表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【World Wide Love ― 2人で1人の逃走譚 ―】  作者: KK
【第2部】第5章ー古代遺跡の謎ー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

609/652

始まりはギルドの依頼ー

馬車の車輪が土を踏みしめる音が、一定のリズムで響いていた。


窓の外には深い森が広がっている。


ベルは向かいに座るミリィへ声をかけた。


「なんかわかった?」


ミリィは依頼書と地図を見比べながら首を傾げる。


「山奥の廃村、らしいのですが…その辺りに遺跡があったなんて聞いたことないですね」


ベルも不思議そうに地図を覗き込んだ。


歴史に詳しいミリィが知らないのなら、本当に最近見つかったものなのだろう。


御者台から声が飛んできた。


「なんでも、最近見つかった新しい遺跡らしいぜ?」


ウルフだった。


手綱を握りながら煙草の煙を吐く。


ミリィは納得したように頷く。


「なるほどー…それで調査依頼を。でも、どうしてベルさんに?」


ルグレシアから大陸横断列車で半日ほどの街に滞在していた時のことだった。


宿を訪ねてきたのは冒険者ギルドの職員だった。


聞けばベルへの指名依頼。


内容は遺跡調査。


冒険者登録はしているものの、ベルが依頼を受けたことは一度もない。


それどころか、なぜ自分が指名されたのかも分からなかった。


釈然としないものはあった。


だが急ぐ旅の途中というわけでもない。


少しだけ興味もあった。


最近発見されたばかりの古代遺跡。


その言葉に惹かれ、ベルは依頼を受けることにした。


そして今。


三人はその遺跡の入り口があるという山奥の廃村へ向かっていた。


馬車はギルドが用意したものだ。


目的地までの案内も。


必要な物資も。


何から何まで揃っている。


至れり尽くせりと言っていい。


ベルは肩を竦めた。


「私が聞きたいよ」


冒険者登録はしている。


だが依頼を受けたのは今回が初めてだ。


それなのに、いきなり指名依頼である。


ミリィも不思議そうに首を傾げた。


「確かに妙ですね。遺跡調査なら専門の方も多いでしょうし」


ベルは苦笑した。


「おおかた…また魔王殺しに夢中などっかのお偉いさんや、どっかの組織?とかその関係かなーて」


「ああ……」


ミリィは納得したように頷く。


「それでしたらありそうです」


「だよねぇ」


ベルは窓の外へ目を向けた。


正直なところ、最近はどこへ行ってもそんな感じだった。


本人にその気がなくても、周囲はそう見てくれない。


御者台からウルフが笑う。


「有名人は大変だな!」


「他人事みたいに言わないでよー」


「HEYHEY、気楽にいこうぜ!」


「まぁ、そうね。遺跡調査は楽しみでもあるし」


「そうさ!COOLに行こうぜ!」


いつもの調子だった。


ミリィがくすくすと笑う。


馬車は森の奥へと進み続ける。


街道はいつの間にか細い山道へ変わっていた。


周囲を覆う木々も深くなり、人の気配はなくなっている。


やがて前方に朽ちた建物が見え始めた。


屋根の崩れた家。


倒れた柵。


雑草に埋もれた石畳。


人が住まなくなって長い時間が経っているのは一目で分かった。


目的地である廃村だった。


廃村の入り口付近まで来ると、ウルフは馬車の速度を落とした。


道はすでに半分ほど草に埋もれている。


これ以上奥へ進めば、帰る時に馬車を動かすのも面倒になりそうだった。


ベルは窓の外を見ながら顔をしかめる。


「うわぁ…いかにもなんか出そうな雰囲気」


朽ちた家々はどれも傾き、窓ガラスも残っていない。


風が吹くたび、どこかで木材の軋む音が聞こえた。


ミリィも周囲を見回す。


「…昼間なのに、なんだか薄暗く感じますね」


森の木々が空を覆っているせいだろうか。


日差しはあるはずなのに、村全体が影の中に沈んでいるようだった。


ウルフが手綱を引く。


「止めやすいとこで馬車停めるぜ?ここからは歩いて行くんだろう?」


「うん、そのはずなんだけど」


ベルは依頼書を取り出した。


目的地の簡単な地図が描かれている。


廃村の中央広場。


そこから遺跡へ続く地下通路が見つかったらしい。


「たしか村の中心に入口があるって」


「中心広場ですか」


ミリィが地図を覗き込む。


「それなら村を突っ切ればすぐですね」


「よし」


ベルは立ち上がった。


馬車がゆっくり停止する。


三人は荷物を背負い直し、廃村へ視線を向けた。


人の気配はない。


鳥の鳴き声も聞こえない。


ただ静寂だけが広がっている。


「行こっか」


ベルを先頭に、三人は廃村へ足を踏み入れた。


朽ちた石畳を踏みながら、三人は廃村の中へ足を踏み入れた。


その瞬間だった。


ベルの足が止まる。


「あ…れ?」


隣でミリィも立ち止まる。


「…あっ…」


前を歩いていたウルフも振り返った。


「…なんだ?」


誰も答えられない。


何かがおかしい。


