第2話 音のショウタイ
前回のあらすじ
なんてことない平々凡々な日々を送っていたこの俺こと不健康な男子学生、隼海 彗は!!
突如聞こえた謎の声!?より神託?を与えられ!三つの"約束"を果たしてみるべく外へと歩み出たのだった─────!!!!!
書いてみると意外となんもやってねぇんだな前回…
「───なんじゃあ…こりゃあ……」
夕焼け小焼けのメロディーに包まれ、自らの拠点より歩み出て早数分……
俺はそんなことをボヤいていた。
なんたって"人の気配"が全くもって"しない"。
夕日がもう沈み切ろうかという時刻、帰宅ラッシュもいいところ…だっつーのに、
右見ても左見ても人のひの字もありはしない。
それどころか車も車道に好き勝手止まってばかり。
中には建物の壁や電柱に頭から突っ込んでひしゃげている物だってある。
エンジンは掛かりっぱなし…だが中には人の影はない。
建物にも明かりこそついてるが…きっとあの中にも人は居ないのだろう。
人のいない街中がこんなにもおどろおどろしいもんだってことを、生まれて初めて、真に理解した。
「まじに世界終わるんじゃあねぇだろうな…」
まるで…まるでそう、何か大きな厄災が来ると警告され、一様に慌てて人々が退散したような…
それでもまだ何か引っ掛かる有様…
「声」からの"約束"のことなぞすっかり吹き飛びそうな程の異常事態。
だが、その「声」自身がこのことを予言…していたように思える今、そいつが頼んできた"約束"も、強ち無視していい事では無いのかもしれない。
…とは思いつつも…
「……しっかし、取り組むにしても
色々とアバウトなんだよなぁ…」
名前も知らない人探し。
一朝一夕で出来ることではない鍛錬。
何を助ければいいかを聞きそびれた救援要請…
一昔前のRPGでももうちっとまともなヒントを残してくれてるってもんだ。
そう文句の一つでも言いたい状況。
こういう時に探偵や警察は地道に事情聴取したりするんだろうが、今回に限ってはその肝心な人伝手が見当たらない。
萱堂 霊凪…日本人っぽい名前から、海外の可能性は
ないにしても…そもそも出会えるのか?
こんな広大な日本という国の中。
それも、異常事態の中で───────
"─────ガシャンッ!!!!"
「ひゃんッ…な、なんだなんだ…!?」
思わず、体が縮こまった。
異音…何が割れるような音が、静寂の街の中で酷くデカく聞こえた気がする。
籠もっていた。音が。
…どこか…屋内からの音……?
俺の視線は、一番近くの建物の、そのスーパーマーケットの看板に向けられていた。
「─────コムギ?」
──────────────────────
「───ひっでぇ有様だな……」
──入店して、本日何度目かの言葉を吐く。
人気は、なかった。
しかし、痕跡は山のようにあった。
好き勝手に荒らされている店内。
カゴやショッピングカートは無造作に転がっていて、地面や棚はところどころぶっ壊れて、砕けていた。
まるで…そこで漫画の中の怪物が暴れまわったかのように………
「……あ?」
ふと、視界の下らへんに違和感を抱く。
よくよく見てみれば、スーパーのよく掃除された白い床の上…そこに小さな"血"の跡が、点々と。
入口から…寝具コーナー、とでも言えばいいか。
布団や、色々な動物のぬいぐるみが棚に積まれてるそのコーナー。
他と比べて比較的荒らされていないそこへと…いや、そこから入口へとのどっちかの痕跡が、残されていた。
(…血が出てくるってことは、誰かが
怪我をしたんだ。傷を負って、多分、ろくな
手当てもせずに外に行くってのは…)
だが何故、わざわざ寝具コーナーへ?
怪我をしたなら、いの一番に行くべきは医療品コーナーだろ。
無いわけじゃない。このコムギにもちゃんとあった。
どんなに不器用や奴でもアルコールで消毒して絆創膏を貼るぐらいは出来るだろう。
…なら、"怪我を手当てする暇がなかったなら?"
もしもその怪我が、何者から負わされて、必死にこのスーパーに逃げてきたのなら?
