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【World Wide Love ― 2人で1人の逃走譚 ―】  作者: KK
【第2部】第4章ー千里眼の聖女ー

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エンカ、炎の舞ー

炎の光がベルの瞳に映る。


揺らめく金色の火の粉。


燃え盛る炎の中に立つ少女。


ベルは息を呑んだ。


「これが…もしかして…」


デッドエンドが後ずさる。


顔から血の気が引いていた。


「…ひ、姫神…?なんで..昼のベルは呼ばないはず…」


ベルはエンカを見上げる。


「…エンカ…なの?」


その言葉にエンカが大きく頷いた。


「そうさ!ひっさしぶりだな!ても姫神になってからは会ってない、か」


金の火の粉が舞う。


エンカは豪快に笑った。


「なんにしても、その節は世話んなったな!」


ベルは思い出す。


幼い頃。


行商人から貰った雛鳥。


弱っていて。


必死に世話をして。


そして。


死にかけていた、あの子。


胸の奥にしまっていた記憶。


ずっと前の思い出。


「あいつには聞いてたけど…やっと、会えたね」


状況も忘れて。


ベルの目に涙が浮かぶ。


ウルフが不思議そうに二人を見る。


「ベル、この子は?」


ベルは慌てて指で涙を拭った。


そして振り返る。


「大丈夫!彼女は味方よ!」


力強く言い切る。


「それも…最強の!」


その言葉に。


エンカがニカリと笑った。


白い歯が覗く。


どこか少年のような。


まっすぐな笑顔だった。


「でも…どうして?」


ベルの問いに。


エンカは待ってましたと言わんばかりに両手を広げる。


「よくぞ聞いてくれた!」


そして。


ずかずかとベルへ近付き。


両手で肩を掴んだ。


「あたしは感動したんだ!」


ぐっと顔を近付ける。


「おまえらのやりとりを聞いて!」


勢いよく振り向く。


「特にロロル!」


突然名指しされ。


ロロルがびくりと肩を震わせた。


「おまえの愛に!」


エンカの瞳が輝く。


「感動した!」


エンカが現れたことで。


ベルの胸を締め付けていた緊張が一気にほどけた。


助かった。


そんな安堵が全身を包む。


だが次の瞬間。


視界がぐらりと揺れた。


「あ…あれ」


足に力が入らない。


そのままベルはへたり込む。


ミリィとウルフが慌てて駆け寄った。


「だ、大丈夫ですか!?」


ベルの顔は真っ白だった。


血の気が引いている。


呼吸も浅い。


エンカが頭を掻いた。


「あー悪ぃ、勢いで出てきたけど、ベルにゃ顕現はまだムリだもんな」


ベルは必死に顔を上げる。


「だ…大丈夫…頑張る…から」


だが視界は揺れる。


意識が遠のく。


今にも倒れそうだった。


その時。


エンカが無造作にしゃがみ込む。


そして。


バチンッ!


乾いた音が路地裏に響いた。


「いっ!ったぁぁぁぁぁぁいっ!」


ベルが頬を押さえる。


涙目になりながらエンカを睨んだ。


「な、何すんのよぉ!?」


エンカはニカリと笑う。


「目ぇ覚めたろ?」


金色の火の粉が舞う。


「ベルが意識なくすと、私も消えちまうからさ!」


ベルは頬をさすりながら抗議する。


「だからって…」


じんじんと痛む頬を押さえる。


エンカは立ち上がった。


そして。


ゆっくりとデッドエンドへ視線を向ける。


その瞬間。


エンカの周囲の炎が膨れ上がった。


熱風が吹く。


石畳が赤く染まる。


金色の火の粉が嵐のように舞い始めた。


デッドエンドの頬を汗が伝う。


先ほどまでの余裕はもうない。


エンカは口元を吊り上げた。


「まぁ、そんなわけでー」


炎がさらに強くなる。


楔兵達が思わず足を止めた。


「ちゃっちゃと片付けさせてもらう!」


デッドエンドの顔から完全に余裕が消えていた。


頬を汗が伝う。


それでも。


それでもなお。


その瞳には狂気が宿っている。


「ったく…どいつもこいつも…」


ぶつぶつと呟く。


「あちきの邪魔ばかりしやがって…」


肩が震える。


怒りで。


苛立ちで。


そして。


「ムカつくムカつくムカつく…」


ベロリ。


長く舌を出す。


その表情はもはや笑顔ではない。


歪んだ怒りだった。


「姫神とか関係ないし!」


鞭が大きく振り上げられる。


「おまえらぁっ!やっちゃえぇっ!!」


挿絵(By みてみん)


