表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【World Wide Love ― 魔王殺しと呼ばれて―】  作者: KK
【第2部】第4章ー千里眼の聖女ー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
564/657

聖女様に会いに行こうー

デッドエンド襲撃の翌日、


ベルとミリィは聖女に関する話を聞くため、大聖堂を訪れていた。


街の中心にそびえ立つ巨大な建造物。


遠くからでも見える白亜の尖塔。


その圧倒的な存在感に、改めて聖女の影響力を感じさせられる。


だが。


2人が大聖堂の正面広場へ出た瞬間。


思わず足を止めた。


広場を埋め尽くす人。


人。


人。


そして大聖堂の受付へと続く長蛇の列。


ベルが思わず声を漏らす。


「うわぁ……」


ミリィも目を丸くした。


「聞いてはいましたけど……」


2人はすでに知っている。


聖女と面会するには予約が必要。


しかも予約を取ってから実際に会えるまで半年以上待つことも珍しくない。


だから列があること自体は予想していた。


だが。


実物は想像以上だった。


近くを通りかかった男性が苦笑する。


「初めてかい?」


ベルが頷く。


「はい」


「まあ皆そんな顔するよ」


男性は列を見ながら肩をすくめた。


「夜から並んでる奴らもいるしな」


ベルとミリィが同時に列を見る。


なるほど。


この人数なら納得だった。


予約を取るだけでも一苦労だ。


大聖堂を見上げる。


あれだけ巨大な建物なのに。


その前に集まる人々の熱気の方が圧倒的だった。


聖女。


その名だけで、これほどの人を動かしている。


ベルは小さく息を吐いた。


「とりあえず……並ぼっか」


ミリィも苦笑しながら頷く。


「ですね」


2人は最後尾へ向かって歩き出した。


白亜の大聖堂は朝から人で埋め尽くされていた。


大聖堂へ続く石畳には長い列が伸びている。


ベルとミリィもその最後尾近くに並んでいた。


半年以上待ち。


事前に聞いていた話だ。


だから焦りはない。


むしろ予約だけで済むなら仕方ないと納得していた。


「すごい人ですね……」


ミリィが列の先を見ながら呟く。


ベルも苦笑した。


「うん……」


どこまで続いているのか分からない。


本当に今日中に受付まで辿り着けるのだろうか。


そんなことを考えていた時だった。


大聖堂の正面入口が開く。


数人の神官たちが姿を現した。


周囲がざわつく。


だが神官たちは誰かを呼ぶでもなく、そのまま列の脇を歩き始めた。


ベルは気にも留めなかった。


どうせ関係ない。


そう思っていた。


神官たちは列の横を進む。


前を通り過ぎる。


そのまま後ろへ。


さらに後ろへ。


そして。


ベルたちの前で足を止めた。


「ベル・ジット様」


ベルが目を瞬く。


「……え?」


神官は丁寧に一礼した。


「ミリィ様」


「は、はい?」


ミリィも慌てて返事をする。


周囲の視線が一斉に集まった。


ベルは思わず自分の後ろを見る。


誰もいない。


前を見る。


当然違う。


神官はもう一度告げた。


「ベル・ジット様、ミリィ様でお間違いありませんね」


「え、あ、はい……」


「聖女様がお呼びです」


ベルの思考が止まる。


「……はい?」


神官は穏やかな表情のまま続けた。


「聖女様がお待ちです。ご案内いたします」


ミリィがベルを見上げた。


ベルもミリィを見る。


二人とも状況が理解できない。


予約をしに来た。


ただそれだけだ。


なのに。


「えっと……私たち、まだ受付もしてないんですけど……」


神官は首を横に振る。


「承知しております」


「じゃあなんで……」


「聖女様のご意思です」


その一言で。


周囲がさらにざわめいた。


列に並ぶ人々のざわめきが耳に入る。


ベルは神官達を見上げたまま、小さく首を傾げた。


「…それってどういう…?」


戸惑いがそのまま声になっていた。


神官達の言葉が理解できなかったわけではない。


理解できたからこそ、意味が分からない。


隣ではミリィも真剣な顔で考え込んでいる。


そして、慎重に言葉を選ぶように口を開いた。


「…なんでも見通す千里眼で、私たちが来るのも見ている…と、いうことですか?」


周囲の空気が僅かに張り詰める。


ベルも神官達を見つめた。


神官達は無言のまま――頷いた。


ベルは戸惑いながらも神官へ尋ねた。


「…会えるのはうれしいけど…どういうことですか?」


神官は静かに答える。


「それは、ここではお話できません。あちらへ」


説明はそれだけだった。


ベルとミリィは顔を見合わせる。


理由は分からない。


だが神官達は待っている。


二人は促されるまま、神官達の跡をついていった。


列の脇を通り過ぎる。


そのたびに、人々の視線が集まった。


順番を待つ人々。


遠くから訪れたのだろう旅人達。


皆が二人を見ている。


ベルは思わず肩をすぼめた。


ミリィも居心地悪そうに俯き加減になる。


