第7話 鍛錬、時々アンウン
「───お、おぅええぇぇ……」
俺はここに来て初めて、明確に、この人の消えたという状況を憎しみ、恨んでいた。
何故かって?
理由なんてただ一つだけさ。
道路に放置された車が多すぎるんだ。
どうせなら車ごと消えて欲しかったものを…!
"ぎゅうぃぃ!!ぎゅがぁぁ!!!!"
揺れる。
車内が揺れる。
その"放置された車を避けるゲーム"をし始めた、幼き運転手が死ぬほどハンドルを切りまくってひっどいことになっているのだ……!!!
視界が揺れる。
胃の中が逆立ち始める…!!
「HAッHAッHAッ!Heyブラザー!!
こんな程度で音を上げちゃあこの先の
トラベルにはついていけないぜ?」
そんなひっでぇ車酔いをしている俺の背中をバシッバシッとぶっ叩くのはゴリラ…間違えた。
筋骨隆々のゴリラッパー、ハウザー・イーサンだ。
俺達は今、あの陽キャなキャンピングカーの中、運転席の後ろにある壁付けソファに座っている。
アメリカンなスタイルなのか、シートベルトもなしに。
ちなみに霊凪さんは助手席で運転手をぐわんぐわんしながら色々訴えつつもナビゲートをしている。
ナビはともかく、訴えについてはあまり真面目に取り合ってもらえてないようだ。
肌はより青白く、若干涙目になってるのを見るに俺よりもこのドラテクに苦しめられてるに違いない。
かわいそうだ。
いつもならその感想のおまけにかわいいとかついたかもしれないが、今は俺もあまり余裕がない。
同志だ。
そう、同じ志を持つ仲間なのだ。
やはり俺達は一心同体の仲間だったのだ…!!
───あの自己紹介の後、俺達は交渉を試みた。
何せ悩みあぐねていた車による移動法を持つ人間達が"困ったことはあるかいブラザー"と聞いてきてくれたのだ。
頼らん手はないということで速攻入った。
するとハウザーらも二つ返事で快く承諾してくれた。
これまたラップで話してきたから原文は省くが、要はある程度の物資を別けてくれるならいいよとのこと。
ありがたい話だ。
何せ物資なら有り余るところを知っている。
俺達のって訳じゃない上にがっつり盗みだが、
こんな緊急事態だ、許してちょんまげって奴だ。
よって今は俺の圧倒的ドラテクの軌跡を辿り、コメリへと一次帰還してる…
訳…なのだが。
「というか、あの、普通妹に運転任せますか??」
その運転手に問題があった。
セセラ・イーサン、ゴリラッパーのDJ担当。
何故かよりによってこの子供が運転を任されていた。
そりゃあもうテクが荒いのなんのって。
元々あまり乗り物に強い方ではない俺達にとっては地獄も地獄。
思わず昼飯の菓子パンが「コンニチハッ」しちまいそうじゃねぇか…!
「訳があるのさBOY。それに話を聞くに、
YOUらも同じことやってたんだろう?」
「まぁ…そっすけども……」
グッ、中々痛い所を突いてきやがる…
まぁいい、いっときの辛抱だ。我慢我慢。
話を逸らすが、先程も言ってた通り、この二人は兄妹だ。
セセラが13で、ハウザーが18。
そう、ハウザーも18だった。
あの体躯でまだ未成年ということらしい。
末恐ろしいものだ、バレーとかやったら敵無しなんじゃないだろうか。
流石外国の血……!!
