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【World Wide Love ― 2人で1人の逃走譚 ―】  作者: KK
【第2部】第5章ー古代遺跡の謎ー

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新たなる脅威ー

ハーブが頬に手を当て、困った様に眉を寄せる。


「だからー最初は連れ帰って研究するのに、いろいろ実験して、最後は解剖して研究と考えていたのだけれど」


その言葉にベルが両手で体を抱きしめる様にして震える。


ハーブは小さくため息を吐いた。


「そうもいかなくなっちゃったの。困ったわ」


そして両手をパンッと打ち合わせる。


にこやかな笑顔。


「でも、とりあえず連れ帰るのは連れ帰るわね。後のことはそれから考えましょ」


そうして唇に人差し指を当て、にんまりと笑う。


「やることやったら、もうどうでも良くなるかも知れないし」


体を抱き抱えたまま、顔を青くするベル。


「ちょ…ちょっと…何勝手なことばかり言ってんのよ!」


「あらあら」


ハーブは楽しそうに笑う。


その横で。


ウルフとミリィは固まっていた。


数秒。


完全に思考が止まる。


先に復帰したのはウルフだった。


「HEY」


真顔だった。


「今、告白の話よりヤベェ話が混ざってなかったか?」


「混ざってました」


ミリィも真顔で頷く。


「かなり」


「だよな?」


「はい」


ベルは半泣きで二人を見る。


「そこ!?」


「そこだろ」


「そこですね」


綺麗に意見が一致した。


ハーブはくすくすと笑う。


「だって本当だもの」


「本当だから怖いんだよ!」


ベルの悲鳴がホールに響く。


ハーブは首を傾げた。


「でも好きなのよ?」


「好きな人にする話じゃないから!」


「そうかしら?」


「そうだよ!」


ミリィは頭を抱えた。


ウルフは煙草を咥え直す。


「恋愛観がロック過ぎるぜ……」


「研究者だから」


ハーブはにこりと微笑む。


全く悪びれていない。


ベルはさらに一歩後退った。


ハーブはそんなベルを見て楽しそうに目を細める。


「逃げなくても大丈夫よ」


「絶対嫌だよ!」


ハーブは小さく肩を竦めた。


「逃げる気なら、仕方ないわねぇ」


やれやれといった様子で右手を持ち上げる。


その瞬間だった。


ウルフの表情が変わった。


何かを察したように、一歩前へ出る。


長い腕を広げるようにしてベルとミリィを背中側へ寄せた。


ベルも反射的に周囲を見回す。


「え……?」


ミリィの顔が強張る。


「いつの間に……」


ホールの空気が変わっていた。


柱の陰。


通路の入口。


祭壇の周囲。


いつの間に現れたのか。


そこかしこに人影が立っている。


黒いロングコート。


金属の肩当て。


白い仮面。


仮面にはそれぞれ異なる文字が刻まれていた。


全員が楔剣を手にしている。


刺突に特化した異様な剣先。


柄頭には赤い結晶。


無数の白い仮面が三人を見つめていた。


ウルフがゆっくりと周囲を見回す。


「…いつの間に」


ベルの喉が鳴る。


「か…囲まれてる」


楔兵達は誰一人喋らない。


誰一人感情を見せない。


ただ命令を待つ兵器のように立っていた。


祭壇に腰掛けたハーブが、くすくすと笑う。


「あらあら」


楽しそうだった。


「そんなに警戒しなくても大丈夫よ」


誰も安心しない。


ハーブは頬杖をついた。


「今日はちゃんと実験の日だから」


ベルの顔が引きつる。


「全然大丈夫じゃない!」


「そうかしら?」


ハーブは首を傾げる。


「だってベルを連れて帰る前に、いろいろ知っておきたいもの」


そして。


ゆっくりと指を鳴らした。


パチン。


ホールの奥。


巨大な柱の陰から。


何かが動く。


重い。


湿った。


生き物の気配。


楔兵達が左右へ散開する。


まるで道を開けるように。


その奥の暗闇から――


巨大な影が現れ始めた。


ハーブは嬉しそうに微笑む。


「あの子ね」


「最近作ったお人形さんなの」


その笑顔のまま。


まるで新しい服でも見せるような気軽さで言った。


「データ取りに付き合ってくれるかしら?」


人形と呼ばれた影が近付いてくる。


頭の先からつま先まで白いマントに覆われた人影。


顔も見えない。


