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【World Wide Love 】― 魔王殺しと呼ばないでー  作者: KK
【第2部】第3章ーはじまりの街編ー

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究極の力と体ー

ベルが鼻で笑った。


「魔王と比較してるみてぇだけどよぉ」


竜の瞳が怪人を捉える。


「どうせおまえもー」


怪人が大きく頷いた。


翅が震える。


「その通り!」


鋏を広げる。


「もちろん、この私も魔王核から魔力供給を受けている!」


「自らひとつになったからこそわかる」


怪人が自らの胸を叩く。


鈍い音が響いた。


「魔王核とはつまりは無限の魔力供給装置!」


砕けた複眼の奥で瞳が輝く。


「そこには意思もなく、ただ溢れる魔力を出力する装置に過ぎない」


ベルは黙って聞いていた。


怪人は止まらない。


「研究し!」


「観察し!」


「解析し!」


「そして取り込んだ!」


尾が揺れる。


翅が鳴る。


「だからこそわかるんだよねぇ!」


歓喜に震えながら。


怪人は両腕を広げた。


「魔王とは何か!」


「魔王核とは何か!」


「その力の正体とは何か!」


そして。


鋏をベルへ向ける。


「私はそれに辿り着いた!」


「だからこそ完成したんだよねぇ!」


「この究極が!」


怪人が両腕を広げる。


翅が震える。


毒尾が高く掲げられた。


「魔王核に、その魔力を出力出来る肉体を与えれば、それこそが魔王となる!」


歓喜に満ちた声が響く。


「つまり私こそが今!魔王そのもの!」


砕けた複眼の奥で瞳が輝く。


だが。


怪人はすぐに首を振った。


「いや!」


鋏を打ち鳴らす。


甲高い音がギルドに響いた。


「人の意思と意識を持ち!」


「技や経験!」


「魔術も行使出来る私は!」


一歩。


怪人が踏み出す。


床が軋む。


「もはや魔王をも越えたんだねぇ!」


そして。


両腕を広げたまま笑う。


心の底から。


歓喜するように。


祝福するように。


自らの完成を。


そして。


怪人の顔に走っていた亀裂が蠢いた。


砕けた複眼。


割れた外骨格。


その全てが瞬く間に塞がっていく。


まるで最初から傷などなかったかのように。


ベルの目が細まる。


怪人は満足そうに頷いた。


「この再生力」


複眼が妖しく輝く。


「そしてもちろん、魔王核を失わない限りは死なない身体」


鋏を打ち鳴らす。


「問題があるとすれば、一度調整した怪人は再調整ができないということだねぇ」


肩を竦める。


その仕草だけは人間の頃のままだった。


「まぁそれはいい」


怪人は笑う。


あっさりと。


何でもないことのように。


「次からの怪人に活かせばいいだけだからねぇ」


尾が揺れる。


翅が震える。


そして翅を広げる。


シュタッヘル・ファルターの巨体が浮かび上がった。


巻き起こる風が瓦礫を吹き飛ばす。


「空中戦といこうよ!」


翅が轟音を響かせる。


「楽しそうだよねぇ」


ベルは答えない。


竜の翼を大きく広げた。


次の瞬間。


黒い影が宙へと駆け上がる。


怪人の複眼にベルの姿が映る。


一気に距離が消える。


ベルが迫る。


右手。


左手。


竜の爪が同時に振り上げられた。


そして振り下ろす。


シュタッヘル・ファルターも両腕を振るう。


鋏が迎え撃った。


ガギィィィィンッ!!


火花が散る。


空中で衝撃波が弾けた。


互いの身体が揺れる。


だが離れない。


ベルが右腕を押し込む。


怪人が左の鋏で受け流す。


その瞬間。


ベルの左爪が横薙ぎに走った。


複眼がその軌道を捉える。


怪人が身を捻る。


爪が甲殻を掠めた。


外骨格の一部が砕ける。


怪人が笑う。


「いいねぇ!」


鋏が振り抜かれる。


ベルは翼を打った。


身体が沈む。


鋏が頭上を通り過ぎる。


そのまま下から跳ね上がるように爪を突き出した。


怪人が両鋏を交差させる。


激突。


火花。


轟音。


複眼がベルを追う。


ベルの竜眼が怪人を捉える。


二つの影が夜空のような天井下を駆け回る。


上へ。


下へ。


左右へ。


翼と翅が空気を裂く。


爪と鋏がぶつかるたびに衝撃が広がった。


そして。


ベルの右爪が怪人の肩へ届く。


怪人の鋏がベルの脇腹へ迫る。


互いに避けない。


次の瞬間。


両者の攻撃が同時に届いた。


怪人の鋏がベルの脇腹へ迫る。


ベルの右爪が怪人の肩へ届く。


互いの攻撃が交差する。


その瞬間。


シュタッヘル・ファルターの尾が動いた。


複眼がベルを捉える。


毒針が一直線に放たれた。


鋏でもない。


翅でもない。


本命。


魔王すら蝕む毒針。


だが。


ベルの竜眼もまたそれを見ていた。


長大な竜尾が唸る。


空気を裂き。


横薙ぎに振り抜かれた。


ドォンッ!!