で、移動中、吐き気に堪える為に色々質問して分かったが、どうやらこの人らも旅をしているらしい。
イーサンシブリングス。
若手きってのルーキーラッパーらしい。
事は俺らと同じく三日前のあの日。
家族で日本観光をしている最中、俺と同じように突然脳裏に『声』が響いたらしい。
が、俺とは違ってただ一言…『争え』と。
その話の最中、ふと思い出して霊凪さんにも質問してみたが、『それ以外が聞こえた覚えはない』ときっぱり涙声で発言を頂いていた。
……そう、あの三つの約束をこじつけた「声」は、やはりと言うべきか、俺にだけ干渉を施したらしい。
まぁ、俺を名指しでお願いしてきたんだからそりゃそうって話ではあるが、
しかし他の奴らにも同じような『声』が聞こえていたとは思わなかった。
何にせよ、あの「声」があんな悲痛そうなお願いを不特定多数にするような尻軽音声野郎とは俺も思いたくはない。
俺の勇気の一歩目の価値が損なわれてしまうからな。
そうでなくてよかったと喜んでおこう。
わーい!
…ともかく、そんな「声」に関してだが、俺は適当にみんなに合わせている。
だって考えてもみてくれ、"不思議な幻聴に言われたから探し回ってあなたを助けました"なんて本人の前で言ってみろ。
今度こそ引かれるかもしれない。
おまけにそこの兄妹からもないわーとか野次られるかもしれない。
確かに俺の不健全男子高生という称号に"頭のおかしな"って冠がつくのは構わないとは言ったが、かと言って目の前の人間にドン引かれることへの耐性までは兼ね備えていない。
俺だって人間だぜ…!!!
人の目の前でトンチキはやれねぇって…!!
話がズレてしまった。
そう、『声』が聞こえた兄妹は何事かと動揺していたが、"爆発音"と共にその後気絶したらしい。
顔面がえらいことになってる霊凪さんにも話を聞いたら大体同じだとだみ声で返された。
俺も気絶はしたが、しかし爆発音は聞こえなかった。
少なからずの差異があるらしい。
で、そこから起きてみれば人気はないわ親もいないわ街はさっきよりも荒れてるわで超困惑。
仕方ないんで車かっぱらって辺りを捜索したがそれでも全然居ない。
のでそのまま旅に出たってわけだ。
三日三晩の旅路。
しかし結局人と会えず仕舞いでここまで来たところ、突如爆発音が聞こえ、馳せ参じた結果俺達と合流。
で、今に至るってわけだ。
あの事故で俺達は巡り合った。
つまりファインプレーって奴だな。
褒めてほしい。
「そういやこっから先の展開について
何か考えてたりするんすか?」
「んーーや?オレ達もナリユキだったからね〜。
ショージキこのままセセラと二人旅だとばかり。
YOU達がイレギュラーだったワケ!!」
「あっそう…」
しかしこっから先の将来展望は低めらしい。
いや、違うな。
霊凪さんのが意識高めなだけか。
18とは言え頼れる大人も居ないような状況だ、生きていくことだけでも手一杯だろうに、それでも見兼ねた俺達を助けてくれるってんだ。
ここは素直に感謝して置かなければならないだろう。
「ありがたやありがたや……」
「えっ急になにオガんでんの?」
引かれた。
チクショウ……
──────────────────────
コムギに到着した。
実際の時間としては10分強程度だろうが、やっとかと言う感想がつい腹の底から出た。
陽キャなキャンピングカーから降りる。
大きく息を吸う。
うむ、我が家だ。
我が家の空気感だ。
ここがどれだけ安全かが身に染みてわかった。
伊達に三日三晩コムギで過ごしてない。
ここは最早我が家である。
「あぁ〜……実家………」
霊凪さんは頭一つ抜き出て実家を感じてる。
コムギの支柱に抱きついている。
正直何を言ってるのかはよくわからない。
コムギはあくまでスーパーだぜ……?
「ジャパニーズのSupermarketはちっちゃいな!」
「ちっちゃいっ」
「アメリカがデカいだけだと思うんですよ」
イーサンシブリングスはジャパニーズスーパーを鼻で笑っていた。
嗤うなよ…俺達のスーパーマーケットだぞ…!!
