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酔狂止明  作者: 大いなる林檎
第Ⅰ章 着水
7/12

第6話 登場!参上!!ゴリラッパー!!!


 ───あの激闘から、三日が経った。



 俺と霊凪の二人は、固い握手を交わした後、

 そのまま同時に気絶するように意識が飛んで

 泥のように眠っていたらしい。


 次に覚醒したときは屋根をぶち破ったのを忘れてて、屋根の風穴から日光がぶっ差し込んでるの見てビビっていた。



 目覚めた俺達は、ひとまず世界を救う第一歩として…

 そうでなくとも、こんな緊急時なら可能な限り人手は欲しいということで。


 店の中で装備を整え、このスーパーマーケットコムギを中心とした辺りの散策に出掛けることとなった。

 異様なまでに人気はないものの、俺達二人にあの男みたく、いない訳ではないらしい。


 馬鹿ほど少なくなってる上、なんか異様な力に覚醒めてこそいるものの、いない訳ではないのだ。


 俺達みたいな奴らをどうにか見つけ出し、協力にまで漕ぎ着ける為の行動だった。が…



「───驚いたね、

まさかここまで成果無しとは…」



 ⋯⋯コムギのスタッフルーム。

 照明が破壊されておらず、満足に冷房が働いてくれるそこで、備え付けだった折り畳み机を間に置いて俺達二人は向かい合っていた。


 机の上には加味に書かれた簡素な…辺り各地にまるで財宝が埋まってそうなバツ印がつけられた、なんちゃって地図。



 そう…この三日間、俺の学校を初めとした、公園、商業施設、公民館にホテル。

 道端に山程放置された車の中や、近場の避難シェルター…窓が空いているなら、人の家にだって侵入して、探し回った。


 結果、得られた情報というのはただ一つ。

 "やはり誰もいなかった"ということだけだった。


 霊凪と会う前、ただ街を散策してる時から薄々そうじゃないかとは思っていたが…改めて事実として突き付けられると、中々堪えるものがある。



 まるで世界が、あの時の3人しかいなくなったような錯覚を感じる…最低でも、半径5km程は本当にそうなのかもしれない。



「しくったね…こうなるんだったら

あの男を空の彼方に飛ばす前に

洗い浚い喋らせるべきだった……」


「まぁ…ぶっ飛ばしちゃったもんは

ぶっ飛ばしちゃったで変わらないからな。

ここからどうするかってのを考えようぜ」



 しょぼぉぉん…としょぼくれる霊凪。

 ここ三日接する中でわかったが、思いの外感情豊かである、こやつ。


 ご飯を食べるときや、花屋を見かけたとき、テンションこそ高くないもののコロコロとした表情のうつろいを見せていた。


 今もまたう~ん…とか、ぬぅ〜ん……とか、ネオンピンクの髪を揺らしながら、ここからどうするかを練っている。

 見ているだけで楽しい。やはり人とはいいものだ。




 ──まぁ、この三日、本当になんの成果もなかったのかと聞かれれば違う訳なのだが。



 例えばそう、第一に【異能(ちから)】の解明だ。

 特に俺の力…霊凪命名の《水鉄砲》についての詳細がかなり分かってきた。


 右掌をくぁって構えると放水され、その掌を握ると放水も止まる。

 更にそこから、最低でも一昼夜…俺的な感覚から判断して、恐らく" 無限に"放水が出来るというのが新たに判明した。



 一回検証のため…いや嘘だ。

 余りに茹だるような暑さだった為、打ち水効果で涼みながら探索をしようとし、おまけで発動してからどれだけ出せるのかを試したのだ。


 しかしこれが中々凄いことに、日が沈んでもまだ余裕そうだった。いっそのことこれで風呂も貯めるかとバスタブ引っ張ってきて水を張ってもまだまだ余裕。


 外で水を出しっぱにしながら眠って起きてみても全然出せた。この力、俺からなんらかのリソースを使って出している感覚が全くしないのだ。



 飲水も普通に可能だった。

 海水や、汚染された水ってことではないらしい。 

 ぬるいはぬるかったが。


 霊凪にも勧めてみたが渋い顔して断られた。

 他の人が飲むにはかなりの覚悟が必要みたいだ。

 体液の類じゃあないとは思うんだが……


 ともかく、それ故に俺の《水鉄砲》はサバイバル的観点からしてみれば、人権クラスの能力だということが判明した。

 飲水には困らないのは大きな利点だろう。



