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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
第12章ー南大陸の強者ー
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これから先の話ー

ベルは頭を抱えたまま、耐えきれないといった様子で声を上げた。


「マジもう本当勘弁してくれよ!恥ずかしくて死にそうだ!」


勢いのまま顔を上げると、マリーナを見据える。


ベッドの上のマリーナは、いつも通りの静かな声で返した。


「なんでもすると……言ったではないか」


「だからってよぉ!とにかく褒め称えろって...これは恥ずかしすぎんだろ!?」


間髪入れずに続く。


「お前は、あ……愛してると言ったんだから……私のどこが好きか……いくらでもあるだろうが」


わずかに頬を染めながらも、その言葉に揺らぎはない。


ベルは一度言葉を詰まらせ、視線を逸らした。


「言ったさ、言ってけどよぉ……あれはなんてーか、あん時のノリってか……」


その瞬間、マリーナの気配が変わる。


伏せていたまつ毛の奥で、わずかに目元が潤む。


「う……嘘だったのか……調子のいい事を言って……私の心を弄んだのか……」


ベルは顔を上げた。


先ほどまでの動揺が消え、真っ直ぐにマリーナを見る。


「嘘じゃねぇよ。愛してるのはマジだぜ」


静かな声だった。


その一言に、マリーナの目がわずかに見開かれる。


「お...お前....そんな事を……そんな気軽に……」


ベルは肩を軽くすくめる。


「本当のことなんだからいいだろ?」


その言葉にマリーナの心臓が大きく跳ね、マリーナが痙攣する。


やがてマリーナは、ギプスに包まれた両手を胸元へとそっと当てた。


「や……やめろ……これ以上は心臓がもたない」


ベルがわずかに眉を寄せる。


「なんだよ……言えと言ったり言うなと言ったり……」


困ったような、それでいて呆れたような声だった。


ベッドの上で、マリーナは小さく息を吸い、ぎこちなく言葉を返す。


「お……お前の言葉は心臓に悪い……せっかく助かったのに……死んでしまいそうだ」


淡々としているようで、ところどころに揺れが混じる。


ベルは一瞬だけ黙り、それから視線を外して肩をすくめた。


「勝手なやつだな、お前」


ベルは少しだけ息を整えるようにしてから、マリーナの頬を見た。


「でも本当よかったな。傷が治って」


その言葉に、マリーナは小さく瞬きをしてから、ゆっくりと答える。


「あ、あぁ……回復魔術と違って再生魔術は私の体力を使わないからな。瀕死の状態にはうってつけだ」


淡々とした説明口調に戻りかけるが、まだどこか調子は崩れたままだ。


ベルの視線を追いながら、言葉を続ける。


マリーナの説明によれば、複雑骨折などの場合は骨が不自然な形で癒着する可能性があり、そのため再生魔術だけではなく回復魔術と併用しながら、時間をかけて修復していく必要があるという。その分、治療にはどうしても長い時間がかかる。


