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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
第12章ー南大陸の強者ー
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KAGEの軍団ー

ベルは震える腕を無理やり持ち上げる。


息が乱れる。


それでも、指先を止めない。


「あと少し…これだけ、イバラキ。お願い」


両手を掲げる。


次の瞬間――


地面が蠢く。


無数の茨が伸び上がり、三人の刺客へと絡みつく。


腕に、脚に、胴に。


逃げ場を与えず、締め上げるように拘束する。


黒い男も、白い女も、赤い男も。


その場に縫い止められる。


白狛は低く唸りながら、ようやく黒い男から身を引いた。


その視線はまだ鋭いまま。


そして――


マークス。


裂けた肉が完全に繋がり、傷が閉じる。


再生が終わる。


ゆっくりと、身体を起こす。


重く、しかし確実に立ち上がった。


マークスがゆっくりと立ち上がる。


再生を終えたはずの身体。


だが、その瞬間――


何の前触れもなく。


左腕が、弾け飛ぶ。


血が噴き上がる。


遅れて、衝撃が走る。


「ガァッ!?」


視認できない一撃。


その場の空気が、一瞬で変わる。


ベルは揺れる頭を振り、ふらつきながらも立ち上がる。


「な…なに!?」


視界が歪む。


状況が追いつかない。


だが――


白狛が低く、鋭く唸りを上げた。


その視線の先。


空気がわずかに歪む。


そして――


そこに、新たな人影が立っていた。


人影は、音もなくそこに立っていた。


気配が薄い。


いるはずなのに、認識が遅れる。


全身黒ずくめ。


輪郭すら曖昧に見えるほど、光を吸い込むような装束。


覆面の奥――見えているのは、片目だけ。


その瞳だけが、静かにこちらを見ている。


背から流れるように伸びる、長い紫の髪。


風もないのに、ゆるやかに揺れる。


細い。


あまりにも線が細い身体。


だが、不安定さは一切ない。


むしろ――


そこに立っているだけで、場の支配権が移る。


手には、一振りの刀。


刀、と呼ぶにはあまりにも異質。


鉄の塊。


そう形容するしかない、異様な質量感。


長い。


マークスの身長すら軽く越える長さ。


それを、片手で持っている。


力んでいない。


ただ、持っているだけ。


――それなのに。


先ほどの“見えない一撃”が、これだと理解させる圧がある。


声が、遅れて落ちる。


男か女かも判別できない、中性的な響き。


「……なさけない」


短く、それだけ。


それだけで。


空気が、完全に塗り替わった。


人影は、ゆっくりと視線を巡らせる。


まず、黒い男へ。


「ユラ」


次に、白い女へ。


「ナギ」


そして、赤い甲冑の男へ。


「ヤナイ」


淡々と、名をなぞる。


感情はない。


ただ確認するように。


そして、わずかに首を傾ける。


「KAGEの各党首ともあろうお前たちが…犬畜生に負けるとは…なんと情けないことか」


静かな声。


だが、その一言で三人の空気が凍る。


イヌイはゆっくりとマークスへ向き直る。


片目だけが、獣を射抜く。


「犬に人間の言葉が通じるかわからぬが…名乗ろう」


長大な刀を、肩へと担ぐ。


あまりにも自然に。


重さなど存在しないかのように。


「スメラギ皇国、KAGE筆頭ーイヌイ。推して参る」


その言葉が落ちきるよりも早く――


マークスが動く。


地面に落ちていた自身の左腕を掴み上げる。


迷いはない。


そのまま、全力で投げつける。


空気を裂き、肉塊が一直線にイヌイへと飛ぶ。


飛来する腕。


その軌道を、イヌイは見ていない。


見ているようで――見ていない。


ただ。


何の予備動作もなく。


刀が振るわれる。


一閃。


マークスの腕は、空中であっさりと切り伏せられる。


肉片が散る。


その瞬間――


同時に跳んでいた影が、上から迫る。


マークス。


牙を剥き、右腕を振り上げている。


そして、そのまま――


振り下ろす。


振り抜いたはずの刀。


だが――


次の瞬間には、すでにそこにあった。


当たり前のように軌道を反転させ、イヌイの刀が上へと差し込まれる。


マークスの振り下ろした右腕と、正面からぶつかる。


激突。


