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【World Wide Love 】― 魔王殺しと呼ばないでー  作者: KK
【第2部】第3章ーはじまりの街編ー

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次は俺の番だー

バルザックが倒れたウルフの隣まで歩く。


そして足を止めた。


無言のまま。


傷だらけの顔を見下ろす。


「…ウルフが」


掠れた声が漏れる。


「あの技に持ち込んで…負けるなんて…ありえねぇっ…」


バルザックは知っている。


あの能力の恐ろしさを。


魔術も。


怪物じみた力も。


特殊能力も。


全て消える。


残るのは技術だけ。


だからこそ。


ウルフは負けないと思っていた。


ベルも静かにゼニエダを見る。


「それだけ、ゼニエダが強いってことか」


ゼニエダは口に咥えていた花を指で摘んだ。


ゆっくりと引き抜く。


「胆力と精神力」


倒れているウルフへ視線を向ける。


「彼は根性と言っていたかな…」


どこか感心したように笑う。


「それは彼の方がはるかに優っていたんだよねぇ」


ラインが眉をひそめた。


キンサシャも黙って聞いている。


ゼニエダが花を左手へ持ち替えた。


「たーだ」


折れたサーベルを軽く持ち上げる。


「技は私が遥かに凌駕していた」


静かな声だった。


誇るでもなく。


見下すでもなく。


ただ事実を述べるように。


「それだけのことさぁ」


パンッ。


ベルが拳を掌へ打ち付ける。


乾いた音が広い室内へ響いた。


アカリが不安そうにベルを見る。


「…ご主人様」


ラインも視線を向ける。


「ベルくん…」


ベルは倒れているウルフを見下ろした。


しばらく無言。


そして小さく息を吐く。


「ウルフが負けたのはしゃーねぇ」


誰も口を挟まない。


ベルは続ける。


「自分の能力で、自分のやり方で負けたんだからなぁ」


ゼニエダが頷く。


「そのとおり」


ベルも頷き返した。


「あぁ、おまえの言うとおり」


そして顔を上げる。


まっすぐゼニエダを見る。


「ただおまえの技が優ってたってだけの話だ」


ベルが歩き出す。


一歩。


また一歩。


ゆっくりと。


ゼニエダへ向かって。


ラインも。


バルザックも。


アカリも。


誰も止めない。


ベルはゼニエダの前で立ち止まった。


拳を持ち上げる。


まっすぐ。


ゼニエダへ向けて。


「だからこれは、単なる俺のわがままだ」


その声に。


ゼニエダの口元が吊り上がる。


ベルが笑う。


「おまえは今日、ぶっ倒す!」


バルザックが思わず口元を歪めた。


「…おまえ」


ゼニエダの肩が震える。


歓喜だった。


心の底から嬉しそうに。


抑えきれないほど。


震えている。


「はっ…」


「ははっ…!」


一方で。


キンサシャは青ざめていた。


震えている。


恐怖で。


目の前に立つベルを見て。


そして歓喜に打ち震えるゼニエダを見て。


本能が告げていた。


次に始まるものは。


今までとは比べ物にならないと。


ベルが口を開く。


「よし、アカリ!」


アカリがぱっと前へ出た。


「ハイ!がんばります!」


だが。


ベルは首を振る。


「いや、アカリは下がってくれ」


アカリが固まった。


数秒。


瞬きを繰り返した後。


ゆっくりベルを見る。


「ええ!?ア、アカリはもう役立たずですかぁ!?」


今にも泣きそうな声だった。


ベルが苦笑する。


「違う違う」


頭を掻きながら続けた。


「アカリはもう充分やってくれたろ?」


細切れになったアハトベイン。


魔王核の隔離。


あれだけの働きを見せたのだ。


「大助かりさ」


アカリの肩が僅かに震える。


「で…でも…」


不安そうな顔は消えない。


ベルはそんなアカリの頭をぽんと叩いた。


「ここからは俺がやる!」


その言葉に場の空気が変わる。


ベルがゼニエダを見る。


「魔王核でもないのに、お前らに頼ってらんねぇよ!」


そして。


ニヤリと笑った。


「っても力は借りるけどな!」


アカリが目をぱちぱちと瞬かせる。


やがて。


嬉しそうに微笑んだ。


「…ハイ!」


その身体が光に包まれる。


半透明の髪が揺れ。


全身が無数の光となって崩れていく。


最後にもう一度だけベルを見る。


そして。


アカリは光となって霧散した。


淡い輝きだけが残る。


ベルが拳を握る。


その視線の先にはゼニエダ。


ゼニエダは花を咥えたまま笑っていた。


心の底から楽しそうに。


「いいねぇ」


歓喜に震える声。


「実にいい」


ベルが一歩踏み出した。


ベルが拳を握る。


「カタナ、やるぞ」


指輪が輝く。


次の瞬間。


ベルの両肘から黒鉄の刃が伸びた。


「カレン!力を貸してくれ」


別の指輪が応える。