ベルはその話を聞きながら、軽く肩をすくめた。


「そっか……ややこしいもんなんだな」


マリーナは小さく頷いたあと、静かに言った。


「それでも自然治癒よりは遥かに早い。明後日にはギブスも取れるとのことだ」


ベルは軽く肩をすくめる。


「じゃーそれまでは両手足使えないのか、不便だな」


マリーナは一瞬言葉を止め、頬をわずかに染めたまま視線を逸らす。


「……そ、そうだ。だから……その間……お前が世話をしてくれても……いい、んだぞ」


ベルは軽く肩をすくめて、あっさりと言った。


「あーまぁ、今回は世話になったしな。いいぜ!マリーナが退院するまで世話してやるよ」


その瞬間、マリーナの表情がぱっと明るくなる。


普段の落ち着いた雰囲気が崩れて、どこか期待を隠せていない目になる。


「そ……それじゃ、食事の時も」


ベルは即答した。


「あぁ、俺が食べさせてやる」


「か……身体が痛くなったら」


「あーマッサージ?してやるよ」


「夜寝る時も……私が眠るまで」


ベルは少しだけ息を吐いて、それでも普通に頷いた。


「いいよ。寝付くまで隣にいてやるよ」


そこまで言ってから、ベルはふっと笑う。


「なんか、子供みたいだな?」


その言葉に、マリーナは一瞬固まる。


「う、うるさいっ」


そう言いながらも、頬はしっかりと赤く染まっていて、口元だけが緩んでいた。


ベルは指先を折りながら、何気ない調子で話を続ける。


「あとはそーだなー……その両手じゃー」


その時点で、マリーナの頭の中にはすでに穏やかな未来が広がり始めていた。


だがベルの言葉は、その軌道を平然と逸れていく。


「風呂も入れないよな?じゃー毎日身体拭いてやるとして」


「……え?」


マリーナの思考が一度止まる。


ベルは構わず続ける。


「あとあれかートイレ!」


その単語に、マリーナの肩が大きく跳ねた。


「その手じゃトイレも一人じゃ無理だよな。あ、もう行くか?」


「いやいやいやいや!トイレはいい!」


声が裏返るほど即答だった。


理想と現実のギャップに震えるマリーナ。


ベルはまったく気にした様子もなく、胸を軽く叩いた。


「遠慮すんなって。俺に任せろ!」


その言葉で、マリーナの顔に一気に熱が集まる。


「ま……任せられるかぁっ!」


病室に響いた声だけが、やけに真っ直ぐだった。


ベルはそっとマリーナを支えながら、膝の上から身体をずらす。


マリーナの名残惜しさのような一瞬の間のあと、丁寧にベッドへ横たえた。


シーツが軽く揺れ、マリーナの髪が枕に落ちる。


ベルはその様子を確認すると、無言で立ち上がり、ベッドの脇へ椅子を引き寄せた。


金属が床を擦る小さな音だけが病室に響く。


そして、その椅子に腰を下ろす。


少しだけ背もたれに寄りかかりながら、視線は自然とマリーナへ向いたままだった。


「……おまえは……私のどこが一番、す、好き……なんだ?」


マリーナは視線を落ち着きなく揺らしながら問いかけた。頬はすでに薄く朱に染まっている。


ベルは少し間を置いて、あっさりと言った。


「俺を好きなとこ、だな」


一瞬の沈黙。


マリーナの眉がわずかに寄る。


「おまえは……自分を好きな女性が好き、なのか?」


「……あぁ、そうだが?」


即答だった。


そのあまりに迷いのない返事に、マリーナは言葉を失う。


「な……なんだ、それは……」


ベルは胸を張るように言い切った。


「俺は、俺のことが大好きだ!」


マリーナは即座に身を起こしかける勢いで反応する。


「それでは答えになってない!」


ベルは手のひらを軽く振って制するように続ける。


「まぁ聞けって。俺は俺が好きだ。そして、俺のことが好きな女なら、絶対気が合うってもんだろ?だって同じものが好きってことは、絶対趣味が合う!」


「その理屈はなんとなく……わからなくもないが……しかし」


マリーナはそこで言葉を探すように一度止まり、視線を伏せる。


そして、小さく絞り出すように言った。


「……それは、自分を好きなら、誰でもいい……と?」


その言葉の最後で、唇がわずかに震える。


目元には、かすかな潤みが浮かんでいた。


ベルは肩の力を抜いたまま、当然のように続ける。


「何言ってんだ?俺を好きだからって、誰でも好きになるわけねぇだろ?」


その言葉に、マリーナの心臓が跳ねる。


