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RUN&GUN ― 二人で一人の逃走譚 ―  作者: F94
第7章ー姫神奪還作戦ー
198/333

VSブリジットー

ベルは歯を食いしばったまま、ゆっくりと息を吐く。


肩の傷から血が流れ、指先にまで熱が伝わる。


だが、その視線は一瞬たりとも逸れない。


「……好き勝手、使いやがって」


低く、押し殺した声。


ブリジットの片目が細められる。


「ほう……まだ何かあると言うなら見せてみろ」


キリキリ、と義肢が軋む。


次の瞬間、再び十本の指先から光線が放たれた。


一直線に、逃げ場を潰すような軌道。


だが――


ベルの姿が、消えた。


「なっ――」


ブリジットの視界から、完全に。


一拍遅れて、背後で空気が裂ける音が響く。


「遅ぇよ」


振り返るよりも早く、ベルの拳が叩き込まれる。


鈍い衝撃音。


ブリジットの身体がわずかに傾ぐ。


だが――止まらない。


機械の脚が甲板を抉り、無理やり体勢を固定する。


「いい……実にいいぞ……!」


口元が歪む。


そのまま至近距離で、膝からミサイルが射出された。


爆炎が弾ける。


ベルは咄嗟に後方へ跳び、衝撃を避けるが、爆風が身体を煽る。


着地と同時に、甲板を蹴る。


「チッ……!」


再び距離を詰める。


だが今度は――


足元から、黒い影が一斉に絡みついた。


ミカゲの力。


足を取られ、動きが一瞬止まる。


「捕まえたぞ」


その瞬間、ブリジットの右目が光る。


――魔力光線。


至近距離。


回避は不可能。


「――ッ!」


ベルは咄嗟に腕を交差し、正面から受ける。


閃光が弾ける。


衝撃が腕を焼き、身体ごと後方へ吹き飛ばされる。


甲板を転がり、止まる。


焦げた匂い。


白煙が、ゆらりと立ち上る。


「はは……どうした?」


ブリジットがゆっくりと歩み寄る。


キリ、キリ、と不快な駆動音を鳴らしながら。


「取り返しに来たのではなかったのか?」


その声は愉悦に満ちていた。


ベルは地面に手をつき、ゆっくりと身体を起こす。


腕は焼け、震えている。


だが――


その目は、死んでいなかった。


「……ああ、そうだよ」


ふらりと立ち上がる。


「全部、取り返す」


血の滲む口元が、わずかに歪む。


「テメェも、まとめてぶっ飛ばしてな」


その瞬間。


空気が変わった。


ブリジットの笑みが、さらに深く歪む。


「いい……いいぞ、その目……!」


両腕がゆっくりと広がる。


背の刃が蠢き、影が揺れる。


「壊しがいがある……!」


甲板の上、次の一撃が放たれる直前。


ベルは歯を食いしばったまま、ゆっくりと息を吐く。


焼けた腕が震える。

だが、その目は一切逸れない。


「……全部、取り返す」


低く、吐き捨てるように。


ブリジットが愉悦に歪んだ笑みを浮かべる。


「ほう? その状態でか?」


キリキリ、と義肢が鳴る。


「いい……実にいい……壊しがいがある」


次の瞬間、足元から黒い影が再び伸びる。


だが――


ベルは踏み込んだ。


「ッ!」


影が絡みつく直前、甲板を強く蹴り、そのまま低く滑り込む。


常識外れの加速。


人間の反応速度を超えた踏み込み。


「なっ――」


ブリジットの反応が、わずかに遅れる。


その懐に、ベルが入り込む。


「遅ぇんだよ」


振り抜かれた拳が、ブリジットの腹部へ叩き込まれる。


鈍い衝撃。


だが、硬い。


金属の感触。


ブリジットが鋼鉄の腕でガードしていた。


「くっ……!」


衝撃は通るが、致命には至らない。


直後、ブリジットの膝が跳ね上がる。


回避が間に合わない。


ベルは咄嗟に身体を捻り、直撃だけは避けるが、脇腹をかすめる。


衝撃で身体が浮く。


そのまま――


「逃がすか!」


ワイヤーが射出される。


ベルの腕に絡みつき、強引に引き寄せる。


「チッ!」


引き戻される勢いを利用し、逆に踏み込む。


引かれるなら――前に出る。


そのまま回転。


絡みついたワイヤーを支点に、身体を捻りながら――


蹴りを叩き込む。


「らぁッ!!」


今度は胸を狙うが、肩で受けるブリジット。


金属と肉の混ざる鈍い音が響く。


ブリジットの頭が、わずかに揺れる。


一瞬の静止。


そして――


「――いいなァ、それ!」


恍惚とした声。


まるで効いていないかのように、笑っていた。


「その程度で届くと思っているのか?」


