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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
第14章ー婚約物語ー
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それは大問題だねー


「別に私は、あいつがいいなら構わないけど?」


ベルは特に構えた様子もなく、自然に言葉を続けた。


「私たちの身体のことも知ってるし」


ミリィはわずかに間を置き、静かに視線を落とす。


「…それですよ」


ベルは小さく首を傾げた。


「?」


ミリィはすぐには顔を上げず、言葉を選ぶように続ける。


「…ずっと気になっていたんですけど…」


ベルは身を少し乗り出し、興味を示すように覗き込む。


「なになに?」


ミリィはストローから口を離し、そのままカップの縁を見つめながら、ゆっくりと口を開こうとしていた。


ミリィは周囲を気にするように一度だけ視線を巡らせ、それからそっと身を乗り出した。ベルの耳元に顔を寄せ、声を潜める。頬にはわずかに赤みが差していた。


「その…例えば…2人がその気になった時に…」


ベルは一瞬だけきょとんとした表情を見せる。


「その気…?」


ミリィは言葉に詰まりながらも、どうにか続ける。


「だから、その…いちゃいちゃしてるうちに…その…」


その言い方で察したのか、ベルの頬にもじわりと熱が上がる。


「…続けて」


ミリィは小さく頷き、さらに声を落とした。


「…その何かしら…あったとして…」


ベルは気まずそうにしながらも、相槌を打つ。


「ふんふん…」


ミリィはほんの少しだけ顔を上げ、それでも目を合わせないまま言った。


「途中で朝になったりしたら…どうなっちゃうんでしょう?」


その問いに、ベルは赤くなったまま視線を落とす。しばらく何かを考えるように沈黙し、やがてゆっくりと顔を上げた。


「それは…気まずいね」


ミリィは小さく頷き、まだ赤みの残る頬のまま確認するように見上げた。


「…ですよね?」


ベルは肩をすくめ、ため息混じりに返す。


「めちゃめちゃ大問題だよ…私にとって」


ミリィはすぐさま身を乗り出すようにして言葉を重ねた。


「ですよね?ですよねですよね?」


勢いに押されるように、ベルは少しだけ視線を逸らす。


「今までも…目が覚めたら隣に知らない女の人が寝てたことはあったけど…」


その言葉に、ミリィは一瞬だけ反応しかけるが、何も言わずに飲み込む。


「明確に何かしらやらかした感じはなかったから…ちょっと気まずいくらいで済んだけど」


ミリィは呆れ半分に息を吐く。


「それも…すごいですけどね」


ベルはあっさりと返した。


「…慣れよね」


ミリィの表情がさらに引き締まる。


「知り合い、形だけでも婚約者、しかも王族となると…」


ベルは軽く頷きながら、状況を補足する。


「アルティシアだしね…彼女はその気なわけだし」


ミリィは想像してしまったのか、わずかに顔をしかめた。


「…想像すると恐ろしくて」


ベルはその反応を見て、ふと口元を緩める。


「それにしても…ミリィもそんな想像するんだね?」


ニヤリと笑う。


ミリィはびくりと肩を揺らし、耳まで真っ赤に染めて抗議した。


「ち…違います!私はただ…考えられるリスクをですねぇ…」


ベルはその様子を楽しむように、軽く手を振る。


「わかってるわかってる、わかってるって」


ニヤニヤと笑いながら、どこか余裕のある態度を崩さなかった。


ミリィは少しだけ躊躇いながらも、現実的な可能性を口にする。


「だって婚約したら…一緒に住んだり、するわけですよね?」


ベルは予想外だったのか、目を瞬かせた。


「え?それはないんじゃない?」


ミリィは首を横に振り、淡々と補足する。


「でも…王侯貴族は結婚の前に婚約した時点で、相手の家に住んで花嫁修行をしたり、しますよ?」


その説明に、ベルの表情が固まる。


「…嘘でしょ?」


間を置かずに返ってくる。


「マジです」


短い断言だった。


ベルは言葉に詰まり、視線を泳がせる。


「で…でも、今回は偽装なわけだし、ねぇ?」


どこか頼るような言い方だったが、確信はない。


ミリィは少しだけ言いにくそうに続ける。


「…アルティシアさんも、そのつもりなら、いいんですけど…」


その含みのある言い方に、ベルの顔色がわずかに変わる。


「私、ちょっとマズったかな?」


ミリィは慎重に、しかし否定はせずに答えた。


