Keilflamme1の策士ー
ウルフは前へ出る。
そして遠慮なくデッドエンドを指差した。
「HEY!なんだお前は?」
ニタリ。
少女の口元が吊り上がる。
まるでその言葉を待っていたかのように。
ベルの表情が険しくなった。
「…デッドエンド…」
ミリィがベルを見る。
「…知ってるんですか?」
ベルは頷く。
この街に着いた夜、ハーブの家で遭遇した敵。
そして聖女から託された手紙。
その最後に書かれていた警告。
表と裏を持つKeilflamme。
その言葉がベルの脳裏をよぎる。
デッドエンドは鞭を両手で持つ。
そして肩を揺らした。
「あーね」
少女だけが楽しそうに笑っていた。
「Keilflamme幹部第二席♪」
鞭の先が石畳を叩く。
乾いた音が響く。
「デッドエンドちゃんでーす♪」
そう言って大袈裟に一礼する。
左右に並ぶ楔兵達は微動だにしない。
まるで最初からそこに置かれていた人形のようだった。
デッドエンドは顔を上げる。
その視線が真っ直ぐベルへ向いた。
嬉しそうに。
愉快そうに。
獲物を見つけた子供のように。
デッドエンドはひらひらと手を振る。
舌を出したまま。
満面の笑みで。
「ベ〜ル〜昨日ぶり〜」
ベルの表情が険しくなる。
「…何しに来たの?」
デッドエンドは肩を揺らして笑った。
「んふーっ怒った顔もかわいーねー♪」
ニンマリ。
口元が大きく吊り上がる。
その様子にウルフが眉をひそめた。
「HEY HEY!答えになってねぇぞ!?」
すると。
デッドエンドの顔から笑顔が消えた。
露骨に不機嫌そうな顔になる。
「うっせーっ!クソザコウルフがっ!黙ってろし!」
ウルフが固まる。
「ク…クソザコ…?」
思わぬ暴言に目を瞬かせた。
その横でミリィがベルへ小声で尋ねる。
「ベルさん…なんですか、あの派手な人は…」
だが。
その声は届いていた。
「クソザコミリィ!コソコソ話してんじゃねーよっ!」
ミリィがびくりと肩を震わせる。
「聞こえてるんですか!?」
「聞こえてるし!」
即答だった。
デッドエンドは鞭を肩へ担ぐ。
そしてベル達を順番に指差した。
「クソザコウルフ!」
ウルフを指差す。
「クソザコミリィ!」
ミリィを指差す。
「クソザコロロル!」
ロロルを指差す。
ロロルは思わず傷付いた顔になった。
「えっ…」
最後に。
デッドエンドの指がベルへ向く。
その瞬間だけ。
声色が変わった。
「んでベル♪」
満面の笑みだった。
ベルの顔から血の気が引く。
「なんで…ロロルの名前まで」
ロロルとは今日初めて会ったばかりだった。
知っているはずがない。
デッドエンドは首を傾げる。
「もしかしーてー、あちきのことー、バカだと思ってるー?」
ニタニタと笑う。
「あちきはさー、こう見えても策士なわけー」
ウルフが眉をひそめた。
「…策士?」
デッドエンドの額に青筋が浮かぶ。
舌打ちした。
「この路地裏へー、誘い込んだのは、あちき」
両手の人差し指で自分を指差す。
「この街サナトリアへ、白夜の季節に来る様仕向けたのも、あちき」
ミリィが目を見開いた。
「…!?」
ベルは即座に否定する。
「…適当なこと言わないで!」
デッドエンドが凶悪に笑う。
「サナトリアに来ようと思ったのはーなーぜー?」
ベルは反射的に答えた。
「それは…立ち寄った街のギルドでたまたま話を聞いて…」
デッドエンドはさらに笑みを深くする。
「誰からー?」
ベルは少し戸惑う。
「誰からって、ちゃんとギルドの職員からー」
デッドエンドが肩を震わせた。
愉快でたまらないというように。
「ほんとーにー?ほんとーにギルドの職員だったー?」
ベルの声が止まる。
「…え?」
デッドエンドは一歩前へ出る。
