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【World Wide Love ― 2人で1人の逃走譚 ―】  作者: KK
【第2部】第4章ー千里眼の聖女ー

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絶対絶滅のピンチにこそー

デッドエンドはベルを抱いたまま顔を近付ける。


鼻先が触れそうな距離。


そのまま真顔になった。


瞳だけが大きく見開かれる。


「ねぇーあちきと一緒に来なよー」


逃げ場のない距離で。


ベルだけを見つめる。


「悪い様にはしないからさー」


囁くような声だった。


「おとなしくついてくーるーなーらー、ちゃんと愛して可愛いがってー」


ベルの髪を指先で梳く。


「優しく研究してあげるー」


だが。


次の瞬間。


デッドエンドの口元が歪んだ。


細く。


冷たく。


笑う。


瞳も細められる。


「でもー、いやがるならさー」


空気が変わる。


先ほどまでの甘ったるい声色が消える。


「抵抗するなら手足ちょんぎって、死なない程度に身体いぢっちゃうよ」


ベルの頬を撫でる指先は優しいまま。


「ただのモルモットにしちゃうから」


その言葉だけが。


冗談ではないことを。


誰もが理解した。


ミリィの顔が青ざめる。


ロロルは息を呑む。


ウルフは歯を食いしばった。


デッドエンドだけが。


楽しそうに笑っていた。


デッドエンドはニンマリと笑った。


そしてベルの頬をぺちぺちと叩く。


力は弱い。


だが、その仕草そのものがベルには恐ろしかった。


頬を汗が伝う。


デッドエンドはその汗に気付くと、長い舌を伸ばした。


ぺろり。


頬を舐め取る。


「んんーティースティー♪キャハハッ」


ベルの身体が震える。


その時だった。


「う…うおおおおおお…」


床に倒れたウルフが歯を食いしばる。


全身を震わせながら。


痺れた身体を無理矢理起こそうとしていた。


腕が動く。


肩が上がる。


ほんのわずかに。


それでも確かに立ち上がろうとしている。


デッドエンドの表情が歪んだ。


舌打ちする。


ベルを床へ放り出し、そのまま立ち上がった。


そしてミリィ、ロロル、ウルフを見下ろす。


「2人はもう意識がないしー、クソザコウルフ。あとはあんただーけー」


鞭が振り下ろされた。


「ぐはっ…」


鋭い音が響く。


ウルフの背中へ鞭が炸裂した。


「キャハッ!キャハハハハハハッ!」


デッドエンドは笑う。


笑いながら何度も鞭を振るう。


容赦なく。


執拗に。


何度も。


何度も。


レザージャケットが裂ける。


血が飛び散る。


床を赤く染める。


それでも鞭は止まらない。


「キャハハハハハッ!」


狂ったような笑い声だけが食堂へ響いた。


やがて。


デッドエンドの腕が止まる。


肩で荒く息をしていた。


「はぁ…はぁ…はぁ…」


額に汗が滲む。


「や、やっと…黙った…」


床に倒れたウルフは動かない。


完全に気絶していた。


ベルは床に倒れたまま横目で三人を見ていた。


砕けたテーブル。


散らばる食器。


血の跡。


ミリィは動かない。


ロロルも動かない。


ウルフも。


誰も。


誰一人として。


「ウ…フ…」


掠れた声が漏れる。


「ミ…ィ..、ロ…」


最後まで言葉にならない。


喉が震える。


涙が滲む。


動いてほしかった。


誰でもいい。


誰か。


誰か一人でも。


だが返事はない。


デッドエンドはその様子を見下ろしていた。


そしてニヤリと笑う。


「だーいじょうぶだってー♪」


軽い足取りでベルの横へ戻る。


しゃがみ込む。


そして髪を撫でた。


「死んでないしー」


指先でベルの頬をなぞる。


「ちょーっと寝てるだけー♪」


ベルは悔しそうに歯を食いしばる。


身体が動かない。


助けられない。


守れない。


デッドエンドはそんなベルを見て満足そうに笑った。


「ベルは優しいねー」


そしてベルの耳元へ顔を寄せる。


「だから好きー♪」


楽しそうな声だった。


まるで恋人に囁くような。


だがベルには恐怖しかなかった。


デッドエンドはニンマリと笑った。


そしてパンパンッと手を打ち鳴らす。


静まり返った食堂に乾いた音が響いた。


直後。


部屋のドアが開く。


白い仮面を付けた人影が一体。


無言のまま部屋へ入ってきた。


ベルの瞳が揺れる。


デッドエンドは顎をしゃくる。


それだけで十分だった。


白仮面はベルへ近付き、その身体を抱き上げる。


抵抗できない。


指一本動かせない。


ベルはただ運ばれる。


デッドエンドはその様子を見ながら目を細めた。


「丁重に扱えよ。傷付けたら溶かすぞ?」


白仮面は無言のまま頷く。


そしてベルを抱えたまま立ち止まった。


デッドエンドは満足そうに微笑む。


