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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: KK
第14章ー婚約物語ー
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世界連盟ー

結局、懸念していた通りの展開となった。


王城からの迎えの馬車は、遠目にも分かるほど豪奢で、隠す気配など微塵もない。到着と同時に周囲の視線が一斉に集まり、通行人や野次馬が自然と道を空けていく。


その中心にいる自分たちの立場を、ベルはどこか他人事のように感じていた。


促されるまま馬車に乗り込み、扉が閉じられると、外のざわめきが一気に遠のく。


静寂と揺れの中で、現実だけがはっきりと残った。


やがて王城へと到着し、そのままアルティシアの自室へと通される。重厚でありながら整えられた空間には、すでに一人の男が待っていた。


アイザックだった。


ベルは軽く手を上げるようにして挨拶する。


「お久しぶりです。アイザックさん」


アイザックはすでに姿勢を正して立っていた。二人の姿を認めると、無駄のない動きで一歩下がり、深く腰を折る。


「お久しぶりでございます。ベル様、ミリィ様」


丁寧で隙のない所作だった。


ミリィも慌てて頭を下げる。王城という場に入ってから、自然と振る舞いが引き締まっている。


ベルはそこまで形式張ることもなく、軽く手を振るように応じたが、その視線はすぐにアルティシアへと戻っていた。


先ほどまでの流れを引きずったまま、この場の本題が避けられないことを理解していた。


久しぶりに足を踏み入れたアルティシアの部屋は、以前と変わらぬ佇まいを保っていた。


王族の私室に相応しい豪華さはあるものの、過度に装飾を重ねたような華美さはない。調度品は厳選され、配置にも無駄がなく、全体として洗練された印象を与える。


色彩や素材の統一感も取れており、落ち着きと品位が同居していた。


軽く言葉を交わした後、改めて室内へと視線を巡らせた。


「あいかわらずおしゃれだよねー」


アルティシアは優雅に微笑み、わずかに顎を引く。


「お褒めいただきありがとうございます」


ミリィも遠慮がちに周囲を見渡し、小さく呟いた。


「…素敵」


整えられた空間の中、三人分の紅茶が用意される。アルティシアはカップを持ち上げ、一口だけ口を付けた。


そしてそのまま、視線を二人へと戻す。


「それでは本題に入っても?」


その一言で、場の空気が切り替わる。


ベルとミリィは自然と背筋を伸ばし、向き直った。


アルティシアはカップを静かにソーサーへ戻し、指先を揃えて膝の上に置いた。その仕草ひとつで、場の空気が引き締まる。


アイザックも一歩後ろに控えたまま、無言で視線を落とした。


アルティシアはゆっくりと口を開く。


「まず、今回の婚約についてですが――正式な発表は三日後を予定しております」


淡々とした口調だったが、その内容は重い。


ベルは小さく眉を寄せる。


三日。思っていたよりもずっと早い。


「各国、各組織にはすでに根回しを済ませております。表向きは祝意を示すでしょうが、内心では様々な思惑が動くことになります」


ミリィは無意識に背筋をさらに伸ばした。


「それを抑えるためにも、既成事実を先に作る必要がございます」


アルティシアの視線は変わらずベルに向けられていた。


「同居も、その一環です」


静かに、しかし逃げ道を与えない言い方だった。


ベルはわずかに顔をしかめる。


「やっぱりそこは避けられないんだ」


アルティシアは小さく首を横に振る。


「難しいかと。外部に対して、関係性を明確に示す必要がございます」


ミリィはその言葉に頷きながらも、不安を隠しきれない様子で口を開く。


「ですが…どの程度まで…その…」


言葉を濁す。


アルティシアは一瞬だけ考え、それから淡々と答えた。


「少なくとも、同じ住居で生活を共にしている、という事実は必要になります」


