表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【World Wide Love ― 2人で1人の逃走譚 ―】  作者: KK
【第2部】第4章ー千里眼の聖女ー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
578/657

街を出る。その先でー

三人の痺れが抜けるまで待った。


完全ではない。


だが歩ける。


それだけで十分だった。


ベル達はすぐに出発の準備を始める。


マリカは相変わらず眠ったまま。


ロロルは何も言わず、その身体を背負った。


痺れが残っているはずなのに、一度も降ろそうとはしない。


本来なら夜中のうちに街を出ているはずだった。


それが朝になり。


朝が昼になった。


全部。


デッドエンドのせいだ。


ベルは荷物をまとめながら大きく息を吐く。


いつまた襲ってくるかわからない。


あの自称軍師は何をしてくるか読めない。


それに。


もっと恐ろしい問題もある。


聖堂だった。


ベル達は今。


聖女誘拐の真っ最中だ。


事情を知る者はいない。


世間から見れば誘拐犯。


正義は聖堂側にある。


だからこそ立ち止まれなかった。


準備が終わると、ベル達は人目を避けて家を出る。


駅へは向かわない。


人が集まりすぎる。


兵士はまずは大きな駅を見張るだろう。


朝から街中は聖女行方不明の話で持ちきりだった。


市場でも。


道端でも。


食堂でも。


誰もがその話をしている。


駅前ならなおさらだ。


ベル達は街外れの乗り合い馬車へ向かった。


目的地は二つ先の街。


そこから列車へ乗り換える予定だ。


馬車へ乗り込む。


ロロルはマリカを背負ったまま腰を下ろした。


車輪が軋む。


馬が歩き出す。


ゆっくりと。


サナトリアの街並みが遠ざかっていく。


ベルは窓の外を見つめた。


短い滞在だった。


だが忘れられない。


ハーブと出会った街。


そして。


デッドエンドと出会った街。


馬車は街門を抜ける。


やがてサナトリアは小さくなり。


白夜の光の中へ溶けるように消えていった。


馬車はゆっくりと街道を進んでいた。


車輪が石を踏むたびに荷台が小さく揺れる。


向かいにはミリィ。


隣にはウルフ。


そしてロロルは眠ったままのマリカを背負い、静かに座っていた。


ベルはふと周囲を見回す。


乗り合い馬車のはずなのに。


客は自分達しかいなかった。


不思議に思い、御者へ声をかける。


「ねぇ、どうして誰も乗ってないの?」


御者が振り返る。


「なんだい?あんたら知らないのか?」


ウルフが首を傾げた。


「なにをだい?」


御者は呆れたように笑う。


「なんでも聖女様が行方不明だってんで、国中大騒ぎなのさ」


その言葉に。


四人の肩が同時に跳ねた。


「へ…へー、そ、そうなんだー?」


ベルが引きつった笑顔を浮かべる。


御者は気付かない。


「そうさ。そんで旅人も街の住人も、みんなその話でもちきりなのさ」


ミリィが恐る恐る口を開く。


「つまり、それはー」


御者が勢いよく頷いた。


「そう!野次馬根性だな!」


豪快に笑う。


「わざわざ今、街を出てくやつなんていないだろー。あんた達が珍しいのさ」


馬車の中に沈黙が落ちた。


ベル達は顔を見合わせる。


誰も何も言わない。


言えるはずもない。


なにせ。


その行方不明の聖女は。


今この馬車の中にいるのだから。


御者が豪快に笑った。


「あんたらの中に行方不明の聖女様がいたりしてな!」


今度こそ。


四人の身体が固まった。


ベルの頬を冷や汗が伝う。


ミリィの肩がぴくりと震える。


ロロルは思わず背負ったマリカを抱え直した。


ウルフでさえ顔を引きつらせる。


「HEY HEY HEY!そんなわけ…ないだろー」


さすがのウルフも声が僅かに上擦っていた。


ベルも慌てて口を開く。


「な、なんでそんなことー」


御者が振り返る。


客車の中を覗き込む。


その瞬間。


全員が身構えた。


空気が張り詰める。


だが。


御者は呑気に笑っていた。


「だってよー」


指を差す。


「あんたとあんた」


ベルとミリィだった。


「めちゃくちゃかわいいからなー」