さて、茶番はここまでにしておこうか。
「……と、言うとこで皆さん。ここで配られた旅のしおりの6ページ目をご覧ください」
「Hey ブラザー、シオリ?っての貰ってないんだが」
「何を言ってますかハウザー君、しおりは俺達の心の中にあるでしょう。さぁ、貴方もしおりを開いて真理の項目を───」
「OKブラザーなんでもなかった。続けてくれ」
とか言いながら茶番続けたらハウザーに凄い目で見られちまった。
はい、真面目にやります。さぁせん…
「ええ、ごっほん…えー、まず、改めて状況確認からです。
ハウザーさん方、貴方達は俺らと出会えたはいいが、
ここから先の展開については悩んでいる。そうですね?」
「YES。ヤミクモに探すフェーズはもうコリゴリだぜ」
「だぜ…」
ほんとに懲り懲りしてそうな2人だ。
旅の始まりが両親を探すとこからだったもんな。
いい思いは抱いてなかろう。
……親、か。
考えないようにしてたが、やはり父ちゃん達も消えちまってんだろうか。
あるいはなんかわけわからん力に戸惑ってるんだろうか。
いや、いい。よそう。今はそゆこと考えるターンじゃない。
「で、ボス。俺達は世界を救うという目的こそ
あるものの、移動手段に悩んでた。そうですね?」
「うん。…ボス、気に入ったんだね……」
霊凪さんからは微笑ましいものを見る目で見られた。
…度々思うが、この人時折やけに俺を子供扱いしてくる。
確かに1歳下だが、俺だって正真正銘高校生だぜ…!
あんま子供扱いしまくるとドギマギしながら怒っちゃうぞ…!!
「…ん゙っん…えー、ハウザー達は目的が、俺達は足が…
丁度互いの欲するものをもっているってことで、
ここから先は共に行動していくってことでいいですね」
「それでいいよ」「構わねぇZE!」「おやつ食べたい」
うむ、概ね大体の意見は一緒だ。
ここの齟齬があると後々大変だからな、
改めて確認させてもらったが大丈夫そうだ。
「俺もそれを望んでたんで不満はありません。
つきまして、今後の計画を共有しようと思います」
「まず今夜ここで一晩泊まって親睦を深めつつ、
万全な準備を固めて東に直進します。
その後街を見かけ次第一次停泊。
物資の補給と共に人の捜索、
その成果の可否に関係せず三日後にまた直進」
「基本この流れを繰り返そうかと思います」
ちなみに、なんで東かと言えば現在地点…
ここが九州の福島辺りだからだ。
東…正確には北東を目指せば、ある程度日本列島の都道府県は網羅できる。
沖縄?あそこは現実的じゃないから省くことにした。
空路がろくに使えない現状だと海路、船に頼ることになる。
そう、とおいのだ…
北海道までの船旅はギリ容認できるが、あそこは遠い。
船旅はイレギュラーが付きまとう。長期化はそれだけリスクが増えるってことでもある。
それに、あそこは────
「はい、スイ先生」
「おっなんでしょうボス」
「なんで三日間だけに指定したのかなって」
「いい質問ですね。俺達とハウザー達が
出会えたのがギリギリ三日だったからってだけです」
「なるほどね、いいと思うよ」
事実、それ以上の足踏みはしたくない。
三の法則だ。
人が異常事態の中生きられるのは水無しで三日、水ありで三週間、飯ありで…なんだっけな。
ともかく、三日掛けて探しても見つからなければ居ないものとして切り捨て、先に行くべきだと俺は思っている。
いたずらに時間を削って、そのせいで先で出会えた筈の命を救えなくなる。
それが一番嫌なケースだ。
現代社会の設備があればそう焦ることもないだろうが、
この世界には既に異能で暴れる奴らがいる。
三の法則は心掛けてたほうが良いだろう。
「Hey ブラザー」
「なぁんでしょうハウザー君」
「もしヒューマンを見つけたらどうするんだい?」
「対話を試みます。それで友好的ならそれでよし、物資を別けたり状況について説明してあげましょう」
「そうじゃなかったら?」
「ボコボコにしてぶっ飛ばします」
「Good───」
ハウザー達みたいな友好的な人間もいれば、
あのタコ使いのような奴もいる。
そういう既に暴れてる奴らも、可能な限りは倒していったほうが望ましいだろうと俺は思う。
放っておいたら人手という有限のリソースを削られ続ける。
それを目的に動く俺達にとっては最大の敵だ。
けっちょんけっちょんにお仕置きすべきだ。
「ん、あおいやつ」
「なっんっでっしょうセセラさん!!」
「おやつはいくつまでもっていける?」
「好きなだけ持っていきなしゃい」
「やったっ!アイスもっ?」
「アイスは溶けるから辞めときなさい」
「むぅ…けち…」
そう、おやつも割と馬鹿にはできない。
長旅、人と会う度に警戒しなくてはならない環境。
嫌でも精神を削られるようなこれからだ。
そんな中で少しでも癒せるものを持っていくのも合理的な判断だと言える。
テレビとかでよくある自衛隊特番とかでも士気を高めるために食は工夫され、凝られていた。
それだ。
空腹を叩きのめし、幸福感でストレスを殺すおやつはその代表例だ。
他にもカップ麺だとか持っていこう。
け、決して俺が食いたいからとかじゃないからね!
