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【World Wide Love ― 魔王殺しと呼ばれて―】  作者: KK
【第2部】第4章ー千里眼の聖女ー

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彼女を助けたいんですー

「それが…聖女の正体です」


そう言って、少年は口を閉ざした。


部屋の中に重い沈黙が落ちる。


誰もすぐには言葉を発せなかった。


あまりにも重い話だった。


あまりにも残酷な話だった。


そして最初に口を開いたのはベルだった。


拳を握り締める。


瞳には怒りが浮かんでいる。


それは国への怒りでも。


制度への怒りでもない。


ただ一人の少女へ向けられた理不尽への怒りだった。


「何それ…そんなの許せない!」


少年は俯いた。


肩が小さく震える。


そして絞り出すように言葉を続ける。


「僕は…あいつが、聖女になる前の、元気で、明るくて、おてんばな…声が、笑顔が…忘れられない..」


そこで言葉が止まった。


少年はぐっと唇を噛む。


涙を堪えるように俯いた。


そんな少年を見つめながら、ウルフが静かに問いかける。


「…おまえはどうしたいんだ?」


少年が顔を上げる。


涙で濡れた瞳。


だがその奥には迷いではなく、強い決意が宿っていた。


「助けたい!」


「僕はまた、あいつを太陽の下に連れ出したい!」


その言葉を聞いた瞬間。


ウルフの口元がニヤリと吊り上がる。


「いいじゃねぇか、おまえ、いい顔してるぜ!」


ミリィは不安そうに視線を落とした。


「で…でも、助け出したら..」


少年は目を閉じる。


それは何度も考えたことだった。


五年間。


毎日。


毎日。


嫌になるほど考え続けた。


だから答えも知っている。


「わかってます。もしうまく連れ出せたとしても…あいつの意識はもうない…もしかしたら、すぐに死んでしまうかもしれない」


ベルの顔が曇る。


「…そんな…」


少年は続けた。


「それに、僕も、僕の一族も、あいつの一族も…どうなるかわかりません。次の聖女候補はまだ生まれていないから…聖女のいないサナトリアもどうなるか…」


ミリィは静かに頷いた。


「…影響は計り知れませんね…でも…」


ベルも小さく頷く。


「うん…それでも」


ウルフが腕を組む。


「かもな…だけどよ」


少年はゆっくりと目を開いた。


その目の奥には強い輝きが宿っていた。


「そんなの関係ない!」


少年が拳を握りしめた。


「僕は!彼女を助け出したいんだ!」


叫ぶような声だった。


損得ではない。


理屈でもない。


国家でもない。


未来でもない。


ただ一人の少女を助けたい。


その想いだけがそこにあった。


そしてその言葉に。


ベルとミリィ、そしてウルフが頷いた。


ベルが勢いよく立ち上がる。


「行こう!今すぐ助けに!」


少年の目が丸くなる。


「え…ええ!?今すぐ!?いえ、さすがに慎重に作戦を立てて…」


だがウルフは豪快に笑った。


「バッカヤローッ!女が待ってんだろ!?悠長なこと言ってんじゃねぇ!行けばなんとかなるさ!」


少年は呆然とする。


今まで誰一人そんなことを言った人間はいなかった。


ミリィは苦笑しながら胸の前で手を握った。


「慎重に作戦を練って、時期を見て事に及ぶべきだと…私もそう思います。理屈では…、でも、私も今すぐ助けに行きたい、です。今は感情に勝てません」


少年は三人を見つめた。


五年間。


答えは出なかった。


どうするべきか。


どうすればいいのか。


何度考えてもわからなかった。


だが目の前の三人は違う。


理屈も。


損得も。


未来も。


全部承知した上で。


それでも助けると言っている。


その姿が。


どうしようもなく眩しく見えた。


ベルが勢いよく立ち上がった。


そして迷いなく右手を差し出す。


その意味を理解したウルフがニヤリと笑った。


椅子に深く腰掛けたまま右手を伸ばし、ベルの手の上へ重ねる。


ミリィは少しだけ戸惑ったように二人を見た。


だがすぐに小さく微笑むと、遠慮がちに右手を重ねた。


三人の手が積み重なる。


そして。


三人同時に、座ったままの少年を見た。


少年は目を見開いた。


自分がその輪の外にいることに気付く。


手が震えた。


迷いがなかったわけではない。


怖くないわけでもない。


失うものはあまりにも多かった。


国家。


一族。


未来。


あの少女の命さえ。


全て失うかもしれない。


少年はゆっくりと目を閉じた。


深く息を吸う。


そして。


立ち上がった。


伸ばした右手を三人の上へ重ねる。


力強く押し込んだ。


覚悟を固めるように。


自分自身へ言い聞かせるように。


そして目を開く。


「あいつを助けに行きます!どうか、みなさんの力を、貸してください!」


ベルが笑う。


ミリィも笑う。


ウルフも不敵に口元を吊り上げた。


三人は力強く頷いた。


少年の胸に、熱いものが込み上げる。


一人ではない。


もう一人ではない。


その事実だけで、泣きたくなるほど嬉しかった。


やがて四人は手を離した。


それぞれが動き出す。


準備を始める。


必要な物を揃える。


手につけた9個の指輪に視線を落とし、覚悟を決めたように両手を握りしめるベル。


リュックの中身を確認するミリィ。


いつものレザージャケットを羽織り、リーゼントを整えるウルフ。


そして少年はそんな3人をただ見つめていた。


その時だった。


ベルがふと振り返る。


何気ない調子で問いかけた。


「ね、その子の名前、なんて言うの?」


少年の身体が止まった。


声を失う。


名前。


その言葉が胸を刺した。


七年前。


あの日。


少女が聖女になった日。


皆が聖女様と呼ぶようになった。


誰も名前を呼ばなくなった。


呼んではいけなくなった。


いつしか自分も呼ばなくなった。


だから。


その名前を口にするのは、どれほどぶりだったのだろう。


少年の脳裏に記憶が蘇る。


青空。


どこまでも続く草原。


風に揺れる銀髪。


楽しそうに駆け回る少女。


転んで。


膝を擦りむいて。


それでも笑って。


また走り出す。


太陽の光を浴びながら。


誰よりも眩しく笑う少女。


その笑顔が胸を締め付けた。


少年は静かに口を開く。


「マリカ… マリカ・ウィンブルドン。太陽みたいに笑う子でした」


その名前は。


七年間、地下の闇に閉じ込められていた少女の名前だった。


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