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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
第10章ー西大陸・カダブランカ篇ー
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無自覚の気持ちー

ベルは少しだけ視線を外し、それからミリィへ戻した。


言葉を選ぶように、静かに問いかける。


「ミリィは、あいつのこと……どう思ってるの?」


ミリィは一瞬、言葉に詰まった。


「どうって……」


小さく呟いたあと、少しだけ間が空く。


考えるように、視線を落とす。


「めんどくさがりで、ぶっきらぼうで、女の人が好きで……お、おっぱいが好きで……空気の読めない……」


言いながら、だんだん声が小さくなっていく。


ベルは思わず苦笑した。


「う……うん、よく見てる、ね」


ミリィはこくりと頷く。


そのまま、少しだけ沈黙が落ちた。


けれど、そこで終わらなかった。


ミリィの指が、布団の上でぎゅっと握られる。


「でも……」


その一言に、ベルの表情がわずかに変わる。


ミリィの頬が、ゆっくりと赤く染まっていく。


「……本当は……とても優しい……」


小さな声だった。


それでも、はっきりとした確信がこもっていた。


ベルは少しだけ目を細める。


何かを言おうとして、やめる。


そして、代わりに短く息を吐いた。


「……そっか」


それ以上は言わなかった。


午後の光が、変わらず静かに二人を照らしている。


けれど、その空気は少しだけ違っていた。


ミリィは少しだけ迷うように視線を揺らしたあと、小さく口を開いた。


「私、ずっと疑問なんですけど……」


ベルは穏やかに首を傾げる。


「なぁに?」


ミリィはほんの少しだけ身を乗り出す。


「夜のベルさんって、どうしてあんなにモテるんですか?」


ベルは一瞬、目をぱちりと瞬かせたあと、苦笑した。


「すごい直球でくるね」


ミリィは真剣な顔のまま、続ける。


「だって、ちょっとおかしいくらい、みんな好きになってて……」


ベルは軽く視線を上に向け、昔を思い出すように息をついた。


「あいつ、昔っからそうなんだよね……気がつけばモテてる」


「そ、そうなんですね」


ミリィは少し驚いたように目を丸くする。


ベルは肩をすくめるように続けた。


「でも、ひとつ言えるのは、最初から好かれてることはあんまりない、かなぁ?」


ミリィはきょとんとする。


「え? そうなんですか?」


ベルは軽く頷いた。


「あのマリーナさんだって、最初はぜんぜんだったでしょ?」


ミリィは少し考えてから、小さく頷く。


「……言われてみれば……」


ベルは少しだけ笑った。


「ミリィだって、そうじゃない?」


その言葉に、ミリィははっとして、視線を落とす。


少しだけ考えてから、ゆっくりと口を開く。


「……たしかにそうかもです」


ベルは静かに頷いた。


「あいつとしばらく一緒にいると、なんかみんな、そうなっちゃうんだよね。例外もあるけど」


午後の光が、変わらず部屋に差し込んでいる。


ミリィはその光の中で、少しだけ遠くを見るような目をした。


まるで、自分の中の変化を確かめるように。


ミリィは少し首を傾げる。


「……例外?」


ベルは軽く指を折りながら数えるように言う。


「私やミーファ、あとアンジュも?」


「あ……あぁー」


ミリィは納得したように何度も頷いた。


その様子を見て、ベルがふっと口元を緩める。


どこか意地の悪い笑みだった。


「それで? いつからなの?」


ミリィはきょとんとした顔を向ける。


「……なにがですか?」


ベルは当然のように続ける。


「ミリィはいつから、あいつのことが好きになったの?」


ミリィは一瞬だけ固まり、それから本気で不思議そうな顔をした。


「好きじゃないですよ?」


ベルは軽く肩をすくめる。


「隠さなくっていいじゃない」


しかしミリィは首を傾げたまま、さらに困惑を深める。


「……え? ほんとに好きじゃない、ですよ?」


ベルは一度だけ瞬きをしたあと、少しだけ間を置く。


「……でも、キスしたんでしょ?」


その言葉に、ミリィの顔が一気に赤くなる。


「そ、それは……ちょっとムカっときたので……」


ベルは逃がさないように、すぐに言葉を重ねた。


「ヤキモチ妬いて、ムカっと来たんでしょ?」


ミリィは一瞬、言葉を失う。


そして、少しだけ間を置いてから、小さく首を振った。


「え?……違いますよ?」


その声は、わずかに揺れていた。


ベルはそれを見逃さず、じっとミリィを見つめる。


午後の光の中、静かな攻防のような空気が流れていた。


誤魔化しているようには見えない。


そもそも、そんな器用なことができる子ではない。


ベルは、わずかに息を呑んだ。


まさか――ここまで来て、自覚がない?