 …が、あいも変わらず威力は無論、射程距離や放水量の調節はどう頑張っても難しいようだ。

 出した水を操るなんてこともできない。

 温度調節も試したが、何をしてもぬるかった。


 言うなれば"残弾無限の水鉄砲"…正しく字は体を表すってことだな。



 で、だ。ポンコツの異能は置いておくとして。


 おまちかね霊凪の方の【異能】についてだが…

 こっちは俺の能力ほど詳細はわかってない。


 というのも霊凪のほうは一度使うとえらく体力を持っていかれるらしく、何があるかわからない時は基本的に使いたがらないのだ。


 それも発動できて1日1回が限度という程。三日前の気絶も、霊凪の方は能力の反動によるものだったのだろう。



 一度だけ、三日前の戦いで作られた、コムギのメイン出入口に作られた瓦礫の山を撤去する時に使っていた。


 やはり発動した時点で紅いオーラを纏い、凄まじい身体能力を獲得していた。俺達二人じゃ道具使っても動かせなかった家具の山をパンチ一発で吹き飛ばしていた。


 本人曰く、発動中は五感と言った感覚すら並外れて向上しているらしい。


 そのままどうせならと流れで強化状態のままバババッと街中を立体機動しながら探索していた…が、やはりと言うべきか、指折り数えて3分程で解除され、その後は半日ろくに動けていなかった。



 霊凪の【異能】は一発限りの切り札。

 そう考えておいた方がいいだろう。


 これからも戦う可能性は0と言えるわけじゃあない。最悪ぶっ飛ばしたあのタコ使いの男が舞い戻ってきてリベンジマッチという可能性もある。


 それも発動したって完全な無敵!というわけでもない。タフになるとは言え、殴られたら傷はつくし、時間制限までに耐えられるとこっちが殺られる。


 前回の戦闘みたく頼りっきりになるといつか足元を掬われるだろう。

 アニメオタクの頭脳がそう弾き出したんだから間違いない。



 霊凪の能力以外にも戦いを成立させれるだけの"何か"を早急に用意しておく必要がある。


 ……と、いうところですけれども。




(──そもそも戦うような人間自体、

本当にいるのかってところだよな)



 ようやく回想から抜け出た俺氏。

 未だにあいも変わらず悩んでいる霊凪であったが…決心したようにポンッと拳を手のひらに打ち付けて一言。



「…うん、遠征しよう」



──────────────────────



「───とは言ったけどさ、

ほ…ほんとにいけるんだよね?」



 コメリを出てすぐの道路。


 そこに佇む黒の軽自動車にありったけの物資をねじ込み、助手席に乗り込む霊凪は、不安げな顔で隣の運転手に何回目かの確認を取っていた。



「大丈夫だって、俺はレースゲームで

負けたことは一度もねぇ」



 そんな隣の助手席の霊凪に、恐らくなんの根拠になってない根拠による何回目かの返答を、シートベルトを締めながら返す運転手……


 まぁ俺だ。



 ──遠征…そう、簡単な話だ。

 近くにいないなら遠くを探せばいい。

 それでもダメなら更に遠くを。


 と、言うは易し。実際に行うに当たって、無視出来ない問題点が主に二つ存在していた。



 内一つは"車を使わないとあまりに現実的じゃないこと"が挙げられた。



 "ミィンミンミンミンミィンミン…"



 …なんてったって現在気温は38℃を優に

 超えようとする炎天下、真夏日。

 遠征するなら多量の物資は必要となる訳で、

 この環境下であれば車以外での移動法自体渋い選択と言える。


 荷物を背負って歩くなんて以ての外だ。

 能力があったって人は人、熱中症を

 舐めちゃあいけねぇ───────


 まぁともかく、そんなわけで車での移動をしようというところでも新たな問題点が生まれてくるわけで。



「あっ安心して、事故りそうに

なったらいつでも能力使って助けるから…!」



 めちゃくちゃ不安そうな苦笑いしながら

 緊急時は任せてと、念に念を入れ、

 更にそこから念を重ねた念のミルフィーユを

 作るような勢いで震えてる霊凪が良い例だ。


 そう、俺達二人は高校生。

 いいとこレースゲームと、1年半前ぐらいから見ていない親の運転してる光景が関の山という知識量。


 初心者ドライバーにいくらか先輩風を感じるほどの"素人"なのだ。運転免許なんて触れたことすらない。



「まっまぁ霊凪も安心しろって!!!

