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【World Wide Love ― 2人で1人の逃走譚 ―】  作者: KK
【第2部】第4章ー千里眼の聖女ー

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戦いの火蓋ー

デッドエンドが突然口元を押さえた。


両手で。


必死に。


笑いを堪えるように。


「んっ…ふっ…!」


ベルが異変に気付く。


「!?」


ミリィの顔色が変わった。


「ベルさん!」


ベルが振り返る。


その瞬間。


背筋が凍った。


いつの間に現れたのか。


背後にも五体。


白い仮面。


黒いロングコート。


楔剣を構えた楔兵達が立っていた。


「挟み撃ち!?」


ミリィが咄嗟にロロルの前へ回り込む。


両手を広げた。


身体が震える。


涙が滲む。


怖い。


足が震える。


それでも退かない。


ロロルとマリカを守るために。


その時。


「ちっ!」


ウルフが動いた。


前方から迫った楔兵の腕を掴む。


そのまま。


力任せに振り回した。


人間とは思えない膂力。


投げ飛ばされた楔兵が宙を舞う。


影に拘束されていた数体へ激突した。


轟音。


石畳が砕ける。


前方から迫っていた楔兵達がまとめて吹き飛ばされる。


「え…な!?」


デッドエンドの顔が歪む。


予想外だった。


完璧な包囲。


完璧な挟撃。


そのはずだった。


ベルが前へ出る。


ミリィを庇うように。


「アカリ!やっちゃって!」


指輪が輝いた。


十本の指先から光が放たれる。


閃光。


十本の光線が一直線に走る。


背後から迫っていた五体へ。


だが狙ったのは身体ではない。


足元。


石畳。


光線が地面を抉る。


爆ぜる。


砕ける。


楔兵達の足場が崩れた。


体勢が乱れる。


突撃が止まる。


「っ!」


無言だった白仮面達がよろめいた。


その隙を。


ベル達は見逃さない。


そして。


ギリッ。


静かな路地裏に。


歯軋りの音が響いた。


デッドエンドだった。


その顔から笑みが消えている。


楽しそうだった瞳に。


苛立ちが滲んでいた。


デッドエンドの額に青筋が浮かぶ。


次の瞬間。


足元に転がる楔兵を思い切り蹴り飛ばした。


「おぉいっ!あちきの!デッドちゃんのデビュー戦だぞ!」


ドゴッ!


鈍い音が響く。


「何あさっさりやられてんだよっ!」


さらに蹴る。


さらに踏み付ける。


鞭が振り下ろされる。


「カッコつかないだろーがっ!」


パシィンッ!!