ベルは天井を仰ぐように視線を上げ、小さく息を吐いた。


逃げ場は、あまり残されていないようだった。


ベルは腕を組み、はっきりとした口調で現状を切り出す。


「そうなると…私たちとしては困ることだらけなんだよね」


ミリィも頷きながら、具体的な事情を補足する。


「そ…そうです。旅もあるし、魔王の始末もあるし…」


アルティシアはその言葉を遮らずに聞き終え、静かに返した。


「その際はご自由に動いていただいても構いません。対外的な催事などはそれを理由に私のみで対応いたしますし」


一切の迷いを感じさせない調子だった。


アルティシアは一度だけ姿勢を整え、軽く咳払いをした。


「現在、私が構想しているのは、各国家を単純に束ねるものではございません」


視線を三人に均等に配る。


「軍事同盟でも、宗教的な統一でもなく、利害の調整機構――いわば、国家間の意思決定を円滑にするための枠組みです」


アイザックが静かに一歩進み、補足するように口を開く。


「各国が独立性を維持したまま、衝突を未然に防ぐ仕組み、とお考えいただければ」


アルティシアは頷き、続ける。


「具体的には、定期的な代表者会議、紛争時の仲裁機関、そして経済と交通の共通基盤の整備」


一度、言葉を切る。


「特に大陸横断列車は、その基盤の中核となります。人と物資の流れを統一することで、戦争そのものの必要性を薄めることができます」


ミリィは真剣な表情で聞き入っていた。


アルティシアはさらに踏み込む。


「そしてもう一点。抑止力としての象徴が必要になります」


その視線が、自然とベルへ向けられる。


「魔王殺しの存在です」


静かに言い切った。


アルティシアは静かに言葉を続けた。


「世界連盟樹立は私の兼ねてよりの構想になりますが…」


一度だけベルに視線を向ける。


「それはつまり、魔王殺しこと、ベル様達の保護にも繋がります」


ベルはわずかに眉を寄せる。


「どういうこと?」


アルティシアは迷いなく答える。


「世界連盟として各国と国交を結ぶことで、魔王殺しへの対外的な干渉の全てを抑制できると、私は考えます。いえ、そうします」


その言い切りには、強い意思が込められていた。


部屋の空気がわずかに張り詰める。


ミリィはその言葉の意味を噛み締めるように、ゆっくりと息を吐いた。


ベルはわずかに視線を落とし、短く息を吐いた。


「つまり…あいつのため、と言うことね…」


アルティシアは否定せず、静かに受け止める。


「もちろん、ベル様のお力を盾にしているのは間違いありません。ですので、お互い50:50と言えると思います。お互いのデメリットを無くし、メリットを強める。そういう相互関係を築けるのではないかと…私は考えています」


理路整然とした説明だった。


ミリィはじっとその顔を見つめ、間を置いてから口を開く。


「…本音は?」


一瞬の沈黙。


そして――アルティシアの表情がふっと緩む。


頬に両手を添え、わずかに赤らめながら。


「私とベル様の愛の営みを対外的にも強固なものにするため、まずは外堀ら埋めまくってしまおうかと」


その言葉に、空気が微妙に変わる。


後ろで控えていたアイザックが、タイミングを見計らったように咳払いをした。


「殿下…本音がだだ漏れでございます」


アルティシアはまったく気にした様子もなく、さらりと返す。


「構いません。人に言えないことでもありますまい」


アイザックはわずかに肩を落とし、抑えた声で続けた。


「あまり言わない方がいいですよ」


アルティシアは柔らかな笑みを崩さぬまま、ゆっくりとアイザックへと振り向いた。


「私とベル様の愛が、人に言えないものとでも?」


穏やかな声音でありながら、逃げ道を与えない問いだった。


アイザックは一瞬だけ言葉を詰まらせ、それから大きくため息を吐く。


「だからちげぇって、本当に嫌だもう」


ぼやくような口調に、先ほどまでの張り詰めた空気がわずかに緩んだ。

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