第1話 最初のデアイ
「─────あっっっづ…なぁんで
こうも地球温暖化ってのは年々勢いを
増し続けるんだかねぇ……」
⋯⋯俺の部屋で、俺が項垂れる。
20XX年、一足早い夏休み初日。
大体13時ぐらい、某ボロアパート、404号室。
そこがこの俺、【隼海 彗】の順風満帆…とは決して言い難い、学生生活の主な拠点だ。
1LDK。トイレは備え付け。
エアコンなし、ファンなし、冷蔵庫あっても電源はオフ。
あるのは一昔前の扇風機と最新鋭のゲーム機達と、夏コミなんかで無料で配られた無機質なロゴの描かれたプラスチックのうちわ…
…と、申し訳程度に部屋の隅に畳まれた布団と、そのうえに乗っかる数着の生活着達。
最早生活の一部となったが故、見慣れた光景だが…やっぱりなんというか、寂しい部屋だ。
もっとこう彩りというか、生活感というか、欲しい。
しかしお金がない。諦めるしかない。あーめん。
「……俺がこうして極熱地獄に耐えてる時に、
世の学生諸君は青春を謳歌してると考えると…
来るものがあるな!!ははっ…くっ……」
大の字に寝っ転がる。
ササクレ立った畳が服越しに背中をチクチク攻撃する。
お前まで敵になるというのか、畳よ…!!
…ま、言わずとも理解るだろう。俺はボッチだ。
高校デビューで盛大にポカして以降、1年と3ヶ月弱程の期間は孤高の王様を貫いている。
恋愛?ねぇよ。うるせぇよ。
並ほどの成績を精一杯の努力でなんとか保ちつつ、余った時間はひたすらソロの建築ゲーに注ぎ込む。
出来上がったそれをネットに投稿し、数千のフォロワー達からの賞賛でちっぽけなプライドを満たす日々…
つまるところ、大体不健全な男子学生って訳だ。
泣けてくるぜ。
「ああ…世界滅びねぇかな……」
ボケ〜と天井の照明から垂れ下がる引き糸を眺める。
本日何百回目かのボヤきを零す。
いやまじに滅ぼられるとかなり困る訳だが、しかし意気揚々両親を説得し、高校から独り立ちし、さぁいざデビューをって時にこれなのだ。
世界への文句ぐらい好きに垂れさせてほしい。
「滅びますよ」
「はは、そりゃあいいな。
滅びるんだったらエグチとコーラで
ぱーーっと祝って………」
………まて。
なにかおかしい。
返ってくるはずのない返答が返ってきている。
慌てて跳ね起きて、言葉の返ってきたほうを見る。
……が、誰もいない。確かに頭の後ろらへんから
話されたと思ったのだが…誰も、いない。
「…なんだ、俺も遂に幻聴に目覚めたって訳か」
ぼっちを極めると存在もしない他人の言葉が聞こえ始めるとネット上では面白可笑しく言われているが、あれはマジだったのだ。
あれはガチのマジの精神的なあれだったのだ。
懺悔するよ…俺……俺もあのネタで笑っちまっていた気がする……ごめんまじ………
そして今日から俺は窮極ぼっちの味方だ。
ボッチ・ナイトだ。あのネタで笑う人間を撲滅するレスバマシーンとなってやる。
俺達を笑う奴は誰一人だろうと──────
「幻聴ではないですよ。スイ。
私は、マジに、貴方に、喋りかけてます」
───はっきりと、もう一度。
この…恐らく女性、それも恐らく同年代っぽい「声」は、俺の鼓膜に届いた。
やっぱり、後ろから……だが、振り返ったって誰もいない。
頭の後ろに何かが張り付いてる可能性を考え、後頭部を雑に撫でてみても、何もいない。
「……えっがち?」
「がちです」
「マジの?」
「マジのです」
「神?」
「神です」
「わーお…」
「わーおです」
こいつは驚いた…幻聴と会話ができるっじゃあないか………!!!!
いや、違う。これは幻聴じゃない。
確かな意思を持った何者か…
……本物の"神"、なのか…?
