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【World Wide Love 】― 魔王殺しと呼ばないでー  作者: KK
【第2部】第3章ーはじまりの街編ー

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そして決着!ー

ベルの身体から白い靄のような煙が立ち上る。


竜の鱗が消えていく。


角が縮む。


翼が崩れるように霧散する。


やがて。


そこにいたのは傷だらけの少年だった。


ベルは床に手をつきながら息を吐く。


そのもとへラインとバルザックが歩み寄った。


バルザックが空になった空間を見上げる。


「…あの馬鹿、今度こそやれんだろうな」


ベルが肩を竦めた。


「大丈夫だろ」


口元の血を拭う。


「気合い入ってそうだったからな」


ラインが小さく笑う。


「信じてるんだね。彼を」


ベルとバルザックが顔を見合わせた。


そして。


同時に笑う。


「「ウルフだからな」」


その様子を。


少し離れた場所からキンサシャは見ていた。


両手で水晶玉を握りしめながら。


強く。


壊れそうなほど強く。


視線はずっと。


ウルフとゼニエダが消えた場所へ向けられていた。



十分。


誰もが息を潜めていた。


十分。


長くも短くも感じる沈黙。


誰も口を開かない。


誰も空を見上げない。


ただ。


二人が消えた空間を見つめ続けていた。


そして。


不意に空間が揺らぐ。


誰かが息を呑んだ。


次の瞬間。


二つの影が現れる。


誰かが息を呑む。


次の瞬間。


二つの影が現れる。


一つは人影。


もう一つは巨大な異形。


ギルド中の視線がそこへ集まった。


ウルフは床に座り込んでいた。


全身が血に濡れている。


服は裂け。


身体中に傷が走っていた。


両足を投げ出し。


上体を前へ傾ける。


項垂れたまま動かない。


顔も見えない。


呼吸をしているのかすら分からなかった。


そして。


その遥か向こう。


視線は自然ともう一つの影へ向かった。


離れた場所。


石畳の上。


巨大な異形がうつ伏せに倒れていた。


蠍の尾。


蝶の翅。


鋏。


黒い外骨格。


シュタッヘル・ファルター。


微動だにしない。


ただそこに倒れている。


静寂が広がった。


バルザックの頬を汗が伝う。


「…ウルフ」


ラインも息を呑んだ。


倒れた怪人。


動かないウルフ。


どちらも微動だにしない。


「…これは…」


ベルが笑った。


「大丈夫だよ」


次の瞬間だった。


カキーンッ――。


乾いた金属音がギルドに響く。


全員の視線が動く。


ウルフだった。


項垂れていた頭がゆっくりと持ち上がる。


右手。


その指の間には煙草。


先端には赤い火が灯っていた。


ウルフが大きく息を吸う。


煙草の火が強く赤くなる。


そして。


白い煙を吐き出した。


長く。


ゆっくりと。


その顔に浮かんだのは笑みだった。


ベルが笑う。


バルザックも笑う。


ラインも思わず肩の力を抜いた。


ウルフが左手を上げる。


そして。


何かを放った。


ベルが片手を伸ばす。


ぱしり。


何の苦もなく掴み取る。


手のひらの上。


赤い光が脈打っていた。


生き物の心臓のように。


どくん。


どくん。


脈動を続ける赤い結晶。


魔王核。


ベルはそれを見下ろした。


そして。


離れた場所でうつ伏せに倒れる怪人へ視線を向けた。


バルザックが歩き出す。


ゆっくりと。


傷だらけのウルフへ向かって。


やがて目の前まで来ると。


黙って右手を差し出した。


ウルフが顔を上げる。


そして。


その手を掴もうと腕を伸ばした。


だが。


ひょい。


バルザックが手を引く。


ウルフの動きが止まった。


一瞬。


虚を突かれたような顔になる。


バルザックが鼻で笑った。


「ちげぇよ、馬鹿野郎」


もう一度。


右手を差し出す。


今度はまっすぐ。


ウルフがその顔を見る。


そして。


ニヤリと笑った。


パァンッ!!


