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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: KK
第14章ー婚約物語ー
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交渉の行方ー

アルティシアはゆっくりと指先を組み直し、まるで場を仕切り直すように一度だけ息を整えた。


視線はまっすぐベルへと向けられる。


「では、改めてお話いたしますわ。私がベル様に求めるものは3つ」


静かな声だったが、ひとつひとつを区切るように明確だった。


「まず1つ目。ルグレシアとベル様――魔王殺しとの関係を、対外的に明確に示すこと」


指を1本立てる。


「2つ目。反対勢力から、私個人およびルグレシア王国を守る力となっていただくこと」


もう1本、指が増える。


「そして3つ目。世界連盟という枠組み、その成立に向けた協力」


3本目の指が揃ったところで、手を静かに下ろす。


わずかな間を置き、今度は自分の側へと話を移した。


「対して、私が差し出せるものも同じく3つ」


声色がわずかに柔らぐ。


「各国、各組織に対する牽制。ベル様に対する軽率な干渉を許さないための枠組みを整えます」


「次に、世界連盟という形での保護の明示。個人ではなく、体制として守るということです」


そして、最後だけほんの少しだけ間を取る。


アルティシアの頬に、かすかな熱が宿る。


「――そして、私自身」


その言葉は先ほどまでの説明とは明らかに温度が違っていた。


室内に、わずかな沈黙が落ちる。


ミリィは言葉を失い、ベルの横顔を見る。


提示されたものの重みと、最後の一言の意味を、どう受け止めるべきか測りかねていた。


アルティシアは一度だけ指先を重ね、わずかに思案するように目を伏せた。


「細部についても、いくつか整理しておきましょうか」


ベルが軽く首を傾げる。


「細部?」


「ええ。まず、ベル様のご負担についてですが――常時拘束するつもりはございません」


穏やかな口調のまま続ける。


「防衛に関しては、明確な脅威が確認された場合のみ。連盟への関与も、象徴としての側面を主とし、実働は必要に応じて」


ミリィが小さく安堵の息を吐く。


アルティシアはその反応を確認してから、さらに続けた。


「また、この関係は恒久的なものではございません。連盟が一定の形を得た段階で、見直しも可能といたします」


ベルの視線がわずかに鋭くなる。


「……やめる選択もあるってこと?」


「もちろんですわ。双方の合意があれば、いつでも」


あっさりとした返答だった。


ミリィが今度は少し身を乗り出す。


「情報の扱いは……?」


「限定いたします。偽装であることを知るのは最小限。教会、大陸警察、ギルドについては“関係強化”までの共有に留めます」


淡々とした説明。


その上で、わずかに口元が緩む。


「外向けの物語は、こちらで統一いたしますのでご安心を」


ここでミリィが、少しだけ眉をひそめた。


「……あの、最後の条件なんですけど」


一瞬だけ間が空く。


アルティシアが視線を向ける。


ミリィは言いにくそうにしながらも続けた。


「その……ご自身の、心と身体って……」


アルティシアは即座に微笑む。


「はい。重要な要素かと」


アイザックがすかさず咳払いを挟む。


「殿下」


しかし止まらない。


「関係性の強化には不可欠ですもの。内政的にも外交的にも」


「違います」


アイザックの声がわずかに強くなる。


ベルが顔を押さえる。


ミリィは完全に言葉を失っていた。


それでもアルティシアは涼しい顔で締めくくる。


「いずれにせよ、条件としては以上になりますわ」


ベルはアルティシアをまっすぐに見つめたまま、わずかに声を落とした。


「…アルティシアは、本当にそれでいいの?」


確認するような問いだった。


アルティシアは一切迷うことなく、微笑みを崩さずに答える。


「全て、私の希望通りです」


即答だった。


ベルはじっとその表情を見つめる。


「本当に?本当に本当?」


重ねる問いに、今度はほんのわずかだけ――アルティシアの視線が揺れた。