ベルへ向かって両手を広げる。


赤子をあやすように。


「さぁーおうちに帰りまちょーねー」


ベルの顔から血の気が引く。


デッドエンドは楽しそうに身を揺らした。


「帰ったらデッドちゃんがたっぷーりー、かわいがったげまちゅからねーキャハハッ♪」


高い笑い声が食堂に響く。


床には倒れたままのミリィ。


ロロル。


ウルフ。


誰も動かない。


誰も助けられない。


白仮面はベルを抱えたまま出口へ向かう。


デッドエンドも鼻歌混じりに後へ続いた。


まるで楽しい遠足にでも出かけるかのように。


デッドエンドが両手でベルの頬を掴む。


ベルの瞳が揺れる。


身体は動かない。


逃げることも。


抵抗することもできない。


デッドエンドは楽しそうに笑った。


「今度はーすんごいキス、してあげるー」


ゆっくりと顔を近付ける。


ベルは必死に拒もうとする。


だが身体は動かない。


唇が近付く。


吐息がかかる。


デッドエンドの長い舌が覗く。


その舌先がベルの唇に触れそうになる。


その時ー


その時――


デッドエンドの動きが止まった。


唇が触れる寸前。


床を這う影が、音もなく広がったのだ。


食堂の隅から伸びた黒が壁を駆け上がる。


天井を覆う。


窓を覆う。


白夜の光が一つ、また一つと消えていく。


デッドエンドの瞳が細くなった。


ベルもまた、その影を見ていた。


知っている。


この影を。


この気配を。


この冷たく静かな存在を。


デッドエンドはベルから顔を離した。


ゆっくりと立ち上がる。


そして食堂全体を覆い始めた闇を見上げた。


白仮面も足を止める。


誰も動かない。


窓の外はまだ白夜。


だが、この部屋だけが夜に沈み始めていた。


デッドエンドの笑みが消える。


初めて見るものを観察するように。


じっと。


静かに。


広がり続ける影を見つめた。


やがて影が最後の光を飲み込む。


リビングから白夜が消えた。


デッドエンドが後ずさる。


「な…ななななな…なにこれ…?」


その背後。


白仮面に抱き上げられたままのベルの身体が変わっていく。


黒髪が揺れる。


輪郭が揺らぐ。


まるで昼と夜が入れ替わるように。


ゆっくりと。


確実に。


変身が始まっていた。


そして。


デッドエンドが見つめる先。


部屋の中央へ広がった影が波紋のように揺れる。


まるで静かな水面だった。


そこへ何かが浮かび上がる。


最初に現れたのは黒髪。


影そのものが糸となって紡がれるように。


足元まで届く長い黒髪が闇の中から現れる。


続いて白い指先。


白い腕。


細い肩。


影が人の形を作っていく。


黒い水面からゆっくりと身体を起こすように。


音もなく。


一人の女が浮かび上がった。


白い肌。


細身の身体。


真っ黒なノースリーブのドレス。


切れ長の瞳は眠たげに半分閉じられている。


だが、その瞳の奥だけは底知れない闇を宿していた。


ミカゲが顕現する。


ミカゲの身体から影が零れ落ちる。


滴る黒は床へ落ちる前に再び影へ溶けて消える。


まるで闇そのものが人の姿を取ったかのようだった。


ミカゲは完全に姿を現すと、ゆっくりと周囲を見回した。


白仮面。


倒れたミリィ。


ロロル。


ウルフ。


そして。


ベルへ触れているデッドエンド。


眠たげだった瞳が僅かに細められる。


リビングを満たす影が静かに揺れた。


まるで感情に呼応するように。


ただそこに立っているだけなのに。


部屋全体が彼女の領域へ変わっていた。


ミカゲがデッドエンドを見た。


眠たげだった瞳が細くなる。


黒い瞳の奥で。


冷たい怒りが揺れていた。


「私の…敬愛するご主人様へ…不敬な振る舞い、万死に値する」


静かな声だった。


怒鳴り声ではない。


感情を荒げてもいない。


だが。


その一言が放たれた瞬間。


闇が震えた。


床の影が波打つ。


壁を覆う黒が蠢く。


天井の闇が軋む。


まるで世界そのものが怒りを共有しているかのように。


リビング全体が低く震動した。


デッドエンドの顔から血の気が引く。


膝が震える。


呼吸が浅くなる。


「ひっ…」


思わず声が漏れた。


へたり込む。


涙まで浮かんでいた。


本能が理解してしまったのだ。


目の前にいる存在が。


自分では到底敵わない何かだと。


その背後。


白仮面に抱えられていたベルの身体が完全に変化を終える。


白仮面が気付くより早く。


拳が動いた。


鈍い音。


白仮面の身体が吹き飛ぶ。


壁へ叩きつけられ、そのまま崩れ落ちた。


ベルは宙で身体を捻る。


軽やかに。


まるで最初から痺れなど存在しなかったかのように。


床へ着地した。


「おっとっと」


そう呟きながら。


ベルは肩を回した。


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