体格すら判然としない。


ただ静かに。


ゆっくりと。


こちらへ向かって歩いてくる。


そして。


その背後から現れた人物を見て、ベルの目が見開かれた。


「――あなたは…キンサシャ!?」


紫のローブ。


褐色の肌。


目元を彩る宝石。


薄いヴェール。


裸足の足首で金のリングが小さく鳴る。


キンサシャ・クォーレだった。


「あたしゃ呼ばれたから来ただけさ」


澄んだ声がホールに響く。


その姿を見たミリィの表情も険しくなる。


ウルフも口元を歪めた。


「HEY」


「また厄介なのが出てきたな」


ベルも眉を顰め


「...生きてたのね」


キンサシャは肩を竦めた。


「おまえさん達も相変わらずだねぇ」


そう言いながら抱えた水晶玉を舌で舐める。


ぺろり。


その瞬間。


白いマントの影がぴくりと震えた。


ベル達の視線がそちらへ集まる。


ハーブは祭壇の上で嬉しそうに手を叩いた。


「あらあら」


「二人とも来てくれてありがとう」


キンサシャは軽く手を振る。


「あたしゃ仕事さね」


そう言って再び水晶玉を舐めた。


白いマントの影が一歩前へ出る。


重い足音。


ホールへ響く。


楔兵達も一斉に動き出し、三人を取り囲む輪をさらに狭めた。


ベルは剣へ手を掛ける。


ミリィも身構える。


ウルフはナックルダスターを鳴らした。


ハーブは楽しそうに微笑む。


「さあ」


「実験を始めましょうか」


白いマントの影が再び一歩前へ出る。


その足元で、長いマントが床を擦った。


そうして、ハーブの服が水面の様に揺れ始めた。


ミントグリーンのワンピースが波打つ。


白いレース手袋が溶ける。


ショートブーツが液体のように崩れる。


同時に。


腰まで届いていた銀髪が解けていく。


編み込みが消える。


長い銀髪が持ち上がり、二つに分かれる。


服と髪だけが変わっていく。


身体そのものは何も変わらない。


穏やかな令嬢の姿が消えていく。


代わりに現れるのは。


毒々しい色彩のゴスロリボンテージ。


左右色違いのボーダーニーハイ。


鋭い目付き。


舌を覗かせた笑み。


銀髪ツインテール。


そして。


「キャハハハハ!」


高い笑い声がホールへ響いた。


デッドエンドだった。


その一方で。


白いマントの人影が立ち止まる。


ばさり。


マントが床へ落ちた。


その下から現れた姿に、ベル達は息を呑む。


それは人型だった。


しかし人間ではない。


全身が白い花弁に覆われている。


服を着ているのではない。


皮膚そのものが花になったかのようだった。


何枚もの白い花弁が幾重にも重なり、身体を形作っている。


肩も。


腕も。


指先も。


胸も。


脚も。


全てが白い花だった。


身長は人間と同じくらい。


だが妙に細い。


茎のような手足。


軽く風が吹いただけで折れてしまいそうなほど華奢な体躯。


そして頭部。


そこには顔がなかった。


目も。


鼻も。


口も。


存在しない。


代わりに咲いている。


巨大なチョウセンアサガオ。


人の頭を遥かに超える大きさの白い花。


純白の花弁が幾重にも開いている。


その中心だけが深い紫色。


暗く。


底が見えない。


花そのものが顔だった。


花弁はゆっくりと脈打つ。


生き物の呼吸のように。


開いて。


閉じる。


開いて。


閉じる。


その度に。


さらさらと。


白い花粉が零れ落ちた。


雪のように。


灰のように。


静かに舞う。


キンサシャが水晶玉を舐める。


ぺろり。


すると怪人が一歩前へ出た。


デッドエンドが両腕を広げる。


「キャハハ!」


「紹介するよー!」


鞭を振り回しながら満面の笑みを浮かべる。


「デッドちゃんの可愛いお人形さん第一号!」


怪人の巨大な花がゆっくりと開く。


白い花粉が舞い上がった。


「ダチュラドール!」


その名を呼ばれた怪人は何も喋らない。


何の感情も見せない。


ただ静かに立っている。


まるで本物の人形のように。


だが。


巨大な花だけが脈打っていた。


さらさらと。


さらさらと。


白い花粉がホールへ広がっていく。


デッドエンドは舌を出して笑う。


「あーね」


「実験開始だよー!」

挿絵(By みてみん)


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