女の意地ー
マリーナVSアイリーン
マリーナは雷を全身に巡らせ、足に力を込める。
重さに押し潰されそうになる身体を、必死に引き上げる。
膝が震む。それでも視線は揺らがない。
アイリーンの機関銃が火を吹く。
弾丸が空気を裂き、甲板を叩く音が響く。
ナイフが低く振り下ろされ、鋭い軌跡を描く。
「っ……!」
マリーナは両手でトンファーを握り、火花を散らしながら弾と刃を受け止める。
だが押し返すのは容易ではない。
重量波の圧力が全身を包み込み、まるで自分の身体が鉛の塊になったかのようだ。
「……まだ、動ける!」
マリーナの体が雷で光る。
一点に集中することで、一瞬だけ重量の重圧を跳ね返す。
その隙に素早く横へ滑り、距離を取り、次の攻撃の準備を整える。
しかしアイリーンは静かに踏み込む。
足元の甲板が沈み、重さが波のように押し寄せる。
反応を誤れば、たちまち押し潰される。
「無駄……逃がさない」
アイリーンの無言の声が、圧力と一緒に身体を押し潰す。
マリーナは踏みとどまり、雷をさらに高める。
振動と圧力、衝撃が同時に押し寄せる。
「……これで終わるか、私が!」
マリーナは膝を折り、全身を低く沈める。
雷を集中させたまま、重力に逆らい、突き上げるように加速。
重量波を押し返す一瞬の隙間に飛び込み、アイリーンの攻撃の最中に距離を詰める。
アイリーンの目が鋭く光る。
機関銃の銃口が向けられる。ナイフが低く振り下ろされる。
その両方が、マリーナを狙う。
だが、マリーナの目には冷静さが戻る。
「来い……!」
雷と重圧、機関銃と刃――全てを一点に集中させ、マリーナはその間をくぐり抜ける。
雷が身体を包み、足が氷を踏むように甲板を捉える感覚。
まるで踊るように、全身で攻撃を受け流しながら、アイリーンへ向けて突き進む。
マリーナは腰の拳銃を抜き、低く息を吐く。
「――ここで、決める」
次の瞬間、雷が爆ぜた。
一人だったはずのマリーナの姿が、ぶれる。
残像ではない。
分かれる。
一人、二人、三人――
石畳の上に、同じ姿が並ぶ。
十。
すべてが実体。すべてが同時に動く。
空気が震える。
魔力が一気に膨れ上がる。
「……いくぞ」
十人のマリーナが、同時に引き金に指をかける。
詠唱は、すでに終わっている。
地が唸る。
水が集まる。
火が膨張する。
風が渦を巻く。
雷が空気を裂く。
五属性。
それぞれが圧縮され、弾丸として収束する。
次の瞬間。
――解放。
轟音。
十方向から放たれた魔道弾が、一直線にアイリーンへと収束する。
地の弾が石畳を砕きながら突き進み、
水の弾が奔流となって巻き込み、
火の弾が爆ぜ、
風の弾が切り裂き、
雷の弾が遅れてすべてを貫く。
光が重なる。
爆発が連鎖する。
倉庫街の壁が軋み、木箱が吹き飛び、鉄材が跳ね上がる。
視界が白に塗り潰される。
それでも。
マリーナたちは止まらない。
撃つ。撃つ。撃ち続ける。
魔道弾の嵐が、一点に叩き込まれる。
逃げ場はない。
回避も、防御も――許さない。
「これで……落ちろ!」
雷が最後に爆ぜ、すべてを飲み込んだ。
「私は……私たちは……負けるわけにいかないのよ!」
アイリーンは拾い上げた両手首を力強くつけ直し、右手に着いた姫神の指輪にキスをする。
「ドラゴンの力を!」
その瞬間、身体中に力が漲る。瞳が金色に輝き、瞳孔は縦に変わった。額から二本の竜の角がゆっくりと生え、さらに伸びる。制服の上着を裂いて、背中からは巨大な翼が生え広がり、鱗の光沢が月光を反射する。制服のズボンも張り裂け、その下からは鱗に覆われた両脚が、獣じみた力強さを放っている。
口を大きく開くと、喉の奥から轟音にも似た力の波動が漏れ出す。
「竜の咆哮……<ドラゴン・ブレス>!」
