表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
第12章ー南大陸の強者ー
407/441

鬼と大刀ー

殺が大きく踏み出す。


砕けた屋根を蹴り、そのまま一気に跳ぶ。


空を裂くように上昇し、頂点で静止した一瞬。


大刀を大上段に構える。


紅く輝く刀身が、夜気を染める。


次の瞬間――落ちる。


重力をそのまま乗せた一撃。


躊躇も、加減もない。


振り下ろされた刃が、一直線に鬼へと迫る。


そして――


脳天を、捉えた。


だが――その瞬間。


鬼の首がわずかに傾く。


完全な直撃を外し、軌道をずらす。


振り下ろされた刃を、右手で受けに来た。


五本の爪。


その指すべてに、指輪が光る。


次の瞬間――


刃が、触れた。


抵抗はない。


金属を断つような手応えすら、ほとんど感じない。


五本の爪が、まとめて切り落とされた。


斬り落とされたはずの爪が――


次の瞬間には、すでに伸びていた。


元通りに。


いや、それ以上に鋭く、歪に。


そのまま、鬼の右手が叩きつけられる。


空気ごと押し潰す一撃。


殺は咄嗟に身を滑らせるようにかわす。


裾が大きく翻る。


その動きのまま、軸足を踏み替え――蹴る。


右足。


横薙ぎ。


鬼の頭部を捉え、打ち払う。


衝撃に、鬼の上体が大きく逸れる。


だが、止まらない。


崩れた体勢のまま、左腕が振り抜かれる。


死角からの一撃。


殺は一歩も退かない。


刀を滑り込ませる。


受ける。


鈍い衝突が、塔の上に響く。


押し返す力と、叩き込む力がぶつかり合う。


間はない。


呼吸もない。


攻防は、終わらない。


紅く輝く瞳と、鬼の赤い目が交差する。


互いに逸らさない。


圧の中で、それでも視線だけは静かに繋がっている。


「お前は…魔王殺し、なのか?」


掴まれたまま、低く問いかける。


だが――


鬼は、答えない。


ただ、見下ろしているだけだ。


殺を握る鬼の手に、さらに力がこもる。


「くっ…つっ」


骨と筋肉が軋む音が、内側から鈍く響く。


逃げ場はない。


圧が、全身を締め上げる。


次の瞬間、鬼の左手が重なる。


両側から、潰す。


「ああっ…」


音が、一段と重くなる。


その時――


背後から白い影が跳んだ。


白狛。


迷いなく、鬼の首筋へと喰らいつく。


「白狛…いけないっ!」


止める声。


だが、間に合わない。


鬼の肩と背から、鉄金の刃が生え出す。


突き出るように。


そのまま、白狛の身体を切り裂いた。


短い悲鳴。


白い体が弾かれ、落ちる。


「あっ…おのれっ!」


殺の瞳に、明確な怒りが宿る。


圧が変わる。


内側から、膨れ上がる。


次の瞬間――


軽い金属音が、連続して鳴った。


内側から。


鬼の十本の指が、同時に切り裂かれる。


裂ける。


弾ける。


拘束が、解ける。


殺の身体が抜け出す。


宙へと散った指が、バラバラに砕け、塵となって霧散する。


その中に、九つの指輪だけが残り、空中に浮かぶ。


だが――


次の瞬間。


新たに生え出した指に、それらが吸い寄せられるように収まる。


何事もなかったかのように。


再構築。


殺は着地と同時に距離を取る。


呼吸を一つ。


両手に持った刀を、真横に構える。


「おのれ…よくも白狛を…」


低く、押し殺した声。


刃に、力が込められる。


(スメラギ)流剣術ー991(KIKU-ICHIMONJI)」


低く響く声と同時に、大刀が真横へと振り抜かれる。


溜め込まれていた力が、一気に解き放たれる。


紅。


刃から放たれた斬撃が、一直線に空間を裂いた。


圧を伴い、音を置き去りにする速度。


視界を塗り潰すほどの紅が、鬼へと迫る。


鬼が咆哮を上げる。


両手を大きく開き、空へと掲げる。


その前方に、白い光が集まり始める。


粒子が渦を巻き、圧を伴って凝縮していく。


やがて、それは一枚の“壁”となった。


分厚く、重い光の障壁。


鬼の巨体を、完全に覆い隠す。


その直後――


紅の斬撃が、激突した。


轟音。


光と紅がぶつかり、空間が軋む。


斬撃と障壁が激突した余波が、遅れて爆ぜる。


圧が弾け、塔の頂を中心に風が荒れ狂う。


石片が舞い、空気がねじれる。


殺は袖で顔を庇う。


足を開き、腰を落とす。


踏み締める。


吹き荒れる風圧に、正面から耐える。


衣が激しくはためく。


それでも、一歩も退かない。


そして、余波の向こうから、両手を振り上げた鬼が飛び出してくる。


「この中を…動くのか…っ!?」


