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酔狂止明  作者: 大いなる林檎
第Ⅰ章 着水
3/4

第2話  音のショウタイ

前回のあらすじ


なんてことない平々凡々な日々を送っていた

この俺こと不健康な男子学生、隼海 彗は!!

突如聞こえた謎の声!?より神託?を与えられ!

三つの"約束"を果たしてみるべく外へと

歩み出たのだった─────!!!!!


書いてみると意外となんもやってねぇんだな前回…

「───なんじゃあ…こりゃあ……」



夕焼け小焼けのメロディーに包まれ、

自らの拠点より歩み出て早数分……

俺はそんなことをボヤいていた。


なんたって"人の気配"が全くもって"しない"。

夕日がもう沈み切ろうかという時刻、

帰宅ラッシュもいいところ…だっつーのに

右見ても左見ても人のひの字もありはしない。


それどころか車も車道に好き勝手止まってばかり。

中には建物の壁や電柱に頭から突っ込んで

ひしゃげている物だってある。エンジンは

掛かりっぱなし…だが中には人の影はない。

建物にも明かりこそついてるが…

きっとあの中にも人は居ないのだろう。


人のいない街中がこんなにもおどろおどろしい

もんだってことを、生まれて初めて真に理解した。



「まじに世界終わるんじゃあねぇだろうな…」



まるで…まるでそう、何か大きな厄災が来ると

警告され、一様に慌てて人々が退散したような…

それでもまだ何か引っ掛かる有様…


「声」からの"約束"のことなぞすっかり

吹き飛びそうな程の異常事態だが、

その「声」自身がこのことを予言…していたように

思える今、そいつが頼んできた"約束"も

強ち無視していい事では無いのかもしれない。


…とは思いつつも…



「……しっかし、取り組むにしても

色々とアバウトなんだよなぁ…」



名前も知らない人探し。一朝一夕で

出来ることではない鍛錬。何を助ければ

いいかを聞きそびれた救援要請。


一昔前のRPGでももうちっとまともな

ヒントを残してくれてるってもんだがって

文句の一つでも言いたい状況。こういう時に

探偵や警察は地道に事情聴取したりするんだろうが、

今回に限ってはその肝心な人伝手が見当たらない。


日本人っぽい名前だから海外の可能性は

ないにしても…そもそも出会えるのか?

こんな広大な日本という国の中、それも

異常事態の中で───────



"─────ガシャンッ!!!!"


「ひゃんッ…な、なんだなんだ…!?」



思わず、体が縮こまった。

異音…何が割れるような音が、

静寂の街の中で酷くデカく聞こえた気がする。


籠もっていた。音が。


…どこか…屋内からの音……?



俺の視線は、一番近くの建物の、

そのスーパーマーケットの看板に向けられていた。



「─────コムギ?」



──────────────────────



「───ひっでぇ有様だな……」



──入店して、本日何度目かの言葉を吐く。


人気は、なかった。

しかし、痕跡は山のようにあった。

好き勝手に荒らされている店内。カゴや

ショッピングカートは無造作に転がっていて、

地面や棚はところどころぶっ壊れて、砕けていた。

まるで…そこで漫画の中の怪物が

暴れまわったかのように………



「……あ?」



ふと、視界の下らへんに違和感を抱く。

よくよく見てみれば、スーパーの

よく掃除された白い床の上…そこに

小さな"血"の跡が、点々と。

入口から…寝具コーナー、とでも言えばいいか。


布団や、色々な動物のぬいぐるみが

棚に積まれてるそのコーナー。他と比べて比較的

荒らされていないそこへと…いや、そこから

入口へとのどっちかの痕跡が、残されていた。



(…血が出てくるってことは、誰かが

怪我をしたんだ。傷を負って、多分、ろくな

手当てもせずに外に行くってのは…)



だが何故、わざわざ寝具コーナーへ?

怪我をしたなら、いの一番に行くべきは

医療品コーナーだろ。無いわけじゃない。

このコムギにもちゃんとあった。どんなに

不器用でも消毒して絆創膏ぐらい貼れるだろう。


…いや、"怪我を手当てする暇がなかったなら?"

もしもその怪我が、何者から負わされて、

必死にこのスーパーに逃げてきたのなら?


隠れ家としてなら、確かに

あの布団達は隠れるにはうってつけだ。



「───事情もクソも知らないし、

俺自身用事もあるんだが…」


「…助けが、必要なやつがいるなら、

見逃せねぇわな」



俺の信念、其の二。

困った奴はなるべく助けろ。


単なる考え過ぎであってくれることを

祈りながら、俺は血の跡を辿った。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



"こつ"……



(──────)



…聞き間違いであってくれと、ただ祈った。



……"こつ"…"こつ"…"こつ"…



(────いやだ)



聞き間違いでないことを、突きつけられた。

遠くから、こちらに向かって、進んでくる、

足音が、たった一つ。


心臓が痛い。近づいてくる何者かに

聞こえるんじゃないかってぐらい、

私の命は煩く高鳴る。無理矢理抑えるように、

胸を握りしめる。


足音は近づいてくる。迷うことなく、

自らの方へ。道標でもあるかのように。



1つずつ、焦らすように、棚の端から

布擦れの音がする。布団を退かして、

確認している。悪知恵なぞ…効かないか。



(ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい。

ごめんなさい、ごめんなさい。ごめんなさい、

ごめっ゙……ごめんなさいッ………)