鈍い衝撃が弾ける。


空中で力がぶつかり合い、動きが止まる。


押し切れない。


受け止められている。


イヌイが、わずかに口を開く。


「……その程度か」


男とも女とも判別できない声が、静かに響く。


次の瞬間、両手が動く。


長大な刀が、まるで重さを持たないかのように回転する。


空間ごと切り裂くような軌跡。


マークスは即座に判断し、後ろへ跳ぶ。


距離を取る。


着地と同時に、呼吸を整える間もなく――


左腕が再生を始めていた。


肉が蠢き、骨が形を取り戻していく。


だがその速度は、明らかに以前より遅い。


イヌイはそれを見て、ただ静かに立っている。


イヌイは肩をすくめるように笑い、そのまま視線だけで三者をなぞった。


「この程度の犬にやられるとは…油断していたか、それとも後ろの女が…いや、それはあるまい」


ふらつく頭を軽く振り、ベルが口を開く。


「言ってくれるじゃない…」


イヌイは口角をわずかに上げた。


「人もどきの犬と犬、そして女。そう言いたくもなろう」


その瞬間、背後でマークスの肉体が再び“完成”する音がした。骨と筋が噛み合うような異質な再生。両手が自然に広がる。


ベルも右手の人差し指をイヌイに向け、構える。


白狛は小さく唸り、前傾の姿勢を取った。


イヌイはわずかに首を傾げた。


「用意はいいか?」


その問いが落ちた直後、マークスが再び咆哮を上げる。


両手を振り翳し、巨体がイヌイへと突撃した。


左右からの振り下ろし。重圧そのものの一撃。


だがイヌイは一歩も退かない。


抜き放たれた刀が、ただ“線”としてそこに在る。


左右の斬撃が届く瞬間、その刃がわずかに動き、二つの衝撃を同時にいなした。


金属が軋む音だけが、空間に短く響いた。


イヌイは低く息を吐いた。


「…つまらない攻撃だな」


軽く手首を回し、そのまま刀を振る。


軌跡は一瞬だった。


次の瞬間、マークスの全身に細い線が走る。


遅れて、肉体が一斉に崩れ落ちるように切り裂かれた。


身体を切り裂かれたマークスが、それでもなお再生を続けながらイヌイへ掴みかかる。


イヌイはわずかに眉を寄せた。


「…しつこい」


横凪に振るわれた斬撃。


その一閃がマークスの両足を根元から切り落とした。


悲鳴とも咆哮ともつかない声を上げ、巨体が崩れるように地面へ沈む。


その背後から、光線が放たれた。


イヌイは首だけをわずかに傾ける。


光は髪先を掠めて背後へ抜けていった。


「くっ…」


ベルがその場に膝から崩れ落ち、長い髪が地面に広がる。


白狛がそんなベルの腹下に鼻を突き入れた。


「え…ちょ…こんなときに…」


次の瞬間、白狛はそのまま首を持ち上げ、ベルを背に乗せると一気に駆け出す。


ベルは必死に白狛の首にしがみついた。


「…ちょ…白狛…」


その直後、先程ベルがいた地面に数本の小刀が突き刺さる。


ベルが視線を送ると、イヌイの左手が差し出されていた。


あのまま動かずにいたらと思うと、ベルの背筋に戦慄が走る。


白狛の首筋に頬を埋めるようにして、ベルは小さく呟いた。


「助けてくれたのね…ありがと」


白狛が小さく鳴く。


ベルはその背に跨り直すと、ハーネスをしっかりと掴んだ。


ベルは叫んだ。


「白狛!行こう!」


白狛が咆哮を上げ、地面を蹴る。ジグザグに軌道を変えながら、イヌイへと向かう。


ベルは震える手足に一瞬だけ視線を落とし、すぐに指輪へと意識を切り替える。


「カタナー…一撃でいいの。一撃でいいから…必殺の一撃を!」


応えるように、指輪が震え、強く輝きを放った。


次の瞬間、ベルの右肩が内側から膨れ上がる。


「ああっ…」


肉の奥から突き上げる痛みに、顔が歪む。


「いい…出して…そのまま…」


苦痛を押し殺しながら、声を搾り出す。


そして右肩の肉を突き破るようにして現れたのは、大きく湾曲した長大な白刃だった。


ベルの全身よりもなお長く、地面に届きそうなほど伸びている。


その刃はさらに剣先から捻れるように形を変え、白く輝く巨大な槍へと変貌した。


まるで一角獣の角のような、純白の殺意。


ベルは口角をわずかに上げる。


「…貫けって…ことね」


戦術も技巧もない。ただ一点を貫くためだけの形。


その槍の先をまっすぐイヌイへと向け、ベルは白狛の背に伏せた。


「行って!全力で!」


瞬間、白狛の速度がさらに跳ね上がった。


挿絵(By みてみん)



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