ハーブの気持ちー
ハーブはそっとベルへ身を寄せた。
濡れた銀髪が肩を滑る。
そしてベルの肩へ視線を落とす。
「……綺麗な肌」
指先がそっと触れる。
「やっ……」
ベルは肩をすくめた。
「くすぐったい」
ハーブがくすりと笑う。
ベルはまだ頬を赤くしたまま、視線を泳がせていた。
ハーブはそんな様子を楽しそうに見つめている。
ミリィは落ち着かない様子で二人を交互に見た。
ふとベルが辺りを見回す。
「そういえば……あれ?」
「どうしたの?」
「ウルフは?」
ハーブが小さく苦笑した。
「それが、一杯飲んだら酔い潰れてしまったの」
「えぇ?」
ベルは目を丸くする。
ミリィも意外そうな顔になった。
「……珍しいですね」
「ねー」
ベルも頷く。
「いつもはガバガバ飲んでるのに」
「きっと旅の疲れがたまってたのよ」
ハーブは肩まで湯に浸かりながら微笑む。
「部屋に運んで寝かせたのでご心配なく」
「そっか」
ベルは少し安心したように息を吐いた。
「ならよかった」
ハーブがそっと目を細め、
「ベルとウルフ、付き合ってるの?」
その言葉に。
ベルとミリィはハーブ越しに顔を見合わせた。
そして同時に吹き出す。
「ないない」
「いいお兄ちゃんって感じ!」
「ですね……」
「保護者みたいなものです」
ミリィも頷いた。
ハーブは微笑む。
「ふぅん」
「そうなんだー」
そう言いながら。
ハーブはそっとベルの耳元へ顔を寄せる。
吐息が耳をくすぐった。
「それじゃ」
「今はフリーなの?」
「え?」
ベルは目を瞬く。
「ははは……」
「もうずっとフリーです」
苦笑しながら答えた。
「そっかー」
「そっかそっかー……」
ハーブは嬉しそうに頷く。
そしてさらに距離を詰めた。
「それじゃ……」
囁くような声。
「私と付き合ってみない?」
空気が止まった。
ベルが固まる。
ミリィも固まる。
湯気だけが静かに揺れていた。
「……え?」
ベルは間の抜けた声を漏らした。
ハーブは少し困ったように笑う。
「ごめんなさい」
「びっくりさせちゃった?」
ベルとミリィは苦笑する。
「や、やだなぁ」
「冗談やめてよー」
「ほ、ほんとですよー」
ミリィも慌てて頷く。
ハーブは何も言わない。
ただ微笑んだまま。
そっとベルの腰へ手を回した。
「ひゃっ!」
ベルの身体が跳ねる。
「も、もう……」
「冗談はいい加減にー……」
ハーブは優しく微笑んだ。
「本気よ」
ベルの笑顔が固まる。
「……え?」
「私」
「女の子も好きなの」
ハーブは微笑んだままベルを見つめる。
「街であなたを見かけた時、胸にズキュンと来たの」
ベルの頬を、汗とも湯気とも分からないものが伝った。
ミリィは目と口を開いたまま固まっている。
ハーブはそんな二人の反応を見て、くすくすと笑った。
そしてベルの手を取る。
「え?」
ベルが反応するより早く。
その手を自分の胸へ導いた。
「ひゃっ」
驚いて引こうとした手を、ハーブはそっと押さえる。
柔らかい感触。
その奥から伝わる鼓動。
トクン。
トクン。
トクン。
確かに速い。
「ほら」
「今もこんなにドキドキしてる」
ベルの手を胸に当てたまま、ハーブは優しく微笑んだ。
ベルの顔がみるみる赤くなる。
「ちょ、ちょっと待って」
「待たないわ」
「待って!?」
「だって本当だもの」
ハーブは楽しそうだった。
ミリィはまだ固まっている。
処理能力が完全に追いついていない。
「み、ミリィ!」
ベルは助けを求めるように隣を見る。
「は、はい!?」
ようやく動いた。
だが顔は真っ赤だった。
「助けて!」
「む、無理です!」
即答だった。
ベルは絶望した。
ハーブはそんな二人を見て、またくすくすと笑う。
「可愛い」
そう呟いて。
ベルの手を包むように握った。
ハーブはベルの手を握ったまま微笑んでいた。
「女は嫌い?」
「す……」
ベルの頭は完全に混乱していた。
「好きとか嫌いとかじゃなくて……」
