デッドエンド参上ー
茫然自失。
まさにそんな状態のまま。
ベルとミリィは風呂を上がった。
髪を乾かし。
服を着て。
ふらふらとリビングへ戻る。
すると。
「おかえりなさい」
ハーブがいつも通りの笑顔で迎えた。
テーブルの上にはプリンが並んでいる。
「ちょうど冷えたところよ」
何事もなかったかのような口調だった。
ベルとミリィは顔を見合わせる。
そして。
言われるまま席に座った。
プリンを食べる。
甘い。
美味しい。
会話もした。
何を話したのかはよく覚えていない。
ハーブはいつも通り笑っていた。
ベルも笑った。
ミリィも相槌を打った。
まるで何もなかったかのように。
時間だけが過ぎていく。
やがて。
「そろそろ寝ましょう」
ハーブがそう言った。
「そうですね」
ミリィが頷く。
「うん……」
ベルも頷いた。
「それじゃ、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
それぞれが部屋へ向かう。
ベルとミリィは二階へ上がり。
用意された客室へ入った。
部屋の中には二つのベッド。
二人は無言のまま着替えを済ませる。
そして。
それぞれのベッドへ潜り込んだ。
部屋の明かりは落としていた。
白夜の淡い光だけがカーテンの隙間から差し込んでいる。
静かな部屋だった。
しばらく沈黙が続く。
やがて。
「……ねぇ、ミリィ」
ベルがぽつりと呟いた。
「……はい」
「……私がおかしいのかな?」
ベルは天井を見つめたまま言う。
「ハーブに告白された気がするんだけど……」
少しの沈黙。
「……されましたね」
ミリィが静かに答える。
「キスも……」
「……だよね?」
「……だよね……」
再び静寂。
二人とも天井を見上げたまま動かない。
「……」
「……」
「なんで?」
「分かりません……」
「だよね……」
ベルは枕に顔を埋める。
「私、今日この街に来たばっかりなんだけど……」
「私も見てました」
「うん……」
「本当に今日です」
「だよねぇ……」
ベルはもぞもぞと寝返りを打った。
「なんか夢みたい」
「私もそう思います」
「だよね……」
ミリィも布団を引き上げる。
そして小さく呟いた。
「でも」
「うん?」
「ハーブさんは本気でした」
ベルが固まる。
「……」
「……」
「考えたくない」
「でしょうね」
「考えたくないよぉ……」
ベルは布団を頭まで被った。
ミリィはそんな様子を見ながら、小さく息を吐いた。
そのまま二人とも眠れずに天井を見つめ続けていた。
それから数時間が経った。
ようやく寝息が聞こえ始めた頃。
ベルは何かの気配を感じて目を覚ました。
「ん……んん……重い……」
胸の辺りが妙に苦しい。
何かが乗っている。
そんな感覚。
夢かと思った。
だが重みは消えない。
むしろ徐々にはっきりとしてくる。
動けない。
そこでようやく違和感に気付いた。
柔らかい。
温かい。
そして。
人の重さだった。
そしてベルが目を開く。
「……え?」
ベルの思考が止まる。
視線を上げる。
目の前に顔があった。
知らない少女。
銀色のツインテール。
黒い服。
自分を見下ろしている。
数秒。
完全停止。
そして。
「ひゃああああっ!?」
ベルが飛び起きようとする。
だが少女が乗っているせいで起き上がれない。
「なっ!?」
「えっ!?」
「だ、誰ぇ!?」
慌てて布団を掴む。
心臓が爆発しそうだった。
少女はじっと見ている。
「だ、誰!?」
「なに!?」
「なんでいるの!?」
「どうやって入ったの!?」
「ミリィ!?」
「ミリィ起きて!?」
ベルは半泣きだった。
少女は少し首を傾げる。
「デッドちゃん」
「知らないよ!?」
即答だった。
「デッドちゃん」
「だから知らないって!」
ベルは完全にパニックである。
胸の上には知らない少女。
しかも跨るような姿勢。
意味が分からない。
恐怖と混乱と寝起きが一気に襲ってきた。
「ちょ、降りて!?」
「お願いだから降りて!?」
「まずそこからだから!」
ベルの悲鳴にも近い声が部屋に響いた。
少女はベルの様子など気にも留めなかった。
ただじっと見つめる。
そして。
にっこりと笑った。
そのまま前屈みになる。
顔が近い。
近すぎる。
大きな瞳が目の前いっぱいに広がった。
「かーわいい」
微笑む。
ベルの思考が止まる。
「え……なに……?」
デッドちゃんは楽しそうに目を細めた。
「あちき」
