第8話 雨、後にウラギリ
「───ハウザー達が、消えた?」
「どこを探しても居なかった。車もなかった。
それに、コムギに残ってた食料も、全部……」
コムギの屋上。
曇り空の下、ジメジメとした空気に蝕まられながら、
寝耳に水どころかマグマを流し込まれたような衝撃を、
俺は受けていた。
ハウザー達が消えた?
食料も粗方全部無くなった?
え、なんそれ。
「……夜逃げって、ことじゃん…」
──────────────────────
嘘であって欲しかった。
ちょっと遠くを偵察しに行ったんだと。
ちょいっと食料を更に積んで、様子見に行ったんだと。
そう願って食料品コーナーを見漁った。
結果、騙されたんだと悟った。
缶詰、菓子パン、お菓子に飲水、
なるべく保存の効くものは片っ端から
棚から姿を消していた。
それだけじゃない、野菜コーナーが荒らされていた。
少しくたびれていたが、決して食えないことはなかった
野菜たちがボコボコに、ぐちゃぐちゃにされていた。
持ちきれなかったんだろうか、
残りの飲料水もペットボトルに穴を空けられ
すっかり空っぽになっていた。
盗んだだけじゃねぇ。
俺達のリソースを全部潰しやがったんだ。
「───なん、だよ、これ」
まだハウザー達を何者かが攫って、
そいつが俺達が追ってこれないよう食えそうなもんを
片っ端からダメにしたと言ってくれた方が信じられた。
これを、ハウザーがやったなんて到底思えない。
だってあいつは昨日の夜、わざわざ俺に付き合って──
───待て。
なんで、あいつ、あの時、
屋上にいた俺を、見つけられたんだ?
掛け声はした。けど、
下にまて響くようなもんじゃなかった。
……詐欺師ってのは、まず信用を勝ち取る為に暫くは親身に寄り添ってくれるという話が、脳裏によぎった。
意図して警戒したわけじゃない。
俺は初めましての奴は超警戒人間のコミュ症なんだ。
馴れ合って、同じ釜の飯を食っても、
まだあいつらとは距離があったと自分でも思う。
それを、見抜かれていたとしたら…?
わざわざ俺を探して、その距離を、それ故の警戒を、
解きに来ていたとしたら…?
「……スイ、」「霊凪」
「…あいつを探すぞ」
──────────────────────
痕跡はすぐに見つかった。
タイヤ痕だ。
アクセル全開で急いでトンズラこきやがったのか、
至るところに一続きのタイヤ痕が残っていた。
北だ、北の方角に逃げたのだ。
急いで追いかけようとした矢先、
首根っこを霊凪に掴まれた。
「どした霊凪ッ!!早く追いつかないと
同じ手段であいつら人を餓死させんぞ!!!」
「ちょ、ちょっとだけ待って。
まだ見てほしいとこがあるの」
振り切ろうかとも思ったが、
霊凪さんのパワーには勝てなかった。
そのままズルズルと店内に引き摺り戻され…
薬品コーナーに連れてこられた。
「これ見て」
「だッから、なんだ…て……」
仕方なしにそこらの棚を見やれば…
ここも野菜コーナーと同じく、荒らされていた。
色々な薬があっただろう棚は空っぽで…
いや、なんならあそこ以上に荒らされている。
空の棚すら倒されている。
「…で、これ見て何を言えと…?」
「よく見て、何か気づかない?」
「何かって言われても…荒らされた店内に、
薬だけが盗られた棚、これ以外の何に
気づ、け…と……」
……床に転がった一つの包帯。
そこから連なるように、絆創膏やらの外傷を塞ぐ備品の棚を見るが、荒らされてない。
手がつけられていないのだ。
冷静になって考えてみる。
普通、旅路で必要なのは薬と包帯等の備品、どちらか。
甲乙つけがたいが、外傷を負う機会は少なくはない。
包帯や絆創膏は持っていって損はない。
少なくとも俺はそう思う。
霊凪さんも、そういう違和感を感じて俺に見せたのだ。
だが、それらが減っている様子がない。
薬と言える薬が根こそぎ盗られているのに、
食料や飲水も徹底して奪うか無駄にされたのに、
こっちはそれらと比較して、
不自然なまでに手を付けられてないのだ。
「…"薬だけ"、盗られてる……?」
「私もたまたま見つけたんだけどね。
で、さ。改めて地図を見たんだ。
ここから北って言えば、何があったっけ」
「…"病院"だ。花川病院。
子供の頃よく世話になった……」
あん…?