縋るように、涙を堪えて、心の中で懺悔する。


音は、止まない。布擦れの音は、近づいてくる。



(ごめんなざッ……ごめ─────)



───そして、布団の壁に挟まれた視界は

晴れて、思わずギュッと目を瞑った。




⋯⋯


⋯⋯⋯



⋯⋯⋯待てど、暮らせど、何も起きなかった。


恐る恐る、目を開けると……



「………あ〜〜〜〜」



…男の子だった。中学生ぐらいだろうか、

背は低く、暗い青色の、山のように尖った髪。

水のような瞳は…とても、私に執着して

追ってきた者のそれとは、思えなかった。


ほっとしたような顔をして、その次に、

何か困ったように頭をかきながら、

あ〜だの、う〜んだのと迷う素振りを経て…

何か決心したように、もう一度私に振り直る。



「…まぁその、なんだ。ひとまず落ち着いて、

深呼吸しよう。俺は、お前の敵じゃない」


「じゃあなんだって言われるとちょっと

返答に困るんだが…まぁ、強いて言うなら」



「──俺は、世界を救いに来たヒーローだ!!」



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



───桃色に、更に赤を継ぎ足していった

ような淡いネオンのピンク色の髪。

白の、しかし右腕を中心に赤く染まった

セーラー服を着る女の人。


ひとまず、生きている人間に出会えた安堵感で

ほっとし、しかしなんて声をかけようかとふと

悩みに悩みあぐね…結局、ザ・ヒーローみたく、

片手を斜め上に掲げる決めポーズを

取ってみて宣言はしたものの…



「……?…???」



ミスったわ。


言われずともわかる、

何言ってんだこいつ……って目だ。

う〜ん、登校初日のことを思い出す反応。


いや、でも待つんだ俺。視点を変えてみろ。

むしろこれで最低でも敵と認識されることは

ないだろう。"頭のおかしいガキ"って印象は

相手の警戒心をそこそこ解いてくれたんじゃ

ないか?ほら、やってることとしては

ピエロや道化師のそれとなんらかわらな…


いや、それよりも。



「ちょ、ひとまず怪我の手当…いや、

逃げるのが先か…?お前、敵か

なんかに追われてたんだろ?」


「スーパー中からガシャンっ!って、

多分争ってる音だかが聞こえたもんだから

ここまで来たんだが───」



「───追われてる。けど、

ずっと聞き耳立てて隠れてたけど、

あんた以外の、"物音"なんて、一切…」



「……」


「は?いや、だって」



確かに、このスーパーから聞こえたはずだ。

方角は確かに、コムギの方から聞こえて─────



    " ガシャン "



───もう一度、さっきと殆ど変わらない

音が、ほんの少しだけ。店内に響いた。


それで悟った。多分、目の前の女も。

この音は、コムギじゃない。

この音は、スーパーの"中から"じゃない。

道路から見て、このコムギの更に

"向こう側"から、発している。



" ガシャン "


" ガシャンッ "


" ガシャンッッ "



もう一つ、おまけに理解した。


音はだんだん、"でかくなっている"…否、

その発生源が、"近くに来ている"。

音が鳴るたび、地面が揺れる。何かを

突き破りながら、音はどんどんこちらへ

接近している。


一直線…迷うことなく………

"自分達の方へ"と──────



「───伏せて!!!!!」


「あ゙っ!!!」



ゾワリと鳥肌が立って、瞬間。

ゴンッ!と視界が地面に叩きつけられる。

鈍い痛覚が額から走る……!!!!

女に頭を掴まれ、力任せに一緒に伏させられた。


なんて力ッ、ひ弱な女子のそれじゃあない!!


…なんてツッコミを入れようと思った時だった。




〝 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォ─────────────────────────ッッ!!!!!!!! 〟




───爆弾でも落とされたかのように、

俺たちのいた、寝具コーナーの棚。

その全てが、轟音が発されたと

同時に、"吹き飛んだ"。


しゃがんでいなければ巻き込まれて

ミンチだったろうことに言いしれぬ胃の痛みを

感じながら、とにかく爆風にふっ飛ばされない

ことだけを考えて地面に蹲って……



てち…てち…てち…


素足で歩く、音が聞こえる。



「────ああ、ガキが一匹増えやがったなァ…」



爆風が止んだと同時に、そいつは文句を垂れた。


服の上から見ても理解るほどのヒョロガリ。

不揃いに生え伸びた髭が40代程の年齢で

あることを伝える。餓鬼のように顔がくぼみ、

頭蓋骨に似ているその顔は、死ぬほど

緊張感に包まれた今の俺には、死神の

ようにも見えた男。



「あァ、今日はなんてツイてるんだ。

オレの力ァ…イッパイ使っていいってことだろ?」


「 ───嬉しいなァ゙ッ!!!!!

ォ゙じさんッッ!!!!!!!

殺す相手がッ゙増えてくれてェ゙よォ゙ォ゙!!!!! 」



蓋の空いてない缶ビール片手に、

両手を広げ、ぶち抜いた壁だった風穴を背に、

喜ぶそいつに正気の色は見えなかった。


一言で言うならば、



「────あかん、奴だ」

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