だが、それが何なのか分からない。


三人は無意識のうちに周囲を見回していた。


風は吹いている。


草も揺れている。


景色も変わらない。


それなのに。


ベルは胸の奥がざわつくのを感じた。


「ねぇ…なんか」


ミリィも小さく頷く。


「ベルさんも感じました?」


言葉にしようとしても上手く説明できない。


頭の奥がぼんやりするような。


何か大切なものを見落としているような。


そんな違和感だった。


ウルフは眉をひそめる。


そしてゆっくり鼻を鳴らした。


もう一度。


さらにもう一度。


「…変だな…俺の鼻が何も感じない」


ベルとミリィが同時に振り返る。


ウルフは真面目な顔をしていた。


「何もって?」


「何もだ」


ウルフは周囲を見回す。


「草の匂いもしねぇ」


もう一度鼻を鳴らす。


「土の匂いもしねぇ」


朽ちた家々へ視線を向ける。


「木の匂いもねぇ」


煙草を咥えたまま首を傾げた。


「俺、自分の煙草の匂いすら分からねぇ」


静寂が落ちる。


ベルは思わず鼻をすんと鳴らした。


確かに。


何も感じない。


普通なら湿った土や草の匂いくらいはあるはずだ。


だが空気はまるで無味無臭だった。


ミリィも気付いたらしい。


「本当ですね…」


誰も動かない。


村は静かだった。


静かすぎた。


鳥の鳴き声もない。


虫の羽音もない。


風は吹いているのに、その風に乗るはずの何かが存在しない。


まるで。


世界から音や匂いだけが抜け落ちてしまったかのようだった。


ベルは周囲を見回した。


「もしかして…遺跡の影響?」


ミリィは少し考え込む。


「…ないとは言い切れませんね」


古代遺跡。


未知の技術。


未知の魔術。


そんなものが残されていても不思議ではない。


ウルフも頷いた。


「なるほどな、確かに遺跡なんて何があっても不思議じゃねぇ」


説明はつかない。


だが、そう考えれば納得できる。


三人は顔を見合わせた。


そしてベルが小さく笑う。


「ごめん。遠足気分で来ちゃったけど、気合い入れなおそっか!」


ミリィも背筋を伸ばした。


「遺跡は遺跡、油断は禁物ですね!」


ウルフは親指を立てる。


「OK!」


そうして三人は廃村の中央へ向かって歩き出した。


崩れた家々の間を抜ける。


静まり返った村の中を進む。


やがて依頼書に記されていた広場へ辿り着いた。


広場の中央。


そこには巨大な石造りの階段が口を開けていた。


地下へ続く階段だった。


苔むした石。


風化した手すり。


長い年月を感じさせる造りだ。


「これかな」


ベルが階段の下を覗き込む。


暗闇が奥へと続いている。


「たぶん」


ミリィも頷いた。


ウルフは腰のランタンに火を灯す。


「行こうぜ」


三人は慎重に階段を下り始めた。


一段。


また一段。


地上の光が遠ざかっていく。


空気はひんやりとしていた。


足音だけが石壁に反響する。


やがて階段を下りきる。


その先には石造りの通路が続いていた。


天井を支える無数の柱。


壁一面に刻まれた古い紋様。


どこまでも続く地下回廊。


三人は警戒しながら、その奥へと足を進めていった。


遺跡の中は思ったよりも広かった。


地下だというのに空気は澱んでいない。


むしろ驚くほど澄んでいる。


通路は長く、ところどころ大広間や分岐路もあった。


壁には古い紋様が刻まれ、見たことのない文字らしきものも残されている。


「わぁ……」


ベルは壁へ近寄る。


「これなんだろ」


指先でなぞろうとして――


後ろから声が飛んだ。


「べ、ベルさん、あまりいろんなところに触らないでくださいね」


「あ、ごめん、つい」


慌てて手を引っ込める。


少し先へ進けば、今度は石像がある。


「あっ、見て見て」


「ベルさん」


「ごめん」


さらに少し進む。


今度は壁画。


「これ何描いて――」


「ベルさん」


「ごめん」


ミリィは額に手を当てた。


まるで観光客だった。


ウルフが笑う。


「まあまあ」


ランタンを片手に肩を竦めた。


「冒険者に調査依頼に出すくらいだから、罠とかはないとは思うがー」


「油断は禁物です」


ミリィは即座に返した。


「発見されたばかりなんですよ?」


「確かにな」


「それに調査依頼だからこそ危険が残っている可能性もあります」


「はいはい」


ベルも素直に頷く。


「ちゃんと気を付けます」


そう言いながらも、視線は忙しなく遺跡のあちこちへ向いていた。


しばらく進むと通路はさらに広くなり、巨大な空間へと繋がる。


天井は高い。


何本もの柱が並び立ち、その奥は薄暗く霞んでいる。


「広いなぁ……」


ベルが感心したように呟く。


足音だけが静かに響く。


誰もいない。


何も起きない。


それなのに、どこか落ち着かない空気だけが遺跡全体を包んでいた。


三人は周囲を警戒しながら、さらに奥へと進んでいった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