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その24


今回はいつもより長いです

上を向くと澄みきった青い空。

忙しく行き交う人々。へいらっしゃい!と威勢よく店を切り盛りするおじさん、今が旬だよーと何かを売り込むおばさん。キャハハと楽しく笑っている若い女の子。


「わ…!」


やはり街は活気があって楽しいです。レンガの家とか最高、なにあれ、超かわいい。

1歩足を踏み込むだけで人の流れに流されてしまいそうです。やはり一人で街に出るのと、誰かと一緒に行くのとは全く違います。ユフィさんに連れてきて貰った時は、最短ルートの道を使っているようで全く無駄がなかったのですが、一人で来るとなると沢山寄り道をしてしまいます。


わたしは昨日ユフィさんに買って貰ったベージュと薄い黄緑のワンピースを着て街をウロチョロしています。何故一人でここに来ることになったのかと言いますと、それは実に数分前の事──




「お前街行ってくれば?」

「え?」


わたしは、あの真っ暗だった薬品の香り漂う部屋で色々なものを物色していました。

声を掛けられたので、読んでいた本を元の位置に置きながら、声のする方へと目を向けます。…まぁ、文字は読めないので、イラストを見ていただけなのですけどね。

ハルさんはどこから出してきたのか、新品のような檜木の香りがするイスに座り、テーブルで何かガリガリと書いていました。


「街?…え!じゃあ一緒に行っ…」

「行かない。お前一人で行って」


こちらには目もくれず、ハルさんはずーっとガリガリなんか書き続けます。


「でも、一人じゃ…」

「一人じゃ?」

「こわいです」


わたしがぽつりと言った瞬間、紙から目を離し、ぎろりとこちらを向きました。あれ?え?怒ってます?


「ふっざけんなよ…!お前は子供か!?買い物くらい一人で行けよ!あれか、お前は家から出なくても誰かが欲しいもの全部買ってきてくれる深窓令嬢かっ?!」

「…いや、そんな良い身分じゃありませんよ。というか全世界の深窓令嬢に謝って下さい、そんな偏見ひどいですよ」


ぐわっと一気に吐き出したハルさんに、ちょっとおどおどしてしまいます。どうしたハルさん。


「き、昨日誰か入ってきたじゃないですか?あの後わたしユフィさんと話したんです。そしたら…」

「そしたら?」

「わ、わたし…狙われてるそうなんです!!あの不法侵入者に!」


ですが、精一杯のかなり必死な告白も虚しく、はんと呆れ顔で返されます。


「お前なぁ…。あいつに狙われてるなんて、ちょっとおこがましいぞ。まぁあいつ顔は良いが…性格は頂けないな」

「まぁ確かに軽いですけど…って、違いますよ!なに勘違いしてるんですか!?」

「軽い?…寧ろ重そうだがな……ってえ?」


ハルさんはきょとんとしています。


「お前あいつが好きじゃないのか?」

「ええぇぇえ?!どこがどうひねくれたらそうなるんです!?違いますよ!」


あまりの事に思わずぐっと拳を握ります。


「ふーん、あっそ。まぁそれはどうでもいいけど。…ほら、手貸して」


…えーと、ハルさん、冷めてませんか?なんか1つくらい突っ込んで欲しいというのが心情というもんです。…あああ、なんでもないです、だからその今手に持っている木刀は使わない方向で…!!

わたしは何をされるのか少し不安を感じながら、恐る恐る両手をハルさんの前に出します。

するとハルさんはごそごそとズボンのポケットを漁っています。


「…ん」

「…なんですかこれ?お金?」


なんと、手の上に乗せられたのはぺらんとした1枚の紙幣でした。1,000ってかいてあるので…1,000ルアンってことでいいのでしょうか?


「そう。ミリヤさんの所の苺ショート買ってきて。残りは使って良いから」

「え、待って下さい!わたし行くだなんて言ってませんよ?第一あの人に会ったらと思うと…やばい、鳥肌たってきました…!」


思わず両腕をぎゅっとかきあわせてしまいます。だって、初対面そうそうあんなこと普通しませんし、ここが異世界だとしてもあんなのありえません。えぇ絶対に!!許すまじ!!


「あーあー、お疲れ自意識過剰反応。大丈夫だあいつも今は仕事中だし会うことは………なきにしもあらず」


あ!最後!目を逸らして早口で言いました!


「それって会う確率もあるって事ですよね?!だめです、ほんと勘弁して下さい!」

「だーもーうるせえ!…チッ。ちょっと顔貸せ」


顔貸せって…顔貸せって…ハルさんは不良ですか?!さっき舌打ちもしましたよね?聞いてました見てました、この目で!わたしの発言に対して苛々しているのも重ねられて、わたしもうハルさんが不良にしか見えません、ハイ。よって怖い!!

わたしは捕まらまいと半歩後ずさります。ですが抵抗も虚しく


「動くな、黙っとけ。…ΧΧΧ、ΧΧΧΧΧ」


またまた発せられた理解不能な言葉でわたしは身体全体が動かなくなってしまいます。ええぇ!これ拉致ですよ!!犯罪行為ダメ絶対。


そしてその後暫くすると、わたしの首回りが黄緑色に発光しました。眩しいって程ではなくて、ぽややーんって感じのふわふわした優しい光でした。

何が起こってるのかとてつもなく気になるんですけど、今はハルさんの魔法(多分)によって下が向けないので何がなんだかわかりません。

でもハルさんはとても真剣な顔つきなので、変な事じゃないと思います。多分!!