どういうことだ?
つまり、あいつらは薬と飯を確保して、
病院に向かった…?
なんで?
如何にも元気の塊って2人が?
「もちろん、病院に向かったって確証はないし、
食べれるものをダメにしたってこともあるけど…
でも何か、向かってみる価値はあると思う。
話を聞いてあげるべきだと思うんだ」
「………そう、か。そうだな。そうだと思う」
「…ありがとね。落ち着いてくれて。
そうと決まれば、急ごう」
──────────────────────
「──とは言ったけどさぁぁぁ!!!!!」
と、そう言われたので、俺も急いだ。
そこら辺の車をかっぱらって霊凪さんをぶち込み、
Sにシフトバーをぶち込んでアクセル全開で。
そりゃもうすんごい速度で道路を走っている!!
不意にこの速度になったから俺も戸惑ったが、
最初っからこの速度が出ると理解ってれば
腹を括って運転出来るってもんだ。
「文句言うんじゃあねぇッ!!!
急ごうっつったのはそっちだろが!!!
徒歩じゃ行けねぇんだよ花川ァ゙!!!」
「だけどさ!!セカンドにする必要はなくない!?
セカンドにする必要制はなくない!?!?」
「ゴタゴタ抜かすんじゃねぇ!!
おらッまだまだ飛ばすぞおおおお!!!!」
「やぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
──ということで、おおよそ10分でついた。
花川市民病院。
ここらじゃ一番でかい病院だ。
予防接種の時は毎度世話になっている。
そこそこ最新の設備もついているらしい。
「ふぅ、生きてるかボス」
「……す、スイ…君は将来、絶対に
ハンドルを握っちゃだめだよ…
多分、性格変わるタイプの子だから……」
あれは霊凪さんの反応が面白いからってのが八割だった。
ごめんねボス。子供のいたずらだから赦してちょ。
「……そして、どうやら、来て正解だったみたいだね…」
「ああ、当たりみたいだぜ。流石ボスだ」
俺達二人の視線の先。
確かにあった。
あの陽キャカーが。
「おうおうテメェら!!!
俺はともかくこのボスを敵に回して
ただで済むとは思うなよおうおう!!!」
「あっちょスイ!待って!!」
霊凪は車酔いのせいかまだ上手く立ててない。
慌てて呼び止めている。
安心してくれ霊凪さん。
話は聞くとも。事情は知ってやる。
だが、いいや待たないね!!!
だがその前に一発殴らせろ!!!
俺は食料を無駄にする奴だけは許せねぇんだ…!
コムギから持ってきた野球バット片手に、
キャンピングカーのドアを開けんと近づいた。
…が…近づけば近づく程、怒りを押し退け、
困惑を強める程に、その車に対する
"違和感"が強まっていった。
「………揺れ、ている…?」
そう、"揺れている"。
陽キャカーが揺れている。
小刻みに、まるで泣いているかのように。
最初は地震かと思って、霊凪さんが乗ったままの
車を振り返った。
あっちは揺れていない。
なんなら他の病院の駐車場に放置された車も、
どれ一つ揺れてなんかなかった。
なんなら車が揺れるほどの地震なら
まず俺達が感じてないのがおかしい。
この陽キャカーだけだ。
この陽キャカーだけが、揺れ────
"……ドロッ"
「うっわッッ!?!?」
──瞬間、慄いて、思わず尻もちをついた。
揺れていたあのキャンピングカーが、"溶けた"。
ドロリと、炎天下の元放置してしまったアイスのように、
溶けて、融解して…無くなった。
影一つ残さず、中に積まれていたのだろう、
缶詰なり何なりの食品達の山を残して、溶けた。
最初は、なんらかの局所的な異常現象…
潜んでいる何者かの異能により、
この車だけに高熱のレーザーか何かを当て、
溶かされたのかと思っていた。
が、内部の食品が融解したり燃えてないなら違う。
一体なにが……ってよりッ
「お、おい!!ハウザー!セセラ!!