至近距離。


逃げ場はない。


右目が、光る。


「終わりだ」


ブリジットが、ゆっくりと口元を歪める。


「姫神の力もないと言うのに……やるではないか」


ベルは肩で息をしながら、口の端をわずかに上げた。


「お褒めに預かり光栄だぜ」


一瞬の静寂。


次の瞬間――


ブリジットの全身が、軋んだ。


キリ、キリ、キリ、と耳障りな駆動音が重なり、その身体の各所から鋼がせり上がる。


腕、肩、背、脚。


あらゆる箇所から、黒く歪んだ刃が生え出す。


それはまるで鎌。


禍々しく、ねじれ、意志を持つかのように脈動する刃。


甲板の上の空気が、一気に張り詰めた。


「しかし――」


ブリジットは自らの腕を軽く持ち上げ、その刃を眺めるようにして言葉を続ける。


「この姫神とは、なんだ?」


その声には、純粋な疑問と、歪んだ歓喜が混ざっていた。


「既存のあらゆる能力、魔術、現象とも異なる。そもそも魔力を一切使わず……純然たる体力のみで成立している」


刃が、ゆらりと揺れる。


「それでいて、この異常な力と多様性。前例がない」


ベルはその姿を真っ直ぐに見据えたまま、吐き捨てるように言う。


「そりゃそうだろうよ」


一歩、踏み出す。


「姫神は――俺が、俺と姫神たちのために、姫神自身で考えた結果なんだからな」


風が吹く。


血の匂いと、焦げた木の匂いが混ざる。


「だから魔力を持たない俺に合わせられてんだ」


ブリジットの片目が、細くなる。


沈黙のあと――


ゆっくりと、笑った。


「ほぅ……益々興味深い」


その声音は、明確な愉悦を帯びていた。


「やはり特筆すべきは姫神そのものではなく――」


刃が、一斉にわずかに持ち上がる。


「貴様自身ということだな」


キリキリ、と駆動音が一段高く鳴る。


次の瞬間、


ブリジットの全身の刃が、獲物を狩る獣のように、ベルへと向けられた。


空気が裂ける。


――来る。


ベルは低く構えた。


姫神は、ない。


だが――


それでも、前に出るしかない。


ベルは踏み込む。


だが――届かない。


足元から伸びる影。

ミカゲの黒が、生き物のようにうねり、絡みつこうと牙を剥く。


それを跳び越えた瞬間、今度は正面から刃。


ブリジットの全身から生えた黒い鎌が、間合いを無視して薙ぎ払われる。


「ッ!」


身を捻り、紙一重でかわす。


だが着地の瞬間、再び影が足を狙う。


踏み込めば捕まる。


止まれば斬られる。


離れれば――


「逃がすか」


乾いた声とともに、空を裂く音。


射出された手首。


ワイヤーで繋がったまま飛来した両手の指先が、ベルの背後から光を放つ。


黒い光線。


「チッ!」


咄嗟に転がり、回避。


直後、甲板が抉れ、焼け焦げる。


止まれない。


考える暇もない。


ただ――避ける。


踏み込み、跳び、捻り、転がる。


全方位から迫る攻撃を、ただひたすらに躱し続ける。


呼吸が荒くなる。


視界の端が揺れる。


それでも、止まれば終わる。


「どうした? 先程の威勢は」


ブリジットの声が、楽しげに響く。


その場からほとんど動かず、ただ獲物を弄ぶように攻撃を繰り出し続けている。


「近づけぬか?」


影が迫る。


刃が薙ぐ。


光が貫く。


ベルは歯を食いしばりながら、それでも前へ出ようとする。


だが――届かない。


一歩詰めれば二手で潰される。


三手先には必ず死角が塞がれる。


完全に、制圧されている。


「くそっ……!」


反撃の機会を探る。


視線を走らせる。


呼吸を読む。


タイミングを測る。


だが――


手段が、ない。


決定打がない。


届いても、通らない。


このままでは、削られて終わる。


「どうした? 考えているのか?」


ブリジットが、くつくつと喉を鳴らす。


「いいぞ……その顔……追い詰められた顔は実にいい」


キリキリ、と義肢が鳴る。


「安心しろ。すぐに終わらせはしない」


影が再び伸びる。


刃が唸る。


光が走る。


逃げ場は、ない。


それでも――


ベルは、止まらなかった。


ただひたすらに、避け続ける。


その中で、ほんの僅かな“歪み”を探しながら。


まだ、終わっていない。


ベルが、踏み込む。


これまでと同じ――いや、同じに見える速度。


ブリジットの口元が歪む。


「愚かだ」


足元から影が伸びる。

刃が正面を薙ぎ払う。


逃げ場は、ない。


――だが。


ベルは止まらない。


一歩目。


あえて影に足をかける。


