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【World Wide Love ― 2人で1人の逃走譚 ―】  作者: KK
【第2部】第5章ー古代遺跡の謎ー

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時には花の似合う少女のようにー

デッドエンドの笑い声が遺跡に響き渡る。


「キャハッ♪キャハハハハハハハッーーー♪」


甲高い笑いが石壁に反響し。


何度も。


何度も。


ベルの耳へ突き刺さる。


ベルは地面に両手をついたまま動けない。


涙が止まらない。


視界は滲み。


目の前の光景さえまともに映らない。


その時。


こつり。


軽い音がした。


デッドエンドの足先が。


ゆっくりとベルの頭へ乗る。


そして。


ぐり、と。


踏みつけた。


「ねぇー今ーどんな気持ちー?」


ベルの身体が小さく震える。


デッドエンドはその反応が面白くてたまらない。


口元を歪め。


舌を覗かせ。


さらに笑う。


「デッドちゃんのことで頭がいっぱい?」


「胸いっぱい?」


少しだけ体重をかける。


ベルの髪が床へ押し付けられる。


「それってーデッドちゃんに恋しちゃってるのかもー?」


「キャハッ」


また笑う。


無邪気に。


残酷に。


ベルは声にならない息を漏らした。


顔を上げられない。


目も開けられない。


耳だけが。


その笑い声だけを聞き続けていた。


デッドエンドはしゃがみ込み。


ベルの顔を覗き込もうとする。


「ほらほらー」


「もっと泣いてよー」


「デッドちゃん見てると元気出るっしょー?」


くすくす。


いや。


キャハキャハと。


楽しそうな笑いだけが遺跡中へ響き渡っていた。


デッドエンドは鼻歌を歌いながら歩いていく。


軽やかに。


くるくると回りながら。


その手がひらりとスカートの中へ潜る。


次の瞬間。


銀色の光が二つ。


左右の手には、いつの間にかナイフが握られていた。


どちらも逆手。


刃先が床を向いている。


デッドエンドは振り返り、満面の笑みを浮かべる。


「ねーねー見てー」


そのままミリィとウルフへ近付いていく。


「今からクソザコミリィとクソザコウルフにー」


ベルがゆっくりと顔を上げた。


涙で滲んだ視界の向こう。


デッドエンドは二人の前で立ち止まる。


そして。


まるで踊るように。


くるりと身体を回した。


両腕が天へ伸びる。


左右のナイフが高く掲げられる。


ベルの瞳が大きく見開かれた。


「…や…やめて..」


震える声。


届かない。


「やめてーーーー!」


デッドエンドは驚いたように目を丸くした。


そのままベルを見る。


数秒。


静止した後。


にんまりと微笑んだ。


「やーーーめないっ♪」


その場へしゃがみ込むように腰を落とす。


同時に。


両腕が勢いよく振り下ろされた。


ざくり。


ざくり。


左右のナイフが。


ミリィとウルフの背中へ深々と突き刺さる。


「い….いやあああああああああっーーー!」


ベルの絶叫が遺跡を揺らした。


しかし。


二人は動かない。


微動だにしない。


声もない。


悲鳴もない。


血さえ流れない。


まるで。


すでに2人とも命は消えていた。


それでも。


デッドエンドは嬉しそうだった。


「キャハッ♪」


「刺さった刺さったー♪」


ナイフの柄から手を離し。


ぱちぱちと拍手する。


笑う。


無邪気に。


残酷に。


その笑い声だけが。


ベルの悲鳴をかき消すように。


遺跡の奥深くまで響き渡っていた。


デッドエンドは笑顔のまま、再びスカートへ手を差し入れた。


ごそごそと探る仕草の後。


銀色の刃が二本。


新たなナイフを取り出す。


逆手に構え。


くるくると指先で回す。


「どんどんいくねー♪」


上機嫌だった。


そのままミリィとウルフへ向き直る。


「それじゃー次はー」


か細い声が聞こえた。


「やめて…」


デッドエンドがぴたりと動きを止める。


そして、わざとらしく片手を耳へ当てた。


「えーなぁにぃー?」


「聞こえなーい♪」


ベルは俯いたまま。


震える唇で。


もう一度。


「やめて…」


そして。


ゆっくりと。


顔を上げる。


「やめて…」


両足に力を込める。


「やめなさい…」


立ち上がった。


その瞬間。


デッドエンドの笑顔が固まる。


「な…なんだし、それ」


驚きを隠せない。


ベルの髪が揺れる。


肩までだった黒髪が。


するすると伸びていく。


腰まで。


膝まで。


床へ届くほど長く。


同時に。


色が変わる。


黒が。


銀へ。


月光を溶かしたような銀色へ。


一本残らず染まっていく。


瞳もまた。


静かに赤く光を帯び始めた。


その赤は。


怒りでも。


憎しみでもない。


底知れない静けさだった。


デッドエンドの頬を汗が伝う。


