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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
第12章ー南大陸の強者ー
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ミリィも憂鬱ー

「まったく……こんなことだろうと思って急いで来てみれば……やはりか」


マリーナの声は呆れを含みながらも、どこか安堵が混じっていた。


そのまま言葉は止まらない。


だが——


手錠をかけたままのベルに、マリーナはぐっと距離を詰める。


そのまま胸元に顔を埋めるようにして抱きついた。


「聞いているのか……まったく……無茶をするなと……私は……」


言葉は続いているが、声はどんどん小さくなっていく。


頬は耳まで赤く染まり、時折、思い出したように顔を左右に振っては、押し付けるように擦りつける。


説教のはずなのに、まるで別の感情が混ざっているようだった。


ベルはというと、特に抵抗もせず、ただ窓の外へ視線を向けている。


明らかに面倒そうな顔。


ミリィはその様子を、じっとりとした目で見つめていた。


「マリーナさん……早かったですね」


少し低い声で、淡々と告げる。


「転送陣を使った。この街までは来れなかったものの、山一つ向こうの都市までは行けたので、そこから馬を飛ばしてきた」


マリーナはベルに顔を埋めたまま、くぐもった声で答える。


ミリィが目を瞬かせた。


「……転送陣て……有事の際だけの特別措置では……?」


「魔王殺しに刺客が送り込まれたとあれば、有事ではないか」


即答だった。


ミリィはわずかに呆れたように息をつく。


「……そう言って、押し通したんですね」


マリーナはベルの胸元に顔を埋めたまま、大きく息を吸い込む。


そして、小さく——だがはっきりと頷いた。


ベルは窓の外を見たまま、気のない調子で言う。


「マリーナ……元気そうだな。1ヶ月ぶり、か?」


その言葉に、胸元に顔を埋めていたマリーナの動きがぴたりと止まる。


わずかに間を置いてから、顔を上げる。


「……こうして直接会うのは北大陸から戻った時以来だから……半年振りくらいだがな!」


やや強めの口調。


だが頬の赤みは引いておらず、視線もほんの少しだけ泳いでいる。


それでもすぐに咳払いを一つして、表情を引き締めた。


「ん……?半年ってことは……確かマリーナの誕生日が……」


その言葉に、マリーナの顔がぱっと輝く。


「覚えていてくれたのか?あ、明日だ」


「あー、明日かぁ」


ベルは軽く頷く。


「そ……そう、明日、なんだ……」


マリーナの声がわずかに弾む。


「なら、お祝いしないとなぁ」


その一言で、空気が止まった。


「い、いや……こんな時に誕生日デートなど……そんな……いいのか?」


言いながらも、期待を隠しきれていない声音。


視線が落ち着かず、わずかに身じろぐ。


だがベルは、特に気にした様子もなく続ける。


「いいだろ。どうせ動けないんだし」


その温度差に、ミリィが静かに目を細めていた。


ミリィは無言のまま一歩踏み込み、ベルとマリーナの間に割って入る。


そのままぐい、と二人の距離を引き剥がした。


「ちちくりあってるところ……大変申し訳ございませんが」


妙に丁寧な声音。


「おまえ……いつの間にそんな言葉を……」


ベルが呆れたように眉をひそめる。


一方で、離されたマリーナは一瞬だけ固まり、それからわずかに頬を染めたまま口を開く。


「……そんな、別にいちゃついてなど……そう見えたか?カップルみたいと思ったか?」


言いながら、ちらりとベルの方をうかがう。


その視線は、否定を求めているのか、それとも——。


ミリィは二人を睨むように見て、わざとらしく咳払いを一つ。


「とりあえず、今後の話をしたいの、で・す・がっ!」


語尾に力がこもる。


ベルは肩をすくめた。


「おいおい、なんでまた怒ってんだよ」


マリーナも少しだけ首を傾げる。


「珍しいな、何があった?」


その問いに、ミリィはぷいと顔を背けた。


頬を膨らませたまま、小さく言い放つ。


「知りません!それよりも早く」


完全に不機嫌だった。


「その姫神達に影響がなくとも……お前自身には、どうなんだ?」


静かな問いだった。


だが、その言葉にベルは一瞬だけ間を空ける。


ほんの一拍。


それだけで十分だった。


「大丈夫だ。心配すんな」


軽く返された言葉。


しかし次の瞬間、マリーナの肩を掴む手に力が入る。


ぎり、と布が鳴る。


「なんだ……何が起きている?」


声が低くなる。


見逃さなかった、という確信がそこにあった。


ベルは視線を逸らすでもなく、ただ静かにマリーナを見返す。