アイスは溶けるからやめておこう。
食べたいけどね、現地補充でいこうね。
「と、言う辺りで、解散だな」
改めてのまとめだ。
1.北東になるだけ直進!
2.三日掛けて人を探す!!
3.要救助者は助け、敵はぶっ飛ばす!!!
3.1と2、時々3の繰り返し!!!!
うむ、実にわかりやすい。
中身がそれほどないとも言う。
だが、こんなもんでいいのだ。
最初っからガチガチで行くと柔軟性に欠ける。
なるようになれは旅路でも嘲弄すべき考えだ。
「食料はなるべく日持ちするものを、
他にも必要な雑貨も積んでいこう」
チラッと時計を確認する。
時刻は既に16時、日も傾き始めていた。
積み荷が終われば、少し早いが飯にしよう。
──────────────────────
……と思っていたが、結局晩飯にありつけたのは19時過ぎであった。
セセラが店にある全てのお菓子を積もうとして、その説得と撤収に時間を食ってしまった。
それでもキャンピングカーの一角を埋める量のお菓子が残っている。
凄まじい
そこからは霊凪さん主催で"祝・人と会えた記念"としてささやかなパーティが開かれた。
スタッフルーム備え付けのレンチンで解凍しただけの冷凍食品祭りだったが、このところ菓子パンばかりだった舌には効果てきめんだった。
腹もくちくなれば明日に備えるべくとして皆寝具コーナーから布団を引っ張り出し、スヤァと睡眠ってわけだ。
───この俺を除いて。
「───とぅ!やっ!!はぁ!!!」
コメリの屋上、月光に照らされ残暑に包まれながら、俺は俺でも奇っ怪だなと思う動きを繰り返していた。
具体的には、右掌から《水鉄砲》発動しっぱなしでしながら腕をめちゃくちゃに振るったり、虚空に向け放水しながらタックルしたり、放水とは関係なく単にキックしてみたり。
さながら格ゲーの練習ルームのキャラみたくな動きをしていた。
何やってんのかって?
鍛錬だよ。
忘れたわけではない。「声」の約束だ。
"導け"と言われた霊凪と会えたことで、そして霊凪の行く道がいずれ世界を救う道だとわかったことで、俺の中でこの「声」の信用性は急激に増した。
あの時交わした(というか交わされた)約束は、本当に世界を救うために必要なことなんじゃないかと。
よって、二つ目の約束も果たすべく四苦八苦している。
"もっと、もっと強くなれ"。
…言うは易し。だが一朝一夕で出来ることでない。
とは言えまた霊凪に頼り切りも面目が立たない。
どうしたもんか、飯を食べ終えて悩んださ。
「ということで閃きました私。
"必殺技"を開発すればいいのではないかと」
そう、必殺技。
かっこいい響きだ。
中学卒業と共に置いてきた厨二心が震える。
強くなる、身体能力的な意味合いじゃ今すぐは厳しい。
ならば"凡人にできる最高打点"を、いつでもどこでも撃てるようになれば、ほんの少しは役立つんではないのかと。
一つ一つは体たらくの極みであっても、それを一切の狂いなく、全部繋ぎ合わせて、ドンピシャで叩き込める技があれば、あるいは違うんじゃないのかと。
……夢は、儚かった。
全くもってまともな技ができない。
放水するだけの異能と建築ゲーオンリーの不健全男子高生の身体の二つでどないしろって言うんや…!!!