命令が飛ぶ。


次の瞬間。


十体の楔兵が一斉に駆け出した。


前方から五体。


後方から五体。


白い仮面が迫る。


黒いロングコートが翻る。


楔剣が突き出される。


殺到する黒と白の群れ。


だが。


エンカは動かなかった。


ただ一歩前へ出る。


ベル達を背に。


迫り来る楔兵達を見据えた。


揺らめく身体から火の粉が舞う。


その数が増える。


一粒。


十粒。


百粒。


無数。


金色の火の粉が路地裏を埋め尽くした。


そして。


エンカは不敵に笑う。


「恩人の前でよぉ」


右手をゆっくり持ち上げる。


「数だけの雑魚が調子乗んな」


その瞬間。


周囲の空気が灼けた。


エンカが指をパチンと鳴らす。


その瞬間だった。


迫り来る楔兵達の足元。


石畳の隙間から金色の火が生まれる。


一体。


また一体。


全十五体。


楔兵達が足を止める。


だが遅い。


次の瞬間。


轟ッ!!


足元から炎が噴き上がった。


金色の炎。


まるで獲物へ食らいつく生き物のように。


一瞬で脚へ絡みつく。


胴へ。


腕へ。


首へ。


そして全身を包み込む。


十五本の炎の柱が路地裏に咲いた。


白い仮面が消える。


黒いロングコートが燃える。


楔剣が赤熱する。


抵抗する間もない。


悲鳴すらない。


ただ。


燃える。


燃える。


燃える。


そして。


炎が収まった時には。


何も残っていなかった。


炭すら。


灰すら。


最初から存在していなかったかのように。


全てが消えていた。


静寂。


路地裏に残るのは揺らめく熱気だけ。


デッドエンドの顔が驚愕に変わる。


「は?…へ…?」


エンカは満足そうに腕を組む。


そしてベルへ振り返った。


「ざっとこんなもんよ!」


ニカリと笑いながらガッツポーズを作る。


ベルは青い顔のままその姿を見上げた。


視界が揺れる。


意識もぼんやりしている。


それでも。


目だけは離せなかった。


「…ほんと…不死鳥みたい..」


エンカがデッドエンドを見据える。


金色の火の粉が舞う。


揺らめく身体から熱気が溢れていた。


「じゃ、あとはおまえだけなー」


デッドエンドが目を見開く。


そして。


瞬きをした。


その瞬間だった。


目の前にエンカがいた。


デッドエンドの表情が凍り付く。


「は…」


声が出ない。


理解が追い付かない。


ついさっきまで離れた場所にいたはずの相手が。


目の前にいる。


「ふざけんなしっ!」


反射的に叫ぶ。


「デッドちゃんがこんなところでー…」


エンカの右拳がゆっくりと振り上がる。


その拳を炎が包み込む。


黄金の炎。


圧倒的な熱量。


デッドエンドは両手で頭を庇った。


身体を縮める。


思わず身をすくませる。


エンカが笑った。


「あばよ!軍師様!」


炎の拳が振り抜かれる。


真正面から。


デッドエンドの顔面へ。


直撃した。


轟ッ!!


衝撃と共にデッドエンドの顔が吹き飛ぶ。


そして次の瞬間。


爆発するように炎が吹き荒れた。


黄金の業火。


暴風となって路地裏を駆け抜ける。


頭を失った身体を飲み込む。


包む。


焼く。


焼き尽くす。


ベル達は思わず目を覆った。


熱風が通り過ぎる。


炎が消える。


そこには。


炎に包まれた、頭のないデッドエンドの身体だけが立っていた。


ふらり。


二歩。


三歩。


後ろへ下がる。


まるで何かを探すように。


やがて力が抜けたように。


その場へぺたりと座り込んだ。


その身体が炎の柱に包まれる。


ベルの顔から血の気が引いた。


目の前には。


頭を失ったまま座り込むデッドエンドの身体。


白夜の光。


焦げた匂い。


そして静寂。


「え…殺し..たの?」


ベルの声は震えていた。


ミリィも身体を強張らせる。


小さな肩が震えている。


「……」


言葉が出ない。


あまりにも一瞬だった。


ウルフも頭を掻く。


「…こいつは..さすがにやりすぎだぁ」


肩をすくめた。


「COOLじゃないね」


ロロルは呆然としていた。


マリカを背負ったまま。


ただ固まっている。


現実感がなかった。


その中で。


当の本人だけが首を傾げていた。


エンカである。


「いやー」


ぽりぽりと頬を掻く。


「ただ焼くだけのつもりだったんだけど…」


デッドエンドの身体を見る。


「なんつーかこいつ、弱いと言うか..柔らかいというか…」


少し考える。


「手ごたえがなくて」


困ったように笑った。


まるで卵を割ってしまった子供のような反応だった。


ベル達がなんとも言えない顔になる。


その時だった。


頭のないデッドエンドの身体が。


ぴくり。


小さく動いた。





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