にやりと笑う。


「聖女と言われても信じるぜー俺は」


ただのナンパだった。


数秒の沈黙。


そして。


「……」


ベル達は一斉に安堵の息を吐いた。


張り詰めていた肩の力が抜ける。


ミリィは胸を押さえる。


ロロルも小さく息を吐いた。


ウルフは額の汗を拭う。


「脅かすなっての…」


誰にも聞こえないほど小さな声で呟く。


御者はそんな様子に気付くことなく、機嫌良く手綱を振っていた。


馬車はそのまま街道を進み続ける。



列車は規則正しい音を響かせながら走っていた。


窓の外では景色が流れていく。


草原。


森。


小さな村。


どれも次々と後ろへ消えていく。


ベルは窓際の席に座ったまま、ただぼんやりとそれを眺めていた。


何を見るでもなく。


何を考えるでもなく。


ただ景色だけを追っている。


そんなベルを見て、ミリィが遠慮がちに口を開いた。


「ベルさん、元気出してください」


ベルは視線を窓から外さない。


小さく肩が動いただけだった。


今度はウルフが口を開く。


「HEY!そんな顔してちゃ、かわいい顔が台無しだぜ?」


軽い調子だった。


だが気遣っているのは伝わってくる。


ベルはようやく二人を見た。


そして申し訳なさそうに笑う。


「うん…ごめんね。ありがとう」


そう言って。


また小さくため息を吐いた。


その様子にミリィもため息を吐く。


ウルフも頭を掻きながらため息を吐いた。


列車に乗ったベル達は、そのままルグレシアへ向かった。


長い移動の末に王都へ到着すると、三人はすぐにアルティシアを訪ねた。


ロロルとマリカの事情。


サナトリアで起きたこと。


そして今後予想される問題。


全てを説明する。


話を聞き終えたアルティシアは迷うことなく頷いた。


二人を受け入れると。


そう約束してくれた。


マリカとロロルは国家管理の療養施設へ移されることになった。


当面の生活も保証される。


身柄も保護される。


もう逃げ回る必要はない。


少なくとも今後はルグレシア王国が二人を守ってくれるだろう。


さらに。


これから起こるであろうサナトリアとの政治的な軋轢についても、アルティシアは引き受けると言ってくれた。


ベル達だけではどうにもならない問題だった。


だからこそ。


感謝してもしきれなかった。


療養施設へ向かう日。


ロロルは何度も頭を下げた。


「ありがとうございました…」


声を震わせる。


「本当に…本当にありがとうございました…」


そして。


堪えきれなくなったように涙を流した。


ベルも。


ミリィも。


ウルフも。


ただ静かにその言葉を受け取る。


ここまでの道のりは決して短くなかった。


危険もあった。


騙されたこともあった。


それでも。


少なくとも。


ロロルとマリカを救うことだけは果たせたのだった。


ただ一つ。


心残りがあった。


ラインだ。


サナトリアを出たらルグレシアへ来てほしい。


その時には大切な話がある。


そう言われていた。


ベルもずっと気になっていた。


だから王都へ着いてから何度も確認した。


だが。


約束は果たされなかった。


ラインは急な遠征任務で王国の外へ出ていたのだ。


戻るのは早くても一ヶ月後。


そう告げられた時。


ベルは本気で落ち込んだ。


「一ヶ月……」


さすがに待てない。


特に急ぐ旅ではない。


だが一箇所へ長期間滞在するのも危険だった。


デッドエンド。


そしてKeilflamme。


いつまた現れるかわからない。


相手は執着している。


それはもう十分理解していた。


結局。


ベル達はルグレシアを出ることにした。


今後はどこかへ滞在するとしても長くて一週間。


それ以上は留まらない。


そう決める。


王都の門を出る日。


ベルは何度目かのため息を吐いた。


「ラインさんの話、聞きたかったなぁ……」


未練たっぷりだった。


ミリィが苦笑する。


「また機会はありますよ」


ウルフも肩を竦めた。


「そうそう。逃げやしねーだろ」


ベルは頬を膨らませる。


「だといいんだけど……」


そう呟きながら。


三人は再び旅路へ戻っていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