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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
第12章ー南大陸の強者ー
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カタナVS大刀ー

空気が、ゆっくりと引き締まり直していく。


妖刀を納めた鞘を左手に持ち、殺がゆっくりと歩き出す。


その動きに気付いたベルとカタナも、自然と視線を向ける。


空気が一瞬だけ、戦闘から会話へと揺らぐ。


ベルが軽く目を細める。


「そういや、いつの間にか手が生えたんだな。目も開いてるし」


殺は歩みを止めないまま、静かに答える。


「…この妖刀の所有者は自らの身体を贄として差し出し契約するのです。私の場合は、この両瞳と両腕でした」


「妖刀…ねぇ」


ベルは短く呟き、視線を鞘へと移す。


その言葉を受けて、カタナが明るく笑った。


「あたしがあたしでよかったね!あたしは主に何も要求しないもんね!素直ないい子だから」


誇らしげに胸を張る。


ベルは一瞬だけ間を置き、苦笑を浮かべた。


「…違いねぇ」


そのやり取りの間も、殺の足は止まらない。


だが、その場に漂う空気だけは、確かにわずかに変わっていた。


殺が足を止める。


左手の鞘を静かに後ろへ引き、足を肩幅に開く。


居合の構え。


その瞬間、空気が変質する。


先ほどまでの戦場とは別の“刃の領域”が、そこに生まれる。


紅の瞳が強く輝いた。


「申し訳ございませんが、ここから先は一方的な殺戮となります。ご容赦」


静かな宣告。


殺気が、音を持つように満ちる。


ベルは一度だけ息を吐き、視線を真っ直ぐ返す。


「悪いとはこれっぽっちも思わねぇが、俺も今夜は怒りが頂点って感じだからよ。速攻で叩き潰させてもらう」


隣でカタナが、軽く肩を回しながら笑う。


「あたしの前では、人の持つ刀剣は棒切れに同じ」


ベルが即座に横目で見る。


「もう油断すんなよ」


「もおっ!わかってるって!せっかくキメ顔作ったのにぃ」


頬を膨らませるカタナ。


だがその一歩目は、すでに“神格の間合い”に入っていた。


ゆっくりと前へ。


軽い足取り。


しかしその一歩ごとに、空間の密度が変わる。


そして――


殺の目前、間合いのぎりぎりで止まる。


カタナは首をかしげるようにして呟いた。


「この辺り…かな?」


殺の頬を汗が一筋伝う。


「ご明察、でございます」


その言葉に、カタナは軽く目を細める。


「やっぱり?」


何気ない一言。


だが次の瞬間、右手を軽く持ち上げ、手刀の形を作った。


「居合だしね。こっちから、行くね」


その言葉が落ちた刹那――


カタナの姿が消えた。


いや、消えたのではない。


視界の“認識”から外れた。


間合いの中で、ただ一瞬だけ空間が途切れる。


殺の紅い瞳が鋭く揺れる。


左手がわずかに鞘を押し込む。


次の瞬間――空気が裂けるような気配が、真正面から叩き込まれた。


殺の呼吸が、ほんの一瞬だけ沈む。


(スメラギ)流剣術ー抜刀146(ASURA)」


鞘が鳴るよりも早く、抜刀。


居合斬り。


一点に収束された殺意が、直線として解き放たれる。


カタナの表情から、先ほどまでの軽さが完全に消える。


呼吸が一段落ちる。


視線が一点に固定される。


「……来る」


短く呟き、右手を手刀の形に構える。


踏み込み。


空間が裂けるような速度で、殺の正面へ割り込む。


――居合。


抜刀の気配。


カタナの反応は、即時だった。


真正面から受ける判断。


「そこ」


右手の手刀で、抜き放たれる刃を迎え撃つ。


だが刃が触れた瞬間、違和感が走る。


「……っ」


遅れて気付く。


背後。


視界の外側から、六つの殺意が同時に降りてきていた。


斬撃は一つではない。


受けても、避けても――


その瞬間、空間の裏側から六つの斬撃が同時に降り注ぐ。


背後。


死角。


逃げ道すら“前提として潰されている”構造。


六発の刃が、時間差なく重なり落ちる。


カタナの視線は、一切揺れない。


正面の殺からも、背後の気配からも。


そのまま、鋭く声を放つ。


「殲・滅!刀匠<ソードメイカー>」


瞬間――


一纏めに結われていた銀髪が、ほどけるように解放される。


風ではない。


意志そのものの展開。