車なんてアクセルさえ踏めりゃ

いくらでも運転できんだよ!!!」


「じゃあスイ、そのアクセルってどっちだっけ」


「おいおい、バカにするのもよせよ…左だろ?」


「…右だよ」



「………ま?」


「コメリに車の取扱説明書ってあったっけな…」

 


 あかん、霊凪さんが一周回って物覚えの悪いガキを見る目でこっち見てくる。


 だ、だって仕方ねーじゃん!!!

 こっちは親元離れて長いし、そもそも運転席から足元なんて見れねーし…!!



「ってかそう言うなら霊凪が運転しろよ!」


「アクセルブレーキ以外わかんにゃい」


「猫被ったってもう遅いぞ」


「でも確かにアクセルすら間違える

スイより私のほうが適任かもしれないね…」


「貴様ァ゙……!!!」



 …まぁ、茶番はここまでにしとこう。


 確かに言い出しっぺは霊凪だが、どうにも自分で

 運転をするイメージすら湧いてなさそうだった。

 ナチュラルに初手で俺に頼むレベルで。


 まぁ事実、霊凪は事故った時の脱出要因だ。

 それだけのために身構えていてくれたほうがありがたいし、俺が助手席に座ったって茶々入れぐらいしか出来そうにないからいいっちゃいいのだが…


 ふぅと2、3度息を吐き捨てれば、刺さったまんまだった鍵を回し、エンジンを掛ける。



"ププププ…ロロロロ…!!!"


「うし。で、えー…

レバーを倒すんだったか」



 ギアっていうんだっけ、シフトだったか…?

 ともかく、映画とかでは毎度これを動かしてから運転していた気がする。


 NだとかDだとかよくわからん文字ばっかだが、俺はほんの少しそれらを見てから、迷うことなく"S"のところへとレバーを入れた。



「……案外手慣れてるんだね、

意外と車とかにも詳しかったり?」


「いや?全然。そっち方面は疎くてな」


「…?じゃあなんでそんな迷うことなく…」



「なんでって⋯⋯かっこいいだろ、S」


「…………かっ…こいい……………から……?」



 信じられないものを見たと言わんばかりに目をガン開いた霊凪。

 だが仕方ないだろう。

 昔っから迷ったときはSを選ぶ。

 そういうジンクスを持っているんだ。


 俺の信条その三、そう言い換えてもいい。

 車の運転なんか知らんが、Sだけは間違いないのだ。



「エンジンよーし、タイヤもよーし、

レバーはよーし……」


「あっちょっ、ま」



「彗ッいっきまぁぁぁ────!!!!!」



 ───ところで、俺はアホだが馬鹿じゃない。

 加減の一つも分からない車のアクセルを

 考えなしにベタ踏みなんてしない人間だ。


 勢いよく宣言して、かと思えばちょろちょろと進み出す車というギャップギャグをしようと思っていただけなのだ。

 決して、決っっして、その勢いに釣られて踏み間違えたとかじゃあないと断言できる。


 俺は確かに、ほんの少し、ほんの少しだけ、

 アクセルを踏んでいた筈だ──────



 だがしかし、俺は、俺達は、その瞬間…

 "S(セカンド)"の恐ろしさを、目の当たりにしていた。



 "ギュゥゥイイイイイイイイ!!!!!!!"


「「────ぁぁぁあああああッッ!?!?!?」」



 瞬間、ギュルルルと嫌な音がなった直後、想定の数十倍の速度で俺達の乗っていた車がかっ飛んでいた。


 ドンッと不意に胸に掛かったG。

 それに釣られて身体が強張り、

 脚に余計な力が入ってしまった。


 やらないと心に決めていたはずのアクセルの

 ベタ踏みが、タイヤの回転を更に加速させるッッ!!!


 二段階の加速を得た車の内部からの景色は、

 圧倒的なまでの速度で後ろにぶっ飛び続けていた!!!!!



「まずッまッまずまッあばばばッッ」



 まずい。

 ガチでまずい。


 ハンドルが万力を得たかのように

 震えていたッ。気を抜いたら腕が

 持っていかれるぐらいガタガタとッ!!


 ここで手を離せばどうなるかなんてのは容易い…

 制御が狂った俺等の車はそのままそこらのビルや家屋にでも俺達ごと突っ込み、二人揃って車とコンクリのサンドイッチの具材になっちまうことだろう。


 それもミンチ状のペーストにッッ!!!

 命が危ないッ死ぬ!!!!!