アイリーンの口から放たれたそれは、まさに竜のブレス。港の倉庫街を震わせる轟音と熱波が、目の前の空間を切り裂き、すべてを飲み込まんばかりの破壊力を伴って突き進んだ。
十体のマリーナから放たれた地水火風雷の魔道弾が、アイリーンの口から放たれる竜のブレスと衝突する。
轟音が倉庫街の空間を震わせ、火花と氷、水蒸気、雷光が渦を巻く。
光と炎、雷の奔流が激しくぶつかり合い、空気が圧縮されて耳をつんざく。
魔力の奔流が渦を巻き、街路の石畳が砕け、瓦礫が飛散する。
「うっ……!」
マリーナの分身たちが押し返され、宙を舞う。
拳銃と掌から放たれた魔道弾は、衝撃の波に飲み込まれ、吹き飛ばされていく。
十体のマリーナのうち、主となる一体が必死に踏ん張ろうとするも、ブレスの衝撃に抗えず、倉庫の壁に叩きつけられた。
「くっ……!」
全身が吹き飛び、石と木箱を蹴散らす。
それでも、地に落ちたマリーナは、かすかに拳銃を構え直し、再び立ち上がろうとする。
立ち上がろうとするマリーナの身体が、宙でわずかに揺れる。
しかし、足に力が入らない。石畳の上で膝が崩れ、腰からもろく地面に沈む。
「……くっ……」
吐息が荒く、魔力の残滓が指先で揺れるだけだ。
拳銃も魔道弾も、もはやその手に応えない。
対するアイリーンも、力の奔流が止まった瞬間に膝をつく。
竜の力は消え、背中の翼は縮み、鱗は割れて肌があらわになる。破れた制服が破片となり、周りに飛び散っていた。ほとんど裸の状態のアイリーンの両肩から伸びる金属製の両腕が月明かりの下鈍い光を放っていた
。荒れた息をつき、胸が上下する。両目からは涙の様に血が流れ出ていた。
二人は、互いに目を向ける。
激突の余韻が港の倉庫街にまだ漂う。
瓦礫と砕けた木箱、散乱する魔道弾の跡が、戦いの激しさを物語っていた。
その瞬間、港の倉庫街に、遠くから狼の咆哮が響き渡った。
マリーナは一瞬目を見開く。
「あの……馬鹿者め。帰ったらまた説教せねばならんな」
ふらつきながらも、足を踏み出す。
倒れかけた体を無理やり起こし、なおも口元には微かな笑み。
「だが――よくやった!」
上がらない左手は無視し、右手にトンファーを構えて駆け出す。
対するアイリーンも、あらわになった胸元を左手で押さえつつ、金属製の右手を振りかぶる。
魔装義肢が月光を反射し、鋭い光を放つ。
二人の視線がぶつかる。
港の倉庫街に残る瓦礫と砕けた木箱、漂う魔力の残滓が、次の激突を予感させる。
駆け寄るマリーナ。
待ち受けるアイリーン。
二人の影が、倉庫街の地面に交差する。
マリーナのトンファーが一閃。
その刃先はアイリーンの右腕に受け止められる。
金属同士がぶつかる衝撃で火花が散り、空気がパチパチと裂ける。
だが、止まらない。
マリーナはその反動を利用し、制服のスカートの裾を裂くほどの勢いで右足を高く空へ振り上げた。
咄嗟に受け止めようとアイリーンは腕を上げる。
だが、振り下ろされるその右足には、頭部を狙った全力の力が乗っている。
月光の下、二人の影がぶつかり、戦いの緊張が倉庫街に張り詰める。
頭部に衝撃を受けたアイリーンの身体が、ゆっくりとその場に崩れ落ちる。
両腕が石畳にあたり、高く鋭い金属音を響かせた。
マリーナもその場で膝から崩れる。
だが、這うようにして必死にアイリーンの元へ近づく。
右手に付いた指輪に手を伸ばし、そっと外す。
肩で大きく息をし、呼吸を落ち着けるのも忘れたまま、指輪を両手で包み込み、そっと頬に当てる。
「ベル……私は……お前のためなら、なんだって……」
そのまま意識を失ったマリーナが、ほぼ全裸のアイリーンの上に倒れ込む。
指輪はしっかりと握りしめられたままだった。
マリーナVSアイリーン戦決着
姫神リューナ奪還




