表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
第12章ー南大陸の強者ー
416/441

刺客が来るー

殺が目を覚ました瞬間、最初に感じたのは違和感だった。


視界はまだぼやけている。


それより先に、肌に触れる空気がやけに軽い。


服を着ていない。


その事実だけが、遅れて意識に沈んでくる。


ベッドの感触。


柔らかいシーツ。


そして、自分の身体がそこに沈められている感覚。


「な…なぜ…」


喉が張り付いたように声が出ない。


全身に鈍い痛みが走り、熱を持ったまま重く沈んでいる。


視界が戻らないまま、音だけが世界を形作る。


近くに気配はない。


誰もいない。


ゆっくりと上半身を起こす。


その動きでシーツがずり落ちるが、それを直す腕がない。


「..ここは一体…」


その言葉が落ちた直後だった。


人の気配。


近い。


ドアが開く音。


殺の身体がわずかに強張る。


反射的に両足を引き上げ、警戒体勢を取る。


いつでも動けるように、いつでも蹴らを放てるように。


その気配に、殺の緊張がわずかに緩む。


ドアが開く音。


入ってきたのはベルだった。


「あ、起きたんだ?」


殺はかすれた声で応える。


「ベル様…」


ベルはベッドのそばへ歩み寄り、肩口に軽く手を添える。


「身体なんて起こして、寝てなきゃダメじゃない」


そのまま殺を静かに寝かせ直し、シーツを掛け直す。


殺は抵抗せず、そのまま横たわる。


「ここは…どうして…?」


ベルは少し視線を外しながら答える。


「あなた、魔王殺しと戦って、えっと…そう、気を失ってたんだよ」


殺の眉がわずかに動く。


「…気を?」


「そう!それで病院の前に寝かされてたの!そんな感じで!」


説明としては不自然だが、今の殺にはそれ以上追及する力がない。


しばらく沈黙が落ちて、それから殺は小さく頭を下げる。


「…そうですか…それはいろいろと…本当にいろいろとご迷惑をおかけしました」


ベルは少しだけ言葉を選ぶように間を置いたあと、静かに続ける。


「私も、正直マリーナさんのことは許してないし、許す気もないけど...今のあなたにそれを言うのは酷だと思うから。その話は元気になってから、改めてしましょう」


殺は一瞬だけ視線を落とし、それから淡々と答える。


「…申し訳ございませんが、それは叶わないと、思います」


ベルが眉を動かす。


「…どういうこと?」


殺は天井を見上げたまま、静かに言葉を落とす。


「…勅命を、使命を果たせなかった私は、生かしておいてはもらえないでしょう」


ゆっくりと顔をベルへ向ける。


「…あれから何日、経ちましたか?」


ベルは少し考えながら指を折る。


「えっと…4日?」


その答えに、殺は小さく息を吐く。


「4日となれば…今日にでも刺客がやって来る頃」


ベルは思わず声を荒げた。


「刺客って…何それ!?」


殺は、まだ痛みの残る身体を押しながら、淡々と答える。


「国からの刺客です。斬れない御刀に存在価値などありませんので」


その言葉の重さに、ベルの眉がひそまる。


「何よ…それ」


殺は唇を結び、ゆっくりと身体を起こそうとする。


だが動きは鈍く、呼吸のたびに痛みが走るのか、顔がわずかに歪む。


ベルがすぐにその肩を押さえた。


「寝てなきゃダメだってば!」


しかし殺は、その手を拒むように静かに首を振る。


「…このままここにいては、あなたや他の人まで巻き込んでしまいますから。どうか私のことはこのまま忘れてください」


その声は弱々しいのに、決意だけは揺らいでいなかった。


ベルは言葉を失ったように一瞬黙り込む。


「それじゃ..もしかして今回の指令って…」


殺は静かに頷く。


「成功して魔王殺しを倒せればよし、倒せずとも私を始末できればよし…そういうことかと」


ベルの眉が強くひそまる。


「なにそれ…ぜんぜん意味わかんない」


殺は淡々と続ける。


「みんな...御刀が怖いのでしょう。必要なだけ殺させて...不要となれば殺そうとする。先代も先先代も、殺の最後は謀殺と聞いています。御刀とは…そういう存在なのです」