「かも…しれません」


ミリィの言葉が落ちた、その直後だった。


「もちろん、一緒に住みますわ」


不意に背後から差し込まれた声に、二人の動きが同時に止まる。


次の瞬間、揃って盛大にドリンクを吹き出した。


むせ返りながら、慌てて振り向く。


いつの間にか、二人のすぐ後ろにアルティシアが立っていた。


ベルはむせながらも、目を見開いたままその姿を見上げた。


「ア、アルティシア?」


ミリィも慌てて姿勢を正し、驚きを隠せないまま問い返す。


「ど…どうしてここに?」


アルティシアは二人を見下ろしながら、余裕のある微笑みを浮かべた。


「ルグレシア内で起こることに、私が気付かないとお思いで?」


その言葉に、ベルの表情がわずかに引きつる。


「もしかして…」


アルティシアは静かに頷いた。


「はい。お2人が到着した瞬間から、私の耳に入っておりました」


穏やかな口調でありながら、その内容は逃げ場のないものだった。


アルティシアは静かに一歩前へ出ると、スカートの裾を優雅に摘み、そのまま丁寧に一礼した。


「この度は私のわがままをお聞きいただきまして、ありがとうございます」


突然の改まった態度に、ベルは戸惑いながらも慌てて言葉を返す。


「う、うん、私たちにとっても都合よかったから…」


ミリィは少しだけ身を乗り出し、確認するように問いかけた。


「あ、あくまでも偽装、なんですよね?」


アルティシアは柔らかな笑みを浮かべたまま、迷いなく頷く。


「はい。もちろんです」


その一言に、ベルとミリィは揃って肩の力を抜いた。


張り詰めていたものが緩み、小さく息を吐く。


しかし――。


「今はまだ」


その続きに、再び空気が固まる。


ベルの表情が引きつる。


「ちょっと…」


ミリィも同じように眉をひそめる。


「不安しかない」


二人の反応を前にしても、アルティシアの微笑みは崩れなかった。


ベルはまだ動揺を引きずったまま、恐る恐る問いかける。


「で、でも本当に一緒に住むつもり?」


アルティシアは即答した。


「はい。もちろんです。習わしですので」


迷いのない断言だった。


ベルは言葉に詰まりながらも、現実的な問題を口にする。


「でも…どこで?私たち、家なんてないよ?」


それに対しても、アルティシアの態度は変わらない。


「どこでも構いません。街の宿でも馬小屋でも、野宿だって大丈夫です」


さらりと告げられた内容に、ベルは思わず顔をしかめた。


「いや…さすがにそこまではないけど」


常識の線引きを確認するような返しだったが、アルティシアの表情は依然として余裕を保っていた。


ミリィは慌てて身を乗り出し、常識的な懸念を口にする。


「そ、それに…王族の方を街の宿に泊まっていただくわけには…」


アルティシアは一瞬だけ考える素振りを見せ、それから軽く手を打ち合わせた。


「それならー」


そのまま、自然な流れで提案を口にする。


「王城にベル様たちが住まわれるのは、いかがでしょう?」


あまりにも当然のように提示された選択肢に、空気が一瞬止まる。


ベルは間髪入れず、顔をしかめた。


「え…嫌だよ」


即答だった。


アルティシアはわずかに首を傾げながらも、落ち着いた声音で続ける。


「…安心かつ安全、そして豪華な生活を保障いたします」


しかしベルは、間を置かずに首を横に振った。


「…嫌だってば」


即答に、アルティシアの眉がわずかに寄る。


「なぜですか?」


ベルは肩をすくめ、当たり前のことのように答えた。


「私は旅をしてるし、魔王殺しもやんなきゃだし、1箇所にずっとはいられないもの」


その理屈に、アルティシアは少し考える素振りを見せる。


「では私が旅に同行するしか…」


だが、その案にもベルは首を振る。


「それもアルティシアの安全とか考えると、ちょっと」


静かに否定され、アルティシアは一瞬言葉を失った。


「では…どうしましょう?」


珍しく判断を委ねる形になる。


ベルも腕を組み、少し考え込む。


「うーん…どうしよっか」


そのやり取りに、ミリィが慌てて割って入った。


「ちょ、ちょっと待ってください」


ベルが振り向く。


「どうしたの?」


ミリィははっきりと言い切る。


「ベルさん…いつの間にか一緒に住む前提で話進めてますよ!」


その指摘に、ベルがはっとする。


「あっ」


一拍遅れて、アルティシアが楽しげに微笑んだ。


「あら…お気付きになりました?」



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