並んでいる人々からの視線が痛い。


重厚な両開きの扉が静かに開かれる。


ベルとミリィは神官達に続いて聖堂の中へ足を踏み入れた。


思わず息を呑む。


外から見ても巨大だったが、中はさらに広かった。


高い天井は遥か頭上にあり、幾本もの白い石柱が規則正しく並んでいる。


色鮮やかなステンドグラスから差し込む光が床へと降り注ぎ、赤や青、金色の模様を描いていた。


磨き上げられた白い石の床は鏡のように光を反射している。


聖堂内には静寂が満ちていた。


人の気配はある。


神官や修道女達が行き交っている。


だが誰一人大きな声を出さない。


足音さえ自然と小さくなってしまうような厳かな空気が漂っていた。


壁には巨大な女神像や精巧な彫刻が並び、そのどれもが長い年月を感じさせる。


ミリィは思わず周囲を見回した。


歴史書で読んだことはある。


だが実際に見るのは初めてだった。


この国の信仰の中心。


何百年もの歴史を持つ大聖堂。


その重みが空気そのものに染み込んでいるようだった。


神官達は迷いなく奥へ進んでいく。


ベルとミリィは圧倒されながらも、その後を追った。


やがて神官達が足を止めた。


ベルとミリィも足を止める。


先頭の神官が静かに振り返った。


そこは聖堂の一角に設けられた礼拝堂だった。


大聖堂ほどの広さはない。


だが天井は高く、厳かな空気に満ちている。


正面には女神像が安置され、その前には祭壇が置かれていた。


白い花々が供えられ、何本もの蝋燭が静かに揺れている。


色鮮やかなステンドグラスから差し込む光が礼拝堂の中を柔らかく照らしていた。


外の喧騒はまるで届かない。


人の気配もほとんどなく、静寂だけが支配している。


ベルは思わず周囲を見回した。


先ほどまで感じていた視線もない。


代わりに胸の奥が自然と引き締まるような不思議な空気があった。


神官達は祭壇の前で立ち止まり、二人へ向き直る。


神官の一人が一歩前へ出た。


「今、問いの神官が参りますので」


そう告げると、礼拝堂は再び静寂に包まれた。


ベルとミリィは祭壇の前で待つ。


しばらくして、奥の扉が静かに開いた。


現れたのは一人の女性だった。


同じ神官ではある。


だが身に纏う衣装は周囲の神官達とは明らかに異なる。


より上質な白と金の法衣。


胸元には見慣れない紋章が刺繍されていた。


女性神官は落ち着いた足取りで祭壇の前まで歩いてくる。


そしてベルとミリィへ向き直った。


「私が問いの神官と呼ばれる者です。聖女様への取次は私を通して行われます」


穏やかな声だった。


だがその場にいる神官達は誰一人として口を挟まない。


自然と、この女性が特別な立場にあることが伝わってくる。


ベルは思わず背筋を伸ばした。


ミリィも小さく姿勢を正す。


問いの神官は二人を静かに見つめていた。


高い天井へと吸い込まれていく静寂の中、問いの神官がゆっくりと口を開いた。


「聖女様より、貴女達へのお言葉を賜っております」


その言葉にベルは目を瞬かせる。


聖女から。


自分たちへ。


予想もしていなかった言葉だった。


 

「…私たちに?」

 


思わず確認するように聞き返す。


隣ではミリィが小さく目を伏せた。


 

「…全てはお見通し…そういうことなんですね」

 


問いの神官は否定しなかった。


かといって肯定もしない。


ただ静かに続ける。


 

「本来なら直接、私が口頭にてお伝えすべきところ、内容に不明な部分が多く、書面にしたためております」

 


そう言うと、問いの神官は近くに立つ若い神官へ視線を向けた。


小さく頷く。


若い神官は一礼し、抱えていた書簡を差し出した。


それを受け取った問いの神官がベルへと向き直る。


静かな動作で、その書簡を差し出した。


 

「こちらを、聖堂を出てからお読みください」

 


ベルは差し出された書簡を見つめた。


そして問いの神官を見る。


 

「…ここを、出てから?」

 


問いの神官が頷く。


その表情は変わらない。


理由を説明する気配もなかった。


ベルは少しだけ迷ったものの、結局は書簡を受け取った。


指先に伝わる紙の感触。


聖女からの言葉。


その事実だけで妙な重みを感じる。


だが、ここで読むなと言われた以上は従うしかない。


ベルは書簡を抱えながら口を開いた。


 

「…私も聖女様にお伺いしたいことがー」

 


その言葉の途中で、問いの神官が静かに首を左右へ振った。


 

「なりません。それは順番をお待ちいただかなければ」

 


即座の返答だった。


拒絶ではない。


だが覆る余地も感じられない。


ベルは肩を落とす。


 

「…で、ですよねー」

 


乾いた笑みが漏れた。


聞きたいことは山ほどある。


なぜ自分たちを知っているのか。


なぜ呼ばれたのか。


そして、この書簡には何が書かれているのか。


だが今は、その順番ではないらしい。


聖堂には再び静寂が満ちた。


ベルは胸元の書簡へ視線を落とし、ミリィは黙ったまま前を見つめている。


二人の前で、問いの神官は静かに立っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