その22
窓からは朝陽が差し込み、鳥のさえずりがたまに聞こえてきます。窓から見える部分は植物が生い茂っていてほぼ緑色なのですが、これがまた緑のカーテンとなってとても自然に溢れています。所々に小さな白い花が咲いていて、微かに甘い香りがしました。
さて、そんな気持ちのよい朝。わたしは玄関でユフィさんの仕事の見送りをしていました。
「じゃあ行ってくるね」
「はい、気をつけてくださいね!」
そういったものの、全く動こうとする気配のないユフィさん。わたしは時間大丈夫なのかな?と内心焦りながら手を振ります。ユフィさん、あなた団長なのですよね?遅れたら不味いのでは?…あ、だけど偉い人は遅く出勤するのかな?そんな疑問を思いながら続けます。
「…あの、ユフィさん?」
「………あぁ、やっぱり行くのやめ──」
「団長っっ!早く出勤して下さい!!仕事が溜まっています!」
そしてそのユフィさんの言葉を畳み掛けるかのように、突然にゅっと現れたハルさんが、わたしの後ろからくわっと怒鳴ります。おぉこわいこわい。朝からこんなテンションのハルさんは尚も続けます。
「こい…コホン。彼女の世話は俺がきちんと見ますから」
今わたしのこと『こいつ』って言おうとしました?
いや、別にいいのですけれど、なんででしょうね…ハルさんはわたしの扱いが雑です!
「…わかった」
ハルさんの説得(?)に応じたのか、かなり渋々と返事をしたユフィさんはその瞬間姿が消えました。
……はい、もう慣れましたよ、テレポーテーションですよね、わかります。
さて、そんな摩訶不思議な現象を目の当たりにしたわたしは、くるっと後ろを振り向きます。そんなことよりっ!!わたしは頬を少し上気させ、興奮気味に質問します。
「ハルさん!やっぱりわたしと仲良くしてくれ─」
「しない」
ハルさんはくるりと後ろを向いてしまいました。
……くぅ。あっさりバッサリ否定されてわたし少々悲しいです!
「…え、でもさっき…」
わたしが口答えしようとすると、ハルさんはまたまたくるっと振り向き、わたしの真正面を向きました。忙しいですね…あ、いやなんでもないです、ハイ口を慎みます。
「お前の耳は飾りなのかと何回言わせる?俺はお前の『世話』をすると言っただけであって『仲良く』するつもりはさらさらない!わかったか?!」
「そ、そんなぁ…!」
だけどハルさんの言うことは正しかったので、わたしは返す言葉が見つかりません。
…なんでわたしこんなに嫌われているのでしょう?何かやった記憶は無いのですけど…あ、まさか、あれですか容姿がお好みじゃないのですかね!?もしそうなら、それは仕方がないのでどうしようもないのですよ。…地味に傷つきます…!
「それになお前、団長の妹だと言っていたが絶対嘘だろ?それに…今は変えているが、髪の色と目の色が珍しすぎる」
「ぐぬっ…」
そっちでしたか!成る程理解できました。ハルさんはわたしを不審な人物と認識しているのですね。…確かにわたしが逆の立場だったら疑いますもんね、当然の措置と言えるでしょう!…ですけど、ハルさんの目はもっとギラついていて、いや…なんというか、怖いです。
「…俺の質問には別に答えなくてもいい。団長が自ら決めたのだから何か理由があるんだろう?」
言っていることは優しいのに、声と言葉が合っていません。にこにこと微笑みながら、いつの間にか出した木刀を自分の手でぱんぱんと叩いています。
えっこれお仕置きされるパターンのやつですか?!やめてください、待って待ってわたし何もしてない!取り合えず恐ろしかったのでコクコクと頷きまくりました。
「…俺はこう見えて副団長─」
「えぇ!…えぇー…?」
「あ?」
わたしが副団長発言に驚きの声をあげると、ハルさんはこれまた先程と同様、顔と声がミスマッチな恐ろしい仕上がりになりました。
イエ、ナンデモアリマセン。ハナシヲツヅケテ。
「だから俺は団長の命令には必ず従う。…だけどな」
ハルさんは手でぱんぱんとやっていた木刀を持ち直してその先っぽの方でわたしの右に肩をとんとんと軽く叩きます。ちょ、じわじわ痛いですって。
邪魔だなぁと思いながら木刀を手でずらそうとすると、ハルさんは尚力を込めて
「団長に変なことしたらただじゃおかないからな?それこそこの木刀で卸してやる、3枚に」
「ひぃいっ?!」
痛い痛い痛い!ちょ、まって、みしみし言ってるのですけど?!
『HAHAHA』と一人で笑っているハルさんの目はマジなやつでした、うん、脅すのはダメ絶対。
というか木刀で卸すって聞いたことありませんよ…
「ふはっ、色気のねー声!……あ、言っとくけど俺は女好きじゃないからな」
「……いや別に興味ないです。なんですかいきなり?」
なんでしょう突然?
というか、ハルさんの女好きどうこうは全くもって興味が無いのですが…いや、でも仲良くなるにはお互いを知った方がいいのでしょうか…?!
「わかったならいい!」
わたしの発言に満足したのか、ハルさんは満足そうな顔をしてます。
ところで皆さん、今更なのですが何故ハルさんがこの家に居るのか気になりませんか?実はですね、理由はわたしもよくわからないのですけど、ユフィさんを起こしに来たらしいのです。…え?男が男に起こされに来るなんて気持ち悪くないかって?いやいや寧ろおいし…げふんげふん、いえ、美しい友情なのですよ、きっと。……て訳で、わたしはその事に深くは突っ込まないようにしました。…いやぁ、寝るのは大切な事ですよね、きっと昨日のわたしだったらぷんすこ怒ってユフィさんを取り合ってましたもん。
なんかしみじみ回想していたらハルさんがどこかへ
行ってしまいました!!え、ちょっと、どこですか?
ぐるぐると部屋を巡っているとこの部屋の奥からガタンと音がしました。あぁ、ちなみにわたしはあの可愛らしい、昨日店番をした部屋にいました。…奥というと、あの怪しげなホルマリン漬けがあった部屋です!ふふふ、そこに居るのですね!
ガチャリとドアノブを捻ると、やはり独特のにおいがします、というか暗ッ!!暗いです!!
さっきユフィさんと通った時は明かりが着いていたのに……畜生ハルさんめ、明かり消しましたね…!
「…は、ハルさーん…!」
思いきって声を張り上げたつもりですが、思ったより弱々しい声が出て自分に驚きます。
「で、出てきてくださーい…!!」
そろりそろりと歩きながら前に進みますが、まだ目が慣れておらず不安でいっぱいです。…なんかさっきぶにゃってしたもの踏んだ気がしますが、わたし知らないです。あちこち手でさわると変なものがありそうでさわれません。
というか!出口わかんなのですけど!…ああああ!!!!?入り口も閉めちゃいました!!わたしの馬鹿!!
「…ぉ、お願い…しますッ!…ハル…さん!………ひょわぁぁあ゛!!?」
わたわたと焦ってしまい何か瓶の様なものをずるっとふんずけてしまいました。ふんずけるだけならまだしもそのままわたしは後ろにぐらりと傾きます。
あ、これ、絶対頭ぶつけるやつ──