絡みつく寸前、わずかに踏み抜き――滑らせる。


「なに――」


ブリジットの反応が、わずかに遅れる。


二歩目。


正面の刃へ、あえて身体を入れる。


回避ではない。


“擦らせる”。


肩口を浅く裂かせ、刃の軌道を読む。


三歩目。


その内側へ。


「チッ……!」


ブリジットの背の刃が、反応する。


だが遅い。


――そこが、穴だ。


「そこだッ!」


ベルの視線が、ブリジットの“中心”を捉える。


攻撃が集中するほど、わずかに薄くなる一点。


制御の隙。


人間である以上、完全な同時制御はできない。


その、ほんの刹那。


ベルは、すべてを捨てて踏み込んだ。


影が足を絡め取る。


刃が脇腹を裂く。


光が、背を掠める。


それでも――止まらない。


「らァッ!!」


拳が、叩き込まれる。


狙いは一点。


心臓ではない。


頭でもない。


――左腕。


指輪がはめられた、その付け根。


「ッ――!?」


衝撃。


金属が軋む。


制御が、一瞬だけ乱れる。


その瞬間。


ベルは掴んだ。


ワイヤーでも、刃でもない。


――“指輪のある腕”を。


「離さねぇ……!」


血に濡れた手で、強引に引き寄せる。


「お前との遊びも……ここまでだッ!!」


全体重を乗せた、もう一撃。


至近距離。


逃げ場なし。


ブリジットの身体が、初めて大きく揺れた。


「離さねぇ……!」


ベルの手が、指輪のはめられた腕を掴む。


だが――引かない。


引こうともしない。


ただ、その位置を“固定する”。


「……ほぅ?」


ブリジットの片目が細まる。


「外せぬと知っていて、掴むか」


その声に、わずかな興味が混じる。


ベルは答えない。


ただ――力を込める。


「ッ……!」


掴んだ腕を、無理やり“自分の間合い”に引きずり込む。


逃がさない。


離さない。


奪えないなら――


「使わせねぇ」


低く、吐き捨てる。


その瞬間。


ブリジットの指先が、わずかに動こうとして――止まる。


角度が、足りない。


射線が、通らない。


「なるほど……」


口元が歪む。


「面白い」


だが次の瞬間。


――キリキリキリキリッ!!


全身の駆動音が跳ね上がる。


「だが――甘いな」


ブリジットの背から、刃が爆発的に展開される。


至近距離。


逃げ場はない。


ベルの身体に、何本もの刃が突き立つ――寸前。


「ッ!!」


自ら身体を捻り、急所だけを外す。


血が飛ぶ。


それでも――離さない。


「離せ」


低い声。


「断る」


即答。


一瞬の静止。


そして――


ブリジットの顔が、歪んだ。


「いいなァ……その顔……!」


歓喜。


恍惚。


「ならば――この距離で、耐えてみせろ」


右目が、赤く輝く。


逃げ場ゼロの距離。


腕を掴んだままでは、回避不能。


それでもベルは――


離さない。


「来いよ」


挑発。


真正面から。


「終わりだ」


閃光が、炸裂する。


ゼロ距離。


逃げ場なし。


放たれる、至近距離の光。


だが――


その刹那。


ベルは、頭だけを捻った。


ほんの数センチ。


それだけで、死線を外す。


閃光が頬を掠め、後方へと抜けた。


熱が皮膚を焼き、血が弾ける。


「ッ……!」


そのまま腕を離し、反動を利用して後方へ跳ぶ。


爆風が甲板を叩き、木材が砕け散る。


ベルの身体が空中で一度回転し、荒く着地する。


足が滑る。


それでも、踏み止まる。


数歩、よろけながら距離を取る。


やがて――止まる。


静寂。


夜風が吹き抜ける。


その中で、ベルの全身から血が滴り落ちていた。


肩、脇腹、腕、脚。


無数の裂傷と焼け焦げ。


呼吸は荒く、胸が上下するたびに痛みが走る。


それでも――


ベルは、ゆっくりと構えを取った。


拳を握る。


視線を上げる。


その瞳は、まだ死んでいない。


ブリジットが、その姿を見て――笑う。


「いい……いいぞ……!」


キリキリ、と義肢が鳴る。


「その状態で、まだ立つか」


愉悦に満ちた声。


「やはり貴様は、壊しがいがある……!」


ベルは答えない。


ただ、血に濡れたまま、一歩だけ前に出る。


わずかに重心を落とす。


次の一撃に備えるように。


港の夜。


互いに満身創痍のまま――


それでもなお、二人は対峙する。








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