生きてんだったら返事をしろ!!!」
咄嗟に食品の山に駆け寄った。
人一人なら埋もれてそうな量だった。
だが、どれだけ押し退けても二人の姿は無かった。
粗方の食品群を散らかした俺は、
その中心で目の前のものを見上げた。
「…一体、何が起きてやがるってんだ」
この、花川病院に、何が………
「行ってみないことには、わからないね」
「霊凪……ああ、そうだな」
車酔いから解放された霊凪が駆け寄る。
ああ、そうだ。やってみないことには分からない。
聞いてみないことにはどうしようもない。
深呼吸をして、覚悟を決めて。
俺達は病院へと歩き出した。
鍵は開いていた。
花川市民病院。
5階建てのここらじゃ一番でかい病院。
しかし、やはりと言うべきか、
病院内部も当初のコムギと同じように荒らされていた。
地面に刻み込まれたヒビ割れ。
ガラスは幾つも割れていて、
しかし人気は嘘のようにない。
「ハウザー!!セセラ!!!」
出せる限りの大声で呼びかけた。
……返事はない。一階にはいないのか…?
「二手に別れて探すか?」
「あまり賢い手とは言えないね。
向こうが仕掛けてくるつもりなら守れない」
「おいおい霊凪さんや…俺がいつまでも
守ってくれないと何もできないような
へなちょこだと思わないでくれよ……!!」
そうだ。
こういう時のために拵えたのだ。
自衛が出来る程度の必殺技を…!!
親指グッジョブでアピールだ!!!
「…スイ……」
「いやだめ。なんか見てない内に溶岩に沈んでそう」
親指アピールは逆効果だった。
「…俺ってそんななよっちく見えるか…?」
見えるんだろうなぁ…
いや、確かに技一つ作れたからって
増長し過ぎだったか。
仕方ないので一緒に捜索することにした。
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捜索してすぐ。
思いの外早く見つかった。
ハウザーだ。
2階へと階段使って上がって、
その曲がり角を曲がった先の通路で立っていた。
両方をガラスの壁に挟まれた通路。
一棟と二棟を繋ぐ空中通路だ。
何かを守るように、そこに突っ立っていた。
「……ハウザー…!!」
「───なんとなく、思ってたぜ。
どうせここを突き止めるんだろうなってヨォ」
「なんで…なんで、あんなことを、したんですか。
セセラさんはどこなんですか。
なんで、この病院に──────」
「Hey シスター」
「オレ達を思ってるなら、
助けたいとでも考えてるんだったら」
「⋯⋯何も聞かず、ここからbyeしてくれ」
……声色が低い。
本当にあの時必殺技を考えていくれた奴と一緒なのか、
疑う自分さえ居る。
それだけの何かがあったんだ。
アニキをそれだけのことにする、何かが、
この先にあるのだ。
「……退かない、退けられない。
そう言う人を、私は見捨てられない」
「……頼むよ、カエってくれ…」
「教えてよ。私達なら力になれる」
「………カエれ……」
「頼もしく見れなくなって、みんなの力を
集めればどんな難題でも解けるんだ」
「……ってんだ……」
「…霊凪、ちょいタン」
「助けてくれた、手伝うって言ってくれた。
その時私は救われたんだ。その恩返しだって
してないのに、ここでお別れなんて───」
「 カエれって言ってんだッッ!!!!! 」
"ピシィパリィッッ!!!"
───思わず鼓膜が破れるかと思った。
とんでもない声量が、この病院に轟いた。
ハウザーの瞳には、あのタコ使いの男と同じ…
だが、猟奇性や愉悦さなんて感じる余裕もない程、
必死に張り上げた殺意が滾っていた。
「───それ以上、クビを突っ込むつもりなら、
オレを叩きのめしてゲロらせてみなよ」
「霊凪、ここは一旦引くぞ。
このまま殴り合ってもきっと」「ごめん、スイ」
「……私も、引くに引けないや」
不味い。
本当にまずい。
霊凪の方もキレている。
闘志と殺意が睨み合っている。
ハウザーはああは言ったが、俺は知っている。
こういう奴は死んでも口を割らない。漫画で見た。
話し合うならまず引いて落ち着かせなければならない。
ってのに、事情を聴きたいって
言ったのはそっちだろボス…!!!
いや、落ち着け。
俺まで頭に血登らせて何になる。
どうする。
どっちに加勢する。
どっちを止めれば止められる。
いや、むしろここは好きなだけ殴り合わせたほうが…
だから仲間内で殴り合って何になるって言うんだッ。
「───やるんだな、GIRL」
ハウザーが懐に手を伸ばす。
霊凪さんも腰を落として臨戦態勢をとる。
異能を使う気なのか、
だったらここはまず霊凪に異能を使うなと……
言ったところで聞いてくれるのか?