息を詰めるようにして、恐る恐る問いを重ねた。


「で……では、私がもし、おまえを好きじゃなかったなら……」


ベルは少し考える素振りを見せて、それから軽く笑った。


「んー……そん時は、そのうち口説いていたかもな?」


あっけらかんとした声。


何の重さもないような軽さで放たれた一言だった。


だが、その内容だけがやけに真っ直ぐで、逃げ場がない。


マリーナは息を止めたまま固まる。


胸の奥で心臓が跳ね続け、感覚だけが異様に鮮明になっていく。


視界がわずかに揺れ、意識が一瞬だけ遠のきかけた。


ベルは慌てた様子もなく、マリーナの様子を見て眉をひそめる。


「おーい、マリーナ?大丈夫か?」


マリーナはベッドの上で小さく震えながら、かろうじて声を出す。


「……だ、だめだ……死にそうだ」


「マジかよ。医者呼ぶか?」


「いや、いい。そっとしといてくれたら……そのうち落ち着く」


息を整えようとするように、マリーナは一度視線を落とす。


そして、途切れ途切れに言葉を続けた。


「と……ところで……愛していると言ったからには……その、将来は……」


ベルは少しだけ間を置いて、それからあっさりと頷いた。


「あぁ、考えてるぞ」


何気ない返事。


だがその軽さが逆にマリーナの思考を追い越す。


ギプスに包まれた両手が胸元を押さえ、身体が小さく揺れた。


ベルは続ける。


「だが、今は何も決められない」


その一言で、空気が少しだけ変わる。


マリーナの動きが止まった。


「……え?」


ベルは視線を逸らさず、淡々と続ける。


「だから、付き合うだのなんだのってのも、なしだ」


沈黙。


マリーナの顔が固まる。


「え……え……ええ?」


理解が追いつかないまま、半ば反射で身体が動く。


ベッドの上で、這うようにベルへ近づこうとする。


そして、震える声で絞り出した。


「……あ、愛人とか……都合のいい関係...とか、そういうの、か?」


目には今にも零れそうな涙が溜まっていた。


マリーナは小さく息を吸い込み、震えた声で言った。


「お……おまえがそう望むなら……わ、私は、それでも……」


その言葉と同時に、強く閉じた瞳から涙がこぼれ落ちる。


静かに頬を伝う涙を、ベルは指先でそっと掬った。


「まだ決められない。決められないが……待っててくれ」


その言葉に、マリーナがゆっくりと顔を上げる。


ベルは視線を逸らさず続けた。


「俺にはやることがある。魔王を1000体倒す。今108体倒したから……あと884体」


「……残りは892体だ」


「そう、892体!倒したら、その時はー」


マリーナはわずかに目を細める。


「……先は長そうだな……私はお前より7歳も年上なんだ……あまり待たせるとお婆さんになってしまうぞ」


ぽつりとしたその言葉に、病室の空気が少しだけ沈む。


ベルは指を3本立てた。


「3年だ。3年だけ待て」


マリーナはじっとベルを見る。


長い沈黙のあと、静かに頷いた。


「わかった……3年だけ、待ってやる」


次の瞬間、マリーナはギプスのまま両腕を持ち上げると、ベルに抱きついた。


ベルは一瞬だけ驚いたあと、その背にそっと手を回す。


病室の中に、ようやく落ち着いた呼吸だけが残った。


廊下の外、扉一枚を隔てた先からは、くぐもった声が漏れてくる。


その音に耳を傾けながら、ミリィはベンチの端で小さくうつむいていた。


膝の上で握りしめた拳に、力が入っている。


「……今回は、譲ります」


誰に向けるでもない声だった。


ただ、自分に言い聞かせるように。


唇を噛んだまま、静かに息を吐く。


その横で、マークスが腕を組んだまま壁にもたれていた。


「……嬢ちゃんも大変だな」


ぽつりとした一言。


ミリィは顔だけを上げる。


「……なんですか?」


マークスは少しだけ目を細める。


「好きなんだろ?彼のこと」


その瞬間、ミリィはきょとんとした。


本気で意味が分からない、とでも言うような顔で首を傾げる。


「誰がですか?」


「誰って、嬢ちゃんがさ」


「……私?どうしてですか?」


間。


完全に噛み合っていない。


マークスは一度視線を天井へ向け、短く息を吐いてから苦笑した。



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