの画面に視線を向けた前田の顔はやけに真剣だった。
「始まる…。」
前田の言葉に深い意味があるように俺は思えた。只野さんは黙ってテレビを観ていた。
この日
戦争がはじまり。
今までの終わりを迎える。
次の舞台の始まりの戦い。
ZEROから始まり、
ZEROで終わる。




