そしていつもの3人旅ー
その日は気持ちの良い晴天だった。
宿の近く。
人の寄りつかない川縁の草むらに、ウルフは大の字になって寝転がっている。
頬を撫でる風が心地よい。
雲ひとつない青空を見上げながら、口には火のついていないタバコを咥えていた。
指先で箱を弄ぶ。
ライターもある。
火をつけようと思えば、いつでもつけられる。
だが、つけなかった。
静かに目を閉じる。
思い浮かぶのは、この数日の出来事。
ベルのこと。
ミリィのこと。
そして、自分が勝手に思い込んでいたこと。
「……まったく」
小さく笑う。
「俺もまだまだだな」
そう呟くと、懐から使い込まれた金のライターを取り出した。
蓋を弾く。
乾いた金属音が、川のせせらぎに溶けていく。
親指で石を擦ると、小さな火が灯った。
その炎をタバコの先へ寄せる。
先端がじわりと赤く染まり、白い煙が細く立ち昇った。
ウルフはゆっくりと煙を吸い込み、静かに空へ吐き出す。
青空へ溶けていく煙を眺めながら、何も言わず目を細めた。
と、その瞬間だった。
不意に陽射しが遮られ、ウルフの顔へ影が落ちる。
何気なく目を開くと、自分のすぐ頭上に小さな人影が立っていた。
ミリィだった。
逆光の中、じっとこちらを見下ろしている。
風に金色の髪が揺れても、その表情だけはぴくりとも動かない。
ウルフは片眉を上げ、いつもの調子で口笛を吹いた。
「HEY! そんなとこに立ってると、パンツ見えちまうぜ?」
軽口だった。
ミリィの顔が真っ赤になり、慌ててスカートの裾を押さえる。
「さ、最低ですっ!」
ぷりぷりと頬を膨らませ、ウルフを睨みつけた。
その後ろから、呆れたような顔のベルがひょこりと姿を現す。
「ウルフー、また余計なこと言ってー」
困ったように笑いながら肩をすくめる。
ウルフはそんな二人を見て、一瞬だけ呆気に取られた。
そして、ゆっくりと口元を緩める。
「……そうでなくっちゃ」
その反応に、ミリィはさらに頬を膨らませた。
「何笑ってるんですか!? 反省してください!!」
「悪い悪い」
まるで悪びれた様子もなく片手を上げる。
「どつせまた口だけです!」
「くぅーっ!バレたかぁっ!」
そう言って笑うウルフに、ベルまで吹き出した。
「もう、二人とも」
その声に合わせるように、川辺を風が吹き抜ける。
ウルフは青空を見上げた。
さっきまで胸の奥に引っ掛かっていたものが、風と一緒にどこかへ流れていく。
怒るミリィ。
呆れるベル。
そして、それを笑って受け流す自分。
何一つ変わっていない。
だからこそ、ようやく確信できた。
この街でのこと、すべては悪夢だったのだと。
そしてシスターアリスの真実がどうであれ。
二人のベルにとって、見てきたシスターアリスこそがすべてだった。
あの人が見せてくれた笑顔も。
優しく頭を撫でてくれた温もりも。
叱られた日の厳しさも。
全部が本物だった。
だから二人は静かに納得していた。
あの愛が。
あの正しさが。
偽物なはずがないのだと。
ひとしきり笑い合ったあと、ベルがぱんっと手を叩く。
「じゃー次の街へ行きましょうか!」
その声に、ミリィは小さくため息をついて気持ちを切り替えた。
そして顔を上げる。
「はい!」
さっきまで怒っていたとは思えないほど元気な返事だった。
その様子を黙って見ていたウルフへ、ベルがにこりと笑って手を差し出す。
「どうしたの? 早く行こ!」
続いてミリィも、少しだけ頬を膨らませたまま片手を伸ばした。
「罰として、次の街まで荷物持ちですからね?」
ウルフはそんな二人を見つめ、ふっと笑う。
ゆっくりと両手を伸ばし、それぞれの手を握った。
「せーのっ!」
声を揃えたベルとミリィが力いっぱい引っ張る。
草の上から立ち上がったウルフは、そのまま手を離さなかった。
ベルも。
ミリィも。
誰一人、離そうとはしなかった。
三人は並んで歩き出す。
手を繋いだまま。
いつものように。
笑顔のまま。
次の行き先は、また歩きながら決めよう。
きっと、それが一番三人らしいのだから。