「唐突にごめんなさいですが、時間がありません。
手短に言います。世界はマジのガチに滅びます」
「…あの、あれ?こう、漫画とかでよくある
"だからあなたが世界を救うのです!"…的な?」
「違うです。貴方じゃ世界は救えません」
「…⋯⋯⋯」
「えっじゃあ何しろと?」
"こういうときはその流れがテンプレってもんじゃないのか???"…という疑問符が、俺の脳内を埋め尽くす。
というかそんなにキッパリ断言しないでくれ。
こういう展開に憧れがないわけじゃない。
凹んでしまうぞ。
「貴方がやるべきことは三つです」
「1つ、萱堂 霊凪を導いてあげて」
「1つ、もっと、もっと、強くなって」
「そし──"ザザッ"────と─"ザッ"──」
「…ちょっお、おい…!最後の!
最後のなん……だッ………!?」
───淡々と言葉を告げる「声」に、強いノイズが掛かった。
最後の言葉が、途切れ途切れにカットされる。
それと同時に、脳天に一筋、雷鎚が走る。
「───じ"ザッ"─か──っ─"ザザッ"─の─────つ"ザザザッ"───"ザザッ"た──ど───」
「──"ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザッッッッッッ"」
ノイズが、煩く、鼓膜を、脳を、殴り付ける。
言葉が完全にノイズに切り替わった瞬間、酷い頭痛が、思考の全てを支配し始める。
立っていられない。
崩れ落ちて、どうしようもなくただ畳に指を食い込ませ、力の限りに引っ掻く。
「〜あ゙ッ……がッ゙…………!!!」
どうしようもなく、痛みは続く。
止まらない。
とまらない。
とまらない。
とまら…
と──────────────
「 〝 ███ 〟を、たすけて 」
────今にも泣き出しそうな声で、最後の約束を「声」が言い終えた瞬間。
俺の意識は ぶ つ 切 り に な っ た。
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「─────────あ?」
───夕日に照らされ、瞼をこじ開ける。
意識が戻った。
声は……もうしないか。
「ああ……ったく。俺の貴重な休みを
丸々潰しやがって………」
「………」
「………あれは、幻聴…だったのか……?」
脳裏を過ぎる、先の声。
自称神、世界滅びる、救えとは言わずに、しかし仕事はきっかり押し付ける。
単なる幻聴…にしては異様に意思の強い幻聴だ。
もっとこう、一般的な幻聴って意味もわからない単語の羅列とか、書き表せないような言葉にすらならない音とかじゃあないのか……?
「⋯⋯⋯ま!!どうでもいっか!!!
世界滅びるなら滅びるでエグチと
コーラでぱーと騒ごう!!」
「オールしてぇ…ゲームしてぇ……」
そうだよな…!!考えたって理由のわからないことは考えたって無意味なんだから、ならば気にせずいつも通り過ごそうじゃないか!
たまには奮発してミグロナルドにでもいこう!
ミグロナルドに行って、エグチでも食べに……
食べに…………
「───なんて、言えるわけ、ねぇよな」
───布団の上の畳んであるそいつを引っ張り出す。
ここ一番の気合が欲しい時の勝負服。
青のインナーカラーの黒パーカーを取り出し、チャックを開け放ったまま、医者が白衣を着るようにバァサッ!と羽織る。
背中の青色のSの字が、俺に勇気を与えてくれる。
理由の欠片とてわからない。
そもそも俺の完全な幻聴なのかもしれない。
ただ…推定だが、女の子が、あんな泣きそうな声して助けてと頼んできたのだ。
ここで黙って見過ごせば、それこそ漢が廃る。
「それプラス…俺の信念、其の一。
"一度頼まれたことはやれるだけやってみる"」
なし崩し的に…つーか、俺一切"頼まれた!"だとか言った覚えはねぇが、
それでもやり遂げるのが俺なりの流儀ってものだ。
「まっこれで本当にただの幻聴で、
世界は至って健全に回り続けていても
その時は究極のボッチに"頭のおかしな"って
称号が付くだけだしな!!!」
そんなもの、最早屁でもない。
変な称号ついても、それをイジられる程の仲の友すらいねぇんだからな…!
「やってやろうじゃねぇか。
堂々と、この世界を救って…救っ……
う〜ん………まぁいいか」
「救ってやるぜ────ッ!!!!!」
意気揚々とドアノブに手をかけて、
意気込み上等で捻り開け。
俺は一歩、始まりのスタートを踏み出した!!