隠れ家としてなら、確かにあの布団達は隠れるにはうってつけだ。
「───事情もクソも知らないし、
俺自身用事もあるんだが…」
「…助けが、必要なやつがいるなら、
見逃せねぇわな」
俺の信念、其の二。
困った奴はなるべく助けろ。
単なる考え過ぎであってくれることを祈りながら、俺は血の跡を辿った。
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"こつ"……
(──────)
…聞き間違いであってくれと、ただ祈った。
……"こつ"…"こつ"…"こつ"…
(────いやだ)
聞き間違いでないことを、突きつけられた。
遠くから、こちらに向かって、進んでくる、足音が、たった一つ。
心臓が痛い。近づいてくる何者かに聞こえるんじゃないかってぐらい、私の命は煩く高鳴る。
無理矢理抑えるように、胸を握りしめる。
足音は近づいてくる。
迷うことなく、私の方へ。
まるで道標でもあるかのように。
1つずつ、焦らすように、棚の端から布擦れの音がする。
布団を退かして、確認している。
子供の悪知恵なぞ…効かないか。
(ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい。
ごめんなさい、ごめんなさい。ごめんなさい、
ごめっ゙……ごめんなさいッ………)
縋るように、涙を堪えて、心の中で懺悔する。
音は、止まない。
布擦れの音は、近づいてくる。
(ごめんなざッ……ごめ─────)
───そして、布団の壁に挟まれた視界は晴れて、思わずギュッと目を瞑った。
⋯
⋯⋯
⋯⋯⋯
⋯⋯⋯待てど、暮らせど、何も起きなかった。
恐る恐る、目を開けると……
「………あ〜〜〜〜」
…男の子だった。
中学生ぐらいだろうか。
背は低く、暗い青色の、山のように尖った髪。
水のような瞳は…とても、私に執着して追ってきた者のそれとは、思えなかった。
ほっとしたような顔をして。
その次に、何か困ったように頭をかきながら、あ〜だの、う〜んだのと迷う素振りを経て…
何か決心したように、もう一度私に振り直る。
「…まぁその、なんだ。ひとまず落ち着いて、
深呼吸しよう。俺は、お前の敵じゃない」
「じゃあなんだって言われるとちょっと
返答に困るんだが…まぁ、強いて言うなら」
「──俺は、世界を救いに来たヒーローだ!!」
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───桃色に、更に赤を継ぎ足していったような、淡いネオンのピンク色の髪。
白の、しかし右腕を中心に赤く染まったセーラー服を着る女の人。
ひとまず、生きている人間に出会えた安堵感でほっとしつつ。
しかしふと、なんて声をかけようかと悩みに悩みあぐね…
結局、ザ・ヒーローみたく、片手を斜め上に掲げる決めポーズを取ってみて宣言はしたものの…
「……?…???」
ミスったわ。
言われずともわかる。
何言ってんだこいつ……って目だ。
う〜ん、登校初日のことを思い出す反応。
いや、でも待つんだ俺。
視点を変えてみろ。
むしろこれで最低でも敵と認識されることはないだろう。
"頭のおかしいガキ"って印象は、相手の警戒心をそこそこ解いてくれたんじゃないか?
ほら、やってることとしてはピエロや道化師のそれとなんらかわらな…
いや、それよりも。
「ちょ、ひとまず怪我の手当…いや、
逃げるのが先か…?お前、敵か
なんかに追われてたんだろ?」
「スーパー中からガシャンっ!って、
多分争ってる音だかが聞こえたもんだから
ここまで来たんだが───」
「───追われてる。けど、
ずっと聞き耳立てて隠れてたけど、
あんた以外の、"物音"なんて、一切…」
「……」
「は?いや、だって」
確かに、このスーパーから聞こえたはずだ。
方角は確かに、コムギの方から聞こえて─────
" ガシャン "
───もう一度、さっきと殆ど変わらない音が、ほんの少しだけ。店内に響いた。
悟った。
多分、目の前の女も。
この音は、コムギじゃない。
この音は、スーパーの"中から"じゃない。
道路から見て、このコムギの更に"向こう側"から、発していると、
" ガシャン "
" ガシャンッ "
" ガシャンッッ "
もう一つ、おまけに理解した。
音はだんだん、"でかくなっている"…否、その発生源が、"近くに来ている"。
音が鳴るたび、僅かに地面が揺れる。
何かを突き破りながら、音はどんどんこちらへ接近している。
一直線…迷うことなく………
"自分達の方へ"と──────
「───伏せて!!!!!」
「あ゙っ!!!」
ゾワリと鳥肌が立って、瞬間。
ゴンッ!と視界が地面に叩きつけられる。
鈍い痛覚が額から走る……!!!!
女に頭を掴まれ、力任せに一緒に伏させられた。
なんて力ッ、ひ弱な女子のそれじゃあない!!
…なんてツッコミを入れようと思った時だった。
〝 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォ─────────────────────────ッッ!!!!!!!! 〟
───爆弾でも落とされたかのように、俺たちのいた、寝具コーナーの棚。
その全てが、轟音が発されたと同時に、"吹き飛んだ"。
しゃがんでいなければ巻き込まれてミンチだったろう。
言いしれぬ胃の痛みを感じながら、とにかく爆風にふっ飛ばされないことだけを考えて、地面に蹲って……
"てち…てち…てち…"
素足で歩く、音が聞こえる。
「────ああ、ガキが一匹増えやがったなァ…」
爆風が止んだと同時に、そいつは文句を垂れた。
服の上から見ても理解るほどのヒョロガリ。
不揃いに生え伸びた髭が40代程の年齢であることを伝える。
餓鬼のように顔がくぼみ、頭蓋骨に似ているその顔は、死ぬほど緊張感に包まれた今の俺には、死神の
ようにも見えた男。
「あァ、今日はなんてツイてるんだ。
オレの力ァ…イッパイ使っていいってことだろ?」
「 ───嬉しいなァ゙ッ!!!!!
ォ゙じさんッッ!!!!!!!
殺す相手がッ゙増えてくれてェ゙よォ゙ォ゙!!!!! 」
蓋の空いてない缶ビール片手に。
両手を広げ、ぶち抜いた壁だった風穴を背に、喜ぶそいつの目に、正気の色は見えなかった。
一言で言うならば、
「────あかん、奴だ」




