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【World Wide Love ― 魔王殺しと呼ばれて―】  作者: KK
【第2部】第4章ー千里眼の聖女ー

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聖女からの手紙ー

ベルとミリィは聖堂を出た後、大通りで目についたカフェへ入った。


白い石畳の通りに面したテラス席へ案内され、向かい合うように腰を下ろす。


昼時の街は賑わっていた。


行き交う人々の話し声。


食器の触れ合う音。


焼きたてのパンの香り。


だが二人の意識は、テーブルの上に置かれた一通の書簡へ向いていた。


聖女から渡された手紙。


それも、聖堂を出てから読めと言われたものだ。


気にならないはずがない。


店員が運んできたドリンクがテーブルへ置かれる。


ベルはグラスを手に取り、一口だけ飲んだ。


「とりあえず、開けてみるしかない、よね?」


向かいの席でミリィが小さく頷く。


「はい…開けてみてください」


ベルは慎重に封を開いた。


中から折り畳まれた紙を取り出し、ゆっくりと広げる。


そして書かれている内容へ目を通した。


数秒。


ベルは手紙を見つめたまま固まっていた。


一度読む。


そしてもう一度読む。


さらに最初から読み返す。


結果は変わらない。


「??何これ?」


思わずそんな言葉が漏れた。


向かいの席に座るミリィが身を乗り出す。


「…なんですか?これは」


ベルは無言で手紙を差し出した。


ミリィも紙面へ視線を落とす。


そこに綴られていたのは、不思議な文章だった。


知らない単語。


聞いたこともない言葉。


それらが所々に混ざり込み、文章全体をひどく分かりにくくしている。


それでも断片的に読み解くと、内容はおおよそこうだった。


この世界にはたった一人、女神がいた。


女神は世界を作り、人を作り、この世の全てを作った。


そして、ただ眺めていた。


愛すべき人々を。


その営みを。


その歴史を。


だが、その果てに女神は絶望した。


世界を壊し、創造し直すことを決めた。


全てを女神の理想の世界へ作り変えるために。


そんな内容が、数多くの未知の単語や言葉と共に綴られている。


文字は読める。


だが意味が分からない。


文章の途中に挟まる失われた言葉が、その意味を曖昧にしていた。


そして最後は一文の警告で締め括られていた。


そこで文章は終わっていた。


ベルとミリィは顔を見合わせる。


「……」


「……」


しばらく沈黙が続く。


大通りの喧騒だけが遠く聞こえていた。


「何これ?」


ベルは再び手紙へ目を落とした。


「分かりません……」


ミリィも困ったように眉を寄せる。


二人はもう一度最初から読み返した。


だが何度読んでも理解できない。


知らない言葉が多すぎる。


文章として成立しているはずなのに、肝心な部分だけ霧がかかったようだった。


結局、二人は揃って腕を組み、書簡と睨めっこを続けることしかできなかった。


そして最後はこう締めくくられていた。


『次のKeilflammeは表と裏がある。ゆめゆめ気をつけること』


ベルの視線がその一文で止まる。


昨夜現れた、Keilflammeの幹部を名乗る女性の姿が脳裏をよぎった。


「Keilflammeのことまで…でも表と裏って…?」


ミリィもその一文を見つめる。


分からない。


だが、少なくとも無意味な言葉ではないはずだった。


聖女から渡された手紙。


しかも最後だけは不思議なほど分かりやすい。


それだけに余計に気になる。


「…最後の一文を見るに、この女神の話?も何かしら意味があるんでしょうね」


ベルは手紙を見下ろした。


女神。


世界の創造。


世界の破壊。


聞いたこともない話だった。


「…でも女神なんて聞いたことないし、何かの伝承?昔話?」


ミリィはゆっくりと首を横に振る。


「…わかりません。わかりませんけど、きっと何か意味があるんだと、思います」


二人は再び紙面へ視線を落とした。


知らない言葉だらけの文章。


断片的にしか理解できない内容。


それでも、この手紙には何かが隠されている。


そんな確信だけはあった。


だが、その答えに辿り着くには、二人の知識はあまりにも足りなかった。


二人が手紙を前に頭を悩ませていると。


ふいに声がかかった。


「あの…貴女達がベルさんと、ミリィ…さん?」


ベルとミリィが同時に顔を上げる。


声のした方を見ると、一人の少年が立っていた。