いや、言え。霊凪の異能は人を殺せる。
ハウザーがどんな異能を持ってるかは知らんが、
だとしても強化状態の霊凪を押し退けられるかは怪しい。
今の興奮状態の霊凪に異能を使わせちゃまずい。
赤ん坊にチャカを持たせるぐらいまずい。
絶対ろくなことにならない。
言うんだ。俺。例え聞いてくれなくたって、
頭の片隅にでも理性を残させるんだ。
「霊凪ッ異能はつか」
「やってみなよ、ハウザー…!!』
やっちまった。
迷って判断が遅れた。
朱いオーラが霊凪を包み上げる。
不味い。
本当に不味い。
どうする。
この霊凪を俺の技で止められるか?
無理だ。
どうやっても止められるイメージがわかない。
だったらいっそ。
ハウザーを突き飛ばすか。
ちょうどよく壁はガラス製だ。
本気で突っ込めば俺ごと外に叩きつけられる。
2階からなら命に支障は…
出ないのか?本当に?
いや迷うな。
迷ったらハウザーが死ぬ。
迷わなければ、運が良ければ二人とも助かる。
落ちるまでの間に俺がクッションになればいい。
役立たずにはなるもんか。
行けるか。
行ける。
よし、いける。
やるぞ。
「止まッ」
〝ドゴォォォン!!!!!!〟
───どうやら俺も、焦っていたらしい。
不健全男子高生の全力疾走が、
異能で強化された人間の速度について行ける訳がないという基礎的なことを、
失念していた。
死ぬ。
ハウザーが死ぬ。
霊凪自身に殺す気がなくても、
あいつはまだあの強化状態に慣れてない。
そんな状態で、加減を少しでも誤っちまえば─────
───なんて、釣られてハウザーを見やった時だ。
あいつが懐から取り出していた物を見た。
その取り出し方から、最初は拳銃かと思った。
しかし違った。
形状は凄まじく似通っていたが、
あんな真っ黄色の銃なんて俺は知らない。
それは、黒の斑点が入っていて、
皮を剥くと白い実があって、
それが中々美味い、南国出産の果実だ。
(バ、ナナ……???)
ハウザーはこの土壇場で、"バナナ"を取り出していた。
…なにしてるんだ?最後の晩餐のつもりか!?
食える時間なんて無いに決まってる。
霊凪の速度を甘く見るなッ。
あいつはタコ使いすらタジタジになるほど……
いや、もう遅い。
もう止められない。
何を思っても、もう─────
〝 ゴ ギ ッ 〟
───見られなかった。
骨が直に叩かれた音が、確かに聞こえた。
反射で目を瞑った。せめて、霊凪が
上手いこと手刀なんかで気絶させててくれれば…
『……あ…がッ………』
ああ、悶える声が聞こえる。
ごめん霊凪さん、俺が不甲斐ないばかり…に……
……?
霊凪の、声だ。
これは霊凪の声だ。
霊凪の、悶える、声…が───!?
目を見開いた。
その目を、その目に映ってきた光景を、俺は疑った。
ハウザーが握ったあのバナナが、
霊凪の首筋にめり込んでいたのだ。
あのバカでかいタコの一撃でもダメージを
蓄積するに数発は必要だった、
霊凪の身体に、一撃で明確なダメージを────
「フゥンッッ!!!!」
〝バリッダァァァァン!!!!!〟
そのままめり込んだままのバナナをふるい抜き、
隣のガラス壁をぶち破って、一階下のコンクリの地面に叩きつけられた。
大問題だが、朱いオーラは消えてない。
ダメージを負っているが霊凪は生きている。
ならいい。
問題は目の前の男だ。
「……それが、お前の異能か…」
ハウザーは答えない。
霊凪を殴ったバナナを握る手を眺め、
俺を一瞥してから、反対側のガラス壁へ向き直る。
「あのCarに、乗ってきたんだな」
見れば、ハウザーの視線の先。
俺達の乗ってきた車を、こいつは見ていた。
なんだ、今更…あんな車を見て………
と、再度視線をハウザーに向け直せば、
バナナを片手に、そりゃあ見事なまでの投擲のための姿勢を取っていた。
何やってんだこいつと、ポカーンと見ていた。
「───バナ……ブーメランッ」
投げた。バナナを。
投げられたバナナは、今となっては懐かしい、
あの缶同様、凄まじい加速を得て────
〝バゴォォォン!!!!!!〟
〝バゴバゴバゴバゴバッッゴオオオオン!!!〟
まず俺達の乗ってきた車のボンネットを凹ませ、
エンジンを爆発させて。
そのままバウンドするように、
病院に残っていた車を次々に襲って、
その度跳ね返って…
瞬く間に、その場すべての車を廃車に変えていた。
少なくとも、俺はそう見えた。
「…追って来るな、つっても追いかけてくるんだろ?」
「なら、逃げにテッするまでだぜ」
ブーメランのように、
グルングルン回転して手元に戻ってきたバナナを、
息衝く暇なく天高く構えるハウザー。
ここから何をするのかは分からない。
だが、逃げに徹するというのなら、
少なからずここから離脱を果たす何かだ。
やらせるわけには行かない。
逃がすわけには行かないッ!!!