相手の足元を濡らすしか実用的な技が出ない。
それでも連携面としては十分だろうが、霊凪依存から脱却出来たとは言い難い。
……わかっている。
そもそも一朝一夕でどうこうしようとすること自体が間違いであると。
地道に腹筋腕立てスクワットランニング100回やらなくちゃなんにも意味ないってことを。
しかし、人が増えた。
出来ることがいっぱいあるだろうやつらが増えた。
俺の代わりになり得る奴らが。
それはそれで喜ぶべきことであるが、
無駄飯食いにはなりたくない。
何か一つでも、俺にしかできないことを身につける必要がある。
成長する必要がある。
出来ることならなるべく今すぐ、急ぎで。
(いや、だからそれをするには一朝一夕じゃ…
クソ…漫画の中のキャラ達はこの難題にどう立ち向かっていたか……)
《水鉄砲》を止める。あぐらで屋上に座る。
落ち着け。こういうときこそ考えるんだ。
そう、何も素手で頑張る必要なんてない。
辛子パチンコのように道具で工夫するんだ。
そうだな、使えそうなものを下から持ってこよう。
それで片っ端から戦法を考案し、形にしていく。
実用性に優れたものを更に研究、改良だ。
うん、これならいけそう。
いやいける。俺だけのアドバンテージ。
「そうと決まれば」
早速立ち上がり、階段の方へと…
振り向いた、瞬間だった。
真後ろだった。
真後ろに、そいつはいた。
俺の倍はあろうかという体躯。
夜なのに相変わらずつけてるW字のグラサン。
小麦色の肌に、首から下げたラジオ。
とんでもねぇアフロ。
その上から挟んだ耳に届いてないヘッドフォン。
「 H e y ブ ラ ザ ー 」
ゴリラの幽霊が、そこに立っていた。
「ギィィィヤァァァァゥッ──」
「おい叫ぶな、セセラが起きたらどーすんだ」
マッハで抑えられる口。
この街全域に響きそうだった叫びはキャンセルされた。
やッやめてっはなしてっ!!!
あ、あたしを攫ったって身代金を払ってくれるような奴は…!!!
「って、あ、あぁ…ハウザー…さん、だったか…」
「Hey、水臭いぜブラザー。
ケイゴなんて要らないっ
男と男なら腹割ってっ話そうぜっイエィ」
音量に気をつけた弱ラップ。
男と男、腹を割って話そう…
えっ何?
もしやノンケじゃない…!?
「ダンスのレンシュー!苦戦してるならコウシュウ!
Im a Teacher!レッツレッスンッフォー!!!」
「いやちげぇよ鍛錬だよ鍛錬!!」
ああ、なるほど。
さっきの奇々怪々な技ともいえない動きをダンスだと捉えて、余りに見てられないから協力したろうってことらしい。
ラッパーだもんな、ダンスとかもそりゃある程度齧ってて当然か。
ありがたい話だ。
本当にダンスの個人レッスンやってるならの話だが。
「…フゥム?どうしてタンレン?」
「あぁ……れ、だよ。俺達って霊凪さんしかまともに
戦える奴がいないからさ、頼りっきりってのもダセェし、
少しは自分でも戦えるようになろうってんで」
誤魔化そうとも思ったが、やめにした。
腹割って話そうって言われたからな。
俺は意外と鵜呑みにしやすいタイプなのだ。
「……ホウ?YOUらの【異能】は?」
「ああ言ってなかったっけ。
俺が手のひらから水を出して、
霊凪さんはオーラ纏って強くなるやつ」
「…そうか」
一瞬、グラサンの奥の目の色が変わった気がした。
口元は笑っているのだが、こう、それでも神妙な顔だと印象つくような、そんな感じの……
「そいつは…シンチュウお察しする……」
「いや憐れむな!!」
まぁ、気の所為か。
暗いしな。
口や雰囲気で和らいでるだけで、グラサンとデカい体躯のせいか黙ってると威圧的に見えるしな。
「フッ…手伝ってやるぜ?ブラザー」
「えあっいいのか…?」
「困ってる奴っ見過ごす奴っ
アメリカにゃ居ないっ全員ファミリー!」
「ハウザー……」
「自分のオンナにいいトコ見せたいのは
バンコクキョーツーだぜ、安心しなBOY──」
「ハウザー!!!」
なんか変な捉え方されちまった。
べ、別にそういう気はないですし…!!
