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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
第12章ー南大陸の強者ー
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刺客の影ー

マークスは殺を見下ろしたまま、ゆっくりと腰のホルスターへ手を伸ばす。


拳銃が抜かれる音は、やけに静かだった。


そのまま、銃口が殺の額に押し付けられる。


空気が一気に張り詰める。


「マークス!ダメ!」


ベルの声が鋭く飛ぶ。


だがマークスは視線を外さない。


「こいつは…マリーナ警部の両手足を折って、散々痛めつけた上で、、、公園の木から吊るしたんだっ!魔王殺しを誘い出すためだけにっ!」


声が震えている。


怒りと、抑え込みきれない感情の揺れ。


左の拳が強く握られ、血が滲む。


「両手にナイフを突き刺してな!」


ベルの表情が一瞬だけ固まる。


「..、そんな…だからあんな状態に…」


マークスは息を詰めるように目を閉じかけ、それでも踏みとどまる。


「俺が警察でなければ…なければっ…」


拳銃を握る手が一瞬だけ震える。


そして、ゆっくりと銃口が下ろされる。


大きく息を吐く。


「話は後で…きっちり聞かせてもらうからな」


殺に向けられた視線は、まだ冷え切ったままだった。


殺は、息を振り絞るように口を開いた。


「ま…待ってください!…確かに両手足は折りました…折りましたが…それ以上は、何もしていません」


絞り出すような声。


痛みと疲弊の中、それでも事実だけを並べるような言葉だった。


マークスの表情が歪む。


「嘘をつくなぁっ!」


一歩、踏み出そうとした瞬間。


ベルが間に割り込むように立ち塞がる。


両手を広げ、真正面から受け止める構え。


「待って!」


声は強い。


だが必死さも混じっている。


マークスの視線がベルへ向く。


怒りのまま押し潰しそうな気配。


それでもベルは一歩も引かないまま、真っ直ぐに見返していた。


殺は息を整えながら、途切れ途切れに続ける。


「もしかすると…マリーナ様を倒した後、私はあの病院を見張れる場所を探すため、KAGEにマリーナ様の通報や応急処置を任せたので…」


ベルが眉をひそめる。


「KAGE…?」


殺は静かに頷く。


「我が国の…諜報活動や暗部の仕事をする者達の総称です。そう言えばしばらく姿を見ていませんが…もしや」


その言葉に、マークスの視線が再び鋭くなる。


「それじゃ…警部をあれだけの目に遭われせたのは…お前じゃない?」


殺は一瞬だけ言葉を選び、それから正直に答える。


「とは言え…魔王殺しを焚き付けるためとは言え、手足を折ったのは私ですので…」


空気がさらに重くなる。


マークスの拳が再び強く握られかけた、その瞬間――


ベルが間に入る。


「待って!今はそれよりも、刺客の対処が先でしょう?」


その声で、張り詰めた空気がわずかに揺れた。


マークスは短く息を吐き、視線を病院の方角へ向けた。


「わかった。その辺りの話は後で聞かせてもらう」


ベルがすぐに切り返す。


「現状は?」


マークスは頷く。


「既に病院内の職員や患者は避難済みで、本部隊員が配置に着いてる」


ベルは小さく息を吸う。


「ならあとは…」


マークスが言葉を引き取る。


「待ち構えるだけだ」


その場に一瞬、静寂が落ちる。


殺はゆっくりと身体を起こそうとする。


「…やはり私も…戦います」


即座にマークスが首を振る。


「ダメだ!お前は重要参考人だ。何かあったら俺が警部に…怒られるだろ」


最後の一言は、少しだけ声が詰まった。


ベルは視線を殺へ向ける。


「…私も戦うわ。ミリィは?」


マークスは少しだけ表情を緩める。


「あの子は…ずっと警部の側についてくれてるよ」


その答えに、ベルは小さく目を伏せる。