後ずさる。


一歩。


また一歩。


「ま...まさか、ま、魔王殺し…!?」


震えた声。


しかし。


すぐに首を振る。


「ち…ちがう」


完全に銀色へ染まった髪は。


そのまま床へ広がるほどの長さになっていた。


静寂。


ベルがゆっくりと顔を上げる。


赤い瞳が。


まっすぐデッドエンドを見た。


「やめてって…言ったのに」


その一言だけだった。


だが。


空気が変わる。


遺跡そのものが息を止めたような圧。


デッドエンドの足から力が抜けた。


その場へ尻餅をつく。


腰を抜かしたまま。


必死に後ずさる。


「デ、デデデデデッドちゃんは悪くないもんっ!!」


声は裏返り。


さっきまでの余裕はどこにもなかった。


声が震える。


だが。


ベルは動かなかった。


ただ立っている。


床へ広がる銀の髪。


その一本一本が微かな光を帯びている。


そしてその赤い瞳がただ、


デッドエンドを見つめていた


ごくり。


無意識だった。


握っていた二本のナイフがかちゃりと音を立てる。


指先に力が入らない。


「ち、違うもん!」


「デッドちゃん悪くないもん!」


必死だった。


言い訳のように。


自分へ言い聞かせるように。


叫ぶ。


ベルは答えない。


ゆっくりと。


一歩。


前へ踏み出した。


こつ。


その足音だけで。


デッドエンドの肩が大きく跳ねる。


「ひっ……」


また一歩。


こつ。


銀の髪が床を滑る。


長い裾のように。


音もなく広がっていく。


デッドエンドは震える手でナイフを構えようとした。


しかし。


腕が上がらない。


身体が動かない。


目の前の存在から。


目を逸らせない。


ベルは静かに口を開く。


「返して」


短い言葉。


デッドエンドは理解できない。


「……な、何を?」


赤い瞳が揺れることはない。


「ウルフを」


少しだけ間を置いて。


「ミリィを」


静かな声が。


遺跡の奥へ溶けていく。


「返して」


その言葉と同時に。


世界そのものが揺らいだ。



ぱきり。


何かが割れる音が響いた。


小さな音。


けれど次の瞬間。


世界そのものに無数の亀裂が走る。


石壁が砕ける。


天井が崩れる。


デッドエンドの姿も。


遺跡も。


床も。


全てが硝子細工のようにひび割れ、光の欠片となって崩れていった。


ベルは呆然と立ち尽くす。


やがて。


視界が暗転した。


何も見えない。


何も聞こえない。


ただ静かな闇だけが続く。


そして。


ゆっくりと光が戻った。


そこは遺跡ではなかった。


廃村。


朽ちた家々。


崩れた石垣。


停められたままの馬車。


最初に足を踏み入れた場所。


ベルの足元には。


ミリィとウルフが倒れていた。


思わず駆け寄る。


震える手で二人を見る。


背中には。


ナイフはない。


服も破れていない。


血の跡もない。


その代わり。


すぅ。


すぅ。


規則正しい呼吸だけが聞こえてくる。


眠っている。


ただそれだけだった。


ベルの瞳が揺れる。


「え…なんで…?」


理解が追いつかない。


さっきまで見ていたものは。


何だったのか。


その時。


ベルはゆっくりと顔を上げた。


ミリィとウルフの向こう。


少し離れた場所。


白い花弁に覆われた細身の人影。


巨大なチョウセンアサガオを頭に咲かせた怪人。


ダチュラドール。


白い花粉を静かに舞わせながら。


最初からそこにいたかのように。


何一つ変わらぬ姿で。


じっとベルを見つめて立っていた。


ベルは呆然と立ち尽くしていた。


倒れたミリィ。


倒れたウルフ。


規則正しく上下する背中。


耳を澄ませば。


確かな寝息。


「今までのは…夢?」


小さく呟く。


すぐに首を横へ振った。


「いえ、幻覚?」


その言葉と共に。


ベルは静かに立ち上がる。


銀色の長い髪が風もないのに揺れた。


赤い瞳が。


真正面に立つダチュラドールを捉える。


右手をゆっくりと持ち上げる。


真っ直ぐ。


怪人へ向けて。


そして。


静かに告げた。


「消えなさい」


その瞬間だった。


ダチュラドールの身体が揺らぐ。


白い花弁が霞む。


輪郭がぼやける。


まるで蜃気楼のように。


ふわりと。


音もなく。


その姿は空気へ溶けていった。


残ったのは。


その背後にいた一人の女。


キンサシャ。


両手に抱えた水晶玉を舌で舐めたまま。


ぺろり、と舐める寸前の姿勢で。


時間だけが止まったように固まっている。


ベルは静かにその姿を見つめた。


「やっぱりあなたも…いるのね」


返事はない。


キンサシャは動かない。


瞬きもしない。


呼吸さえ感じられないほど静止したまま。


ただ。


水晶玉だけが。


微かに光を失い始めていた。



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