視界を裂くように現れた巨体に、即座に踏み込む。


間合いを詰め、突き。


一直線に伸びた刃が急所を狙う。


だが鬼はわずかに身を捻り、その一撃を外す。


そのまま距離を潰すように迫る。


振り上げられた両腕。


影が落ちる。


振り下ろされる。


「アカ!アオ!」


その声に応じるように、髪の内側から気配が弾けた。


二つ。


小さな鬼が、ぬるりと姿を現す。


赤と青。


それぞれが殺の両肩へと立つ。


同時に、口を開く。


その前方に、光が集まる。


文字。


意味を持った形が、空間に刻まれていく。


完成するよりも早く――


解き放たれた。


赤と青。


二つの力が奔流となり、衝撃となって前方へと炸裂する。


小さな鬼達の放った力が、巨大な鬼の両腕を押し返す。


圧がぶつかり合い、空間が軋む。


一瞬の拮抗。


その隙に、殺が静かに息を吐いた。


「ありがとう」


わずかに、微笑み。


剣を引く。


重心を落とし、下段へ。


構え直す。


空気が変わる。


圧が沈むように収束していく。


(スメラギ)流剣術ー3529(MIKAZUKI)」


その名が落ちた瞬間――


下段。


沈めた刃から、逆袈裟に一気に斬り上げる。


空気が裂ける。


紅の軌跡が、巨大な鬼の腕の間を割って走る。


そのまま止めない。


返す刃。


流れのままに、袈裟へと斬り落とす。


二段。


上下が入れ替わるような連撃。


一閃ではなく、連なる“月の軌道”のように刃が交差する。


斬撃が鬼の胸を、肩口から斜めに斬り裂く。


巨体が一瞬、確かに“割れた”。


しかし次の瞬間――


裂けた肉と骨が、逆再生のように収束していく。


切断面が埋まり、形が戻る。


「この再生力は…無限なのか…?」


殺はわずかに息を整える。


刃を引く。


今度は構えが変わる。


右手で刀を持ち直し、突きの体勢へ。


右手と右足を大きく後ろへ引き、左手を前に出す。


静止。


圧が一点に集まる。


(スメラギ)流剣術ー 388(SOHAYA)」


次の瞬間――


左手が、突き出される。


同時に、右手・右足が爆発的に解放される。


放たれるのは、片手による突き。


だがそれは一撃ではない。


十連。


右手の突きが、連続して空間を貫く。


十の軌道。


それぞれが微妙に角度を変え、広がり、交差しながら鬼へと殺到する。


そして――


その中に、ただ一本だけ。


最速の「一撃」が混じっている。


ほぼ同時に放たれる十発の突きが、鬼の上半身を正確に穿つ。


一点ではない。


広がる軌道すべてが、逃げ道を潰すように交差し、抉り、貫く。


鈍い破裂音。


鬼の身体が大きく吹き飛び、塔の上に衝撃が走る。


上半身は原形を失いかけたまま、空間に穴を開けられたように崩れている。


それでも――まだ“存在”は途切れない。


殺は息を一つ吐く。


刀を両手に持ち替える。


静かに。


確実に。


大上段へ。


(スメラギ)流剣術ー020(ONIMARU)」


空気が、沈む。


次の瞬間――


縦一文字。


一点の迷いもない切り落とし。


紅の軌跡が、真っ直ぐに落ちる。


鬼の身体を、左右に断つ。


断たれた鬼の身体が、空中で一瞬だけ“形”を保つ。


その直後――


紅の衝撃が遅れて到達した。


斬撃の余韻ではない。


意思を持ったかのような圧が、切断された上下をまとめて押し潰す。


轟音。


塔の頂が震え、空気が一度“潰れてから弾ける”。


断たれた肉体はさらに深く引き裂かれ、再生しようとする過程ごと叩き潰される。


赤い光が走り、裂け目を焼き切るように貫いた。


鬼の巨体は空中で揺らぎ、崩壊しかけたまま、その場に留まることすら許されない。


左右に分かれた鬼の身体が、潰れたまま地面へと落ちる。


石畳が砕け、重い衝撃が塔の上を揺らした。


その様子を見下ろしながら、殺が静かに呟く。


「これで…今度こそ」


だが――


倒れたはずの腕が、石畳を掴む。


指が食い込み、無理やり身体を持ち上げようとする。


軋むような音。


戦慄が走る。


殺は即座に後方へ跳び、距離を取る。


「まだ…立ち上がると」


声がわずかに揺れる。


左右に分かれたはずの鬼の身体。


その両方が、同時に動き出していた。


全身から煙のようなもやを噴き上げながら、ゆっくりと――しかし確実に、立ち上がる。


裂かれた肉が再び繋がる。


潰れた骨が形を取り戻す。


見る間に再生していくその異常な光景に、殺の目が鋭い輝きを放つ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