その言葉が落ちると、部屋の空気がわずかに重くなる。


ベルはしばらく黙ったまま、殺を見ていた。


ベルの声がわずかに震える。


「そんなの…それじゃあ私たちって…あなたたちの都合に振り回されたってこと?」


殺は静かに目を伏せる。


「…申し訳ございません。そういうことに、なります」


ベルの表情が強く歪む。


「…マリーナさんがあんな目にあったのも…」


その言葉に、殺は何も言えず、ただ深く頭を下げる。


沈黙が落ちる。


ベルは一度目を閉じ、ゆっくりと開く。


「…許せない。そんなの…やっぱり許せないわ」


殺は小さく息を吐く。


「…ごめんなさい」


ベルは首を振る。


「あなたに責任がないとは思わないけど…許せないのは、あなたにそんな命令をした奴よ!誰なの!?」


殺の瞳がわずかに揺れる。


だが、すぐに静かに言葉を落とす。


「…それは、言えません」


ベルの声が鋭くなる。


「そんな扱いされて…どうして庇うの!?」


殺は一瞬だけ間を置き、それから淡々と答える。


「それが…御役目というものです…」


ベルは目を閉じたまま、苛立ちを噛み殺すように腕に力を込めた。


「いいわ…わかった」


殺は静かに息を吐く。


「…ご理解いただけたなら、私はこれで…」


身体を起こそうとした、その瞬間。


ベルが迷いなく殺の身体をベッドへ押し倒す。


「…な、なにを!?」


殺の声に、ベルは少しだけ口角を上げる。


「やっぱり...今のあなたなら、私でも簡単に組み伏せられるわ」


その言葉には、冗談めいた色よりも確かな意思があった。


殺は顔を逸らす。


「殺すなら…どうか一思いに」


だがベルは離れないまま、上から見下ろす。


「そんなこと…しないわよ。でも、あなたと一緒にいれば、その刺客?来るんでしょ?」


殺の瞳がわずかに揺れ、ベルへ向けられる。


「…なにを考えているのですか」


ベルは一歩も引かずに言い切る。


「襲って来た刺客を捕まえる。そうしてどうにか依頼主を教えてもらう」


殺の目が揺れる。


「ばかな…やめなさい!あなた1人では…」


言い切る前に、ベルの手がその口を塞いだ。


「1人じゃないわ!そうでしょ!?」


その声が部屋に響いた瞬間――


再び、ドアが開く。


軋むような音。


外の光が一瞬だけ差し込み、室内の空気が変わる。


そこから現れたのは――


そこから現れたのは、背の高い男だった。


赤い短髪。整った顔立ちにはまだ少年の面影が残っているが、立ち姿だけで場の空気が少し変わる。


大陸警察地方特別捜査官・警部補。マリーナのバディ――マクスウェル・ディン・ルイス。


マークスは一歩踏み込み、室内を見渡してから静かに言った。


「俺と、そして大陸警察本部特別隊50名を連れて来た。既にこの病院の避難と防衛体制は万全だ。ここで刺客を迎え撃つ。俺たちが今回の件、解決させてもらう。命を懸けても」


その言葉に、部屋の空気がわずかに張り詰める。


ベルの手が、殺の口から離れる。


一瞬だけ沈黙が落ちた。


殺の視線がマークスへ向く。


ベルはベッドの端に座ったまま、まっすぐにマークスを見上げていた。


マークスの声は、いつもの軽さを完全に消していた。


「俺も、俺たちの誰もが、マリーナ警部の一件…許す気はない。だが…俺達は警察だ!私情では動かない。動けないんだ。だから…この件が解決したら、お前にはしっかりと罪を償ってもらう」


真っ直ぐな視線。


逃げも曖昧さもない。


その言葉を、殺は静かに受け止める。


ベルは少しだけ目を細めてから、殺へ視線を向けた。


「そういうわけだから、あなたはここで寝てなさい」


即答。


だが殺は、わずかに身を起こそうとする。


「しかし…」


ベルはそれを遮るように、はっきりと言い切る。


「今のあなたよりは、まだ私の方が戦える」


その一言で、空気が一段だけ変わった。


殺は言葉を失い、ベルを見つめるしかなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