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【World Wide Love 】― 魔王殺しと呼ばないでー  作者: KK
【第2部】第3章ーはじまりの街編ー

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ゼニエダの戦いー

キンサシャが顔色を変えた。


「ちょっ――」


言葉の途中で踵を返す。


そのまま小走りで通路の奥へ逃げ、物陰へ飛び込むように身を隠した。


ベルがその様子を見て眉をひそめる。


「おい」


キンサシャは物陰から顔だけを覗かせた。


「知ってるんだ...あたしゃ知ってるんだよ...」


そう叫ぶと、再び頭を引っ込める。


ゼニエダは上着へ手をかけた。


静かに脱ぎ捨てる。


床へ落ちる布。


続いて腰のサーベルを抜いた。


細身の刀身が淡く光を反射する。


そして手に持っていた一輪の花を口に咥えた。


ベルが目を細める。


「おまえが戦うのか?」


ゼニエダの口元が吊り上がる。


「幹部を怪人と同じに考えないことだねぇ」


その言葉と同時。


バルザックの右手が動く。


素早く印を結ぶ。


誰よりも先に。


誰よりも早く。


戦闘が始まることを理解していた。


バルザックの右手が印を結ぶ。


「転移」


瞬間。


その姿が掻き消えた。


ラインの視界から。


ウルフの視界から。


完全に。


そして次の瞬間には。


ゼニエダの背後。


わずか一歩の距離へ現れていた。


両手には短剣。


それぞれ形も意匠も異なる一対の刃。


バルザックが大きく踏み込む。


「でえいっ!」


双剣が左右から振り下ろされる。


狙うは首。


背後からの必殺。


回避不能。


そう思われた。


だが。


ゼニエダは微笑んでいた。


「うん、いいね!」


花を咥えたまま。


楽しそうに。


まるで弟子の成長でも見守るように。


背後から振り下ろされた双剣。


だが。


刃は届かなかった。


甲高い金属音。


ゼニエダは振り返りもしない。


背中越しに回したサーベルが、二本の短剣を受け止めていた。


バルザックの目が見開かれる。


「何!?」


止められるとは予想していなかった。


まして。


背後を見もせずに。


その一瞬の驚愕。


それだけで十分だった。


ゼニエダが小さく肩を竦める。


花を咥えたまま。


どこか残念そうに。


「そこはいけないねぇ」


サーベルを僅かに捻る。


力の流れが変わる。


バルザックの体勢が崩れた。


「常に3歩先まで手を用意してないと」


次の瞬間。


ゼニエダが動く。


ゼニエダの剣先が翻る。


振り返ることすらしない。


背後へ向けて放たれた一閃が、正確にバルザックの首筋を狙った。


バルザックの顔色が変わる。


咄嗟に右手で印を結ぶ。


「転移!」


その瞬間。


身体が掻き消えた。


空を切るサーベル。


次の瞬間にはベルの背後へ現れている。


バルザックが額の汗を拭った。


「っぶねー…」


目はゼニエダから離さない。


「あいつハンパねぇぞ」


ラインが一歩前へ出る。


「私が行こう」


静かな声だった。


だがその場の誰も異を唱えない。


ラインはゆっくりと歩き出した。


焦りはない。


剣を正眼に構える。


一歩。


また一歩。


その動きに合わせるように。


ゼニエダもサーベルを持ち上げた。


片手で。


縦に。


まっすぐ。


花を咥えたまま微笑む。


「受けましょう」


次の瞬間。


二人が同時に踏み込んだ。


甲高い金属音。


聖剣とサーベルが激突する。


一撃。


二撃。


三撃。


火花が散る。


ラインの剣は正確無比。


無駄がなく。


鋭く。


王国最強の騎士に相応しい技量。


対するゼニエダの剣は優雅だった。


まるで舞踏会で踊るかのように。


軽やかに。


柔らかく。


それでいて一切の隙がない。


剣戟が続く。


激しく。


鋭く。


息を呑むほど美しく。


二人の間で幾度も刃が交錯した。


火花が散る。


聖剣とサーベル。


二つの刃が何度も激突する。


ラインの踏み込み。


ゼニエダの受け流し。


互いに一歩も譲らない。


その最中。


ゼニエダが口に咥えていた花を左手へ持ち替えた。


まるで散歩の途中で話しかけるような気軽さだった。


「なるほど! いい剣ですね!」


サーベルが閃く。


ラインが受ける。


「まさに騎士の剣!」


再び火花。


「素晴らしい研鑽!」


三度目の衝突。


「素晴らしい技」


ラインも口元を緩めた。


「お褒めに預かり光栄だ!」


踏み込み。


聖剣が奔る。


ゼニエダは紙一重で躱した。


「あなたの剣も、敵ながらどうして…強い」


ゼニエダが眉を寄せる。


本当に残念そうに。


「しかし…」


サーベルが振るわれる。


ラインが受ける。


「真面目すぎる!」


二撃目。


受け止めたはずの聖剣が大きく弾かれる。


「誠実すぎる!」


三撃目。


ゼニエダが踏み込んだ。