「かわいい女の子だいすきなんだよねー」
「は?」
ベルは間の抜けた声を漏らした。
「あちき、ベル知ってるよ」
「街で見たし」
「ハーブも見てたし」
「ずっと見てたし」
「え?」
「え?」
ベルの顔が引きつる。
「ずっと?」
「うん」
「ずっと」
デッドちゃんはあっさり頷いた。
「な、なんで!?」
「かわいいから」
即答だった。
ベルは混乱する。
「なにそれ!?」
「意味わかんない!」
「そう?」
デッドちゃんは首を傾げる。
本気で不思議そうだった。
「かわいい女の子見つけたら見るでしょ?」
「見ないよ!?」
ベルは思わず叫んだ。
隣のベッドでミリィが小さく身じろぎする。
二人とも反射的にそちらを見る。
ミリィは起きない。
規則正しい寝息を立てていた。
ベルは少しだけ安堵した。
そしてすぐに目の前の問題へ意識が戻る。
問題が胸の上に乗っていた。
「と、とりあえず降りて!?」
「重いから!」
「あー」
デッドちゃんは納得したように頷く。
だが降りない。
「降りてよ!?」
「やだ」
「なんでぇ!?」
ベルの悲鳴にも似た声が、白夜の薄明るい部屋に響いた。
「あちき、重くないしー」
「重いよ!」
ベルは即座に言い返した。
するとデッドちゃんは不満そうに頬を膨らませる。
「デッドちゃんは、重くない!」
びしっ。
ベルの鼻先へ指が突きつけられた。
距離が近い。
近すぎる。
ベルは少しだけのけぞった。
「……重くはない」
デッドちゃんの表情が明るくなる。
「ほらー」
「でも、どいてほしい」
今度はぴたりと固まった。
「……」
「……」
デッドちゃんはベルを見つめる。
ベルも見つめ返す。
数秒後。
少女はふっと笑った。
「いいよ」
あまりにもあっさりだった。
ひょいとベッドから降りる。
重みが消えた。
ベルはほっと息を吐いた。
そして上半身を起こす。
布団を胸元まで引き寄せながら警戒した目で少女を見る。
デッドちゃんはベッドの横に立っていた。
にこにこと。
とても嬉しそうに。
まるで友達の部屋へ遊びに来た子供みたいに。
ベッドの横に立ったデッドちゃんを見て。
ベルはようやく違和感に気付いた。
「あれ?」
さっきまでベッドの上にいたせいで分からなかった。
ベルもベッドから降りる。
そして思わず目を瞬かせた。
「思ったより背高い……」
デッドちゃんがにやりと笑う。
「今さら?」
「だ、だって!」
ベルは思わず見上げた。
ヒールのせいもあるだろう。
だがそれを差し引いても高い。
かなり高い。
こうして向かい合うと。
まるでハーブくらいある。
「へへー」
デッドちゃんは満足そうに笑った。
「ベルちっちゃくてかわいーじゃん」
「普通だよ!」
「かわいい」
「だからなんなの!?」
デッドちゃんはケラケラ笑う。
ベルは頭を抱えたくなった。
数時間前にはハーブ。
今度は謎の長身ギャル。
しかも勝手に部屋にいる。
「で、誰なの?」
ベルが改めて聞く。
デッドちゃんは肩をすくめた。
「あちき?」
「うん」
「デッドちゃん」
「それは聞いた!」
ベルが即座に返す。
「じゃなくて!」
「なんで私の部屋にいるの!?」
「何しに来たの!?」
「あー」
デッドちゃんはぽりぽりと頬を掻いた。
「ベル見に来た」
「なんで!?」
「かわいいから」
「意味わかんない!」
「で、誰なの?」
ベルが改めて聞く。
デッドちゃんはにっと笑った。
「Keilflamme幹部ー」
軽い調子だった。
まるで近所の店でも紹介するみたいに。
ベルの動きが止まる。
「……は?」
「デッドエンドだよー」
その瞬間。
ベルの表情から血の気が引いた。
さっきまでの困惑が消える。
代わりに警戒が宿った。
「Keilflamme……?」
「そそ」
デッドちゃんは気楽に頷く。
「幹部」
ベルは反射的にミリィを見る。
まだ眠っている。
起こそうか。
戦うべきか。
逃げるべきか。
頭の中で一気に思考が回り始める。
そんなベルを見て。
デッドちゃんは吹き出した。
「なにその顔」
「めっちゃ警戒してんじゃん」
「当たり前でしょ!」
ベルは声を潜めながら叫んだ。
「Keilflammeって言った!?」
「言ったー」
「幹部って言った!?」
「言ったー」
デッドちゃんはケラケラ笑う。
まるで他人事だった。
「安心してよ」
「今は暴れないし」
「今はって何!?」
「今はいーまー」
ベルは頭を抱える、
なぜ。
どうして。
自分の部屋に。
敵組織の幹部がいるのか




