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【World Wide Love ― 2人で1人の逃走譚 ―】  作者: KK
【第2部】第4章ールグレシア王国の危機ー

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平原の覇者ー

山岳地帯を越えた傭兵団が平地へ差し掛かった時だった。


別働隊司令官は僅かな違和感を覚えた。


「……ん?」


平地の先。


人影が見える。


目を凝らす。


四人。


頭から白いマントを被った者達が、街道の真ん中に立っていた。


それだけだった。


司令官は吹き出した。


「愚か者がおるわ」


周囲の傭兵達も笑う。


「あれだけか?」


「何者か知らんが、この軍の前に立つとは」


「片腹痛いわ!」


嘲笑が広がる。


十万の軍勢。


対するはたった四人。


勝負にすらならない。


傭兵団は進軍を続けた。


止まる理由などない。


そのまま平地へ流れ込む。


そして。


草原の中腹へ差し掛かった時だった。


先頭の兵士が眉をひそめる。


「……何だ?」


別の兵士も足を止める。


草が揺れている。


ざわり。


ざわざわ。


風は吹いていない。


それなのに。


辺り一面の草が動いている。


左右も。


前方も。


後方までも。


まるで波のように。


ざわざわざわざわ――。


司令官も周囲を見回した。


笑みが少しだけ消える。


「……何だ?」


誰も答えられない。


草原は静かだった。


静かすぎた。


鳥の声もない。


虫の音もない。


あるのは草が擦れる音だけ。


ざわり。


ざわり。


ざわざわざわ――。


まるで何かが。


草の中を移動しているかのようだった。


その時だった。


目の前の四人が同時に動く。


白いマントが翻る。


そして。


夜空へ舞い上がった。


司令官が目を細める。


「……女?」


現れたのは四人の少女だった。


最前列。


白髪に青い瞳の小柄な少女。


その全身には複雑な紋様が刻まれている。


両手には湾曲した二本の剣。


その隣。


褐色の肌を持つ黒髪の女性。


首から下の全身を埋め尽くす紋様。


手首と足首の装飾品が微かに鳴る。


さらに。


白髪の長髪を持つ女性。


顔にまで刻まれた紋様。


両腰から二本の湾刀を抜き放つ。


そして最後。


黒髪の少女が眠たげな目のまま背中の長刀を抜く。


その顔にも。


首にも。


腕にも。


露出した全ての肌に紋様が刻まれていた。


副官の顔色が変わる。


「お頭!」


声が裏返った。


「こいつら、西大陸の――」


その時。


アダラが両手の剣を振り上げた。


ビビが静かに腰を落とす。


両手を広げるように構える。


シュプリムも腰の剣を抜き放ち、二刀を構えた。


アラランが背中の長刀を引き抜く。


長い刃が月光を反射した。


十万の軍勢。


対するは四人。


アダラが一歩前へ出た。


両手の剣を高く掲げる。


「カダブランカ王国!」


澄んだ声が平原に響く。


「国王ルーグ・カダブランカが娘!アダラ・カダブランカ!」


風が吹く。


白髪が揺れる。


「盟友ルグレシアの危機に!」


剣先を十万の軍勢へ向けた。


「助け立ちする!」


その隣でビビがひらひらと手を振る。


「おなじく〜」


のんびりした声。


「カダブランカ王国ビーラン・バーラブ〜が〜相手するね〜」


ビシッ。


乾いた音が響いた。


「いたっ!」


ビビが頭を押さえる。


隣に立つシュプリムが無表情のまま手刀を下ろしていた。


「なに〜すんの〜!?」


涙目で抗議するビビ。


だがシュプリムは完全に無視する。


一歩前へ出る。


二本の湾刀を構えた。


「カダブランカ軍遊撃隊『英雄の右眼』副長」


夜風に白髪が揺れる。


「シュプリム・シャルーム」


刃先が敵軍を指した。


「ここに参戦する!」


その隣。


長刀を肩へ担いだアラランが小さく欠伸をする。


「同じく」


眠たげな声。


「カダブランカ軍遊撃隊『英雄の左腕』隊長」


長刀を下ろす。


「アララン・アズールが、お相手いたします」


司令官の顔色が変わった。


「カダブランカだと!?」


思わず叫ぶ。


「西大陸がなぜここに!?」


副司令が慌てて前へ出た。


「お頭!」


必死に笑みを作る。


「焦ることはありません!」


部下達へ向けて叫んだ。


「たった四人です!」


兵達から笑いが起こる。


「しかも女だ!」


さらに笑いが広がる。


副司令も調子を取り戻した。


「このまま捕まえて――」


下卑た視線がアダラ達を捉える、舐め回すような、その視線。そして嘲笑がいたるところから上がる。