今までで最も鋭く。


最も重く。


「実直すぎる!」


轟音。


ラインの身体が大きく後退する。


床を削りながら数歩。


いや、十歩近く。


ようやく体勢を立て直した。


ウルフの目が見開かれる。


バルザックも言葉を失った。


正面から。


純粋な剣技だけで。


ラインが押し負けたのだ。


ラインが剣を構え直す。


床を削った両足を踏み締め。


再び正眼。


だが。


その顔には悔しさが浮かんでいた。


正面から打ち負けた。


その事実を誰より本人が理解している。


ゼニエダは動かない。


ただサーベルを肩へ担ぎ。


花を指先で弄びながらラインを見下ろしていた。


「…惜しい」


静かな声だった。


「あと少し」


ゼニエダが目を細める。


「もう少し巧くなれたなら…」


その言葉にラインの眉が動く。


ゼニエダは本当に残念そうだった。


「天剣に至れるのにねぇ」


空気が張り詰める。


ラインは答えない。


ただ剣を握る手に力が籠もる。


ベルが眉をひそめた。


「天剣?」


ゼニエダは肩を竦める。


「剣士なら誰もが夢見る場所さ」


そして再びラインを見る。


「才能はある」


「技量もある」


「努力もしている」


「騎士としても立派だ」


一歩。


ゼニエダが前へ出た。


「だが」


サーベルの切っ先がラインを指す。


「君は正しすぎる」


「だから届かない」


ラインの瞳が鋭くなる。


ゼニエダは笑った。


「実に惜しいねぇ」


ラインが再び剣を構える。


だが。


その前へウルフが歩み出た。


「次は俺だろ?」


肩を回しながら笑う。


「順番は守ってもらわないとな」


そう言って腰から砂時計を外した。


中の砂を確認する。


じっと見つめ。


満足そうに頷いた。


「しっかり10分、いけるぜ!」


そして。


砂時計を高く放り投げる。


ゼニエダが興味深そうに目を細めた。


ウルフが大きく両手を広げる。


「とことん付き合ってもらうぜ!」


肺いっぱいに息を吸い込み。


叫んだ。


「rock ‘n’ rooooooooooooll!!!!!」


瞬間。


ウルフの姿が消えた。


同時に。


ゼニエダの姿も。


二人まとめて。


跡形もなく。


その場から消失する。


静寂。


数秒の沈黙。


そして。


ベルが吹き出した。


「ははっ」


バルザックも笑う。


「相変わらず無茶苦茶だな」


ラインだけが状況を理解しきれず周囲を見回した。


「これは…」


消えた二人。


投げられたままの砂時計。


異常な光景だった。


「ここには規格外しかいないなんて」


一方。


物陰から顔を出していたキンサシャは青ざめていた。


「…ゼ、ゼニエダ!?」


慌てて辺りを見回す。


当然。


どこにもいない。


「ゼニエダ!?」


声が裏返る。


「あたしを1人にしないでおくれよぉっ!」


砂時計の砂が落ち続ける。


誰も口を開かなかった。


ラインは腕を組み。


アカリは心配そうに両手を胸の前で握り。


キンサシャは落ち着きなく視線を彷徨わせる。


ベルとバルザックだけは比較的余裕があった。


ウルフの能力を知っているからだ。


やがて。


最後の一粒が落ちた。


その瞬間。


空間が大きく揺らぐ。


灼けるような熱風が吹き抜けた。


そして。


二つの影が現れる。


先に見えたのはウルフだった。


全身傷だらけ。


顔は腫れ上がり。


服もボロボロ。


そのまま前のめりに倒れ込む。


床へ叩きつけられても動かない。


完全に気絶していた。


ラインの表情が強張る。


アカリも息を呑んだ。


「ウルフさん…!」


そして。


もう一つの影が姿を現す。


ゼニエダ。


頬に浅い切り傷。


口元に僅かな血。


それ以外に目立った損傷はない。


ただ。


右手に握られたサーベルだけが半ばから折れていた。


その光景を見た瞬間。


ベルの目が見開かれる。


「...うそだろ!?」


バルザックも固まった。


「……おい、おいおいおいおい、マジかよ!?」


信じられないものを見る顔だった。


ゼニエダが二人を見る。


「どうしたんだい?」


ベルは倒れているウルフとゼニエダを交互に見た。


もう一度見る。


やはり結果は変わらない。


倒れているのはウルフだった。


「いや…」


言葉が続かない。


バルザックが頭を掻く。


「マジでマジかよ...」


ゼニエダは不思議そうに首を傾げた。


そして折れたサーベルへ視線を落とす。


「いやはや」


小さく肩を竦める。


「危なかったねぇ」


その言葉に。


ベルの眉がぴくりと動いた。


「……冗談だろ」


ゼニエダが笑う。


「本当さ」


そう言って。


倒れているウルフへ視線を向けた。


「素晴らしかったよ」


静かな声だった。


「実にねぇ」


そして折れた刀身を眺める。


どこか惜しむように。


「まさか私のサーベルを折るとは思わなかった」



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