いやまぁ美人さんとは思うけど…!!
──────────────────────
と、言うことで俺とハウザーによる
漢と漢の強化合宿が開催された。
わーいぱちぱち。
どんどんぱふぱふ。
「でアニキ、ワッチは何をすれば!!」
「アニ…?フム、そーだな……
まずはYOUが思い描く"一番強いイッパツ"を
イメージしてみなッ」
「ほう!!」
なるほどね。
俺の中で一番強いと思ってる技か。
一番、強い、技、か…
かめ◯め波とか、超新星爆発アタックとか、漫画の中の御業達が俺の脳内でここぞとばかりに踊り散らかしてる。
いやいや落ち着け、俺に気は操れないっての。
霊凪さんならワンチャンいけそうだが、
俺にはそういうのは無理だ。
気功砲ではなく水鉄砲しか撃てないんだって。
ボクシングの技とかをイメージするべきだ。
アッパーとか、ボディーブローとか…
う~ん…
地味だな……!!!
「う~〜〜ん………」
こう、ピンチを打開できるような技がいい。
単なる一撃じゃなくて。
もうだめだ、って思った時に誰かを救えるような…
そんな─────────
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「何がッ」
「 何が────正義だッッ!!!!!! 」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「────」
……ああ、言われた通りかもしれん。
確かに俺は、あいつに惚れてるのかもしれないな。
「…思いついたな?あとはソイツを
エミュ…サイゲンしてみろ」
「……おう!」
気づけば、ハウザーは屋上にある貯水槽の隣に立っていた。
こいつに叩き込めってことらしい。
思い描いた一発を、いつでもどこでも再現出来るようになる。
なるほど、確かに合理的だ。
必殺技って感じだ。
促されるままタンクの前に立ち、集中する。
目を閉じて、深呼吸。
息を吸って。
吐いて。
脱力した全身で、あの一撃を再現する。
カッと目を見開いて、
左足を前に踏み出させ、
後ろに構えた拳をッ、
大きく振るって、叩き込むッッ!!!!
「だぁぁぁぁ!!!!!」
"───ベチンッ"
…なんとも情けない、へにゃへにゃ音が鳴った。
「…ふぅ、どないなもんっすか、アニキィ」
「───ゼンッゼン!!…don't Good……
まさかここまでへにゃへにゃだとは
オレも思ってなかったね……」
一仕事終えたみたいに額を拭う仕草をしながらアニキに聞いてみたところ凄まじい駄目出しを食らった。
くそう…!!日頃から筋トレさえしてれば…!!
