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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
第7章ー姫神奪還作戦ー
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姫神召喚ー

ビビVSターニャ


ビビの右足が、炎を纏いながらターニャの胸元めがけて振り下ろされる。


「っ……!」


ターニャは反射的にブレードで防ごうとするも、ビビのステップと炎の勢いに押され、わずかに弾かれる。衝撃が体中に伝わり、石畳の砂利が飛び散った。


「はっ……!」


立て直そうと膝をつくターニャ。だが、胸元に響いた熱と衝撃に呼吸が乱れ、顔には焦燥の色が浮かぶ。


ビビは炎を揺らし、軽やかにステップを踏みながら再び距離を詰める。熱を帯びた足が、地面に着くたびに光の軌跡を描き、周囲に跳ねる火花が夜の港を赤く染める。


「よし、次こそ決めるよ!」


ビビは笑みを浮かべ、全身に炎を集中させる。足先からつま先まで、炎が舞う軌道を描き、ターニャの防御を切り裂くかのように迫った。


ターニャは膝をついたまま、精一杯ブレードを振り上げる。だが、先ほどの衝撃で体勢は不安定で、炎の奔流を前に押し戻される。


「くっ……!」


全身に力を込め、剛力で耐えようとするも、ビビの炎と躍動が織りなす攻撃のリズムに、次第に防戦一方となる。


ビビの瞳は輝き、笑顔は変わらない。まるで遊ぶように、しかし確実に、ターニャの体を追い詰めていった。


ターニャが左手につけた指輪ごと拳を握りしめ、低く呟く。


「姫神召喚!」


その言葉と同時に、ターニャの目の前の空間に力が渦巻き、空気が震え始める。熱と圧が地面の石畳をわずかに揺らし、港の夜風が吹き荒れる。


ビビはその様子を見上げ、思わず頬に汗を伝わせる。


「この感じ〜知ってるかも〜やば〜」


ターニャの体力は限界に近く、呼吸が荒くなる。意識が途切れそうになる中でも、心の中で強く自分を奮い立たせた。


(駄目……ここで意識を失うわけにはいかない。私たちは……負けられない!)


目の奥に、揺るぎない覚悟が宿る。


やがて、ターニャの目の前に渦巻く力の圧が一層高まり、その形が次第に人の姿を帯びる。


そして闇夜に光が差し込むように――静かに、しかし圧倒的な存在感で、姫神カレンが姿を現した。


ターニャの背後に立つその姿は、まさに力の化身と呼ぶにふさわしく、周囲の空気すら張り詰めるような威圧感を放っていた。


ビビは一瞬、息を飲む。炎を纏い踊るような姿でターニャに挑みかかろうとしていたが、今はその圧倒的な力を前に、思わず足を止めた。


姫神カレンの眼差しが、ターニャとビビ――二人を見据える。戦いは、新たな段階へと突入しようとしていた。


カレンの姿を見たビビは眉をひそめる。


「それが……姫神?」


かつて一度だけ戦った記憶の中の姫神は、ユキメであった。豪奢に煌びやかで、表情豊かによく語り、圧倒的な力と存在感を放つ存在。何より美しく、ベルが呼び出したカレンも同様だった。金色の髪と瞳、額から伸びた七色の角。豪奢な衣装に身を包み、全身からあふれる存在感と重厚な圧を放つ。その態度は余裕に満ち、まさに神と呼ぶに相応しい格を感じさせた。


だが、今、目の前に現れたカレンは違った。額の角こそ同じだが、傷んだ黒髪に薄汚れた着物、手足も綺麗とは言い難い。全身から高い力の圧は感じるが、それは歪で禍々しい。何よりも異質だったのは顔立ちだ。同じはずの顔は表情を持たず、瞳は閉じられたまま、感情の欠片も読み取れない――まるで無であった。