「たったいッたい焼き…タイヤ、じゃないッ

ブレーキ!!ブレーキ早くッ!!!」


「ブレーキだなッヨシ!!!!」



 あわあわと必死にドアポケットに掴まる霊凪に促されるまま、俺は考え無しにブレーキを踏み抜いた。

 恐らく人生史上の中でも1位2位を争うパワーで。


 もしこのどっちかがもう少し冷静か、

 あともうちょっと物理の知識を

 インプットしていれば、アクセルを離すなどして

 減速させてから、という案を取れたろう中で。



 "ガッ───フッ"



 ───ここ最近で何度目かの"浮遊感"が、身を襲った。


 フルの加速力で最高速度に至りつつあった

 車に急ブレーキをかけたのだ。


 そりゃあ、車が真っ直ぐ、縦に跳ね上がってしまうのも、無理はないだろう……



(────やっっっべ)


「だああああああ!!!!!!」



 窓越しのコンクリの地面を見ながら今回ばかりは死んだかと覚悟を決めていた時だった。

 赤いオーラに包まれた腕が、視界に飛び込んできていたのは─────────




〝ドッガァァァァァァァァ!!!!!!!〟




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




「──────考え無しだったわ、すまねぇ…」



 ……ビル前、俺は無様にうなだれていた。


 ホテルか何かなのだろう、ガラス戸で仕切られたエントランスに突っ込み、その内装を蹴散らし、轟々と炎上する車を時折眺めながら。



「いや、まぁ……うん。私が運転してても

ああなってただろうし…げ、元気だそ?ね?」



 横からの霊凪の言葉が身に染みる。


 …あの、車が逆さになりかけた瞬間。

 霊凪が即座に自身の異能を一瞬、発動した。

 赤いオーラに身を包んで、シートベルトをぶち破り、俺をお姫様だっこでキャッチしながら、ドアを粉砕して見事に地面へ着地。


 しかし、だ。運転手が離脱し制御を失った車は、

 俺の事前の想定通りの結末を辿っていた。


 二度三度派手にバウンドしながら、そのままこのビルに突っ込み、漏れ出たオイル。

 そこにひしゃげたエンジンからの火花か何かが触れてしまったのだろう。あとはそりゃもう派手ッ派手にドッカンと………



「ほら、まだ物資は残ってるし、

なんならスーパーはコムギだけじゃ

ないんだし…」


「代車とか見つけてさ!引っ張って、さ…!!」



「……それで行くしか…ないもんなぁ…」



 実際、車に頼れないのは中々の死活問題だ。


 先程さらっと流していたが、

 "シェルターにすら人が居なかった"と

 いうのはかなりの大事を暗に示している。


 緊急時、最も人が集まるだろう所でさえも人がいなかった。たった1人でさえも。

 ということはだ。単に俺らの知らない警報等で人が避難したわけではないのだ。


 となればこの…恐らく、最低でも街一つ分という出鱈目な数の人々はどこに消えたのだという話につながる。



 本当に、世界中から人が消えたのかも知れない。


 神隠しだかなんだか知らないが、そんな中で

 極々少ない"生き残り"を探すための旅をするんだ。

 徒歩頼りってのは絶対にいつかは限界が来る。



「…いいや、霊凪。やっぱここらの

車全部を乗りつぶしてでも運転法を学ぶ。

もう少しだけ付き合ってくれないか?」



 そうとなれば話は速い。

 とにかく必死で覚えるしかない。


 先程、レバーをSに入れたらだめだいうことを学んだように、一台一台丁寧にぶっ壊しながら、学べることを学んでいくのだ。 


 トライアンドエラー、トライアンドエラー、トライアンドエラーだ。出来るようになるまで繰り返してやる。何日掛かろうとも絶対に……!!!



「あ、うん。それはいいんだけどさ……

……なんか、聞こえない?」


「………んぇ?」



 と、そんな意気込んでいる時。

 霊凪は耳に手を当て、何かを聞いていた。


 釣られて俺も耳を澄ましてみる…が、やはり何も聞こえない。

 どっかに引っ付いてるんだろう蝉の声と、今しがたビルに突っ込んだ炎上車からの火の爆ぜる音以外……



 いや、待った。


 確かに何か、聞こえる。



 "───ズンチャカチャッ♪…ズンチャカッチャ♪"



「……"音、楽"…?」



 確かに、聞こえてきた音は音楽だった。

 文化的な…中々ノリノリで、アップテンポな。

 思わず鼻歌を混じらせたくなるような音だった。


 初めは二人まとめて日差しとすぐそばの炎の熱気に脳がやられたかと思っていたが、その音はどんどん大きく……近づいてきている。


 真っ直ぐ、一直線に…"こちらへ"と。

 幻聴の類じゃないらしい。



「…いや、しかも音楽だけじゃないよこれ」


 "……ブルルルルルルルルル……!!!"