「いいか、今のYOUはただナックルを振るっただけ。
それじゃあガキンチョも泣かないぜ」
「ぐっぶっ刺さる……
ど、どうやって改善すればいいですか…!!」
「NYSEなシツモンだぜ。
───"コシ"を使いな、ブラザー」
コシ。
腰か。
使った気がしなくもないが、
もっと思いっきり使えってことだろうか。
「もっと体を捻れってことっすか?」
「NO NO、"体"じゃないぜ。
コシはムロン、足首、セボネ、両腕の
ヒジから手首、指までゼンブ使う"身体"だ」
「……?」
「いいかブラザー。ヒネリってのは加速、
ブーストだ。ゼロのジョソウキョリで、
イリョクを何倍にもかさ増しにできる」
「それを身体全部でブーストすんのと、
体っつー"アイマイ"なもんでブーストする…
どっちが速くなると思うか?」
「…!なるほどな!!」
つまり、あれか。
イメージの違いってやつだ。
俺はさっきまで腰一つで拳を振るってた。
体一つで。
だからこそ速度が出ない。
威力も出ない。
ヘナヘナパンチって訳だ。
ハウザーはそれを体全部の"関節"、
即ち身体でやってみろって言ってるのだ。
捻り、回した分だけ加速する。
全部の関節で加速した拳を叩き込めと。
「理解したか、ブラザー」
「ああ、多分、理解った!!!」
貯水タンクに向き直る。
大きく足を開き、腰を落とす。
拳は腰溜めに置いて。
瞳を閉じ…見開いて、全関節をぶん回す。
足の十指から始まって、足首、膝、腰。
同時に両手の十指も回して、肘、肩、おまけに
首も。
40だかそれ以上だか沢山ある背骨の関節で上半身と下半身の加速を合流。
全てのパワーを腰溜めに構えた右拳に集約ッ。
最後に手首をぶん回し、全部の加速を更に加速!!
「せえええ!!!!!!」
"───ガァァァァン!!!!!!"
拳を叩きつけたタンクは、
さっきなんかよりも更に鋭くなったことを告げる如く、
甲高い音を鳴らした!!!
「しゃッ……が、ぁぁぁぁぁ…!!!
い゙ッ手がいてぇ…!!!」
「HAッHAッHAッ!!ゼンリョクで手を突っ込んだら
そうなるだろ!!つーかホワイ、なんでタンクを殴ってんだい?」
「えっこれ殴れっことじゃ…」
「ブラザー、YOUはテンサイだな!!」
死ぬほど大笑いしてるハウザー。
普通に虚空に向けて殴ってりゃよかったらしい。
先にそれ言えやッッ……!!!
「だが、ワルくはない。いいスジだ。
BOY、おまえ才能あるぜ」
「まじっすかアニキ!!!」
「ああ、なんたって……」
「そのウルト、まだまだ"伸びる"ぜ」
「……まじ!?」
──────────────────────
私主催で開いた歓迎パーティも終わり、
みんなも…というよりも主に私と
セセラちゃんだけだったけど、
眠そうだったし眠たかったら、
布団を引っ張り出した。
でも明日も早いってことを理解してたんだろうね。
みんなも示し合わせたように寝る準備をして、
明かりも消した。
セセラちゃんを寝かしつけながら、
私もだんだんと瞼が重くなって、
そのまま寝落ちちゃった、と思うんだけど……
〝───ドガァァァァァァン…!!!!!!〟
「ッ…襲撃……!?」
凄い音がなって、飛び起きた。
甲高い音、上からだ。
心臓がバクバク鳴っていた。
あのタコ使いが戻ってきたのかと。
「うおっすげぇ!!!手も痛くねぇ!!!」
「な?言ったとおりだったろ?」
そんな心配はすぐに杞憂に終わった。
天井に空けた風穴、音の鳴ったそこから
スイとハウザーさんの二人の声が聞こえた。
男の子だし、寝付けなくて火遊びでもやったのだろうか。
夜更けに何をしてるんだとは思うけど。
でも何より、二人が楽しそうだった。
思えば、スイには負担を掛けてばっかりだ。
タコ使い戦では戦略面で頼りきりだったし、
2人への交渉もほとんどスイが頑張ってた。
そんなスイがようやく落ち着けて、
なんならキャッキャワイワイしてるとこに水を指すのも忍びない。
聞こえなかったふりをしてあげるべきだろう。
セセラちゃんもどうやら起きてないみたいだし。
