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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: KK
第14章ー婚約物語ー
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アルティシアの構想ー

ベルはわずかに視線を落とし、静かに言葉をこぼした。


「あいつのために…世界を変えるってすごいね」


その声音には、驚きと、どこか距離を測るような響きが混じっていた。


アルティシアはすぐに首を横へ振る。


「結果的にそうなりましたが、世界連盟についてはベル様と出会う前より考えておりましたので」


淡々とした返答だった。


だがその言葉は、決して軽いものではない。


ベルの存在がきっかけではあっても、すべてではない。


アルティシアという人間が、もともとそこに立っていたのだと示すように。


アルティシアは淡々と結論をまとめるように、静かに言葉を落とした。


「お話は以上です。あとは実際に公表してみて、想定の範囲内に収まればまずよし…それを越えてくるなら、それへの対処。全ては蓋を開けてみて、となりますね」


すべてを段取りとして整理し終えた声だった。


ベルはその冷静さに目を細める。


「…アルティシア、本当に15歳?」


率直な疑問だった。


ミリィも小さく頷く。


「すごい…大人みたいです」


その言葉に、アルティシアは一瞬だけ間を置く。


そして、ほんの少しだけ目を伏せた。


「私は早く、大人になりたいんです」


静かだが、確かな願いとして落とされた言葉だった。


ミリィはふと思い出したように、小さく首を傾げた。


「3日後の婚約発表の時…時間帯はどうなるんですか?」


その問いに、アルティシアは自然に微笑む。


「もちろん、夜になります。魔王殺しのベル様には、その場にいていただかなくては」


あまりにも当然のような返答だった。


ベルは「あー」と納得したように頷く。


「そっか、じゃ私は同席しなくていいんだ。ちょっと気持ちが楽になったかも」


自分が大勢の前に立たずに済むと分かり、肩の力が少し抜けたようだった。


一方で、ミリィはどこか遠慮がちに視線を向ける。


「私は…同席してもいいのでしょうか?」


アルティシアは即座に頷いた。


「もちろんです。ぜひに」


その返答には歓迎の色がはっきり滲んでいた。


ベルはふと思い出したように顔を上げた。


「他に誰か知ってる人来る?」


アルティシアは静かに首を横へ振る。


「今回は公表だけなので、来賓などはありませんよ。それはまたの機会に改めて」


あくまで今回は“発表”。


祝いの席というより、政治的な意味合いの方が強いのだろう。


ベルは少しだけ口を尖らせる。


「…そっか、ちょっと残念だけど」


その反応に、アルティシアが小さく目を細めた。


アルティシアは、少しだけ呆れたように微笑んだ。


「あなたは…自分がどういう立場か、理解されていますか?」


突然の問いに、ベルはきょとんと目を瞬かせる。


「…え?私?私はそんな…なんでもなくて…せいぜい魔王殺しの一味、的な?」


どこか本気でそう思っている口ぶりだった。


アルティシアは静かに首を横へ振る。


「あなたはそのような存在ではございません」


声音が少しだけ真面目になる。


「あなたはきっかけこそ魔王殺しのベル様だったとは言え、こうして私や、西大陸、北大陸、大陸警察に中央教会、そしてギルド。各方面に顔と名の知れた存在となっています」


ベルは目を丸くしたまま、慌てるように手を振る。


「え…?いやいやいや、そんなこと…」


だが、アルティシアははっきりと言い切った。


「あるんです。あなたは自分を魔王殺しの関係者としか捉えていないようですが…貴女の存在も、決して世界は無視出来ません」


真っ直ぐ向けられる視線に、ベルは少したじろぐ。


そして困ったように笑った。


「そんな…大袈裟な」


アルティシアは小さく息を吐く。


「そこが貴女と世間の温度差です。気をつけて」


静かな忠告だった。


ベルは肩をすぼめ、小さく頷く。


「は…はい…」


アルティシアは何かを思案するように目を細め――ふと、口を開いた。


「その辺りはやはり、シスター・アリスとの関係も踏まえ…」


その瞬間だった。


「お嬢様っ!」


鋭く制止するような声が飛ぶ。


アイザックだった。


アルティシアはハッとしたように目を見開き、すぐに口元を押さえる。


ベルは一瞬遅れて反応した。


「…え?シスター・アリス?どうしてここで…アリスの名前が、出るの?」


空気が変わる。


先ほどまでの軽い雰囲気が、一気に張り詰めた。


アルティシアはわずかに視線を逸らし、静かに告げる。


「失言でした。忘れてください」


だが、ベルは即座に身を乗り出した。


「何よそれ...アリスとなんの関係があるの?」


アルティシアはぎゅっと目を閉じたまま、しばらく言葉を探すように沈黙していた。


だが、やがて小さく首を振る。


「ごめんなさい。今はお話出来ません」


ベルの表情から、すっと熱が消える。


「何よ…それ」


低く落ちた声だった。


ベルはゆっくりとアイザックへ視線を向ける。


「アイザックさんも、何か知ってるのね?」


アイザックは表情を変えぬまま、丁寧に頭を下げた。


「はい。けれど、私はその話をする権限を持ち合わせておりません」


その返答が、逆に事実を肯定していた。


ベルの指先が、わずかに震える。


「何を…知ってるの?」


問いかける声は、先ほどよりずっと小さい。


アルティシアは再び瞳を閉じる。


「ごめんなさい…今は何も」


その瞬間、ベルは大きく息を吐いた。


感情を押し殺すように。


そして、隣にいたミリィへ向き直る。


「ミリィ、行こ」


有無を言わせず、その手を掴んで立ち上がった。


「え..え...ええぇ!?」


ミリィが引っ張り上げられるように立たされ、


アルティシアも思わず立ち上がる。


「お待ちください。どちらへ?」


ベルは振り返る。


その瞳には、はっきりと怒りが浮かんでいた。


「そんなあからさまな隠し事をする人と、友好的な関係なんて結べませんから!今回の話、白紙に戻させてもらいます!」


「そんな…待って…」


引き止める声を無視し、ベルはミリィの手を引いたまま部屋を出ていく。


扉が閉まる音だけが、重く響いた。


静まり返った部屋に残されたのは、アルティシアとアイザックだけだった。


「…お嬢様…」


アイザックが静かに声をかける。


アルティシアは力なく椅子へ腰を下ろし、額へ手を当てた。


「ごめんなさい…思わず口が…」


珍しく、明確な動揺が滲んでいた。


アイザックは小さく息を吐く。


「過ぎたことは仕方ありません。ただこれから…」


アルティシアはゆっくり顔を上げる。


その瞳には、すでに迷いよりも決意が戻っていた。


「…今回の話は、必ず締結しなければなりません。3日、いえ.2日以内に、なんとかします」


アイザックは険しい表情のまま問い返した。


「どのように…」


アルティシアはしばらく考え込み、それから何かを決意したように顔を上げる。


「…ラインを呼んでください」


「騎士隊長を?」


「ラインにベル様の説得をお願いします。そして保険として…魔王殺しには私が…作戦名はー」


そこまで言って、アルティシアの目が妙に輝いた。


「Wハニートラップ大作戦!!」


勢いよく宣言された作戦名が、静まり返った部屋に響く。


アイザックは即座に叫んだ。


「いけません!!」


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