十代半ばほどだろうか。


華奢な体格。


神官服に似ているが、もっと簡素な白い服を身に着けている。


銀髪は短く整えられ、その顔立ちは真面目そうだった。


だが、その表情にはどこか切迫したものがある。


まるで何かを決意してここへ来たかのように。


ベルは自然と警戒を強めた。


見知らぬ少年。


それなのに、自分とミリィの名前を知っている。


「そうだけど…君は?」


ロロルは一瞬言葉を失った。


緊張しているのか、喉が小さく動く。


そして自分を落ち着かせるように大きく深呼吸をした。


ゆっくりと息を吐く。


青い瞳がまっすぐベルを見た。


「僕の名前は、ロロル・マドリードと言います」


「ロロル?どうして、私達のことを?」


その問いにロロルの肩がわずかに震えた。


視線が横へ流れる。


返答に困っているようだった。


ベルとミリィが眉を寄せる。


ますます怪しい。


だが少年の様子は、何かを隠そうとしているというより、説明の仕方に困っているように見えた。


「そ、それは…」


言葉が続かない。


ロロルは何度か口を開きかけては閉じた。


そして意を決したように二人を見た。


「どこか…人のいない場所で話せませんか?」


その声は真剣だった。


冗談でもなければ、軽い頼み事でもない。


ベルはミリィを見る。


ミリィもまたロロルを見つめていた。


警戒はしている。


だが、それ以上に気になる。


なぜ自分達を知っているのか。


なぜ話しかけてきたのか。


そして、どうしてそんなに必死なのか。


ベルは再びロロルへ視線を戻した。


少年は答えを待っている。


逃げる様子もない。


ただ不安そうに立っていた。


ベルとミリィは顔を見合わせた。


少年の様子から、ただ事ではないことだけは伝わってくる。


何かを隠している。


だが、それ以上に切羽詰まっていた。


ベルは少し考えた末、小さく頷いた。


ロロルの表情がわずかに緩む。


三人はカフェを後にした。


大通りを歩きながら、ベルは空を見上げる。


相変わらず空は明るい。


だが体感ではもう夕刻のはずだった。


白夜。


何度経験しても時間の感覚が狂う。


気を抜けば朝なのか昼なのか、分からなくなりそうだった。


そんなことを考えながら歩き続ける。


やがて見慣れた家が見えてきた。


ハーブの家だ。


現在、この街での拠点としている場所でもある。


ベルは扉を開いた。


だが中は静かだった。


人の気配が少ない。


どうやらハーブは出かけているらしい。


ベルは室内を見回した。


朝から街を見て来ると言っていたウルフのことを思い出す。


そろそろ戻っていてもおかしくない時間だ。


ベルは廊下を進み、一つの扉の前で足を止めた。


軽くノックする。


すると間を置かず返事が返ってきた。


どうやらいるらしい。


ベルは扉を開いた。


部屋の中にはウルフの姿があった。


帰ってきたばかりなのか、それとも少し前からいたのか。


少なくとも外出中ではないようだった。


ベルは後ろのロロルを振り返る。


少年は緊張した様子のまま立っている。


ミリィも静かに様子を見守っていた。


三人は部屋へ入り、話を聞くことにした。


ウルフの部屋は決して広くはなかった。


簡素な机。


壁際の棚。


そして一台のベッド。


ベルとミリィ、ロロルの三人は向かい合うようにソファへ腰を下ろしている。


対してウルフはベッドに腰掛けたまま、その様子を眺めていた。


ロロルは背筋を伸ばして座っているものの、膝の上で握られた手には力が入っている。


緊張しているのは誰の目にも明らかだった。


「その子はなんだい?」


ウルフが顎をしゃくる。


ベルは隣のロロルへ視線を向けた。


「…さっき声をかけられてたんだけど、なんだか私たちに話があるらしくて」


「ふぅん…なんだか思い詰めた顔をしているな」


ウルフの言葉にロロルの肩がぴくりと震えた。


図星だったのだろう。


ベルも改めてロロルを見る。


カフェで会った時からそうだった。


ずっと何かに追い詰められているような顔をしている。


今もそれは変わらない。


ミリィは静かにロロルを見つめていた。


部屋に沈黙が落ちる。


ロロルは視線を下げたまま何度も呼吸を整えていた。


話したいことはある。


だが、どう切り出せばいいのか分からない。


そんな様子だった。


やがてロロルは膝の上で握っていた手をゆっくりと開く。


そして意を決したように顔を上げた。



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