明日の朝、覚えてたら軽く注意するだけにしとこう。
(それにしても、セセラちゃんも図太いね…)
図太いというか、タフネスというか。
あんな音が鳴っても起きる気配がない、
荷積みのときもお菓子をいっぱい積もうとしてたし、
がめついところがあるんだろうなって。
悪いとは思わない。
むしろ可愛げすら覚える。
13歳、中学一年。とは言え甘えたい盛りは抜けない年頃だろう。
子供とは本来こうあるべきなんだ。
がめついぐらいが丁度いい。
必要以上の我慢も毒。
抑圧なんて、しちゃいけないことだ。
「………ぅ……ぅぅん……」
「……おかぁ…さん…………」
と思ったが、案外そうでもなかったか。
そうだ、甘えたい盛りなんだ。
親もいなくなって、心細いに決まってる。
……なんて、私が言えたことでもないか。
スイは時折、自分を大変不健全な高校生と
揶揄するときがあるが、私も似たようなものだ。
こんな時になってまで、親の心配も、頼れない不安すらも覚えられないんだから。
「……寝よう」
嫌なことを思い出した。
こういうときは、早く寝るに限るんだ。
布団をかぶって、セセラちゃんを撫でながら、
また深い深い夢の中へと、意識を追いやった。
──────────────────────
俺は、震えていた。
目の前の貯水タンクが、ほんの少し…
だが明確に、凹んていたのだ。
確かなクレーターが作られていた。
その製作者は何を隠そう、この俺だ。
「こ、こいつが…"必殺技"……」
「イエア…伸ばしていけばまだ伸びる。
それはYOU次第だぜ、ブラザー」
「あざぁす!!!アニキィ!!!!」
キランと腕を振り、そそくさと階段下へ歩いていくアニキ…
ハウザーへ向け、俺はただひたすら頭を下げていた。
感謝してもしきれない。
この必殺技があれば、俺も戦える。
姿が見えなくなっても暫くは頭を下げていた。
キャンプコーナーにあったハンモックを持ってきて、
屋上で眠ることにした。
気分がいい。高揚感がある。
星空に浮かぶ輝きのひとつひとつが俺を祝福している。
そう感じることができる。
ネガティブ気質な俺には考えられなかったことだ。
明日からは忙しくなるな。
基礎体力も筋肉もつけていきたい。
というより、いっそ霊凪さんに指導を受けるのもありか。
あの人に頼らないことばかりを考えていたが、
プロに指導を受けれるならそれが一番いいに決まってる。
あの人筋トレが趣味らしいしね。
ほんと忙しくなるなぁ!!!
最も、浮かれてばかりでも居られない。
今最も気掛かりなのは「声」の三つ目の約束だ。
"███を助ける"。
誰を助ければいいのか分かんないのも問題は問題だが、
何よりも"助ける"というシチュエーションがネックだ。
つまるところ、そいつは既に何らかの脅威に晒されている訳である。
それも金銭面や生活困難的な意味合いでなく、
かなりの直球的な……
霊凪だけでなく、"俺も"強くならないと
どうしようもないぐらいの脅威に。
だって二つ目の約束はそういうことだろう?
助けられる奴は助け、ヤバそうな奴は
ボコすという方針を取ったのもこれが影響している。
どんな奴がどんな脅威に晒されてるか分からないなら
片っ端から全部に首を突っ込んでいくべきだ。
無視するという選択肢はもうない。
半ば確信している。
この約束を無視すれば世界は救えないと…
霊凪の夢を叶えることはできない、と。
「……本当に、忙しくなりそうだ」
まぁ、なんとかなるだろう。
霊凪さんだけでなく、ハウザー達もいるんだ。
それにこれからも仲間は増やすだろう。
取り敢えずあの陽キャカーに乗れるだけの人間は。
手数は必要だ。捜索も人手がある方が捗るからな。
初志貫徹。
きっとなるようになるさ。
眠くなってきた。
身体を動かした。
人とも喋った。
柄にもなく思慮に耽った。
今夜はよく眠れそうだ。
「グッド・ナイト、せかぁい……」
ハウザーのなんちゃってな真似をしながら、
俺もまた意識を手放した。
翌日。
ハウザーとセセラと陽キャカーが消えていた。