鞭が白い仮面を叩く。


狂ったように怒鳴る。


蹴る。


叩く。


喚く。


まるで癇癪を起こした子供だった。


だが。


蹴られた楔兵達は反応しない。


痛がりもしない。


怒りもしない。


倒れたまま。


ただ静かに横たわっている。


そして。


何事もなかったかのように。


一体。


また一体。


ゆっくりと立ち上がった。


白い仮面。


黒いロングコート。


乱れた様子すらない。


まるで最初から倒れていなかったかのようだった。


「……」


ベルの表情が強張る。


ミリィも息を呑む。


ウルフが舌打ちした。


「ちっ…」


前方。


吹き飛ばしたはずの楔兵達が再び迫る。


後方。


足止めした五体もゆっくりと近付いてくる。


無言で。


一定の速度で。


逃げ場を潰すように。


包囲を狭めるように。


ウルフが前方へ立つ。


ナックルダスターを構えたまま。


ベルは後方へ向き直る。


両手を前へ突き出しながら。


中央にはミリィ。


そのさらに後ろ。


マリカを背負ったロロル。


完全な挟み撃ちだった。


白い仮面が近付く。


一歩。


また一歩。


石畳を踏む音だけが響く。


誰も笑わない。


誰も喋らない。


ただ。


じわじわと。


確実に。


五人を追い詰めていた。


ウルフが前方の楔兵を睨みながら歯を食いしばる。


「すまねぇ!誰か1人なら逃がしてやれるんだが…」


ベルは即座に首を振った。


「ダメよ!そんなの!」


ミリィも声を上げる。


「そうです!」


だがウルフは焦っていた。


「でもよぉ…このままじゃ!」


ベルが叫ぶ。


「連れて行くならマリカとロロル!2人よ!」


ミリィも涙目のまま笑顔を作る。


「はい!」


小さく頷いた。


震えている。


怖い。


それでも迷いはなかった。


ウルフが思わず振り返る。


「おまえら…」


ベルはニッと笑った。


「根性見せてよ!2人くらいなんちゃらないでしょ!?」


ウルフも口元を吊り上げる。


「おうよ!任せとけ!」


そのやり取りを聞いていたロロルが前へ出た。


「いけません!」


全員が振り返る。


「それなら僕が囮になりますから!皆さんでマリカだけでも逃がしてください!」


その様子を。


デッドエンドはしらけた目で眺めていた。


「うざーぃ」


心底どうでもよさそうだった。


ベルが眉を吊り上げる。


「もう!わがまま言わないで!2人で逃げてよ!」


ミリィも慌てて続く。


「ウルフさん!無理矢理でも連れてって!」


ウルフが頷く。


「お、おおよ!」


しかし。


ロロルは首を振った。


「いいえ!」


背中のたすきを解く。


マリカの身体を支えていた布がほどける。


そして。


ロロルはマリカをベルへ押し付けた。


「ここは僕が残ります!」


ベルの腕の中へマリカが移る。


七年を取り戻したかった少年。


ようやく救い出した幼馴染。


その少女から。


ロロルは自ら手を離した。


楔兵達が迫る。


白い仮面が包囲を狭める。


それでも。


ロロルだけは一歩も引かなかった。


ベルが焦ったように辺りを見回す。


前からも。


後ろからも。


楔兵が迫ってくる。


「もうこんなことしてる時間は…」


その時だった。


「ベルさん..手、手が!」


ミリィが目を見開く。


震える指がベルを指した。


ベルも反射的に視線を落とす。


「えぇ!?な…なにこれ!?」


右手が燃えていた。


指輪を中心に。


赤い炎が手首まで包んでいる。


ベルは悲鳴を上げた。


「う、うわあああっ!」


マリカを抱えたまま右手をぶんぶん振る。


消そうとする。


払おうとする。


だが。


炎は消えない。


それどころか。


ゆらゆらと揺れながら燃え続ける。


ベルは顔を青くしたまま固まった。


そして。


ふと気付く。


「あ…あれ?」


右手を見る。


「熱くない?」


炎は燃えている。


確かに燃えている。


けれど熱くない。


痛くもない。


火傷もしていない。


不思議そうに見つめるベル。


よく見ると。


右手にはめられた指輪の一つが炎の中心で輝いていた。


まるで。


ずっと呼ばれるのを待っていたかのように。


デッドエンドの表情が凍り付く。


「まさか!?」


思わず一歩下がる。


「ベルは…使えないはずだし!」


ベルは燃える右手を見つめる。


揺らめく炎。


熱くない火。


輝く指輪。


「炎…?」


呆然と呟く。


「もしかして…」


その時だった。


「あっつーーーーーーーいぃっ!!!」


突然。


路地裏に絶叫が響き渡った。


全員が固まる。


ベルも。


ミリィも。


ウルフも。


ロロルも。


楔兵達でさえ動きを止める。


声は近い。


だが姿が見えない。


指輪からではない。


炎からでもない。


どこから聞こえているのか分からない。


瞬間、ベルの背後に炎の柱が上がった。


轟音。


渦巻く炎が天へ向かって吹き上がる。


赤。


橙。


黄金。


幾重にも重なった炎が竜巻のように回転し、白夜の路地裏を昼よりも明るく照らし出した。


熱風が吹き荒れる。


ベルの髪が揺れる。


ミリィが思わず目を覆った。


ロロルも息を呑む。


ウルフでさえ目を見開く。


楔兵達が後ずさった。


白い仮面が炎を見上げる。


無機質な集団が初めて怯んだように見えた。


そして。


デッドエンドの顔から余裕の笑みが消える。


「なんで…そんなはずない!あちき、聞いてないし!」


炎はさらに大きくなる。


渦を巻く。


唸る。


まるで生きているように。


その中心から。


ゆっくりと人影が現れた。


細い脚が炎の中から伸びる。


黒いロングドレス。


深く入ったスリット。


ノースリーブのチャイナ服を思わせる意匠。


揺らめく炎の中を歩くたび、裾がゆっくりと揺れた。


続いて現れたのは長い髪。


黒。


金。


そして内側に覗く鮮烈な赤。


炎そのものを閉じ込めたような色彩。


髪の先端は燃えるように揺らぎ。


全身の輪郭さえも熱気に歪む。


その身体は実体でありながら。


どこか炎そのもののようだった。


ぱちり。


金色の火の粉が舞う。


一粒。


また一粒。


無数の火の粉が彼女の周囲を漂う。


不死鳥の羽根のように。


幻想的に。


そして圧倒的に。


炎の柱が弾ける。


熱風が路地裏を吹き抜けた。


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