「──"エンジン音"…!多分これ車だよ!

音楽かけてる車!!初めての

人だよスイこれ!!!」


「ああ…だろうな」



 久方ぶりの新たな人間の到来を感じ、ちょっとテンションが高くなってる霊凪を差し置いて、懐のパチンコと瓶入り七味唐辛子に手を伸ばす。


 人がやってくる、それはいい。

 求めていた者が来てくれて俺も嬉しい。


 だがそいつがあのタコ使いの男みたく、猟奇的な敵愾心を持っていない可能性がないとは言い切れないだろう。


 少なくとも警戒はしておくべきだ。

 なんなら、その男が車片手にBGM最大音量でこの前の復讐しに来たかもしれない可能性だってある。



「…どうする?隠れとく?」


「いや…もし友好的な人だった場合は

不信感を抱かせるだけだ。

このまま構えて待っておこう」



 と、俺の臨戦態勢を見て、 冷静さを 

 取り戻した霊凪もスッと目が据わった。


 まぁ…炎上までしてる事故現場付近に居る時点でまともな人間なら初手不信感コースだろうが、その上で隠れているよりもマシだろう。多分。



「わかった…気をつけてね」



 こうして二人共々、ピリッとした

 空気の中警戒を露わにした瞬間…見えた。


 俺達の目の前、道路の坂の曲がり角。

 そこ出てきた、猛烈なカーブを掛けてこちらにやってくる、白い車。


 リーゼントのように飛び出た車台の頭に、寸動のように太い形状…見て分かった。キャンピングカーだ。

 白のキャンピングカー…ではあるらしいのだが。



 ──爆音で鳴り響く音楽の出所だろう、クソデカダークボックス…よくライブ等で使われるあの"スピーカー"が、運転席の両隣にくっつけられていたり。


 クリスマスシーズンで使われるようなイルミネーションライトをグルグルと車体上部に巻きつけられていたり。


 所狭しにギャングの描いてそうなカラースプレーによる、ファンキーなアルファベットや、よくわからんキノコのモンスターが描かれた……



「……よ、陽キャな…」



 初めましての車に感じるイメージとしては少々おかしいその言葉を、いの一番に引っ張り出す程には陽気的なキャンピングカーがこちらへと走って来ていた。


 根源的な属性が陰の俺からするとかなり眩い車だ。

 すまないがあの車に乗ってる奴とはとても仲良くなれそうにない。

 唾吐いて帰りたい。帰れる状況でもないけど。



「……かっこいい」



 だが霊凪さんはお気に召したらしい。

 言われてみると能力使うと光るし、

 霊凪さんの根源的属性が陽の可能性も…


 なんて言ってる間に、車は俺達のすぐ目の前に止まった。

 途端、ドンッと勢いよく扉が開け放たれる。

 懐に隠し持つパチンコを握る力が強まる。


 さぁ、鬼が出るか蛇が出るか…

 出来れば蛸は出ないでほしいな。



「「───フォッフォーー!!!!!」」



 開け放たれた扉から、影が上へと飛び跳ねた。

 二つの声が聞こえる。


 一つはどっしりとした安定感のある声だった。

 男だ、恐らく成人済みの。

 もう一つはまだ若い。俺や霊凪さんよりも。

 中学生ぐらいだろうか、幼気のある、少女の声。



 跳ねた影が、俺達の前に落ちてきた。

 そいつらを…そいつを見て、俺が初めに感じた印象は"とにかくデカい"であった。



 先程声から推察した通り、一人は男だった。

 三頭身だか四頭身だかと思わせるぐらいに頭がでかい。

 いや、頭がでかいんじゃあない。

 髪の毛がでかいのだ。あれはアフロだ。

 凄まじい茶色のアフロだ!!