ビビは思わず声を上げる。

「そんなの〜……姫神っぽくないよ〜」


姫神を顕現させたターニャは、その場に前のめりに倒れ込む。


だが、かろうじて意識は保たれていた。力なく左手を上げ――いや、浮かすだけで限界だった。


「いけ……カレン」


ターニャの声に呼ばれ、カレンがゆっくりと動き出す。


その動きはカクカクと歪で、どこか不自然なほどに機械的だった。両手を獣のように広げ、爪を立てて威嚇する。口を大きく開き、犬歯のような牙を覗かせ、涎を垂らす。


その立ち姿はまさに獣そのもので、低く唸る声が周囲に響き渡った。


ビビはいつもの軽やかな表情を消し、鎮痛な顔を浮かべた。


「すごいね……さすがに強そう……でも、ちっとも怖くない」


言い終わるよりも早く、ビビは両手からワイヤーを伸ばし、カレンに向けて放つ。


上半身をワイヤーに縛られ、身動きの取れないカレンは、必死に拘束を解こうともがいた。

そのたびに、ビビの身体が強く引き寄せられる。腕や肩に伝わる反動が容赦なく、胸の奥で力がうねる。


ビビは額に汗をにじませ、紋様の力を全身に輝かせながら必死に踏ん張る。

カレンのひとつひとつの動き、ひと握りの力が、ターニャの体力と意識を少しずつ削っていく。

だが、ビビは目を逸らさず、彼女の瞳を見据え続けた。


「名前も知らない姫神さん……そろそろ、ベルくんのところへ帰りたいんじゃない?」


その声に、カレンの暴れる手足が一瞬止まる。力が抜け、体がぐらりと傾いた。

閉じられた瞳の奥から血の涙がこぼれ落ちるのを、ビビは見逃さなかった。

胸が高鳴る。微かな震えに、ビビの唇が自然と微笑む。


「じゃあ……今すぐ連れて帰るから。ちょっとだけ……我慢してね」


言葉を吐き出すと同時に、ビビは胸元に魔力を集中させる。

かつて英雄核――魔王核――があった場所、今は擬似英雄核〈魔力回路〉が埋まったその胸から、青い光が皮膚の下を走り抜ける。

全身に刻まれた紋様が瞬き、青い輝きが流れるたび、身体が力に満ちていく。


ビビは深く息を吸い込み、右足を大きく後ろに引いた。

掌に宿る魔力と、胸の奥で弾けそうな青い光が呼応する。


「それじゃ――いくよ!はーやく帰って、こーいっ!」


叫ぶ声と同時に、ビビは地面を蹴る。

蹴り出された右足は、音を伴わずに、しかし確実に――空気を切り裂き、カレンに向かって飛び出した。


青い光が地面と空気を震わせ、港の夜を切り裂く。


次の瞬間――


ビビの右足が、カレンの胸元へと叩き込まれた。


衝突音は、遅れてやってくる。

先に走ったのは衝撃だった。


空気が歪み、圧縮され、爆ぜる。

青い光が弾け、衝撃波となって周囲へと広がり、石畳を砕きながら一直線に駆け抜けた。


カレンの身体が、その場に縫い付けられたかのように止まる。


――一瞬。


次の刹那、


その身体が、弾き飛ばされた。


ワイヤーが張り裂けるほどに軋み、ビビの腕に激しい反動が走る。それでもビビは歯を食いしばり、最後まで蹴り抜いた。


「――帰りたいなら、素直に倒れろーっ!!」


叫びとともに、青い光が爆発する。


カレンの身体が後方へ吹き飛び、地面を削り、石畳を砕きながら滑る。

その進路上の空気が焼け、遅れて轟音が港全体に響き渡った。


やがて、衝撃が収まる。


砕けた石畳の先で、カレンの身体が止まっていた。


その身体から、ゆっくりと力が抜けていく。


閉じられた瞳のまま、血の涙だけが静かに頬を伝い落ちる。


やがて――


その姿が、淡く崩れ始めた。


砂のように、光の粒となって、空気に溶けていく。


「…………」


ビビはその様子を、ただじっと見つめていた。


握りしめていたワイヤーの力を、ゆっくりと緩める。


青い光もまた、次第に収まり、紋様の輝きが消えていく。


「……おつかれさま〜」


ぽつりと、優しく呟く。


最後の光が消え、そこにはもう、カレンの姿はなかった。


同時に――


ターニャの身体から、糸が切れたように力が抜ける。


石畳に崩れ落ち、そのまま動かなくなる。


荒れ果てた港に、静寂が戻る。


砕けた石、焦げた空気、残る熱。


その中心で、ビビはゆっくりと息を吐いた。


「……これで、おしまいだね〜」


そう言って、ほんの少しだけ、寂しそうに笑った。


ビビの全身から、すうっと魔力が抜けていく。


膝がわずかに揺れ、視界がふっと霞んだ。


「あっぶないあぶない〜……まだ寝ちゃダメだよね〜」


ふらりと身体を揺らしながら、それでも足を止めず、ビビはターニャのもとへと歩み寄る。


倒れ伏したまま動かないその隣に、ぺたりと胡座をかいて座り込んだ。


一息つく間もなく、そっと左手へと手を伸ばす。


指先に触れた冷たい感触。

迷いなく、静かに――指輪を抜き取る。


「えっへっへ……おかえりなさい〜」


にんまりと、満足そうに笑う。


そのまま、力が抜けたように後ろへと倒れ込んだ。


石畳の冷たさが背中に伝わる。

夜空がゆっくりと視界に広がり、どこか遠くで波の音が聞こえる。


「は〜……つっかれた〜……それじゃ……」


小さく息を吐き、ビビはそっと瞳を閉じた。


「おやすみなさい〜」


ビビVSターニャ決着

姫神カレン奪還







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