「やらせっかッッ!!!!」
役立たずで終わるものか。
地面を蹴り抜く。
あいつの懐に飛び込む。
霊凪を押し退けるほどの火力なんて恐れるものか。
四肢が千切れようと足に噛み付いてやる。
こいつが教えてくれた技で、こいつを止める。
息巻いて大きく右手を引き抜き、構えながら突進。
「隼海流!!必殺!!!スーパー────」
「かッ」
いざその手で撃ち抜こうとした矢先…
フッと、目の前から奴が消えた。
「───ソイツじゃオレには届かないぜ」
ッ違う!!!
こいつッ俺の"下"に潜り込ん
〝 ゴ ヅ ン ッ 〟
「────────カっはッ………」
しか い が ゆ れ る
な に を さ れ た
あ ご が い た い
あ っ ぱ ー か ?
『───スイッ!!このッ…』
『待てッ!!ハウザー!!!』
(………れ…い……な………)
(まずッ………いし、き…が………)
──────────────────────
──────────────────────
"────こ─子が──例の─────"
──────────────────────
"───面─い顔───勇──き人───"
──────────────────────
"─楽しみに──────子達が────"
──────────────────────
"────私を、倒しに来てくれることを"
──────────────────────
──────────────────────
"───や──"
"あ───つ─"
"あお─やつ─"
「あおいやつ…!おきろ…!!」
「………あ…?セセラ、か…?」
⋯⋯知らない天井に、知ってる顔が覗いてる。
黒鉛のような黒い髪に、患者服を着た幼子。
セセラだ。
俺は…寝てたのか……
夢を見てた気がする。
面白い顔とか言われた気がする。
気分が悪い。顎も痛い。
よっこらせっと上半身を上げ、
はて、何をしていたんだったか、と……
「……ッハウザー!!お、れ…な、何分眠って…!?」
そうだ、ハウザーに霊凪。
思い出してきた。
推定アッパーで俺は気絶させられたんだ。
顎の痛みはそれだ。
すぐにでもあいつらに追いつかないと。
「あわてすぎ、しらん……
…"しゅじゅつ"がおわってから、
すぐ見つけたから…2分、ぐらい?」
「二分…霊凪の稼働限界、が………」
「…まてセセラ、"手術"ってなんだ?」
まるで…というか、
手術という言葉を使うなら確実にそうだろう。
"誰か"がセセラを治療した…?
まさかハウザー…な訳はない。
ハウザーが守っていた通路の奥に、
セセラを治療中の誰かが居て………
一体誰が、どいつが、なんで…
「それ、ほんとにいま、ひつよー?」
「……そう、だな。そうだわ。
すまんセセラ、あとで教えてくれ!」
幼子に諭された。
クソ…メンタルが……
と言ってる場合ですらない。
すぐにでも車を、かっ飛ばさないと………
……セセラ越しに見える、割れたガラス壁が目に映った。
その先の光景は、確か……
「……そうだ、車が、全部やられて…
クッッソッ追いつく手段が…!!!!」
窓に張り付き、盛大に嘆く俺。
そう言えばご丁寧に破壊されてたんだったなぁ!!!
どうする?走るか?
いいや、絶対に間に合わない。
最寄りの動く車を見つけるしかない。
が、エンジンつけっぱで人の消えた車が多いせいかエンストかガス欠でろくに動かない車も多い。
探すのにもどうしても時間は食う。
その上で見つけたとして、あいつらがどこにいるのか…
「どうする…どうすれば……」
「……ねぇ、あおいやつ。
どうしてそんなにやっきになってるの」
「ようやく出来たまともな友達二人が喧嘩してっからだッ。
…ちょっと静かにしててくれ…!!今考えてるんだ…!」
「…あおいやつをなぐって、
おまえのかのじょもなぐったのに、
アニキをまだともだちってよぶの?」
「こいつら兄妹揃って…
ああそうだ!!ボッチな俺には
掛け替えのない友達だ!!!」
「だから止めんだ!助けんだ!!