 でもって普通に骨格がいいんだろう、外人系だ。

 小麦色の肌、ピチピチの短袖短パン、太くデカい四肢とおまけに胴体。

 180cmはあるだろう。俺から見れば巨人のようにも見える。

 ゴリラだな、ゴリラだろう。多分ゴリラだ。


 いかにもなギザギザのグラサンを掛け、

 首の下になんとラジオを引っさげ、

 アフロを包むようにヘッドフォンをつけていた。

 耳当ての部分が耳に届いてない。あれでは

 ヘッドフォンの意味をなしてないんじゃないか。



 もう一人はその男の肩にちょこんと乗っかっていた。

 こっちはちまっこい。バカでかい男との体格差からか、人形にも見えてしまう。


 鉛筆の芯を思わすような濃い灰色の長髪に、

 男とは対照的な雪のように白い肌。

 インカムを付け、真夏なのにも関わらずオーバーサイズの黒い服を着ている。暑くはないんだろうか。



「Hey Hey Hey!!!何やらオコマリのようだなッ

 レディースアンッジェントルメェン!!!!」

「じぇんてるめんっ」


「ハナシを聞いてやらんでもないぞッブラザー!」

「ぶらじゃーっ」



 第二の印象は、とにかくテンション高いなコイツら、であった。


 さっきからかなりのボリュームの音楽が鳴りっぱと言うのに、それに負けない程の声量。

 やはり外人なのだろう、話す日本語に独特のイントネーションが含まれている。

 しかしそれだけじゃない…なんというか、

 声にハリがある。声優や歌い手のようなハリだ。


 あと肩の女の子が可愛い。

 逐一ゴリラの真似をしている。

 微笑ましい。



「……ああ、えっと、私達ちょっと人探しを

しようって思ってて、その為に車を運転しようって

なったら…ものの見事に事故っちゃって」


「フムッ!それはHOTでBURRN!なことだなッ!」

「ことだなっ」


「…というか、貴方達はどこの誰で…?」



 俺は努めて冷静に、警戒心をなるべく出さずに、

 あなた達はどこのどいつですか、と聞いたつもりだ。


 未だ警戒心は解いてないし、パチンコも手放してない。が、それでも二言目に缶がぶっ飛んでこなかっただけタコ使いよりかはマシな人達だろうと思い、出来うる限り温厚な声で聞いた。



 瞬間、二人の視線が一斉に俺を捉えた。


 えっ。

 何?

 睨まれてる?

 何か不味いこと聞いちゃった?

 あれか?出身がスラムとかで、それがピンポイントでコンプレックスだったとか?

 地雷原でタップダンスしちまったか…?

 こっこわいっ…!!やめてっ!!!

 そんなに睨んでもあたしは美味しくないわよっっ!!!


 と思ったら、プルプルと震えてふっと口角の上がった二人。



「よくぞ聞いてくれたな────」

「あいむたちのねーむをっ」


「…ど、どういたしまて?」



 よかった、なんか知らんが喜んでるっぽい。

 少なくともプッチンされて闇の中から沢山の触手を襲ってこさせるなんてことはないようで一安心一安心…


 名を聞かれて喜んだ二人は、突然ふっと肩の力を抜くと同時、後ろで流れる音楽のテンポに合わせて縦ノリを始めていた。

 懐からマイクなんかを取り出して、インカムやヘッドフォンを装着し直して……


 二人は口を開いた。



「よくぞ聞いてくれたオレっ達っのNAME!

それなら始めようこれっからっのコウリュウ!」


「オレらはルロウニラッパー!タイクツは撃退アッパー!

出会い頭に既にオサラバ!ドリームは全国ドームツアー!」


「バトル担当!自慢はスクリーム!!

覚えて帰りな!I'm a ハウザー!!!」



「ちぇけらっきざむぜ!セセラのビートっ!

せんきょくはきぶんしだいっよりっどりっみどり!」


「"あきた"なんて言わせないっ"あした"なんて忘れろっ!

ジュラシックよりジャイアントなちっちゃい音は!」


「DJたんとー!ディスクはあいぼー!

のりおくれるなっ!あいむあセセラ!!」



「「それがっおれたちイーサンシブリングズ!!

レジェンド志望のルロウニラッパー!!!」」



「Yey──!!」「ちぇけらっ」



 ───まさかのラップによる自己紹介を終えた2人を前に、手はもうパチンコを握っては居なかった。


 とにかくテンションの高い奴らだが、

 悪い奴じゃなさそうってのはよく伝わった。



「──い、いぇい…!隼海 彗だぜぇ…!」



 だからこそ、俺にしては超珍しく、精一杯、あっちのノリに乗ってこっちも自己紹介をした訳である。








 P.S.



「えっあっ……お…おういぇす…?

け、萱堂 霊凪……だ、よぉ…!!」



 日本人故の習慣(しゅうだんあつりょく)で戸惑いながら頑張る霊凪さんがかわいかった。

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