仲間にならないか?ー
ベルが腕を組む。
「全て封印したら、それで終わりじゃないってのか?」
ゼニエダが肩を竦める。
「何も起きない方が不思議というものじゃないかねぇ?」
バルザックが眉をひそめた。
「…なんか知ってんのか?」
ゼニエダが首を振る。
「何もー?」
そして笑う。
「ただ」
「魔王核はその実、存在していても脅威でもなければ害もない存在」
ラインが即座に口を挟んだ。
「決してそんなことは」
ゼニエダが眉を寄せる。
「何かあるのかい?」
「具体的な実害が」
ラインが言葉を選ぶ。
「封印が解けかけた場合などには、少なからず被害があると聞いている」
ゼニエダが何度も頷いた。
「それは、中央教会の再封印儀式とかの話だよねぇ?」
「再封印に失敗しなければ災害にはならないし、そもそも再封印なんて余計なことしなければ、最初から何も起きないんだよねぇ」
ラインが押し黙る。
ゼニエダは続けた。
「我々は数十年かけて、数十個の魔王核を調べてきた」
「保管もした」
「実験にも使った」
「怪人化にも利用した」
そして両手を広げる。
「だが魔王核そのものが、勝手に何かを起こしたことは一度もない」
ウルフが腕を組む。
「そりゃ、お前らが運が良かっただけじゃねぇのか?」
「そうかもしれないねぇ」
ゼニエダはあっさり認めた。
「だが、数十年だ」
「数十個だ」
「もし本当にそれほど危険な代物なら、何か一つくらい実例があってもおかしくない」
ベルが黙って聞いている。
ゼニエダはそんなベルを見た。
「だから私は気になるんだよねぇ」
「336個」
「君が集めたその数が」
キンサシャが息を呑む。
ゼニエダの笑みが深くなる。
「1000個集まった時」
「本当に何も起きないのか」
「それとも――」
そこで言葉を切る。
「何かが起きるからこそ、昔の人間は世界中へ散らしたのか」
ベルは無言のまま、ゼニエダを見つめていた。
ゼニエダが両手を広げる。
「どうかねぇ? 魔王殺しベル・ジット。私たちと正式に組まないか?」
ウルフが呆れたように肩を竦めた。
「おいおい、あんた正気かよ?」
バルザックも眉をひそめる。
「ここまで敵対しておいて…今更だな」
ラインも静かに口を開いた。
「…さすがに理解に苦しむね」
ベルが首を傾げる。
「仲間になれってか?」
ゼニエダが満面の笑みで頷いた。
「その通り!」
一歩前へ出る。
「我々ならば、この世界のどの国家、どの機関、どの組織よりも、正確に確実に誠実に、君の力になれる自負がある」
そして笑みを深くした。
「ただ味方になる」
「保護する」
「応援する」
「そんな言葉を並べ立てるだけの国とは違ってね」
その言葉に。
ラインの目が細められる。
「それはまさか…我ルグレシアのことではないだろうね?」
ラインが目を細める。
「それはまさか…我ルグレシアのことではないだろうね?」
ゼニエダが、にこりと笑う。
「もちろん含まれているよ」
空気が僅かに張り詰める。
だがゼニエダは気にした様子もない。
「ルグレシア王国」
「中央教会」
「冒険者ギルド」
「その他諸々」
指を折りながら数えていく。
「皆、ベル・ジットの味方だと言う」
「応援すると言う」
「保護すると言う」
そして肩を竦めた。
「だが実際には何をしたんだい?」
ラインの眉が動く。
ゼニエダは続ける。
「魔王核を探すのは誰だい?」
「回収するのは誰だい?」
「封印するのは誰だい?」
ベルを指差す。
「全部、君だ」
「危険も」
「責任も」
「失敗の代償も」
「全部、君が負う」
ウルフが鼻を鳴らした。
「言いてぇことはわかるがな」
ゼニエダは頷く。
「だろう?」
そして両手を広げる。
「だが我々は違う」
「魔王核を研究している」
「怪人を作るだけの技術力もある」
「保管設備もある」
「解析設備もある」
「人材もいる」
「知識もある」
ゼニエダの目が怪しく輝く。
「君が336個集めたなら」
「336個全てを我々が解析する」
「君が1000個集めるなら」
「1000個全てを我々が管理する」
「君が知りたいなら」
「共に真実を探そうじゃないか」
キンサシャが慌てて頷く。
「そ、そうだよ!」
「どうせあんたも魔王核のことなんて全然知らないんだろ!?」