白銀の髪は一条ずつ形を変え、瞬く間に“刃”へと転じた。


無数の白銀の刃が、背後へと一斉に展開する。


その直後。


殺の居合から生まれた六つの斬撃が、同時に降り注ぐ。


白銀の刃がそれを迎え撃つ。


衝突。


金属音ではない、空間そのものが擦れるような異音。


六つの斬撃は、すべて白銀の刃によって受け止められた。


カタナの口元に、わずかな笑みが戻る。


「この程度じゃ、あたしにはー」


その言葉の途中で、視線が動く。


そして止まる。


銀の瞳が、ほんの一瞬だけ揺れた。


殺が――もうそこにいない。


いや、正確には。


すでに刀を鞘へ戻し、次の“形”に入っていた。


居合の構え。


空気が沈む。


(スメラギ)流剣術ー抜刀・566(KARURA)」


その名が落ちた瞬間、世界が一拍遅れて動いた。


抜刀。


視界を裂く速度で、居合が走り抜ける。


音も影も追いつかない。


その横凪に振るわれる抜刀を目で追いながら、カタナが手刀で受ける。


そして――


通り過ぎた“あと”に、さらにもう一撃。


遅れて届く斬撃が、空間そのものを追撃するように現れた。


カタナが一撃目と二撃目を、掠めるように紙一重で抜ける。


斬撃は空を裂き、地を抉るが――彼女には届かない。


そのまま、間合いを潰す。


一瞬で。


殺との距離は消え、鼻先が触れ合うほどに近づく。


呼吸すら交わる距離。


カタナの銀の瞳が、静かに揺れた。


「ごめんね」


その言葉と同時に――


手刀が走る。


空気を断つ音。


次の瞬間、殺の左腕が袖ごと肩口から切り飛ばされた。


「ぐっ…」


衝撃が遅れて来る。


左腕を失ったまま、殺は一瞬だけ踏みとどまる。


だが崩れない。


落ちる鞘を――空中で追う。


口で咥え、受け止める。


動きは止まらない。


そのまま、後方へ跳ぶ。


距離を切る。


片腕を失ったまま、それでも居合の構えだけは崩していなかった。


カタナは一瞬だけ言葉を失う。


「これで居合はー」


その続きが、喉の奥で止まった。


視線の先。


殺の左肩口から、再び“腕”が生えていた。


音もなく。


抵抗もなく。


まるで最初からそこにあったかのように。


袖を失った白磁のような左腕が、月光を受けて淡く光る。


殺は何事もなかったように、その腕で鞘を掴み直す。


そして、再び居合の構え。


「…それ、生える、の?」


カタナの声が、わずかに揺れる。


殺は小さく笑った。


「もとより存在しないもの。いくらでも」


その言葉が落ちた瞬間、空気が一段だけ冷たくなる。


カタナがベルへと振り返る。


銀の瞳には、わずかな迷いが残っていた。


「…ごめんなさい。刀相手だから得意と思ったけど…これ相性最悪かも…」


ベルは短く視線を向ける。


「お前でも勝てないのか?」


即答は少し遅れた。


カタナは軽く首を振る。


「勝つのはぜんぜん問題ないんだけど…」


その言葉に、殺の目が細くなる。


空気が一段、冷える。


カタナは続けた。


「殺さず止めるのは無理かも」


その瞬間、戦場の意味だけが、静かに変質した。


カタナが、自分の額を軽く指でなぞる。


そして、首をかしげる。


「主ー、開けていい?」


ベルは一瞬だけ目を細める。


「いいけど…お前、いつも嫌がってるじゃん」


カタナは少しだけ眉を寄せる。


「そうなんだけど…今のままだと視えなくって」


「…視えないで、どうやって止めてんだ?」


「…えー、感覚?」


「…さすがだよ。視えたらどうにかできるのか?」


「視えたら止めるのは簡単じゃない?…ただあたしがかわいくなくなるから…主が嫌がるかなってー」


ベルは短く息を吐く。


「…任せる。好きにしろ」


その言葉に、カタナは満足そうに頷いた。


そして、ゆっくりと殺へ向き直る。


殺は静かに目を細める。


「随分と…余裕なんですね」


カタナは軽く笑った。


「まーね。これでも、姫『神』だからね!」


その言葉と同時に。


彼女の額に、細い裂け目のような線が走る。


まるで“閉じていた何か”が解錠されるように。


殺の視線がわずかに揺れる。


「…?」


次の瞬間――


額の裂け目が、静かに左右へ開いた。


その奥に現れたのは、第3の瞳。


銀。


あまりにも澄み切った銀色の瞳が、ただ一つ。


まっすぐに殺を見た。


その視線を受け、殺が刀を構え直す。

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