尾と尾が激突する。


蠍の尾が大きく弾かれた。


毒針が虚空を貫く。


怪人の複眼が揺れる。


「おおっ!」


歓喜の声。


ベルはその隙を逃さない。


翼を打つ。


一瞬で懐へ潜り込む。


怪人が鋏を戻す。


ベルが爪を振るう。


怪人が受ける。


尾が打つ。


尾が迎え撃つ。


空中で幾度も衝撃が弾けた。


爪。


鋏。


尾。


翼。


翅。


二つの異形が夜のギルドを縦横無尽に駆け回る。


その全てを。


怪人の複眼は捉えていた。


そして。


ベルの竜眼もまた。


怪人の動きを一つも見逃してはいなかった。


空中。


ベルの身体が僅かに揺れた。


視界が霞む。


意識が落ちる。


ほんの一瞬。


だが。


空中戦では致命的だった。


「…なんだ?」


ベルが顔をしかめる。


翼を打つ。


高度を維持する。


「毒はくらってないぞ…」


怪人が笑った。


翅が震える。


無数の鱗粉が宙を漂う。


「効いてきたねぇ…」


歓喜に満ちた声。


「翅の鱗粉、それもまた遅効性の毒なんだよねぇ」


ベルの頬を汗が伝う。


竜眼が怪人を睨んだ。


「そういうことかよ…」


身体が重い。


腕が。


脚が。


少しずつ鈍る。


翼を打つ力も落ち始めていた。


怪人の複眼がベルを映す。


その姿を。


その変化を。


一つ残らず捉えていた。


「効いているねぇ」


ベルは答えない。


呼吸を整える。


だが。


動きは確かに鈍くなっていた。


地上。


その戦いを見上げるキンサシャの肩が震える。


見開かれた目。


信じられないものを見るように。


空を見上げていた。


「…いける…」


拳を握る。


「…いけるよ!」


涙が溢れる。


頬を伝う。


「…やった、やったんだね…」


崩れ落ちそうな膝を支えながら。


「…ゼニエダ」


空を見上げたまま涙を流した。


空中。


ベルの口の端から血が流れた。


赤い筋が顎を伝う。


さらに。


両目から血の涙が零れる。


竜の頬を赤く染めながら。


「くそっ…」


怪人が嬉しそうに笑った。


翅が震える。


「すばらしいだろう?」


複眼が血を流すベルを映す。


「これぞまさに究極!」


鋏を広げる。


「まだ魔術は使っていないが、使うまでもないと思うんだよねぇ」


ベルは手の甲で口元の血を拭った。


そのまま笑う。


「いや…」


怪人が首を傾げる。


「だけどおまえ」


ベルの竜眼が怪人を見据えた。


「弱くなったんじゃねぇの?」


空気が変わる。


怪人の動きが止まった。


「…なんだと?」


ベルは肩を竦める。


「その怪人?」


血を流しながら。


それでも笑う。


「すげぇけど…」


翼を一度羽ばたかせる。


「人間の時の技、なくなってねぇか?」


怪人は黙る。


複眼がベルを映していた。


数秒。


空中で互いに睨み合う。


やがて。


怪人が笑った。


「何を言うかと思えばー」


翅が再び動き出す。


鋏が鳴る。


「この力と体の前には技などもはや不要!」


瞬間。


ウルフとシュタッヘル・ファルターの姿が掻き消えた。


空中に残っていたのは舞う鱗粉だけ。


ベルは翼を畳む。


そのまま高度を落としていく。


ふらつく身体。


何度か体勢を崩しかけながら。


どうにか着地した。


直後。


膝が崩れる。


床へ片膝をついた。


口の端から血が垂れる。


ぽたり。


赤い雫が石畳を濡らした。


両目から流れる血涙も止まらない。


「やれやれ」


荒い呼吸の合間に呟く。


血を拭うが。


すぐに新しい血が滲んだ。


竜化した腕が震える。


毒は確実に身体を蝕んでいた。


ベルは小さく息を吐く。


そして。


誰もいなくなった空間へ視線を向けた。


「あとは頼んだぜ」

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