ベルの身体の内から力が溢れ出した。


筋肉が張り。


全身へ力が巡る。


さらに。


「ユキメ、頼む!」


冷気が溢れる。


ベルの両手。


肘から先が氷に包まれた。


そして。


肘から伸びた刃にも冷気が宿る。


白い霧がゆっくりと流れた。


ベルはゼニエダを見る。


ゼニエダは花を咥えたまま微笑んでいる。


「なるほどねぇ」


楽しそうな声だった。


「姫神を複数同時に使うわけか」


ベルが肩を回す。


「まだまだあるけどな」


そう言って笑う。


その言葉に。


ラインが目を細めた。


バルザックが額を押さえる。


ゼニエダはさらに笑みを深くした。


「いい」


歓喜を隠そうともしない。


「実にいいねぇ」


ベルが一歩踏み出す。


床が小さく軋んだ。


「そろそろ始めようぜ」


ゼニエダも前へ出る。


折れたサーベルを構える。


代わりに花を指先で弄びながら。


「もちろんさぁ」


二人の距離が縮まる。


誰も口を開かない。


次の瞬間。


ベルが踏み込む。


床が砕けた。


一瞬でゼニエダの懐へ潜り込む。


右肘。


黒鉄の刃が横薙ぎに走る。


ゼニエダが折れたサーベルで受ける。


甲高い音。


同時に。


サーベルの刀身へ霜が張り付いた。


ゼニエダの眉が僅かに動く。


だが次の瞬間。


今度は左。


反対側から刃が迫る。


ゼニエダが捌く。


再び火花。


そして冷気。


霜はさらに広がった。


ベルは止まらない。


右。


左。


右。


左。


まるで嵐のような連撃。


ゼニエダは全てを捌く。


受け。


流し。


逸らし。


だが。


捌く度に。


折れたサーベルは白く染まっていく。


柄元まで氷が這う。


ラインが目を見開いた。


バルザックも気付く。


ベルは斬るためだけに振っているのではない。


凍らせている。


ゼニエダが笑った。


「なるほどねぇ」


また一撃。


受ける。


その瞬間。


刀身の半分が氷に覆われた。


さらにベルが踏み込む。


休みなく。


絶え間なく。


ゼニエダはついに肩を竦めた。


「これはいけない」


そして。


折れたサーベルを放り捨てた。


氷に覆われた刀身が床へ落ちる。


硬い音を立てて滑った。


ゼニエダは空になった右手を軽く振る。


白い息を吐きながら。


楽しそうに笑った。


「剣を捨てさせられるとはねぇ」


ベルが口元を吊り上げる。


「技だけいうなら、おまえの方が凄そうだからな」


ゼニエダが目を細めた。


「技だけ、ねぇ」


その瞬間。


ゼニエダが踏み込む。


両手を上げたまま。


まっすぐ。


ベルへ向かって。


咄嗟だった。


ベルも前へ出る。


そしてその両腕を掴んだ。


がっっり。


両者が真正面から組み合う。


床が軋む。


砕けた石が跳ねる。


ベルの足が沈む。


ゼニエダも止まる。


互いに一歩も譲らない。


はずだった。


ラインが目を見開く。


「…何?」


バルザックも思わず声を漏らした。


「おいおい…うそだろ」


ベルが押されていた。


少しずつ。


確実に。


後ろへ。


床を削りながら。


押し込まれていく。


カレンの力を使っている。


その状態で。


ベルの額に汗が浮かぶ。


ゼニエダは笑っていた。


楽しそうに。


実に嬉しそうに。


「なるほどねぇ」


ぐっ。


さらに力が加わる。


ベルの足元が砕けた。


「確かに強い」


ゼニエダの声は穏やかだった。


「だが」


ベルが歯を食いしばる。


ゼニエダの両腕は微動だにしない。


まるで大樹だ。


山だ。


人間を相手にしている感覚ではない。


「力比べも、私は嫌いじゃないんだよねぇ」


ベルの頬を汗が伝う。


「おまえ…マジか…」


だが。


その口元は笑っていた。


押されながら。


それでも笑う。


「カレン!倍の…いや、3倍の力を!」


指輪が輝く。


瞬間。


ベルの身体の奥からさらなる力の奔流が溢れ出した。


筋肉が膨れ上がる。


床が砕ける。


今まで後退していた足が止まった。


そして。


押し返す。


ゼニエダの目が見開かれた。


両者の足元から亀裂が走る。


床が悲鳴を上げる。


押す。


押し返す。


一歩も譲らない。


完全な拮抗。


ゼニエダの瞳が輝いた。


歓喜そのものだった。


「すんばらしいっ!」


さらに力を込める。


だが。


今度はベルも動かない。


「この私と押し合えるとは!」


ベルも歯を見せて笑った。


「…まさか3倍で互角とは…」


ギリギリと。


互いの腕が軋む。


「やるな!」


誰も口を開けなかった。


ラインも。


バルザックも。


キンサシャでさえ。


目の前で行われているのは技でも剣でもない。


純粋な力と力のぶつかり合いだった。


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