「……よし完成。んー…なんか完成度高いな…」


理解不能な呪文も終わり、ハルさんはふぅと一息つきわたしの首のあたりをしげしげと見ています。

首もとを見てみると、銀色のチェーンに綺麗な黄緑色をした宝石のようなものが引っ掛かってました。


「…ネックレス?」

「ま、そんなもんだろ。本当に困ったときに俺の名前を呼べ」

「防犯ブザーですか…?ありがとうございます!…これってハルさんの名前を呼んだらどうなるんですか?」

「俺がそこに出てくる」


わーお、只の防犯ブザーじゃなくてセ*ムとかアル*ックの方でしたか!なにそれ超ハイテク!これならちょっと安心して行けそうな気がしてきます!!


「じゃあ頼んだ。もう1回言うぞ『ミリヤさんの所の苺ショート』だわかったな?」

「ええと、『ミリヤさん』の所ってどこですか?場所がいまいちわからなくて…地図とかって貰えませんか?」


昨日の今日で申し訳ないのですが、ミートパイ屋さんしか覚えてないのです。…あぁ美味しかったな…!……失礼口から何か液体のようなものが出てきた気がします。


するとハルさんは一瞬時が止まったかのように停止してしまいました。


「…え?どうしたんですか、ハルさーん?」


目の前でぶんぶん手を振ると、ハルさんははっとしてわたしを睨みました。え?なんで?


「…チッ…ちょっと後ろ向いてろ。絶対こっち向くなよ!?向いたら地図破るからな?!」

「な、なんという横暴…!?…わっわかりましたよ…だから掴まないで下さい、指!!痛い!!」


身体を捕まれてぐりんと反対側に向かされます。いだっ、指!指食い込んでる!!

すると、後ろからとてつもなく激しいガリガリという音がします。…もしかしなくとも、地図を描いてくれてるのでしょうか?ありがたいのですけど、…紙破れてませんか?それ。


そして、数分後


「ん」

「あ、出来たんですね!ありがとうご……?!」


くるりと振り向きハルさんから紙を貰って唖然としてしまいます。なんか、これ…


「破けて…これ読めるんですか…っ!?」


カサリと紙を開いて中を確認しようとすると、物凄い勢いでガッと手を捕まれます。あ゛紙がまた破れ…


「開けるな!!絶対!!街に出てから開けろ。守れよ、必ず!」

「え?!…えぇ…はい。わかりました」

「ミリヤさんの店は有名だから、万が一どうしても(・・・・・)わからないなら通行人に聞け!わかったな?」





そして数分後…となって冒頭に戻ります。


わたしの手には紙幣と地図。そして首には超ハイテクな防犯ブザー。……うんなんとかなりそうです。


「さて、ハルさんなんて描いたのかな?」


ここは街の中なので、いいですよね?見ても?

ってわけで遠慮なく見ちゃいまーす!

どこをどうすれば一番傷付かないか頑張って考えながら開くと…


「……え?呪い?」


わたしの目の前の紙は、おどろおどろしい字体の何かが描かれてます。てか、これ墨汁で描いたのですかね?めっちゃぼけててなにがなんだか…!

というか、わたし!読めないじゃん文字!!あ゛ぁあなんという鳥頭…!!直ぐに忘れるこの学習能力のない頭がうらめしい…!


「…これは『どうしても』な事態ですよね…」


ハルさん絵を描くの苦手なのかな?…いや、でもこれは苦手っていう領域を超えてる気がするんですけど…。

まぁ突っ立ってても仕方がないので、誰か教えてくれそうな人が居ないかなー?と探していると、突然「きゃあああぁぁああ」と耳をつんざく女の子の叫び声が複数聞こえてきました。


「な、なに?」


ちらりと声のする方へと目を向けると、さっきまではなかった大量の女の子の塊が…!?なにがあったのでしょう?


「きゃあああぁぁ!!」

「フィっフィデレフ様ぁっ…!!」


何やら女の子に人気の有名人さんがいる模様。こっちむいてぇ。やら格好いいぃ。やら聞こえてくるので相当格好いいのでしょうね。あれですかね日本でいう、ジャ*ーズとか、そういう系統ですか?

ふふふ。イケメンは目の保養です!!これは是非ともお顔を拝見させて頂かねば!!


そう思って道行く女の子を掻き分けて円の中心へと向かうと、だんだんその人の声が聞こえてきます。


「フィデレフ様っ…!どうです?わたくしの家でお茶会しませんこと?最高級のおもてなしを致しますわ!」

「いえ、先を急いでいるので。失礼」

「それならフィデレフ様、わたしのお庭にいらっしゃいませんか?近日美しいルールエが咲きましたの!」

「いえ、先を急いでいるので。失礼」


沢山の女の子からのお誘いを同じ言葉を繰り返してさらりとかわしています。おぉ…これは硬派な人かな?なんかかっちりしたタイプの人な気がします。でもこの声どっかで聞いたような…?


そしてやっとの事で円の中心に着くと、わたしの身体は音を立ててピシャーンと固まりました。



さらさらの濃紺の髪の毛、白い肌に、目は狐のようにしゅっとしてるのに、とても整っている

そう、それは間違いなく


「………ぁ」





あの変態だ……!!!!






こんなに長いのに、グレンがでてこないっ!


てことで、次回へどうぞ!

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