「そっか…大好きだったもんね。マリーナさんのこと」


マークスは病室の扉を開け放ち、少し間を置いてから戻ってくる。


両手には手錠をかけられた黒ずくめの男。


覆面姿のまま、明らかに抵抗した形跡がある。


マークスはそれを軽く引きずるようにして前へ出す。


「こいつらみたいなやつってこと?」


殺の視線が、その男に向いた瞬間。


わずかに固まる。


「…あ」


次の言葉がすぐに続く。


「はい。そうです…それですが…どうして?」


ベルも思わず男を見て目を細める。


マークスは肩をすくめる。


マークスは肩をすくめながら、黒ずくめの男を軽く押さえ直す。


「いやなんか、お前の連れてるでかい犬ー」


殺がすぐに反応する。


「白狛?」


「白狛って言うのか?あいつを病院の裏口に縛っておいたら、なんか鳴きわめいてるから行ってみたら…こいつを押さえ込んでたから、とりあえず捕まえてみた」


ベルが思わず感心したように息を漏らす。


「…やるじゃん。白狛」


殺は小さく目を伏せる。


「…あの子…嫌いなんですよね。KAGEのこと」


ベルが静かに呟く。


「…忠実なのね」


その言葉と同時に、殺の視線が黒ずくめの男へ向く。


空気が少しだけ変わる。


「答えなさい。何人来ています?」


しかし男は沈黙を貫く。


呼吸の気配だけが、わずかに揺れる。


マークスが軽く舌打ちする。


「ダメだよ。こいつ口割らないんだ」


殺はすぐに視線を戻し、淡々と答える。


「…それもそうですね。彼らがそれを話すわけがない」


殺は黒ずくめの男をまっすぐ見たまま、静かに問いを落とす。


「私への伝言は?」


KAGEは数秒だけ沈黙し、それから淡々と口を開く。


「…御刀、殺。勅命の失敗により、自害せよ」


殺は一度だけ目を閉じる。


そして、短く息を吐いた。


「…なるほど…わかりました」


その反応に、ベルの声が即座に跳ねる。


「ちょっと!?」


だが殺は動じない。


「いいのです。確かにそれが1番早い」


視線をKAGEへ戻す。


「私が自害すれば、引くのですね?」


KAGEは感情を見せずに答える。


「妖刀と白狛、そして御刀の遺体を持ち帰れるなら、すぐにでも」


その言葉に、殺は小さく頷く。


そして、マークスとベルへ視線を向ける。


「そういうわけですので…すぐに退散させます。私の刀はどこですか?」


ベルの表情が一気に崩れる。


「ちょっと…ちょっと待ちなさいよ!」


殺はその場で動きを止める。


ベルの声が、部屋の空気を切り裂いた。


「何勝手なこと言ってるの?自害なんてさせないわ」


マークスも一歩前に出る。


「そうだ。大陸警察のいる前でそんなことさせられるか」


殺は視線を落としたまま、静かに言う。


「しかし…そうしないと」


その言葉を最後まで言わせなかった。


ベルの声が一段と強くなる。


「もうあったまきた!あなたもあなた達も、自分勝手すぎるのよ!」


指が、殺とKAGEへ向けられる。


「さんざん人のこと振り回しておいて…自害します?ふざけんじゃないわよっ!」


その言葉に、部屋の空気が一瞬止まる。


殺はゆっくりと顔を上げる。


マークスは言葉を探しながら、ベルと殺の間を見ていた。


ベルは勢いのまま言い切る。


「いーわよ、やってやろうじゃない。マークスさん!」


マークスも即座に頷く。


「あぁ」


ベルは拳を握り直し、視線を前へ向ける。


「ここまで辿り着いてる以上、待ってなんていられないわ!打って出ましょう!」


マークスは短く息を吐き、すぐに判断を下す。


「よしきた!病院の警備は残して、俺とベル、それから…白狛で行こう」


ベルが力強く頷く。


そのやり取りを見ていた殺は、少しだけ目を伏せる。


そして静かに言葉を落とす。


「本当に悪いと思ってるなら、ここで寝てなさい。いいわね?」


その声には、拒否を許さない確かさがあった。

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