そんな空気の中ー


アダラがニヤリと笑う。


そして両手の剣を肩へ担いだ。


「四人なわけねぇだろ!」


その言葉に副司令の笑みが凍りつく。


常識なら笑う光景だった。


十万。


対するは四人。


だが。


誰も笑わなかった。


気付いてしまったからだ。


ざわり。


ざわざわ。


ざわざわざわ――。


草が動いている。


司令官はようやく理解した。


草原全体が揺れているのではない。


草の中に何かがいる。


無数に。


潜んでいる。


ざわざわ。


ざわざわざわ。


まるで大地そのものが呼吸しているようだった。


副官の額から汗が流れる。


「お頭……」


声が震えていた。


「囲まれてます」


その瞬間。


草原が割れた。


無数の兵士達が一斉に立ち上がる。


右。


左。


前方。


後方。


丘の陰。


窪地。


草むら。


ありとあらゆる場所から。


数え切れない人影が姿を現した。


褐色の肌。


白い衣装。


全身に刻まれた紋様。


湾刀。


槍。


弓。


そして翻る旗。


砂漠の太陽を象ったカダブランカの国旗。


ざわり。


今度は傭兵達の顔色が変わった。


十万の軍勢が。


いつの間にか。


逆に包囲されていた。


アダラが満面の笑みを浮かべる。


「さぁ!西大陸がカダブランカ王国の剣の味!とくと味わえ!」


両手の剣を掲げる。


「――英雄タブラスカの名に誓う!カダブランカ軍3万がお前たちを駆逐する!」


その背後で。


数万の兵士達が一斉に武器を構えた。


「――英雄タブラスカの名に!!!」


その声は一人ではなかった。


十人。


百人。


千人。


そして――。


平原全体。


草原から現れたカダブランカ兵達が一斉に叫ぶ。


「――英雄タブラスカの名に!!!」


轟音だった。


大地を震わせる咆哮。


数万の声が重なり、空気そのものを揺らす。


傭兵達が思わず身をすくませた。


「なっ……」


「何だ、この数は……」


見渡す限り。


兵。


兵。


兵。


草原の全てが敵だった。


そして再び声が上がる。


「――英雄タブラスカの名に!!!」


平原をカダブランカ兵の声が支配する。


その中央。


アダラが剣を天へ掲げた。


ビビが静かに微笑む。


シュプリムが二刀を構える。


アラランが長刀を肩へ担ぐ。


そして。


数万の兵士達が一斉に武器を掲げた。


月光を反射し、無数の刃が輝く。


司令官の顔から血の気が引いていく。


十万の軍勢で包囲したつもりだった。


だが違った。


包囲されていたのは。


自分達の方だった。


司令官が唾を吐き捨てる。


「くっ……くそ……」


額には汗が浮かんでいた。


だが無理やり笑う。


「だが、たった3万!」


剣を抜き放つ。


「十万の前では――」


そこで言葉が止まった。


司令官の目が見開かれる。


目の前。


アダラの身体が光っていた。


青く。


淡く。


美しく。


全身を覆う紋様が月明かりの下で輝いている。


その隣。


ビビも。


シュプリムも。


アラランも。


全身に刻まれた紋様が青白い光を放っていた。


紋様術。


西大陸特有の魔術。


その魔術の真髄は、英雄の力の模倣。


だが。


司令官が震えたのはそこではない。


「な……」


周囲を見回す。


一人。


二人ではない。


十人。


百人。


千人。


万。


平原を埋め尽くす全てのカダブランカ兵達。


その全員の身体が光っていた。


紋様が。


魔力が。


青い輝きとなって浮かび上がっている。


ざわり。


平原が蒼く染まる。


まるで夜の海だった。


3万の兵士達が放つ魔力の光。


その輝きは草原を覆い尽くし。


平原全体を青く染め上げていく。


副司令が震える声を漏らす。


「ば……馬鹿な……」


誰も笑わない。


誰も声を出せない。


目の前にあるのは軍隊ではない。


巨大な魔力の奔流だった。


アダラが剣を掲げる。


青い光がその刀身を駆け上がる。


満面の笑み。


まるで祭りでも始まるかのように。


「カダブランカ王国軍!」


3万の兵士達が武器を構える。


槍。


剣。


弓。


全てが蒼く輝く。


アダラが両手の剣を振り下ろした。


「進軍開始ぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」


その瞬間。


3万の兵士達が一斉に駆け出した。


「――英雄タブラスカの名に!!!」


咆哮。


大地が震える。


青い奔流となったカダブランカ軍が。


十万の傭兵軍へと襲いかかった。


挿絵(By みてみん)


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