背筋に、ぞくりとした感覚が走る。


これは。


あいつも、ミリィも。


似たもの同士、なのかもしれない。


ベルはゆっくりと目の前へ視線を戻す。


そこには、本気で不思議そうな顔をしたミリィがいる。


計算も、駆け引きもない。


ただ純粋に、分かっていないという顔。


ベルはその様子を、しばらく黙って眺めていた。


まぁ、でも子供だし、そんなものなのかもしれない。


ベルはふと、自分が十歳の頃を思い出す。


――いや。


そうでもなかった気がする。


好きな男の子は、ちゃんと好きだった、ような。


考え出すと、どうにも落ち着かない。


あれこれと巡り始める思考を振り払うように、ベルは小さく息をついた。


とりあえず、考えないことにする。


そう決めたところで、不意にミリィの声が落ちてきた。


「……でもベルさんって、好きな人いるんでしょうか?」


ベルは思わず顔を引きつらせた。


「……うわぁ、踏み込んできたぁ」


「……え?」


きょとんとしたミリィに、ベルは慌てて手を振る。


「ううん、なんでもないなんでもない」


軽く誤魔化しながら、視線を少し上に向ける。


それから、ぽつりと続けた。


「あいつの好きな人かー……そう言えば、聞いたことないかも。思い当たるとすればー……」


その瞬間。


ミリィが勢いよく前のめりになる。


「……い、いたんですか?」


思わぬ食いつきに、ベルは少しだけ目を丸くした。


それでも、ゆっくりと答える。


「いるというか……いたというか……」


一度、視線を逸らす。


ほんのわずかに、遠くを見るように。


「シスター・アリスよ」


ミリィは小さく息を呑む。


「……あっ」


ベルは静かに続けた。


「恋愛とかとは違うのかもしれないけど……でも、あいつが唯一はっきり“好き”って態度見せた相手は、シスターだけだったかなぁ」


遠くを見るような目のまま、言葉が落ちる。


「シスター・アリスには、すごいヤキモチ妬いてたもん」


ミリィは少し驚いたように目を瞬かせた。


「そう、なんですか?」


ベルは小さく頷き、どこか懐かしむように視線を遠くへ向ける。


「うん、いつだったか……シスターアリスがミーファと一緒にお風呂入ってる時、それを聞きつけたあいつが風呂に乱入したらしくて……」


言葉の端に、わずかな呆れが混じる。


それでもどこか、楽しそうでもあった。


「あの時は大変だったなー……私も目が覚めたら雪山に首まで埋められてて……」


さらりと言いながら、ベルは小さく肩をすくめる。


「……走馬灯見ちゃったもん」


遠い目のまま、ぽつりと零す。


ミリィはしばらく固まったまま、その言葉を受け止めきれずにいた。


「……そ、そうなんですね」


かろうじてそれだけ返し、小さく頷く。


理解が追いついていない様子だった。


ベルはそんなミリィを横目に見て、ふっと笑う。


ミリィはまだ少し困惑したまま、そっと口を開いた。


「それって……ヤキモチなんですか?」


ベルは肩をすくめ、あっさりと答える。


「そうだと思うけど?」


ミリィは少しだけ考えるように視線を落とす。


それから、遠慮がちに続けた。


「単に……見たかったとか、じゃなくて?」


ベルは一瞬だけ言葉に詰まる。


そして、少しだけ目を逸らした。


「それは……あるかも」


あっさりと方向転換するような答えだった。


ミリィはその返答に、どこか納得したように小さく頷く。


「……ですよね?」


ベルは曖昧に笑う。


どこまでが本気で、どこからが誤魔化しか、自分でもよく分かっていないような顔だった。





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