部屋の空気が、再び張り詰めていく。


ベルはほんのわずかに視線を落とす。


「……本当になんでもねぇんだって」


その曖昧な返しに、マリーナの表情が一変する。


次の瞬間、胸ぐらを強く掴まれ、ぐっと引き寄せられた。


「いい加減にしろ!」


怒声が部屋に響く。


その勢いに、ミリィが慌てて立ち上がる。


「マリーナさん——」


「何かあるなら言え!」


マリーナの顔が、すぐ目の前まで迫る。


「それとも……私には言えないと言うのか……?」


その問いに、ベルは一瞬だけ黙り——


「……マリーナには、言いたかねぇ」


その一言が、決定的だった。


マリーナの手が震える。


瞳が揺れ、力が抜けそうになるのを必死に堪えている。


「私が……そんなに信用できない……のか」


ぽつりと、落ちる声。


頬を、涙が静かに伝う。


「……それなりに……信頼し合えていると……思っていたのは……私だけ、なのか?」


その言葉は弱く、だが確かに刺さった。


ベルの表情が、初めて崩れる。


わずかに目を見開き、言葉を失う。


部屋の空気が、完全に変わっていた。


「ば、ばかやろうっ!……そういうことじゃねぇんだよ……」


ベルは焦ったように言い返す。


「ならば……教えてくれ……」


「いや……それは、ちょっと……」


言い淀むその様子に、マリーナの視線が揺れる。


「やはり……信用してもらえないんだ……絆なんて嘘か……」


その一言に、ベルは頭をがしがしとかいた。


「あーもうっ!わかったよっ!」


勢いのまま一歩踏み込み、マリーナの耳元へ顔を寄せる。


手で口元を隠し、声を落とす。


突然の距離に、マリーナの身体がびくりと震えた。


「あ……っ、息が……近いっ……」


かすかに触れる吐息に、思わず目を閉じる。


頬が一気に赤く染まり、こそばゆさに肩がわずかに揺れた。


ベルはさらに声を落とし、マリーナの耳元で囁く。


「……これはアダラ達の意見だから……俺は信用してねぇんだが……」


「あっ……息がっ……はぁっ……」


内容とは関係ないところで、マリーナは完全に意識を持っていかれていた。


肩がびくびくと揺れ、まともに話を聞けているのか怪しい。


ミリィはその様子を、半目でじっと見ている。


「このまま魔王核を取り込み続けると……遺伝子に問題起きたり、その前に不能になるんじゃないかと言い出してな……」


「ふ……ふむふむ……ふむっ!?」


理解が追いついた瞬間、マリーナの身体がびくんと跳ねた。


耳まで真っ赤に染まり、唇が小刻みに震え出す。


ベルは特に気にした様子もなく、続ける。


「まぁ……だから早めに子供作りたいって……言いたいだけなんだと思うんだけどよ」


その一言で、マリーナの思考が完全に停止した。


マリーナは真っ赤な顔のまま、ぐるぐると目を回しながらも、意を決したようにベルの耳元へ口を寄せる。


手で口元を隠し、小さく囁いた。


「つまり……アレか……?出来なくなる……というやつか?」


その言葉に、ベルもわずかに顔をしかめる。


再び耳元へ顔を寄せ、短く答える。


「……立たなくなるって……やつだ」


その瞬間、マリーナの肩がびくんと大きく震えた。


理解が追いついたのか、顔の赤みがさらに深くなる。


そのまま数秒、完全に思考が止まったように固まる。


少し離れた位置で、ミリィが無言のまま二人を見ていた。


マリーナはその場に、がくりと膝から崩れ落ちた。


両手を床につき、深く項垂れる。


肩が小さく震えていた。


その様子を見下ろしながら、ベルは苦笑して腕を組む。


「……だから、あんたには言いたくなかったんだよ」


事情を知らないミリィは、二人を交互に見て眉をひそめる。


「……私には……言えない話なんでしょうか?」


少しだけ、むっとした声。


ベルは肩をすくめる。


「ミリィには……無理だな」


床に崩れたままのマリーナも、小さく続ける。


「ミリィには……まだ早い」


その言葉と態度に、ミリィの頬がふくらんだ。


明らかに不満そうだった。


マリーナはふらつきながら立ち上がる。


まだ顔は真っ赤なまま、視線もどこか定まらない。


「今日はもう……帰って寝る……」


投げるように言い残し、そのまま部屋を出ていった。


ミリィも頬を膨らませたまま、無言で後に続く。


ドアが勢いよく閉まる音だけが残った。


部屋には、ベル一人。


静寂が落ちる。


ベルはその場で大きくため息をつくと、ゆっくりと両手を開いた。


指に嵌められた九つの指輪が、淡く光を帯びる。


その光を、しばらく無言で見つめる。


「言えねぇよなぁ……」


ぽつりと、誰に向けるでもなく呟いた。


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