そして、そっと目を伏せる。


「もし…私のわがままを聞いていただけるのなら…」


その言葉に、ベルとミリィは顔を見合わせ、小さく頷く。


アルティシアはゆっくりと顔を上げる。


どこか遠くを見るような目だった。


頬がほんのりと色づいている。


「子供は最低5人欲しいです。性別は問いません。どちらでも愛する自信があります」


言い切った。


空気が止まる。


ミリィの思考が一瞬で停止し、アイザックは静かに天を仰ぐ。


ベルは数秒遅れて、こめかみを押さえた。


「ん…それは自分で伝えて欲しいかな」


静かなツッコミだった。


ミリィが遠慮がちに、そっと手を挙げた。


それに気付いたアルティシアが、優雅な所作で右手を差し出し、発言を促す。


「側室は…ありですか?」


控えめながらも、はっきりとした問いだった。


アルティシアは一瞬の間も置かず、微笑む。


「もちろんです。むしろ必要と考えます。王族として万が一の備えは必要かと」


極めて現実的な回答だった。


ベルがわずかに首を傾げる。


「ん…?あれ?」


小さな違和感を拾い上げるような声。


アルティシアが視線を向ける。


「どういたしました?」


ベルは考えるように目を細める。


「もし本当に、あいつとアルティシアが結婚した場合…あいつは王様になるの?」


ミリィもはっとしたように顔を上げた。


その疑問に、アルティシアはふっと柔らかく笑う。


「素敵な想像をありがとうございます。ですが、そうはなりません」


即座に否定する。


ミリィが身を乗り出す。


「と、言いますと…?」


アルティシアは落ち着いた声で説明を続けた。


「ベル様と私が本当に結婚した場合、ベル様は王族にはなります。なりますが、王にはなりません。その場合、王位を継ぐのは私の弟になりますね」


淡々とした説明だったが、その制度の線引きは明確だった。


ベルは肩の力を抜くように、小さく息を吐いた。


「それを聞いて安心したよ。あいつに王様なんて無理だもの」


率直な感想だった。


だが、アルティシアは即座に首を横には振らない。


むしろ静かに、肯定するように言葉を返す。


「いえ、私は存外、向いているのではないか、そう思います」


その声音は冗談ではなかった。


ベルはわずかに顔をしかめる。


「…えー?そっかなぁ」


半信半疑のままの返答。


アルティシアは迷いなく頷く。


「はい。私はそう感じます」


断言だった。


その横で、ミリィが小さく口を開く。


「…それは、私もそう思うかもです」


控えめではあるが、同意は明確だった。


ベルはゆっくりと視線を二人の間で行き来させる。


そして、わずかに引いたような顔で呟く。


「…マジか」


場の空気が、ほんの少しだけ変わった。


ミリィは少しだけ視線を落とし、考えをまとめるように間を置いてから口を開いた。


「世界連盟…成立すると思いますか?」


静かな問いだった。


アルティシアはその言葉に、迷いなく頷く。


「ベル様との出会いから、私も色々な国や組織の方と関係を持たせていただいています」


ゆっくりと、確かめるように言葉を紡ぐ。


「きっとうまくいく。いいえ、うまくややります。必ず」


わずかな言い直しすら、そのまま押し切るような強さがあった。


そして――一切の揺らぎなく、言い切る。


「この命に代えましても」


その一言が、空気を重く沈めた。


冗談でも誇張でもない、覚悟そのものだった。


アルティシアはふっと視線を落とし、そのまま静かに言葉を続けた。


「そのためでしたから…私の心と身体などいくらでも、魔王殺しに差し出せる所存です…」


先ほどまでの覚悟の延長にある言葉――のはずだった。


ベルは間を置かずに、短く返す。


「本音は?」


わずかな沈黙。


アルティシアは顔を上げる。


頬はほんのりと赤く、そのまま迷いなく言い切った。


「出来るならベル様の方から求めていただきたく...」


空気が一瞬で崩れる。


後方から、大きくわざとらしい咳払いが響いた。


アイザックだった。


重苦しかったはずの場が、完全に別の方向へ転がっていた。

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