乾いた音が響く。


ウルフの平手がバルザックの手を打った。


思った以上の勢いだった。


バルザックが顔をしかめる。


振り抜かれた右手をぶらぶらと振った。


「いてーな」


眉をひそめる。


「加減くらいしやがれ」


ウルフが笑う。


バルザックも笑う。


長かった緊張が。


ようやく解けた。


キンサシャが動いた。


歩くことすらできない。


膝をつき。


手をつき。


這うようにして。


シュタッヘル・ファルターのもとへ向かう。


誰も止めなかった。


巨大な怪人はうつ伏せのまま動かない。


だが。


その外骨格から少しずつ色が失われていく。


黒が薄れる。


翅が白くなる。


鋏が白くなる。


尾が白くなる。


まるで命そのものが抜け落ちていくように。


キンサシャの喉から声が漏れた。


「あぁ…」


震える指が前へ伸びる。


「あぁぁぁあぁぁ…」


あと少し。


あと少しで届く。


だが。


その瞬間だった。


怪人の身体が崩れる。


さらさらと。


音もなく。


白い灰へと変わっていく。


翅が。


鋏が。


尾が。


外骨格が。


全てが灰となって風に舞う。


キンサシャの指先が触れた時には。


もう何も残っていなかった。


「あぁ…」


白い灰が指の間をすり抜ける。


「ああぁ..ああ…」


キンサシャが両手で顔を覆う。


肩が震える。


嗚咽が漏れる。


止まらない。


ギルドには誰も声を出さなかった。


ベルは黙ってその光景を見つめる。


風が吹く。


最後の灰が舞い上がる。


そして消えた。


ベルが小さく呟く。


「…満足したかよ…ゼニエダ…」


ウルフが煙草を口から離す。


短くなった吸い殻を見つめ。


そのまま床へ落とした。


靴先で押し付ける。


じゅっ、と小さな音が鳴った。


赤い火が消える。


ウルフはゆっくりと立ち上がった。


全身が軋む。


それでも構わず。


腰に積もった埃を両手で払う。


ぱん。


ぱん。


乾いた音。


そして。


何事もなかったような顔で歩き出した。


ベルの方へ。


バルザックも続く。


ラインも歩き出す。


ベルは一度深く息を吐いた。


まだ身体は重い。


毒も残っている。


だが。


膝に力を入れる。


ゆっくりと立ち上がった。


四人が並ぶ。


そして。


同じ方向を見る。


少し離れた場所。


キンサシャがそこにいた。


膝をついたまま。


項垂れたまま。


動かない。


灰だけが残る石畳を見つめている。


風が吹く。


だが。


キンサシャは顔を上げなかった。


四人は黙ってその背中を見ていた。


四人が顔を見合わせる。


誰も何も言わない。


だが。


答えは同じだった。


ベルが一歩前へ出る。


そして。


キンサシャへ向き直った。


「あんた、どうすんだ?」


肩が跳ねる。


びくり、と。


キンサシャの身体が震えた。


長い沈黙。


やがて。


彼女はゆっくりと立ち上がる。


ふらつく足。


それでも倒れない。


両手には水晶玉が握られていた。


強く。


壊れそうなほど強く。


俯いていた顔が上がる。


涙で濡れた頬。


赤く染まった目元。


そして。


ベルを見た。


その瞳には。


悲しみがあった。


喪失があった。


そして。


隠そうともしない憎しみがあった。


キンサシャはベルを睨みつける。


まるで。


全ての怒りをぶつけるように。


全てを奪った相手を見るように。


じっと。


キンサシャの肩が震えた。


そして。


不意に口元が吊り上がる。


涙で濡れた顔のまま。


笑った。


「ふふっ…」


肩が揺れる。


「ふふふふふっふふふっ…」


笑い声は次第に大きくなる。


「ふははははははっ」


四人の表情が変わる。


バルザックが眉をひそめた。


ラインも警戒する。


ウルフの目が細まる。


キンサシャが水晶玉を掲げた。


四人の身体が僅かに強張る。


だが。


キンサシャは勝ち誇ったように笑った。


「ゼニエダを…倒したからって油断してるんじゃないよっ!」


涙に濡れた目がベルを射抜く。


「いいのかい?」


水晶玉を握る手に力が入る。


「あんたたちが来るのを見越してたあたしたちが、なんの準備もしてないとでも、思ったのかい!?」


バルザックの顔から笑みが消える。


「…なんだと?」


ラインも警戒を強めた。


「どういうことでしょう?」


キンサシャが笑う。


まるで復讐を果たした人間のように。


「…あたしゃ、事前にあんたらの仲間の、あのガキを攫ってんのさ!」


空気が凍った。


四人の脳裏に同じ姿が浮かぶ。


金髪の少女。


小さな身体。


いつも敬語で話す少女。


ミリィ。


ベルの目が細まる。


「…てめぇ…ミリィを…」


ウルフが一歩踏み出そうとする。


怒気が漏れる。


だが。


その肩をベルが手で制した。


視線はキンサシャから外さない。


一瞬たりとも。




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