文句あるか!!!!」
「あと霊凪さんは俺の女じゃあねぇ!!!
二度と間違えんなッ缶ぶつけんぞ!!!」
「……1分」
「だぁ!今度はなん」「1分だけなら、追いつけるよ」
「……な、んだって?」
「しゅじゅつしたばっかで、うまく作れないから、それいじょーはむり、ごめん」
「ナビで、アニキのいちならわかる。
がんばって、1分で追いついて、なんとかして」
こいつ…さっきから何を……
?が脳内にいっぱいっぱいの俺をさておいて、
ガラス壁にぶち上げられた風穴へと
フラフラ近づくセセラ。
「……お、おい!ガラス片に気をつけ」
「───【異能】、かいほー」
「DJC」
"キィ─────ズンチャカチャッズンチャカチャッ"
───セセラが手を掲げた瞬間。
眩い閃光が視界を染め上げて……
視界が元に戻った瞬間。
いつもの音楽が響いてきた。
風穴から地面を見やる。
……あの、キャンピングカーだ。
溶けて消えた筈の陽キャカーが、復活していた。
最初っからそこにあったかのように。
そうか。あの車、セセラの異能で作られていたのか。
だからセセラ本人が運転をし、あの瞬間溶けたのだ。
その手術ってのを受けたから、持続が解けて……
と、セセラの方に振り返った。
地面にずり落ちてる最中だった。
「ちょおいッセセラ!!!」
「うっさい…ちょっとつかれただけ、だから…」
あれを作って体力が切れたのか。
1分しか持たないと言っていた。
手術終わりで体力の底だから。
なんで、俺なんかの為に、そこまで……
「……かんちがい、しないで…
セセラは、アニキのためにうごくだけ」
「……あおいやつ、しゃくだけど、おねがい。
セセラのアニキを…ハウザーを────」
───俺は生まれたときから、
俺より小さなガキに素で嫌われる体質があるらしい。
親戚の集まりでも度々ちっちゃい従兄弟に嫌われるし、
公園に行ったらガキに泣かれる。
それで警察沙汰になった時すらあった。
それらに比べれば可愛いもんだ。こんな対応。
言葉を遮る形で、、
小さなセセラの身体を持ち上げ、背負ってやる。
「──ちょ、はなしきいてたあおいの…!?
いそいでむかわないと、DJCも」
「悪いが、俺は口下手だ。テメェの
想いを代わりで語ってやれる自信はない。
その上ハウザーは…多分だが、俺達が
どれだけ何かを言っても、死ぬまで
自分の主張を曲げるつもりはないらしい」
「……ッ」
「……その裏にどんな理由があるか、
事情があるかはまだ知らん……」
「だから、お前がやるんだ」
「一緒にノリノリでラップをするお前の言葉なら、
案外あいつも気が変わって土下座ぐらい
軽くしてくれるかもしれないからな」
「連れてってやる。止めてやる。だから
その時まで、その続きは…兄貴の前まで取っとけよ」
────走る。
チビスケを背負って走るなんて不慣れなんてもんじゃないが、それでも走る。
全力で走る。
俺は一人っ子だ。
兄妹の気持ちなんて分からない。
俺のことを嫌いそうに頼むガキの伝言代弁なんてやってやるものか。
赤の他人からの言葉なんてあいつが聞くものか。
だから送り届けるんだ。
代わりにじゃない、こいつの本心を。
この世でもう、たった一人かもしれない
家族からの気遣いを…絶対に。
「……あおいの」
「あとな、俺は彗っつー立派な名前があんだ。
送ってやるからそっちで呼んでくれ」
「それはやだ」
「貴様ァ゙…!!!」
…1分。
1分だ。
余りに短い。
それで、本当に追いつけるのか。
…いいや、違うな。
追いつけるかじゃねぇ。
追いつくんだ。
なんなら追い抜…しちゃダメだが。
送るって約束したんだ。
約束は守るんだ。
それで友達を助けられるってんなら、
俺は、光だって超えてみせる。
「───行くぜ、喧嘩仲裁大作戦」
覚悟は決まった。
助けてやるんだ。
俺が、俺達が!!!!
陽キャカーのドアをこじ開け、
俺達二人は運転席へと飛び乗った。
「けんかちゅーさいだいさくせんはダサくない?」
「セセラお前もう黙ってろ」
ふ、最後まで締まらんぜ…