バルザックが呆れた顔になる。
「おいおい」
「勧誘されてんのか脅されてんのかわかんねぇぞ」
アカリがベルの後ろから顔を出す。
「ご主人様ぁ…」
少し不安そうだった。
ゼニエダはそんな反応すら楽しそうに眺める。
「どうかねぇ?」
「魔王殺しベル・ジット」
「我々となら」
「世界の誰よりも君の役に立てると思うんだけどねぇ」
ベルが、ふっと笑った。
「悪くない提案だな」
その瞬間。
アカリが慌ててベルの袖を掴む。
「ご主人様ぁ…」
半泣きの顔だった。
「アカリ、気持ち悪いのは無理です」
ゼニエダが満面の笑みになる。
「そうだろう?」
「君も我々と共に世界を暴いてやろうじゃないか!」
ラインが眉をひそめる。
「…世界の真実?」
ウルフも肩を竦めた。
「急に事が大きくなってきやがった」
ゼニエダは愉快そうに笑う。
「違うよ」
「君たちがおかしいのさ」
ゆっくりと両手を広げる。
「なんの実害もない魔王核を畏怖し、その実、何も調べようとも確認しようともしない」
「不思議だよねぇ」
バルザックが腕を組む。
「魔王核に何かあるってのか?」
ゼニエダは即答した。
「ないと考える神経が疑問さ」
ベルが目を細める。
「お前たちの仲間になれば、それがわかるって?」
ゼニエダの顔が輝いた。
「そう!」
「そうさ!」
両手を大きく広げる。
「さぁ、私たちと共に!」
「世界の真理に到ろうじゃないかっ!」
しばしの沈黙。
ベルが大きく息を吐いた。
「けっ、やなこった」
ゼニエダの表情が固まる。
歓喜に満ちていた顔が、一瞬で驚愕へ変わった。
「なぜ!?」
ベルが即答する。
「だって俺、お前ら嫌いだもん」
再び。
ゼニエダが固まった。
「好きとか嫌いとか、そんなレベルの話じゃないんだよねぇ!」
ベルは肩を竦める。
「いいよ」
「世界の真実は自分の手で見つけてやる」
そして親指で背後を指した。
「俺には仲間がいるからな!」
ラインが小さく笑う。
ウルフが口角を吊り上げる。
バルザックは呆れたように頭を掻き。
アカリは嬉しそうに胸の前で手を組んだ。
対するゼニエダは。
信じられないものを見るような顔で、ベルを見つめていた。
ゼニエダが額に手を当て、大きくため息を吐く。
「駄目だねぇ…話が通じない相手と論議を交わすのは、とても疲れる」
誰も何も言わなかった。
ラインは静かに腕を組み。
ウルフは肩を竦め。
バルザックは眉間を押さえている。
キンサシャですら黙っていた。
ベルだけが呆れたように頭を掻く。
「お前さぁ」
ゼニエダが顔を上げる。
「なんだい?」
ベルが半目になる。
「それ、お前が言うのかよ」
数秒。
沈黙。
ゼニエダが不思議そうに首を傾げた。
「私以外に誰が言うんだい?」
ベルは天井を見上げた。
「駄目だこりゃ」
アカリが小さく頷く。
「駄目ですねぇ…」
ゼニエダだけが納得していない顔をしていた。
「おかしいなぁ…」
ゼニエダが肩を竦める。
「ここにきて交渉決裂とは…これまで上手くやってきたと思ったのに」
ベルが心底嫌そうな顔をした。
「そう思ってるのはおまえだけだって」
ゼニエダは本気で残念そうだった。
「おかしいなぁ…」
そして周囲を見回す。
「怪人は3体ともやられ、魔王核も奪われ、ここも破棄しなくてはならない…」
小さくため息を吐いた。
「大損害だねぇ」
バルザックが鼻で笑う。
「へっ、いい気味だ」
ゼニエダはあっさり頷いた。
「その通り」
「完全敗北と言ってもいい」
その言葉に。
キンサシャの顔色がさらに悪くなる。
だが。
次の言葉で空気が変わった。
ゼニエダは笑っていた。
「とりあえず、君たちにはここで死んでもらわないといけないね」
場に戦慄が走る。
ラインの手が剣の柄に伸びる。
ウルフの肩が僅かに下がる。
バルザックも笑みを消した。
ベルが目を細める。
「まだ怪人がいるのかよ?」
ゼニエダが人差し指を左右に振る。
「怪人はもういないよ」
「私が作ったのは3体だけ」
そして。
ゆっくりと。
「でもー」
おもむろにジャケットへ手をかける。
静かな動作だった。
だが。
誰一人、目を離せなかった。
ゼニエダがジャケットを脱ぐ。
「私がいる」