「ふぅん」
ハーブは楽しそうに首を傾げる。
「それじゃ私のことは?」
「嫌い?」
「……き、嫌いじゃないけど……」
ベルは視線を逸らしながら答えた。
するとハーブの表情がぱっと明るくなる。
「嫌いじゃないなら、オッケーってことね?」
「そ、そうはならないでしょ!?」
ベルは思わず立ち上がりそうになる。
湯船が大きく揺れた。
ハーブは不思議そうに瞬きをする。
「どうして?」
「どうしてって!」
ベルは言葉に詰まる。
どうしてと言われても困る。
困るのだが。
「だって付き合うってそういうことじゃないでしょ!?」
「そうかしら?」
「そうだよ!?」
「好き」
ハーブは即答した。
「可愛い」
「優しい」
「一緒にいて楽しい」
指を一本ずつ折りながら数えていく。
「だから付き合いたい」
「ほら、ちゃんと理由もあるわ」
「そういう問題じゃないから!」
ベルの顔は真っ赤だった。
ミリィは隣で完全に処理落ちしている。
「み、ミリィ!」
助けを求める。
「は、はいっ!?」
「何か言って!」
「えぇ!?」
急に振られたミリィが慌てる。
そして。
「が、頑張ってください……?」
「どっちの味方なの!?」
ベルは叫んだ。
ハーブは肩を震わせて笑う。
「ふふっ」
「ミリィちゃんは応援してくれるみたい」
「してません!」
「してないの?」
「してません!」
ミリィは慌てて否定した。
ハーブはますます楽しそうだった。
そしてそっとベルの肩へ頬を寄せる。
「でもね」
「私、本当に一目惚れだったの」
耳元で囁かれ。
ベルの顔がさらに赤くなった。
ハーブは満足そうに微笑んだ。
どうやら全く引く気はないらしい。
ベルもミリィも狼狽える中、
その隙にベルの腰に回したハーブの右手が腰元に触れる。
「あっ...ひゃっ」
「あらあら、可愛い声で鳴くのね」
そして左手をベルの胸元へ滑らせる
「ここも可愛い」
「ちょ...もうほんとうに...」
力が入らず振り解けないベル。
「...こんな、お風呂まで一緒に入ってしまったら...もう止まれないでしょ?」
ハーブは楽しそうに微笑んでいた。
ベルは真っ赤な顔のまま身体を捩って逃げようと試みる。
だが狭い湯船では逃げ場がない。
「と、止まって!」
「どうして?」
ハーブは不思議そうに首を傾げた。
「どうしてって……!」
ベルは言葉に詰まる。
ハーブはくすくすと笑った。
「そんなに慌てなくても大丈夫よ」
「大丈夫じゃないよ!」
「そう?」
「そう!」
ベルは必死だった。
ミリィは両手で顔を隠している。
だが指の隙間はしっかり開いていた。
「ミリィ!」
「み、見てません!」
「見てるよね!?」
「少しだけです!」
全然助けにならなかった。
ハーブは肩を震わせて笑う。
「ふふっ」
「本当に可愛い」
「もう……」
ベルは湯気の中でうなだれた。
ハーブはそっとベルの髪を撫でる。
「安心して」
「今すぐどうこうしようなんて思ってないわ」
「ほんとに?」
「ええ」
そう答えたあと。
少しだけ間を置いて。
「今は」
「今は!?」
ベルが勢いよく顔を上げる。
ハーブは両手で口元を隠しながら、くすくすと笑っていた。
ようやく解放された。
そう思った瞬間だった。
ハーブの両手がベルの頬を包む。
「え?」
ベルが反応するより早く。
ハーブはそっと顔を寄せた。
ミリィの目が見開かれる。
「あ!」
ほんの一瞬。
唇が触れる。
ベルの思考は完全に停止した。
ハーブはゆっくりと顔を離す。
そして何事もなかったかのように微笑んだ。
「ふふっ」
ベルは固まったまま動かない。
ミリィも固まっている。
ハーブは立ち上がった。
湯船から足を上げる。
濡れた銀髪が背中を滑り落ちた。
「出たらデザートにしましょう」
振り返りながら微笑む。
「先に用意してるね」
そう言って浴室の扉へ向かう。
扉が閉まる。
静寂。
湯気だけがゆっくりと揺れていた。