「思い出ーしてー?ギルドでー、掲示板を見てたらー、話しかけられたんじゃーなかったー?」
ベルとミリィの脳裏に記憶が蘇る。
確かにそうだった。
ブラハ・ラグの事件が解決して、次はどこに行こうか思案しながら、ギルドに立ち寄って、
なんとはなしに依頼掲示板を眺めていた時。
女性職員が笑顔で話しかけてきた。
行き先に迷ったらサナトリアはどうか?と。
探し物や探し人ならサナトリアにの聖女に聞けばいいと。
そう勧められた。
ベルの瞳が揺れる。
ミリィも言葉を失った。
そんな二人を見て。
デッドエンドは楽しそうに舌を出した。
「思い出したー?」
白い歯を見せて笑う。
「キャハハ♪」
その笑い声だけが。
静まり返った路地裏に響いた。
デッドエンドは鞭を肩へ担いだ。
機嫌良さそうに笑いながら。
「ブラハにはベル達が壊滅させたKeilflammeの支部があったんだしー、日中の慌ただしいギルドに入り込むのなんて、わけないよねー?」
ベルの顔が強張る。
「なんで!そんなこと…」
デッドエンドは肩を竦める。
「そんなの決まってるしー」
その瞬間。
笑顔が消えた。
路地裏の空気が変わる。
「魔王殺し封じ」
ベルとミリィが目を見開く。
ロロルは意味が分からず二人を見る。
ウルフも眉をひそめた。
だが。
デッドエンドだけは全てを見透かしたような目をしていた。
そして再び。
にたりと笑う。
「白夜なら変身できないんじゃないかなー…てデッドちゃんの推測はアタリだったねー」
ベルの拳が震える。
図星だった。
サナトリアへ来てから。
一度も夜になっていない。
一度も。
銀髪の少年へ変わっていない。
デッドエンドはそんなベルの反応を見て、愉快そうに舌を出した。
「キャハハ♪」
その笑い声が。
ベルの沈黙を肯定していた。
デッドエンドはロロルへ視線を向ける。
その背中のマリカへ。
そして楽しそうに笑った。
「そんでそのーロロルと聖女システムユニット、マリカのこともー知ってるーんだー」
ロロルの顔が強張る。
「…どうして…」
デッドエンドは肩を揺らした。
「デッドちゃんは、なんでもー知ってるーのー♪」
ベルが思わず呟く。
「…なんてやつ…」
デッドエンドは鞭を肩へ担ぐ。
そして大袈裟にため息を吐いた。
「世界でいっちゃんすごいのは情報だし」
一歩前へ出る。
「情報を制するものは世界を制すし」
さらに一歩。
「戦いとは情報」
そこで立ち止まる。
そして両手の人差し指で自分の頭を指差した。
「ここなの!こーこ!」
ニンマリ。
口元が大きく吊り上がる。
その笑みは愉快そうで。
楽しそうで。
それでいて妙に不気味だった。
まるで全員の行動を。
考えを。
これから起こることさえ。
全て把握していると言わんばかりに。
デッドエンドは鞭を指先でくるくると回した。
まるで指揮棒でも振るうように。
機嫌良さそうに。
楽しそうに。
「そいじゃー楔兵のみんなー!変身できなくてよわよわなベルをちゃちゃっと連れ帰るよー!」
その言葉に四人が身構える。
ウルフが一歩前へ出る。
ベルは拳を握る。
ミリィはロロルの前へ移動した。
ロロルもマリカを背負い直す。
張り詰めた空気。
誰も動かない。
一瞬だけ訪れた静寂。
そして。
デッドエンドが鞭を振り下ろした。
「やっちゃえ⭐︎」
パァンッ!!
乾いた音が路地裏に響く。
その瞬間だった。
背後に並んでいた白い仮面達が一斉に動き出す。
十体。
全て同時。
全て無言。
黒いロングコートを翻しながら駆け出した。
楔剣が持ち上がる。
白い仮面がベル達を見据える。
重い足音が石畳を叩く。
前方から。
左右から。
一斉に。
楔兵達がベル達へ襲い掛かった。




